「ないっ、ないっ…!」
ど、どうしましょう。確かに私の運は高くない方だって自覚していますが、神様…これはあんまりじゃないですか。時雨ちゃんがお守りとして渡してくれた髪飾りがその日の内にどこかにいってしまうなんて…。
「妖精さんも知りませんか?」
首を振られてしまいました。どうしましょうか。落とし物ならやっぱり大淀さんに相談でしょうか。この間、ネクタイがどこかにいってしまったと困っていた時雨ちゃんが、実は大鯨さんとデザインが同じで混ざってしまっていたのだとか、食堂のスプーンがないと思ったら赤城さんの部屋にあったとか…。色々と解決した実績があります。…まぁ、よく探しているのは提督がなくした印鑑や書類なんかですけどね。でも、大淀さんに聞いて探してもらうのも気が引けます。大淀さんは忙しそうに働いていますし、もしこの事が時雨ちゃんに露見したなら…。怒られるかもしれません。でも、なるべく早めに素直に打ち明けたなら被害が軽くてすむ可能性も…?
「お困りのようだな?」
上から声が降ってきました。この声、この雰囲気からすると…
「日向さん?」
瑞雲が好きな航空戦艦…でしたっけ?航空戦艦ってことは、やっぱりあの大きな艤装で空を…?
「あぁ、君が瑞雲を探し求めているような動きをしていたものだから声をかけてしまった。」
探してはいますが、瑞雲では…いや、ちょっと待ってください?瑞雲ってよく扶桑さんが使ってる飛行機ですよね…。索敵ができるってことは、探し物をすることに関してはすごい戦力になってくれるんじゃないですか?
「えと、日向さんは今お暇ですか?」
脱衣場でこんな会話をするのもシュールですが…。
「すまない、これから少しばかり入渠するんだ。」
…確かにここにいるってことはそういうことですよね。
「そ、そうですか…。」
そうです、どうして着替える中で落としたと決めつけられましょうか!…うぅ、自分でも焦りすぎて思考がおかしくなってきているのがわかります。
「あ、明石さんっ!」
突然走り出したものですから、少し気分が悪くなりましたが…ご飯を戻してしまうほどではありません。そんなことよりも大事なのは髪飾りのことです。
「うぉっ、ビックリさせないでくださいよぉ。」
いや、私としてはその振り上げた大きなレンチで何をどうするつもりだったのかも質問したくなってきたところなんですが。
「えと、時雨ちゃんにもらった髪飾りを見ませんでしたか?」
「見てないなぁ。艤装の妖精さんに聞いてみたら?」
確かに、ドックの妖精さんに聞くよりも早いかもしれません。流石は明石さんです。
「魚雷を受けてバランスを崩して頭から水面に叩きつけられる前まではついてたんだけど…帰投した時にはすでになくなってましたたよ?」
「えっ、それは…」
12.7㎝連装砲の妖精さん、それは本当なんですか?私の探しているものはすでに海底への遥かなる旅路についたってことですよね。でも、私は潜水艦でもありませんし広い海で髪飾りを探すなんて難しいことはできません。というか、潜水艦の巣窟でそんなことをしていたら自分まで海底に引きずり込まれてしまいます。
「…終わった、終わってしまいました。」
「ん、どうしたんだい?」
どうしたもこうしたもありませんって…。
「あの、あのですね…っ!?」
っていうか、時雨ちゃんじゃないですか!?
「あぁ、工廠に飛び込んできたときからいたよ。」
え、じゃあ…完全にアウトじゃないですか!?
「な、なんか焦ってるみたいだけど…別に僕は怒ったりしないよ?」
「ほ、本当ですか?でも、ごめんなさい!もらってその日のうちに海に落としてしまうなんて…」
「いいんだよ、僕は君が無事に帰ってきただけで満足なんだ。遠征が終わって帰ってきてみたら友鶴の艤装が修理中だったからビックリしたよ…。でも、お守りが身代わりになってくれたならよかったよ。」
よかった、よかったぁ…。嫌われたり顰蹙を買ったりしたらどうしようかと思いました。