―――ガタンッ!!
「うおっ!?」
寝ている姿勢が悪かったときなどに、血の周りが悪くなり起こり、足を側溝に踏み外したかのような感覚に陥る、自称ガックン現象。
慌ててとび起きると、今自分がいる場所は、ショッピングモールの中に作られているフードコートの席の一角だということが分かった。内心の動揺を必死に隠し、一連の自分の行動に驚き、視線を向けてくる人々に頭を下げ席に座りなおす。
ふと視線を落とすと、自分の席の横には大きな荷物が置いてあり、テーブルの上にはA4ほどのプリントが置かれてあった。表紙には、簡素に『ようこそ』とプリントアウトされている文字が書いてあり、この状況のヒントがなにかしらあるのかも知れないと手に取りページをめくってみる。
『単刀直入に言うが、ここは君のいた世界とは似て非なるもの。パラレルワールドのようなものだ。ここにいるということは君は少なからず、あの世界に不満を持ち強い言い方だが逃げ出したいと思っていたのではないかな? そして心優しき君はここに呼ばれた。君にやってもらいたいことがある。この世界にいる救われない五人のシンデレラを助けてあげてほしい。そしてこの五人を○○○○にしてほしい。この五人を○○○○にした時、二四時間以内にこの場所に行けば元の世界に、あの時のまま戻れる。いきなりの話で、混乱していると思う。しかし君ならやってくれると信じている。君が動かないという選択肢を取るのもいいが、間違いなくまだ見ぬ五人は不幸となり君はあちらの世界に戻れない。新しいその身体で、人生を過ごせばおのずと運命が君を導いてくれるはずだ。最後に私の正体を疑問に思うかもしれないが、簡単にいうならば彼女たちが生み出した思念体さ。君を送ってくるのと戻す分の力の為にもう消えゆくけどね。君の幸運を祈っているよ』
大まかな内容の理解はなんとなくだができた。
だがこれからどうすればいいのかは分からないままであった。この置かれた状況に気分の悪さと、嫌な汗をかきながらも、その用紙を見つめていると、裏面に張り付いていた二枚目があることに気づく。
『君の両親は海外へ仕事の都合でいってしまったよ。なので、親戚の双葉家というところにこれから厄介になることになる。そこまでの行き方は地図を用意しておいた。それと、君が万が一にも精神を壊さないように心を強くしておいた。君は一七歳だから、学業にもしっかり励むんだよ。それとプレゼントも用意しておいたので有効的に使ってくれ』
その文章の下には、このショッピングモールを現在地とした簡易的な地図が描かれていた。衣食住はなんとか確保できそうなので安心した。
それに一七歳ということは、また学生生活を少しだが送らなければいけないということだ。
気づけば今俺が着ている服が学ランだった。
そんなところにも気づかないほどには、動揺しているらしい。
一気にいろいろなことが起こりすぎて、頭がパンクしそうだがその一歩手前でなんとか抑えられているおかげは、俺の心を強くしておいてくれたことだろう。この紙に書かれていることを全て信じているわけではないが、この状況遭遇している時点で、信憑性は中々にあると思う。
未知で危機的な状況のはずなのに、頭のどこかで冷静になっている自分がいる。
まずはここに書かれている双葉家に行くしかないか。そう結論付け、恐る恐る横にあった自分の荷物だろうバッグを背負いショッピングモールを後にする。
財布の中にお金もしっかりあり、指定のバス乗り揺られること三〇分。ようやく書かれてあるバス停に着くことができた。
「双葉家ふたば・・・・・・け。あった!」
表札を一軒一軒確認していると、それほど時間がかからずに双葉家を見つけることができた。ここにきてようやく緊張が出てきた。
インターホンを押して、知らない家だったらどうすんだろ。
絶対気まずくなるし、それに運が悪ければ俺はホームレスになってしまう。プルプルと震えている人差し指をインターホンに持っていく。『ピンポーン』と鳴ると、家の人がインターホン越しにでる。
「どちらさまですか?」
「すみません。朝倉優也といいます。こちらは双葉さんのお宅で間違いないでしょうか?」
