5人のシンデレラ達の話   作:krowknown

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第五話 学校

 君は平気じゃないのに『平気だ』という

 

 君は泣いているのに『泣いていない』という

 

 頑張りすぎた君は。一人で抱え込み過ぎた君は・・・・・・今日もまたーー笑顔を見せる

 

 

 

 

 短い冬休みが終わった。

 それから、宣言通りに杏ちゃんは学校にまた通い始めた。

 一日、また一日と登校日を重ねていくが、徐々に杏ちゃんの顔に疲れが見え隠れするが、杏ちゃん本人は、隠し通していると思っているのだろう。

 前よりも少し明るくなった態度で陽子さんや俺に接してくれる。

 できる限りは、杏ちゃんの意思を尊重して俺は何もしないし、学校のことも俺からは話さないと今のところは決めている。

 その分、一緒にゲームをしたりして、安心して心休める場所だけは確保するようにしている。

 目を見てしまうと無理をしていることが分かってしまうので、最近はあまり人の気持ちを覗くのはよくないという思いもあり、視線を合わさないようにしていたが、その能力の発動条件として気づけたことがある。何かを通して覗くと発動しないのだ。

 それは、窓越しだったり、もちろんテレビ越しだったり。そして眼鏡越しでも発動をしないことが分かったのだ。

 だから最近は度が入っていないレンズ付きのだて眼鏡を、もっぱらかけている。

 ステータスが見える人・見えない人と、未だに謎があるこの能力だが、気長に付き合っていくしかないのだろう。

 椅子の背にもたれ、天井を見上げる。

 思考を止め、頭を一度リセットしようと目を閉じて長い深呼吸をする。

 ゆっくりと目を開き、横の壁に掛けてある時計と、杏ちゃんの呼ぶ声が聞こえたのは同時だった。

 今日は勉強をするからと、先に一人でゲームやっておいてもらったのだ。

 その杏ちゃんの声に「今行くぞー」と、返事をして部屋の電気を消す。

 部屋に入ると、少し遅れてしまったためご機嫌斜めなのか、唇を尖らせた杏ちゃんがいた。

 しかしゲームで俺に勝つ回数が増えていくにつれて自然と機嫌はは戻っていった。

 これがわざと俺が負けているなら、扱いが分かってきたなどと言えるわけだが、本気でやっても勝てることはまずないので厳しい世界である。

 一時間やったところで、杏ちゃんの限界がきたのかコテンと首が俺の方に倒れてきた。

 最初こそは、このシチュエーションに幾分か緊張していたが、今はもう手なれたものだ。

 

「ほら、こんな所で寝たら風邪ひくぞ。ゲームは片付けとくから布団に入りな」

「うぅ~ん・・・・・・むりだよぉ。杏のHPはもうないから運んでー」

 

 首を横にイヤイヤと振りながら、コアラのようにしがみついてくる。

 俺は保母さんじゃないんだけどなと思いながらも、その軽い体を持ち上げ捲った布団の間にゆっくりおろし布団をかぶせる。

 最近、杏ちゃんの就寝は早い。

 その時間も段々とだが早くなっている。夜更かしをしないのは良いことなのだが、少し寂しさを感じてしまうのは許してほしい。

 満足そうな顔をしている杏ちゃんの頭を軽く撫でて、よいしょと立ち上がる。部屋を出ようとした時にそれは目に入る。

 小さなゴミ箱に、乱暴に突っ込まれている紙の束。

 勝手に漁るのはどうかと思ったが自然と手が伸びてしまう。その紙は学校でやった小テストだった。

 さすが杏ちゃんである。点数はどれも満点だった。

 学校に行かなかった時期があるのにこの点数を取れるのは、すごいことだ。

 手に取った用紙を一通り見て、まだゴミ箱に入っている残りの用紙も手に取る。そのすべてに人を馬鹿にしたような、傷つける言葉が書き殴られている。

 苛めというのは無縁な人には、本当に無縁なことだろう。

 俺の周りが特殊で、ある意味恵まれていたためなのか、苛めの渦の中に立たされたこともなければ、その方法も興味がないし、好き好んでそういう事があるのかを聞きまわることなども、もちろんしたことがない。

 だけどこんなにも・・・・・・。

 こんなにも知り合いが、中傷されるのが頭にくるものだとは思わなかった。

 楽観的過ぎたのだ。

 張本人が頑張るから口を出さないのは、本当にその人の為なのだろうか? 俺は杏ちゃんを信じていると言いながら、本当は自分が可愛いだけじゃないのか?

