まさかこいつに憑依するとは   作:Aqua@D

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大変長らくお待たせ致しました。


課外授業のデイウォーカー
What is a sham battle?


 

ロキとの一件がひと段落ついた頃、俺たちグレモリー眷属とイリナと黒歌は、グレモリー邸へと帰省していた。

理由は、部長……リアス・グレモリーの眷属が今回『戦車(ルーク)』をロスヴァイセに与えたことで揃ったからである。

 

黒歌は冥界での事後処理を済ませ、今回の俺たちの帰省に合わせて合流し、そのまま駒王町に戻る流れになっている。

結局、黒歌はただの「下級悪魔」として生きていくことになった。誰の所にも眷属入りしていないので、このままならば昇格は厳しい。さらに、俺以外の眷属になる気はないようだ。

その発言にイリナが何やら考え込む仕草をしていたのは、気のせいではないだろう。

 

今はその報告が終わり、グレモリー家のダイニングルームにてお茶会の最中だ。紅茶を飲み世話話を楽しむ、そんな良くある貴族のワンシーン。周りを見ると皆、様になっている気がする。一誠も夏休みでヴェネラナ様に色々教わったおかげか、立ち居振る舞いもそれっぽくなっているしな。

 

しかし……こうして周りを見て改めて分かった事だがリアス・グレモリー眷属は結構異質なメンバー構成だな。

現魔王サーゼクス・ルシファーの妹で、グレモリー家の膨大な魔力にバアル家の滅びの魔力を継いだ我らが「(キング)」リアス・グレモリーを筆頭に、堕天使の幹部である雷光のバラキエルの娘の「女王(クイーン)」姫島朱乃。

戦車(ルーク)」は元オーディン様の付き人であり、ヴァルキリーのロスヴァイセに、猫又と呼ばれる妖怪の塔城白音。

……ああ、名前は基本的に黒歌と俺は元の名前で呼んでいる。校内では小猫のままだし、最終的にどうなるのかは本人次第だけどな。

 

それで「騎士(ナイト)」は、サーゼクス・ルシファーの「騎士(ナイト)」である沖田総司を師に仰ぎ、聖魔剣と呼ばれる聖魔混合の剣を扱うことのできる木場祐斗。さらに補足するならば、一人一つしか所有できない神器を『魔剣創造(ソード・バース)』と『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』の二つを所持している。で、俺に関しては特に今更特筆することはないだろう。自分のことながら分からないことだらけでもあるしな。

 

そして「僧侶(ビショップ)」は元教会のシスターであり回復系神器『聖母の微笑み(トライライト・ヒーリング)』の所有者であるアーシア・アルジェントに、吸血鬼のハーフで神器「停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)」の所有者であるギャスパー・ヴラディ。直接戦闘には向かない(ギャスパーに関しては吸血鬼ならば近接戦闘技能も高いが、性格が転じている為にそうなっている)が、サポート役としてはかなり優秀な二人である。

そして「兵士(ポーン)」の兵藤一誠は乳龍帝として、その名前を轟かせている。アザゼル曰く赤龍帝としては珍しい存在らしい。魔力操作に関しての才能は乏しいが、いざという時の爆発力と根性は見張るものがある。特に、乳に関しての爆発力は凄まじく、「洋服破壊(ドレス・ブレイク)」「乳語翻訳(パイリンガル)」など限定的であるが、前者は防具及び武具の破壊による無力化や後者は防ぐ術はない読心と能力だけ(・・・・)を見ればかなりの難敵で有る事が分かる。

 

(キング)」を除く八名の内、俺を含む三名が教会出身である……木場は厳密にはどうかわからないが。そして、残りも堕天使のハーフ、吸血鬼のハーフにヴァルキリー、猫又と他種族の血を継ぐものが多い。

唯一の元一般人も赤龍帝と、誰が見ても異質なパーティーである。

 

「どうかしましたか? ゼノンさん?」

「いえ、何でもないですよ、ミリキャス様」

 

何故か、眷属内では身内を除いて一誠の次にミリキャス様に懐かれた。一誠の次といってもベクトルが違うからどうして懐かれたかよくわからん。

その後は恙無く報告とお茶会が終わり、魔法陣で帰るのだが、その前にグレモリーの城にサーゼクス様──あの一件(おっぱいドラゴンの歌)から様をつけるのをどうしようかと考えている──が戻られているということなので、ミリキャス様も同伴で帰り際に挨拶をすることになった。