少し声が裏返りながらも、プリントに記載されていた、新しい自分の名前を言う。それと同時に「あらあら!優也君、待っていたのよ!」と弾んだ声が聞こえて、家の中からダダッと走る音が聞こえてくる。
玄関が開くとそこには金髪のおっとりとした女性がいた。
「まあ随分とかっこよくなっちゃって! 優也君憶えてる? 優也君のオシメを初めて替えたのは私なのよぉ」
そんな嬉しそうに言われても、誰しもが覚えていることはないだろう自分の赤ちゃんだったときのこと。そもそも俺にはこの世界じゃない俺の記憶しか持っていない。
困ったような笑顔を浮かべると、その女性も質問の難易度に気が付いたのか「冗談よ、冗談!オシメを替えたのは本当だけど、覚えてるわけないものね」と、冗談でいっているのか本気で言ってるのかわからない事を言ってくる。
それから案内されリビングに通される。
昔ながらの家と言えば良いのか、木をふんだんに使い、部屋の中央には掘りコタツがある。ミカンが籠の中にあり、とても美味そうだ。
「ほら杏。起きなさいーぐーたらしてないの! 優也君が来たわよ」
「お母さんうるさい~~。杏はコタツからは絶対でないぞぉ!」
テーブルに突っ伏して気持ちよさそうに寝ている女の子がいた。容姿は確認できないが、見た感じ小学生ぐらいだろうか? 女性と一緒で綺麗な金髪だ。ショッピングモールからここに来るまでにも、髪の毛の色については多少違和感を覚えたが、日本人顔なのに純粋な金髪や他の色でもこの世界ならば普通なのかもしれないと思うことにした。
そんな親子の会話で、可愛らしい娘さんの反抗を目の前で繰り広げられ、不覚にもクスリと笑ってしまう。その笑ったことに気づいたのか「む~」とジト目で娘さんがこちらを見てくる。
その顔はとても整っていた。これはすごいと思わず目を見開いてしまう。
「いま杏のこと笑ったでしょー?」
「いや、そんなことな――」
見た感じからして怒っているので、笑ったことを否定しようとしたその時。顔だけこちらを向いたその少女と目を合わせた瞬間に、少女の情報らしきものが頭の中に映し出されたのだ。
『双葉(ふたば) 杏(あんず)14歳
139cm 30㎏ B型
‹性格›
頑張り屋 あきらめ癖 めんどくさがりや 優しい 正直者
‹感情›
興味 1 喜び 37 怒り 10 悲しみ 30 愛情 0
‹最近の一言›
「コタツはミカンにかぎるね」』
表のようなこの図を見て、思わず絶句してしまう。
こんなこと普通ではありえないはずだ。もちろん俺がこれまで生きてきた中でも、まさしく初めての経験だった。
いや・・・・・・まさか、あの紙の最後に書かれていたプレゼントがこれなのか? そう考えると現段階としては、なんとなくだがしっくりくる。
注意深く見ていくと、このパラメーターはおおよそ0~100までの数値で表しているのだろう。てか、14歳なのか! それに驚いてしまう。それに最近の一言という、あまり役に立たなそうな欄。
「お~い聞いてるのかー。杏を無視するなー!」
杏ちゃんの言葉に返事をしなかったからなのか、両手を上に掲げながら、すこし怒り気味に言ってくる。目をもう一度合わせると、怒りパラメーターが25に上がっている。
「ごめんな。別に無視したわけじゃないんだ。それにさっきのも別に杏ちゃんの事を笑ったわけじゃないぞ」
「うーん。まぁいっか。じゃあ杏はもう一回寝るから静かにしといてねー」
納得して無そうそうな顔をしていたが、諦めたのか右手をヒラヒラとさせて、先ほど寝た時と同じような体勢に入った杏ちゃん。マイペースな子なんだなと、一人頷く。
「だめよぉ~杏。これから大事な話があるんだから」
そう窘めるように杏の母が声をかけるが、返事もせずにその姿勢を保つ杏に肩をすくめている。こちらを向いて困ったような笑みを浮かべるが、こちらとしても今日何度目かの、苦笑いを浮かべることしかできない。
「まぁいいわ。今日から優也君が一緒に住むことになったから。あまり迷惑をかけちゃだめよ?」
この人、娘に一切俺のことを告げていなかったのか! 一気にこの二人が親子であることに納得してしまう。俺は恐る恐る、杏ちゃんの方に視線を動かすが予想に反して動きはなかった。
我が道を行く杏ちゃんにとって、近い歳の男と生活することも、別に取るに足らないことなのかもしれない。俺が言うのもなんだがそれでいいのだろうか。
