グリモア~全力で叱られるのを避けようとする物語~   作:シスコン

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気まぐれ投稿、元々そのつもりでいたとはいえ、まさかここまであくとは・・・そしてここまであいて書くことになるとは・・・人生とはわからないものですね


第二話

「お待たせしてしまい申し訳ありませんでした、氷川さん」

「いえ、そこまで待っていないので大丈夫です。手伝えたらよかったのですが、男子寮に入るわけにもいきませんから」

「まあ、それもそうですよね」

 

と、ひとまず部屋に届いていたものを全部運んだ俺はその過程で若干乱れた服装を整える。もちろん、部屋に戻った時に鞄の中からネクタイだしてつけてきた。慌ててたせいか緩んでいたので、氷川さんの目の前で抜いてからしめなおす。

 

「さて、どこから案内しましょうか?」

「あーっと・・・じゃあ近いとことからお願いします。全部案内してもらわないと何もわかりませんし」

「では、運動場の方から回っていくことにしましょう。こちらです」

 

と、氷川さんが向かうのでそれを追って横に並ぶ。一歩下がって歩くのも考えたが、さすがにやりすぎだろう。この人は厳しいけど、そういう女王様的なものではなく『風紀委員』としてのものだろうし。

さて、会話をするのは・・・さすがに大丈夫だよな。話題さえおかしなものを振らなければ。

 

「ちょっと失礼かもしれないんですけど、いいですか?」

「失礼かもと思いながらその話題を振るのですか?」

「いや、うん。よく『女性の年齢を聞く』ってダメだって言うからどうなのかなぁ、って思って」

「ああ、そういう・・・さすがに、同じ学校に通っている相手に聞いてそう失礼になることもないでしょう」

 

なるほど、そういうものなのか。まあ少なくとも氷川さんはそう感じないようだし、良しとしよう。

 

「それで、いくつなんですか?俺は17なんですけど」

「一つ下ですね。16です。・・・何か不快に思う部分などありましたら言ってくださってかまいませんよ?」

 

?・・・ああ、一つ下なのにあれだけ強く言ってきたこととか、そう言うことかな?

 

「別にいいですよ、俺そう言うの気にしないんで。さすがに年上は敬いますけど」

「そうですか。では、これからもこれまで通りに」

 

あ、しまった。これからも遠慮なくズケズケ言われる奴だ、これ。

 

「まあ、風紀委員として活動するときは相手の年齢は関係ないのですが」

 

関係なかった。だったらむしろ普段からこの状態で馴れていた方がいいのかもしれない。や、叱られる前提でいるのは駄目・・・でもないな。いつか絶対に地雷を踏み抜く。なんなら踏み抜いて飛ばされた先で踏み抜く。それくらいやる自信はある。この判定ラインだとそれくらいはやる。やらかす。

 

「さて、それでは案内していきましょうか。まだここを利用するのは先になるでしょうが、運動場の中には訓練所などもありまして・・・」

 

さ、とりあえず一つ一つ覚えていこう。なんだかこの学園広いらしいし、気を付けていかないと。

 

 

 

 

授業棟や食堂については最悪後回しでも問題ない、図書館は使う可能性が極めて低い、と俺と氷川さんの話し合いの結果が出たので、ひとまず文化部棟やらの施設から案内してくれることになった。まあ確かに、授業棟は明日担任の案内の元いくことになるだろうし、食堂についても明日誰かしらと一緒に行くことになる可能性が高い。であれば、今のように時間のある時に部活やらの案内、そして魔法学校ならではの施設の案内をしてもらった方がいい。何より、せっかく美少女の案内なのだ。そんな型っ苦しそうなところを案内してもらうなんてもったいないじゃないか。

・・・・・・こんなことを考えてるってバレたら何言われるか分かったものじゃないな。ぽろっと漏れないように気を付けないと。

 

「あ、案内するまでもないので簡単に済ませますが、そこにあるのがグラウンドです。体育館や訓練所なども含めて運動場と呼称しています」

「・・・訓練所?」

「はい、訓練所です。可能なら中の案内をしておきたい場所なのですが、精鋭部隊が使っていますから。邪魔をするわけにもいきませんし」

「ふむ・・・」

 