 このままじゃ駄目だ。だけどどうしたらいい。気持ちだけが前に前に出てくるが、具体的な方法は思い浮かばない。

 当事者の杏ちゃんと同級生や、最低でも一緒の学校なら対処のしようがあるが、今の俺は唯の高校生であり、お互いの学校も家から正反対の位置にある。

 用紙を見た態勢のまま、かれこれ10分ほどかたまっていただろうか。杏ちゃんの「眩しいぞぉー」という声でようやく我に返り、そそくさと自室へと戻った。

 寝る前にあんなものを見つけてしまっては、寝付けるわけがなかった。

 そこから眠りにつくまでの長い時間ずっと、俺が頭を悩まし続けたのはいうまでもない。

 翌日の朝。

 昨日の睡眠時間が足りないせいか布団から出るのにも苦労する。ぼーっとしながらも洗面台に行き、刺すような痛みを感じさせる水を、両手ですくい顔を洗う。

 無理やり覚まさせた頭は、以外にもいつもよりはっきりしている。

 

「おはようございます」

「おはよー。今日はいつもより起きるのが遅かったのねぇ」

 

 杏ちゃんの事で悩んでたとは、いろんな意味で言えるわけもなく、頭を軽く掻きながら苦笑いを返すしかない。

 あまり時間に余裕もないので、テーブルに用意されていたマーガリンと蜂蜜がつけられている食パンを手に取る。

 バス停に行く道ながら食べてしまおう。

 

「じゃあ陽子さん。今日もいつも通りの時間に帰ると思います」

 

 そう告げて、玄関で靴を履いている時に先ほど居間で別れた陽子さんが玄関にやってきた。

 いつもは「いってらっしゃい」で挨拶を済ますのだが、送りに来てくれたのだろうか。それとも何か言い忘れたことでもあるのだろうか? 

 

「どうしたんですか?」

「えーっとねぇ、多分なんだけど。今日は優也君の学校は創立記念日でお休みじゃないかしら?」

 

 俺の疑問に、陽子さんは右手人差し指を頬に当てて困り顔でそう言ってきた。その一言で俺も忘れていたことに気づいた。

 一週間前に学校で配られたプリントに、確かに書かれていたはずだった。

 慌てて自室に戻り、引き出しにまとめて入れられている問題のプリントで確認する。

 確かに今日の日付が、休みと書かれていた。

 

「ありがとうございます。陽子さん。誰もいない学校に行くところでしたよ」

「間違ってなくてよかったわぁ」

 

 下にもどり陽子さんにお礼を言う。

 安堵の息を漏らすと同時に、笑顔を向けて返事をしてくれる。そこからは時間に縛られることなく残りの朝食を頂くことにした。

 そして朝食を取り終るのと同時に、杏ちゃんが制服に着替えを済ませ居間へとやってくる。

 おはようと挨拶をするが、目を閉じたまま頷くだけだ。そこまで朝が弱いのに、よく一人で起きられるようになったものだ。

 杏ちゃんの中学校では、みんな部活に入らなければならないらしい。

 例にもれず杏ちゃんも文化部に所属しているはずだが、朝練は無いらしく比較的に遅く、いつも家を出てるみたいだ。

 注意深く見ても、そこまで無理をしている様子は見受けない。逆に俺の方が挙動不審で怪しまれないだろうかと、そっちの方が心配である。

 

「きょ、今日は雨らしいな。傘をしっかりもってくんだぞ」

「んー」

「冷えるから、手袋とマフラーもな。あと、ホッカイロも忘れちゃだめだぞ」

「んー」

「それとな「うるさいー」・・・・・・おう」

 