一周回って尊敬に近いものを杏ちゃんに感じていると、杏ちゃんの放り出されていた腕がプルプル振るえていることに気づいた。
「なっ、なぁんだってぇ~~! せっかく兄貴たちがいなくなって清々したと思ってたら、いったいなんでそうなるんだよぉー! 杏は反対するぞぉシュプレヒコールだぁああ」
火山が一気に噴火した。
目をぎらつかせ、親の仇でも見るように俺を見てくる杏ちゃん。シュプレヒコールの使い方としては、ちょっと間違っているとは言いだせる空気ではない。
杏の母は「あらあら~」と、頬に手を当てて驚いているが、普通こうなることは分かるだろうとツッコんであげたい。ここで俺が何を言っても焼き石に水なのでじっと耐えよう。先ほどから中々の勢いで杏ちゃんの情報にある『怒り』ゲージが上がり続け、ようやく38で止まる。
「だって杏に先言ったら、こうなっちゃうじゃない。だから母さん考えて、知らせる前に来てもらうことにしちゃった♪ サプライズよ! ふふっ」
屈託のない笑みでそう言い切る杏の母。それを聞いて静かになる杏ちゃんだが、この静けさは安心できないことを俺は知っている。
「ウガーーーー!!!」一瞬にしてK点を超えてきやがった。
杏ちゃんは、先ほどの億劫さは微塵も感じられないほどに勢いよく立ち上がるが、荒い息を吐くだけでその後は何も言わない。
「あっあの迷惑でしたら、大丈夫ですよ」
あまりの展開に、ここ以外頼るところがないというのにそんな言葉がついついでてしまう。言ってしまってから、それを相手が受け入れてしまったらと考え、ホームレスになった自分を想像してしまう。
お先真っ暗とはこの事だ。
しかしそんな心配をよそに、杏の母はすぐに「大丈夫よ」との言葉を俺になげかけてくれる。
「杏。あなたはどうせ学校にも行かずに、家の手伝いもしないで部屋にこもってるだけじゃないの。お兄ちゃんたちもやっと、就職して家を出たんだから優也君の一人や二人・・・・・・ううん百人だって住ませてあげれるわ。今回のことに関してはあなたの意見は聞かないと、母さんは決めてますからね」
「うぅ~・・・・・・ふんっ! でも杏は認めないからなぁ。今ここにいる杏を倒しても第二、第三の杏がきっとお前を夜な夜な始末するぞぉ」
杏ちゃんはそう恨めしそうに言って、リビングから出ていってしまった。
真剣な話の途中だったはずだが、なんで二人ともボケを挟んでくるんだ? 今、目の前で起こった事態は俺にとって深刻なはずだが、なぜかそれほど心配はしなかった。
それから杏の母、陽子さんといろいろと話した。
その会話から、俺の両親と陽子さん夫婦は大学時代の友人ということが分かった。俺を居候させてくれる辺り、結構仲が良いのだろう。
双葉家は、父・母・長男・次男・長女の五人家族らしい。上二人は一流企業に就職したそうだ。俺は二階にある長男の部屋を使わせてくれることになった。
だいたいの話が終わり、ほとんど後半は陽子さん夫婦の惚気話だったが・・・・・・。先ほど気になったことを聞いてみることにした。
「すみません。さっきの話で気になったことがあるんで聞いても良いですか? 杏ちゃんは学校に行ってないんですか?」
俺の言葉を受けて、陽子さんの顔は少し曇ってしまう。
やはり聞いては駄目だったのかも知れないと、自分勝手ながら「やっぱりいいです」と断ろうとしたが、陽子さんは静かに自分の分かっている範囲の事を語ってくれた。
杏ちゃんは、昔は活発な子だったそうだ。
スポーツも勉強も、友人関係も良好だったはずなのだが、スポーツではどんどん周りの子との体格差が顕著に表れて、レギュラーから外され、友人関係も中学生に上がってから、可愛い杏ちゃんはいろいろな男子に告白されたが、それを断っていたらよくある他の女子の苛めの対象になってしまったらしい。昔は髪の毛を伸ばしていたらしいのだが、苛めのなかに髪にガムを付けていた人がいたみたいで、気づくのに遅れたためバッサリと髪を切ってしまったらしい。
そういうこともあり、杏ちゃんは最近学校に行かなくなってしまったのだ。先ほどの元気な杏ちゃんからは、想像もできない。
その話を聞いてから、俺の心の中はモヤモヤとした感情が渦巻いていた。