まあ、邪魔をしたらいけないというならそうなんだろう。精鋭部隊って名前からして、凄い人たちの集まりなんだろうし。俺が直接かかわることはないって考えた方がいいのかな。

 

「そして、その先にコロシアムもありますが・・・あそこも、必要になったら知る、くらいで問題ありません」

「ふむ・・・コロシアム、ってことは戦ったり?」

「はい。模擬戦・・・のようなものをしますね」

 

こういうことを言われると、やっぱり普通の学校じゃないんだなーと自覚する。そして、こうして歩いている間にも何人かに注意しているところを見る限り、やっぱり氷川さんは厳しい人だ。そう思えば、寮では皆若干緊張した様子が見られたし・・・

 

「そして、その先にあるのが右から魔法棟と文化部棟です。文化部棟は名前の通り文化部の部室と、生徒会室がありますね」

「あ、生徒会室もあっちなんですね。授業棟の中にあるイメージがありました」

「そう言う場所も多いのかもしれませんね」

 

少なくとも、俺のいた学校ではそうだった。

 

「そして、魔法棟の中には先ほども言いました精鋭部隊の詰所や魔道兵器の開発などをする場所、そして保健室があります」

「保健室もそっちなんですね。授業棟からちょっと距離があるのか・・・」

「そう言う面では若干不便ですね。ですが、サボるなどの理由から考えているのであれば・・・」

「そのような考えは一切持っておりませんですはい」

 

ちょっと考えました。ってか前いた学校では極々まれにではあったけどやってました。どうしてもダルくなることってあるんです。とはいえ、学校になじめないうちにそんなことやったらボッチ確定だからやろうにもやれないんだけど。

 

「さて、どちらから案内しましょうか?」

「うーん・・・どっちのが楽しいと思う?」

「案内の基準としてそれでいいのかとは思いますが、そうですね・・・文化部棟の方が楽しいのではないかと。やはり、各種文化部がありますから」

 

なるほど、確かにその通りだ。そういうことなら。

 

「じゃあ、魔法棟からでおねがいします」

「ではそのように。といっても、案内しておく場所は調理室と保健室くらいになりそうですが」

 

あ、その二か所だけなんだ。まあ生徒会室とかは疲れそうだからいいんだけど・・・

 

「個人的に魔道兵器開発局とかかなり興味があるんだけど」

「あそこは・・・とある人物の私有する部屋にちかいので、難しいんです。言えば通してはくれるでしょうが・・・」

「あー・・・そういうことなら、また別の機会に」

 

何となく。氷川さんは厳しいけど、かなり厳しいけど、厳しすぎるくらい厳しいけど、邪魔をする意思があるとかそんな嫌な風紀委員ではないのだろう。厳しすぎるけど。

で、だ。そう言うことなら、俺の方から無理を言おうとは思わない。

 

「ご理解のほど感謝します。では、まずは保健室から。利用することもあるでしょうし」

 

との言で保健室に向かう。

 

「保健室ってことは、ここの学校にも養護教諭の人がいるの?」

「ええ、ごく一般的な養護教諭の先生もいらっしゃいます。ですが、基本的にお世話になるとしたら違う方ですね」

「違う人、何だ」

「はい。私たち魔法使いは体内にある魔力のおかげで普通のけがは比較的早く治ります。だからといって処置をしなくてもいいというわけではないのですが、それでもお世話になる機会は減るでしょうね」

 

なるほど、そんな特典まであるのか、魔法使いには。卒業後は軍でほぼ確定とか聞いてたから怖かったんだけど、案外いい部分もあるのかもしれない。

 

「うん?じゃあ、どんな時に保健室を使うの?」

「基本的にはクエストの後などに使うことが多いですね」

 

クエスト。なんだろう、すっごく男心をくすぐられる響きだぞ。

 

「クエストの最中に負ったけがであれば魔法を用いての治療が許可されますし、そうでなくとも霧の浸食が考えられます。なので、クエストの最中にけがをした場合にお世話になることの方が多いかと」

「ふむふむ・・・」

 

若干知ったかになるのはまあ、置いておくとして。神職、って言う以上は体内に魔物の元である霧が入ったりとか、そう言うことなんだろう。明らかに体には悪そうだし、それに怪我も直してくれるというのだから、ありがたく世話になろう。

 