 

そして、サーゼクス様が戻る際に使う移住区の通路を進むと、サーゼクス様と貴族服のサイラオーグに会った。

何故、サイラオーグが此処に? と一瞬疑問を覚えたが、一応彼は部長の従兄弟に当たる存在である為に別に変ではないのかと納得した。

サーゼクス様とサイラオーグに挨拶を交わし、部長が話を進めると今後のレーティングゲームの話が出てきた。

 

「今度のゲームについていくつか話してね。リアス、彼はフィールドを用いたルールはともかく、バトルに関して複雑なルールを一切除外してほしいとのことだ」

「……ッ!」

 

サーゼクス様の言葉を聞き、部長は驚くが直ぐにサイラオーグへと問いかける。その部長の目元は厳しい。

 

「それはつまり……こちらの不確定要素も全て受け入れるということかしら?」

 

その問いに部長の視線にサイラオーグは不敵に笑みを浮かべる。

 

「ああ、そういうことだ。時間を止める吸血鬼(ヴァンパイア)、女の服を弾き飛ばし、読心ができる赤龍帝の技。それを俺は全部許容したい。おまえたちの全力を受け止めずに、大王家の次期当主を名乗れるはずがないからな」

 

その言葉を聞き、周りが息を飲むのが聞こえる。そしてサイラオーグの視線が部長を捉え、俺に移り視線が合うと一誠にも移る。

サイラオーグの純粋な戦意の籠った威圧にギャスパーは直視していないにも関わらず一誠の後ろで震えている。

俺はサイラオーグの纏う闘気を感じ、どうやってこいつを倒せるものかと頭を働かせる。これで枷をかしているというのだから厄介なものだ。すると、サーゼクス様がある提案を口にする。

 

「ちょうどいい。サイラオーグ、イッセーくんと拳を交えたいと言っていたね?」

 

この流れはまさか……?

 

「ええ、確かに以前そう申し上げましたが……」

「軽くやってみたらいい。天龍の拳をその身で味わってみるのはどうかな? リアス、どうだろうか?」

 

サーゼクス様の提案に部長はしばし考え込み、意を決したように答えた。その一誠はというと突然の事に目を見張っていた。

 

「……魔王様がそうおっしゃるのでしたら、断る理由がありませんわ。イッセー、やれるわね?」

「は、はい! 俺でよかったら!」

 

部長の言葉もあって一誠も決心したのか、一歩前に出ると返事を返した。

 

 

 

 

そのような経緯があって俺たちは、グレモリーの城の地下の広大なトレーニングルームに移動した。広さで言えば駒王学園のグラウンドより一回り広く、高さも悪魔の翼を広げて飛び回れるくらいだ。

既にサイラオーグは貴族服を脱いで灰色のアンダーウェア姿になっている。対する一誠はそのままの格好、とはいえ何時もの特別製の制服な為に動きが悪くなるような事もない。

対峙する二人は先に一誠が動いた。【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】を出現させると直様叫ぶ。

 

「ドライグッ! いくぞ!」

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

音声と共に赤いオーラが発生し、一誠を包んで鎧を形成していく。そして既に見慣れた赤い鎧…….【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】を身に纏った。

あの乳神の一件から一誠の禁手までのカウントがほぼ必要無くなった。理由としてドライグ曰く、乳神の大きな力を受けて神器に良い刺激が与えられたかららしいが、ドライグとしてはまた「乳」ということで気を病んでいた。

 

その話は置いておき、両者は構えを取って様子を伺っていた。しかし、一誠は悩んでいても仕方が無いと踏んだのか右のストレートを放つ構えをする。

 

「行きます!」

 

宣言通りその構えのまま背中のブーストに龍の翼の加速を利用して突貫する一誠。対するサイラオーグは避ける素振りは見せない。

そして、一誠の拳がサイラオーグの顔を横から殴り抜けようとした瞬間……

 

『Promotion Rook!!‼︎』

 