部屋に案内をされ、バッグに入っていた荷物を出して整理しているときや、お風呂に入っているときもその気持ちは消えなかった。
髪を乾かし、パジャマに着替えたところで一階から夕食との声が聞こえ、居間へと行く。
「すごい豪華ですね! あっお風呂、気持ちよかったです。ありがとうございます」
下に行くとテーブルの上には豪華な品が並んでいて、非常に食欲をそそる。
台所からエプロン姿で出てきた陽子さんに、気持ちそのままの感想を言い、お風呂を先に頂いたことのお礼を言う。
なんと双葉家のお風呂は、ヒノキ風呂だったのだ。
そんな風呂が一般家庭にあるのも驚いたが、これがまた格別に良かったのだ。まだ体がポカポカしていることを実感しながら、席に着く。
「そう言ってもらえてうれしいわ。今日は優也君が双葉家に来た日だものね。私頑張っちゃった! 杏は・・・・・・まだ来てないのね、優也君もし良かったら部屋に行って呼んできてくれないかしら?」
俺が行くと逆に来てくれなくなるのではないかと、一抹の不安を抱えながらも、良くしてもらっている陽子さんの頼みを断れるわけもないので、二つ返事で了承して先ほど降りた階段をもう一度登っていく。二階に上がって、すぐにある扉にかかっている杏というプレートを確認して二回ノックをする。
「杏ちゃーん。夕飯だよ」
部屋の中から返事は返ってこない。寝てるのかもしれないと、もう一度ノックをする。先ほどと同様に反応はなかった。
カギはついているがかかってはいなかったので、三度ノックをしてからゆっくりとドアを開ける。
杏ちゃんの部屋は、俺に与えられた長男の部屋よりも少し狭いが整理がしっかりしてあり何とも女の子部屋であった。その部屋の中央に、テレビ画面を対面に人形に背を預けながらゲームをする杏ちゃんを見つける。
ヘッドホンをしているので気づかなかったのだろう。
扉を開けて入ってきた俺を見て、ゲッっと顔があからさまに嫌そうになる。
「なっなんでお前が杏の部屋にいるんだ!」
慌ててヘッドホンを取り、早口でそう捲くし立てる杏ちゃん。
『双葉(ふたば) 杏(あんず)14歳 139cm 30㎏ B型
‹性格›
頑張り屋 あきらめ癖 めんどくさがりや 優しい 正直者
‹感情›
興味 30 喜び 10 怒り 27 悲しみ 36 愛情 0
‹最近の一言›
「まさかお母さんから言われて、杏のアメを取りにきたのか!?」』
目が合ったことにより、今の杏ちゃんのステータスがまた頭の中に表示される。
興味と怒りが高い。
最近の一言を見て、先ほどの嫌そうな表情は、俺の存在に嫌悪感を示したというよりも、部屋の一角にある大量の飴玉を心配してからの感情なのだろう。
そんな内心を悟られてるとも知らない杏ちゃんは、必死に自分の目の前に散乱している飴玉を回収している。
「心配しなくても飴はとらないよ? 陽子さんが夕飯だから降りてみんなでたべようってさ」
「そっそれを早くいってよぉ。ふぅー杏は飴玉があれば生きていけるから心配しないでって言っておいて」
飴が大好きだと知って微笑ましいと思ったが、これは結構な重傷だったみたいだ。
用は済んだとばかりに、ゲームへとまた集中しようとしている杏ちゃんに近づき飴玉を一つとる。
咄嗟の俺の行動に反応できなかったのか、自分の飴玉が一つ無くなった事実にこの世の終わりを前にした人の顔になっている杏ちゃん。
「夕飯を食べないというなら、俺がここにある飴玉を全部食べ・・・・・・ちゃう・・・・・ぞ」
杏ちゃんの視線は俺の口から離れない。
それに悲しみが50と先ほど合っていた時よりも20上がっている。このシステムの基準は詳しくは分からないが、一気に20上がるのは結構なことではないかと、内心焦ってしまう。
杏ちゃんの顔は飴がある俺の口の中を見つめているし、俺は先ほどの態勢から身じろぎ一つできない。いっそ先ほどのように、怒りを露わにしてくれた方がどれだけ良かっただろうか。
この静けさに俺は耐えられそうにない。
「ええっと・・・・・・美味しいなこのアメ」
「・・・・・・」
「なに味が好きとかは、こだわりは無いの?」
「・・・・・・」
「後日、アメ一袋買わさせていただきます」
「——!?」
