グリモア~全力で叱られるのを避けようとする物語~   作:シスコン

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短いですが、書けてしまうという怪奇現象が起こってしまいましたので投稿させていただくことにします。


第三話

あの後、中に入りこそしなかったが精鋭部隊の詰め所や魔道兵器開発局という物騒な名前のところ等の場所だけ教えてもらい、続けてきたのが調理室だ。

 

「・・・なんで調理室?」

「普通の学校であれば家庭科の授業などでしか入らないそうですが、こちらでは料理部が活動しています」

「料理部・・・?」

 

よくわからなかったが、活動しているようなので入ってみればわかるだろう。そんな考えの下、ノックをしてみる。

 

「はいはーい、どちらさ・・・ん、氷川じゃねえか。どしただ?」

「新しい転校生に学園内を案内するよう言われまして、立ち寄らせていただきました。何かお取込み中であればすぐに立ち去りますが」

「んなこたねえよ、どうぞどうぞ」

 

方言の出てる・・・というか、かなり方言な女の子に言われて氷川さんに続いて入ると、うん。普通の調理室だ。保健室もうそうだったように、まあ普通の学園なんだろう。さすがに分ってきた。

 

「あ、そだそだ。まだ自己紹介してなかったな。おら、里中花梨」

「・・・あ、滝沢歎、です」

 

おら、という一人称にびっくりしてしまった。どうにかリスタートできたけど、うん・・・正直ギリギリでした。

 

「んだば滝沢、放課後とかで腹減ったらいつでも来てけろな」

「あ、ここでいただけるんですか?」

「んだ。おらは料理部だすけ、腹減ってる人がいるならふるまうっきゃ」

 

とってもありがたい。方言が濃すぎてちょっと戸惑うところもあるんだけど、それでもこの人がむっちゃいい人だ、って言うのは分かった。それに、少なくとも今現在は方言のせいで意味が分からない単語、というものもないんだ。なんとかなるでしょう。

 

「こんにちはー・・・あれ、どなたですか?」

 

と、そんなことを考えていたらどなたかが調理室に来たようだ。そう思いながら入り口の方を見ると、アホ毛がピコってる同い年くらいに見える女の子が。

 

「あっと、今日転校してきた滝沢歎です。今は学園の中を案内してもらってます。調理部の方ですか?」

 

とりあえず、自己紹介。なんにせよ自分との年齢関係が分からないし初対面の女の子相手に口調を崩せるほど異性慣れしていないのだ。彼女とは何となくすぐに打ち解けられる気もするんだけど、まあそれでも。

 

「あ、南智花です。調理部ではないんですけど、よろしくお願いしますね!」

 

うん、やっぱりすぐに打ち解けられるタイプな気がする。いい意味で普通で、とっても接しやすい。

 

「って、それなら何で調理室に?」

「料理を教えてもらってるんです」

 

なるほど、確かにここみたいに学園内で暮らしている環境なら、料理を習う相手も限られてくるわけか。親に習うこともできないし、そんなところに調理部、なんて場所があるんだから。

・・・氷川さんがいなければ、ここで『意中の相手の胃袋をつかむために?』とか聞くんだけどなぁ・・・って、あれ?氷川さん、何を警戒なさっているのでしょうか?一体何があるというのでしょうか、この場所に。

 

「あ、そうだ。もしよかったら味見を」

 

と、そんな考え事をしている俺に対して南さんが提案してくれる。うん、美少女の手料理が食べられるというのであれば男に否はない。まだ途中までしか言っていないが言い終わった瞬間に喰いついてやろうと準備した、その瞬間。俺の腕を氷川さんがつかみ、南さんの肩を里中さんが叩く。

 

「いきましょう、滝沢さん」

「え・・・っと?」

「悪いことは言いません。それでは、私たちはこれで失礼しますね」

「え、え、えー・・・?・・・あ、失礼しまーす」

 

なんだか釈然としないものはあるんだけれど、踏ん張るわけにもいかずにそのまま調理室を後にする。なんだか南さんも里中さんに説得されているような様子だったけど、何かあるんだろうか・・・?

 

「えっと、氷川さん?どうしたんです?異性の手作り料理も食べるのもアウトとか?」

「さすがにそこまでは言いません。ですが・・・滝沢さんのためにも、あれは避けた方がいいかと」

 

俺のため?

 

「・・・あまりこういうことは言いたくないのですが、南さんの手作り料理は危険です」

「危険って、そんなまさか、漫画みたいなことが、」

「実際に、起こったんです・・・」

「起こっちゃったの!?」

 

冗談であるという可能性にかけて氷川さんの顔を見るも、そんな様子はない。そもそもこの人が他の人を貶めるような冗談を言うとは思えないし、ということは・・・

ふと、思いついたことがあって調理室の扉に耳を当ててみる。ちゃんと作れるようになってからにするように、と里中さんに説得されていた。これ、ホントにホンキでマジなやつだ。

 

「・・・凄いですね、魔法学園って」

「そうですね・・・あれが魔法が一切関係ないところで起こっているという事実が、本当にすごいです・・・」

 

その時のことでも思い出しているのだろうか、氷川さんの口調はなんだか疲れているようにも思える。・・・お疲れさまです。

 

「それでは、次は文化部棟を案内させていただきますね。仕事の最中という可能性やそのほかの理由により生徒会室と報道部は案内できませんが」

「・・・できないんですか?」

「生徒会の方は、転校生の案内ですし可能だと思うのですが・・・報道部の方は、個人的にちょっと・・・時間もないですし・・・」

 

・・・この学園の報道部に、一体何があるというのだろうか・・・

 


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