宝玉から発生された音声が響くと一誠は「戦車(ルーク)」へと昇格(プロモーション)し、その拳のスピードは異常に上がる。「戦車」のパワーならばサイラオーグにも有効だろう。しかし、ゴッ! と鳴り響いて当たった拳はサイラオーグの左腕によって防がれていた。

 

今のを初見で防ぐだと? どんな動体視力と反射神経してやがる。ドライグと協力したことで瞬間的な昇格(プロモーション)が可能になってるんだがな。

 

俺が内心驚く中で一誠は防がれた為に一旦距離をとって後方に下がる。そして、再度体勢を整えるとサイラオーグの挙動に注意を払っているようだ。

サイラオーグは防いだ左腕を軽く叩くと笑みを見せる。その笑みは一誠の一撃が予想以上のものだったことによる喜びだろう。

 

「いい拳だ。思わず防いでしまう程の純粋な拳打。だが──」

 

言葉の最中に足元に闘気を爆発させて一気に一誠との距離を詰めて背後をとるサイラオーグ。

 

「──まだまだだ」

 

そして、言葉が終わると同時にサイラオーグの拳が一誠へと襲いかかる。

だが、伊達に俺たちも死線をくぐり抜けてきた訳ではない。その証拠に一誠はサイラオーグの攻撃に反応して振り返ると共に肘を揃えて拳を腕で防ぐ。インパクトの瞬間にブースターを逆に吹かして衝撃を減らし、吹っ飛ばされる途中にドラゴンショットを連射し、直様龍の翼で離れた場所に着地をする。

 

サイラオーグはドラゴンショットを拳で弾き飛ばすが、追撃はしようとせずに一誠が体制を整えるのを待ち、口を開く。

 

「わざと後ろに飛び威力を相殺したか。追撃を仕掛けても今のままでは有効打は与えられないだろうな」

「いえ、相殺するつもりでしたが一度再形成しなくてはいけませんでした……その強さになるまで鍛えたんですか?」

「己の身体を信じてきただけだ」

 

会話を挟んだ小休止の後に両者は再度動き出した。サイラオーグは先程と同じように一誠に接近。しかし、速度は増しており今度は一誠の正面に現れる。

一誠は動かないが、瞳は何か覚悟したようで狙いがあるのだとわかる。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost‼︎‼︎‼︎』

 

サイラオーグのボディーブローが一誠に突き刺さる直前に倍加が行われる。その一撃はそのまま腹部に当たるが、一誠は一歩も下がらずにカウンター気味にサイラオーグの顔面にストレートを打ち込んだ。

そして、サイラオーグは口元から軽く血を流す。対する一誠は全身鎧の所為で表情からは判断できないが、腹部の装甲が拳大に砕けていることからダメージはそれなりのものを受けたのだとわかる。

サイラオーグは口元の血を指で拭うと笑みを浮かべる。

 

「先程の行動も『戦車(ルーク)』への昇格も今の一撃の為か……見事だ」

 

すると、サイラオーグは構えを解いて闘気を抑える。一誠は急に闘気を抑えたことと、上級悪魔からのなれない賞賛から戸惑いを隠せていない。

 

「今回はここまでにしておこう。これ以上やると、俺は歯止めが利かなくなりそうだ。それに、お前は今何かに目覚めようとしている最中なのだろう?」

「……ッ!」

 

サイラオーグは困惑する一誠の目を覚ますような一言を告げる。そして、サイラオーグは脱いだ貴族服を拾い、一誠に歩み寄りその肩に手を置く。

 

「ならばそれを得てからだ。続きはレーティングゲームで俺とお前、リアスの眷属たちと見えよう。──来い。そこで俺、いや俺たちがお前たちを打ち倒す」

 

サイラオーグはそう言い残し、サーゼクス様に挨拶をした後に去って行った。そして、そのまま此方もサーゼクス様に挨拶をして帰るつもりだったが……。

 

「サーゼクス様、堕天使総督から大至急の連絡です」

「ありがとう、グレイフィア」

 

サーゼクス様はグレイフィア様から渡された小型の端末を受け取るとこの場で話し始める。

 

アザゼルからの至急の連絡だと? 修学旅行前に一波乱来そうだな。

 

そんな事を考えていた俺の予想以上の事が起こるとはこの時は予想していなかった……


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