 危ない危ない。言ったそばからテンパってしまっていた。

 落ち着け、いつも通りだいつも通り。

 朝食を食べ終え、歯を磨きに行った杏ちゃんを見送って一度、冷静になる。もう昨日の内に準備は済ませていたのか、コタツの横にスクールバッグと手提げ袋が置いてあった。

 懐かしさを感じて、視線を向けていると手提げ袋の中が見える。

 中には上履きが入っていた。

 今日が月曜日ならまだ分からんでもないが、昨日学校から上履きを持って帰ってくるのはなぜだ? 掃除や実習の時にでも汚れてしまったのだろうか。

 疑問が浮かんだが、時間が差し迫っているのか、後半にかけて忙しそうに動く杏ちゃんに聞けるタイミングもなく、出発の時間になってしまう。

 

「・・・・・・いってきまーす」

「おう、いってこい!」

「いってらっしゃい」

 

 居間にヒョコっと顔を出し、真顔ながらも少し照れている杏ちゃんの挨拶に、無駄に元気な返事をして見送った。

 それから少しの時間、コタツに入り陽子さんと一緒にお茶をすすりながらテレビをぼーっと眺めていた。

 

「あっ、そういえば杏ちゃんのことなんですけど」

 

 別に本人に聞かなくても陽子さんなら知っているのではないかと思い、さっきの上履きの事を聞いてみることにした。

 

「上履きを家に持って帰ってましたけど、結構キレイ好きなんですね。俺なんか・・・・・・っていうよりは、男子は家に持って帰るのが面倒で、すぐに使い潰しちゃうんですよね」

「杏も昔はそうだったのよぉ。あんまり持って帰ってくる事は無かったんだけどねー。でも、また学校に行ってくれるようになってから、毎日持って帰ってきてるわよ」

 

 自分で言っておきながら不思議そうな顔をして、教えてくれる陽子さん。

 途中から陽子さん自身も、毎日上履きを持ち帰ってることに疑問を覚えたのだろう。ここまでいけば自ずと答えは絞られてくる。

 一つ目の予想としては、杏ちゃんが本当にキレイ好きに目覚めたのか。

 二つ目は、上履きにされる悪戯を防ぐためだ。

 どう考えても二つ目が、正解なのだろう。もしこの考えが見当はずれだったら結果オーライでいいが、昨日の答案用紙からしても、普通にありえる。

 どうしようか・・・・・・いってしまおうか? ――陽子さんに昨日俺が見た答案用紙の事を。——今の杏ちゃんの現状を。

 そんな考えが頭を過ぎるが、本人は言いたくないから黙っていたのだ。

 それを俺から伝えてしまうのは、よろしくないだろう。

 でも放っておいていい問題でもないので、今日の夜に杏ちゃんにまず俺から話してみよう。

 テレビの方に向き直ると、ちょうど教育現場においての『いじめ』が特集をされていた。杏ちゃんの事もあり、陽子さんとその話題のニュースを見るのは、多少抵抗があったが、俺にとっては願ってもないタイムリーな話なので大人しく視聴する。

 その特集の大まかな内容は、いじめの現状と、対処の難しさ、いじめの度合いによってどういう機関に相談するかなどだ。

 その番組を見ていく中で、俺の中ではある思いが浮かんでいた。

 偶然杏ちゃんの答案用紙を見た昨日。

 忘れていたとはいえ、その次の日がこれまた偶然に学校の休みで、テレビを見ていたらいじめの特集だ。これが俺をこの世界に連れてきた送り主の言っていた、『運命』という因果なのだろうか。

 何ともタイミングが良すぎるものだが、個人的には助かっているので何とも言えない。

 

「陽子さん、杏ちゃんの学校の電話番号知っていますか?」

 

 まずは能動的になるべきだ。俺は今日の予定を決めた。




雪は勘弁です。今日はまだ投稿するつもりです(*´▽`*)

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