前半の話のフリにはスルーしていたのに、アメを買うと言った瞬間、杏ちゃんの目に力が戻った。言葉には出さないが、「その話は本当?」と上目遣いで見つめてくる。
こちらも、了解の意志を込めて頷き返すと、両手を自分の頬に添えて、パァと眩しいオーラを周りに発しながら幸せそうな笑みで固まっている。
間違いなく、未来のアメ玉に思いをはせているのだろう。
「本当だよね? 嘘だったら杏は全精力を尽くしてお前をここから追い出すぞぉ」
はっ!?と何かに気づいたかのように、こちらに視線を戻しジト目で釘を指してくるが、アメの一袋、二袋痛くもかゆくもないので、同じく大きく頷く。
「じゃあ指切りげんまん」
杏ちゃんはそう言って、小さな右手を前に出してくる。相手が可愛い女の子という気恥ずかしさと、指切りをこの年で改めてやることに若干の抵抗はあったが、無垢な瞳でお願いされたら、どうしようもないので黙って小指を交差させる。
『ゆびきりげんまん、嘘ついたら針せんぼんの~ます、指きった』
杏ちゃんにとって指切りげんまんは、絶対の効力があるのかは知らないが、やり終わった瞬間の「はい、杏の勝ち」と言ったようなドヤ顔にイラッとしてしまう。
「よし、じゃあようやくだけど夕飯食べに下に行こうか」
「夕飯はいらないって言ってるだろぉ」
「じゃあアメ玉一袋もいらないってことでいいんだね?」
「なーー!!それとこれとは・・・・・・わかったよぉ行けばいいんでしょー。おぼえてろよぉー杏を敵に回すってことは世界を敵に回すってことだからなーー」
そんな中二病発言に対して「はいはい」と受け流し、杏ちゃんをやっとのことでリビングに召喚することに成功することができたのだった。
美味しい夕食も食べ終え、そそくさと自室に引き上げる杏ちゃんを尻目に、手伝いを申し出たが、やんわりと断られてしまい、今日は陽子さんの好意に甘え、早く床につかせてもらうことにした。
用意されていたシーツを敷き、あとはベッドに入るだけとなったが、勉強机へと向かう。
このまま寝れるほどに、俺は楽天的ではない。
ショッピングモールの時に読んだ紙を、一番上の引き出しから取り出す。
この書かれている中で、一番の気になる点はシンデレラという存在だろう。シンデレラなんて言葉を今まで聞いたのはお伽噺の中でしかない。
故に悩む。シンデレラのとしての定義がわからない。
そしてそのシンデレラを見つけてからも、謎が多い。『シンデレラ五人を○○○○にしてほしい』という文章。前後の文章から考え付いたのは、しあわせという文字なのだが・・・・・・確証が得られないのはつらい。しかし、ここであきらめてしまうと、その5人は不幸になると同時に、前の世界へと俺は戻れないということになる。
前の世界ではその運命に打ちのめされていた俺だが、この世界に来て思考が前よりクリアになったからか、前の自分を客観的に見ることができた。彼女の死は未だに俺の心に根強く残っているが、あれほどの悲しみを他の人にはさせたくない。前の世界は嫌いだったが、今の俺の目標はシンデレラという肩書を持った女性を救い、元の世界に帰って彼女の墓前に花を添えに行こう。
一回踏ん切りがついてしまえば、体の内からなにか力が湧いてきてる気がする。
運命が導くというのなら、その言葉に踊ろされてみようではないか。
これから人生を歩んでいくうちに、困っている女性全員を助ければいいのだろう。まずはこれから通う高校にいるということだろうか? 何かに困っている女性か・・・・・・。んっ? あれ・・・・・・今日会った人で、中々の女性もとい女の子がいた気がするぞ。
その俺の考えを知ってか知らずか、近くの部屋からゲームに苛立っているのか「なんなんだよぉー」と叫び声が聞こえる。
双葉杏。そう、この子こそが俺が最初に救わなければならない子なのではないだろうか。
もし違ったとしても、このまま引き籠るのは杏ちゃんの為には絶対にならないだろう。一日だけしかまだ会っていないし、最初のエンカウントは最悪だったが、少しでも関係を持った人を見捨てることは、あの手紙に書かれているとおりできない。
まずは、仲良くなろうと心に誓うのだった。
まず最初の一人は、双葉杏さんです。
私のお気に入りキャラの一人ですね、はい。
もし気分が乗りましたら、感想をお待ちしております。