「まあだからといって普段の怪我で来なくてもいい、ってわけじゃないんだけどね。ちゃんと手当されに来てください」

 

と、顎に手を当ててそんなことを考えていたら後ろから声をかけられた。そろって振り返ると、そこには三つ編みに眼鏡の委員長っぽい感じの人が。

 

「こんにちは、氷川さん。そっちの人は新しい転校生かな?」

「こんにちは、椎名さん。はい、兎ノ助さんから案内を頼まれまして」

「なるほど、それで保健室に。怪我とかじゃなくて安心したわ」

 

そう言うと椎名さん、とやらは保健室の中に入っていく。なんとなくどんなところなのか気になったのでその後に続いてみると、うん。普通の保健室だ。

 

「じゃあ改めて、初めまして。私は椎名ゆかり。保健委員をやってるの」

「あ、初めまして。滝沢歎・・・です。今日転校してきました」

「そんなに固くならなくていいよ。リラックスリラックス」

 

この人は接しやすそうだ。こんな厳しい人が現実にいるのかと思うレベルの氷川さんが初めて会った相手だったので皆さんそんな感じなのではないかと思っていたけれど、さすがにそれはないらしい。

 

「彼女は回復魔法というかなり珍しい才能を持っています。その辺りもあり、保健委員を」

「まあ、元々こういう仕事につきたかった、って言うのもあるんだけどね。だから子供のころから救急箱を持ち歩いてたりして」

 

それは、何と言うか。とても頼りになりそうな子供ではあるな、うん。邪魔じゃなかったのかとは思うけれど。

 

「って、回復魔法って言うことは、さっき言ってたクエストの後がどうこうって言うのは」

「うん、私がやることが多くなるかな。とはいえそこまで危険なクエストに転校そうそう行くことはないから、まだ先になるだろうけど」

「その時はよろしくお願いします」

「できる限りお世話にならない方がいいんだけどね、こういうのは」

 

まあその通りなんだけど、そうも言ってられない事態って言うものもあるのではないだろうか。

 

「それにしても、転校生君と言い滝沢君と言い短い期間に男の子が二人もくるだなんて、珍しいこともあるのね」

「・・・不思議な名前、ですね?」

「やだなー、さすがに名前じゃないって」

 

うん、だよね。万が一、って言う可能性も考えてみたんだけど。

 

「転校生さん、というのは通称ですね。本来ならごく短い期間で取れてもいいと思うのですが、なぜか未だにその呼び方です」

「本名を知らないって言う子も中にはいるんじゃないかな?」

 

どんだけだよ、転校生。

 

「さて、あまり長居しても申し訳ありませんし、私たちはそろそろ失礼しますね」

「そう?じゃあ、氷川さんに滝沢君。またね」

 

椎名さんに見送られながら、同時に保健室に入ってきた子たちとすれ違いで出ていく。氷川さんに椎名さんと年齢の近い人たちにしかあっていなかったから半ば忘れていたが、この学園にはもっと幼い子もいるのだった。そう言えば、逆に普通なら大学生というような年齢の人もいるんだっけか。

 

「・・・ねえ、氷川さん。一つ質問、いいですかね?」

「はい、なんでしょうか?」

「さっきの子たちみたいなのとか、逆に年上の人とかって、どうかかわればいいの?」

「あー・・・確かに、この環境は少し特殊ですからね」

 

そう、ここにしてみれば当然のことなんだろうけれど、俺にしてみればかなりの特殊ケースなのだ。というか、普通に考えて小中学生くらいの年齢の子から30代の人までいるってのは、どうやったら馴れられるのだろうか・・・

 

「ですが、そこまで気にしなくてもよいかと」

「そうなんです?」

「ええ。さすがに一切気にしない、というわけにはいかないでしょうが。それでも同じ学生という立場になるわけですし、そんな様子ではクエストの際にまともな連携を取れませんから」

 

そう言えば兎ノ助さんも、『仲良くなれ』って言ってたっけ。つまり、ちゃんとそういう人たちとも絆を結べ、ということだろう。

 

「年上の方々への敬意、年下の子たちへの気配り。それらを持った上でそのように」

「はい、わかりました」

 

すぐには無理な気がするけど、少しずつ慣れていくことにしよう。

 




こうなりました。これでいいのかな?いいよねきっと。これ以上は書けませんもん。

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