まさかこいつに憑依するとは   作:Aqua@D

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Where is Northern Europe? Ⅱ

 

その翌日、俺たちリアス・グレモリー眷属はグレモリー家主催で、冥界であるイベントに主役として参加していた。

内容としては冥界の住民を対象とした『乳龍帝おっぱいドラゴン』に登場する俺たちとのサイン及び握手会となっており、今も俺たちの前には老若男女問わずの長蛇の列となっている。

……基本的に、女性は俺と木場。ギャスパー、塔城には大きなお友達。子供は一誠や部長で男性はアーシアや朱乃と何と無く役割が分担されていて怖い。

 

……というか、俺と裕斗を並べて仮面の男(俺のキャラクターの名称だ。正式名称はまだ不明らしい)×ダークネスナイト・ファングとかその逆とかで黄色い歓声を上げるのは勘弁してくれないか?

コスチューム上、顔は隠れているが愛想笑いを隠せない……。で、裕斗は裕斗で気づいてねえ……何故かこいつは、こういうのには疎いんだよ……。

その団体が過ぎると、ノーマルの女性や子供たちの対応に追われる事になったがあれ以外に苦労する事なくサイン会は過ぎていった。

 

……因みに、例の部長の元婚約者のライザー・フェニックスの妹のレイヴェル・フェニックスがアシスタントとして協力をしてくれた。

 

彼女とは少し会話ができて、聞いた話では、そのライザーは今だに一誠に倒された事によるドラゴン恐怖症で引きこもっている状態らしい。まだ、手を尽くすつもりだがいざとなったら部長たちに助けを求めるかもしれないと、申し訳なさそうに言っていたのが印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

ディオドラ・アスタロトの件での活躍の褒賞としていただいた特殊なつくりのバトルフィールドで、イリナとの戦闘訓練、男だけで戦闘訓練など様々なことが有って、数日が経った。今夜も、オーディン様の護衛として俺たちは付き添っていた。……日本の神々との会談までの時間を潰すために、オーディン様は基本的に、日本各地のキャバクラや風俗などをメインに日本の娯楽施設を回っていた。

 

それでいいのか北欧の主神よ。

 

そして、今はスレイプニルという足が八本ある巨大な馬の引く馬車

の外を俺は飛んでいた。他にはバラキエルさん、祐斗、イリナが空を飛んでいる。残りは中に待機している。

 

そんな中、直感に従いバラキエルさんに目配せをし、スレイプニルを止めさせてからジュワユースを構える。その後、バラキエルさんと祐斗、イリナが構えると同時に次元が裂けて黒いローブの目つきの悪い男……ロキ様がやって来た。

 

……やはりオーディン様の言う厄介な奴とはこの方か……。

 

そして、スレイプニルが嘶き馬車中にいたアザゼルが先に出て来て全員にその来訪者の名を告げる。

グレモリー眷属とロスヴァイセさんは驚いているだろうな。というか、ロキ様を目視した瞬間にアザゼルは思い切り舌打ちをした。

すると、ロキ様はマントを広げ語り出す。

 

「始めまして、諸君……我こそは北欧の悪神、ロキだ!」

 

すると、アザゼルが前に出て口を開く。

 

「これはロキ殿。このようなところで奇遇ですな。この馬車にはオーディン殿が乗られている。それを承知の上で行動だろうか?」

 

アザゼルが冷静に問うとロキ様……いや、様はいらないか……は腕を組みながら答えた。

というか、今のアザゼルの口調は似合わねぇな。公私使い分けてるんだろうが……なんだかな。

 

「何、我らが主神殿が、我ら神話体系を抜け出て、他の神話体系に接触しているのが耐えがたい苦痛でね。我慢できずに邪魔をしに来たんだよ」

 

それを聞いたと同時に全員が警戒度を上げる。そして、アザゼルが口を開く。

 

「堂々と言ってくれるじゃねぇか……悪神ロキ」

 

ロキを敵と断定したアザゼルの口調は元に戻っている。その態度にロキは笑みを浮かべる。

 

「ふっ……本来、貴殿や悪魔たちにと会いたくなかったのだが、致し方ない……いっしょに静粛してくれよう」

「お前が他の神話体系に接触するのはいいのか? 矛盾しているぜ?」

 

すると、アザゼルが疑問を口にする。……というか、現状でロキと戦うとなると……不味いな。

 

悪神ロキと言えば、神殺しのフェンリルを有する。史実ならば、ラグナロクやフェンリルの封印などが起こっているが、この世界ではそのような事は起こって居ない。起きていたら起きていたらで、不味いんだがな。

 

「和平など下らん事をしようとするのが、納得いかないのだ。他の神話体系なんぞ、滅ぼせばいいだけではないか?」

 

すると、ロキは当然のように大変過激な考えを示した。

 

「……一つ聞くがお前の行動は「禍の団(カオス・ブリゲード)」とは関係ないんだな?」

 

その思想にアザゼルが、一つ確認するとロキは面白くなさそうに答えた。

 

「あんな愚者どもと一緒されると不愉快極まりない……オーフィスは関係ない」

「......まあ、それはそれで厄介なんだが。なるほど……これが北が抱えている問題か?」

 

アザゼルがそう言って、馬車の方に向くとロスヴァイセさんとオーディン様が出てきた。二人とも足元に魔法陣を展開して魔法陣の上に立っている。

 

「いまだに頭が固いやつが居るようでの......こういう風に自ら出てくる馬鹿もいるのじゃ」

 

オーディン様が髭をさすりながら言う。すると、ロスヴァイセさんがスーツ姿から鎧姿になり、叫ぶ。

 

「ロキ様! これは越権行為です! 主神に牙をむくなど、許されることではありません! 公正の場で異を唱えるべきです!」

 

すると、ロキはロスヴァイセさんを睨むと激昂して叫ぶ。

 

「一介の戦乙女ごときが口を挟むな! 我はオーディンに訊いている……まだこのような行為を行うのか?」

 

ロキの最終確認ともとれる質問。たが、オーディン様は何でもないかのように平然と答える。

 

「そうじゃよ。少なくともお主と話すよりもサーゼクスとアザゼルと話した方が楽しいからの。和議を果たしたらお互いに大使を送り、異文化交流をしようと思ったわけじゃ」

 

自身とは全く異なった思想を臆面もなく告げられたロキは、あまりものロキ主観で主神とは思えぬ愚かさに苦笑する。……実際、ロキの掲げる信念自体が間違っているとは言い切れないのだが、神というのは傲慢なもので、自身の信念こそが! と思っているのが多いからな。帝釈天然り、ハーデス然り、シヴァ然り……。

 

「......認識した。何と愚かな……ここで黄昏を行おうではないか」

 

ロキがそういうと俺たちに殺気を当て、不敵に微笑んだ。その殺気と態度に俺たちは身構える。

 

「それは抗戦の宣言としていいんだよな?」

 

アザゼルが確認するように訊くと……

 

「如何にも」

 

と、ロキが静かに告げると共に火蓋が切られた。瞬時に外で待機していた俺たちは散開し、ロキを包囲する。

 

「部長! 昇格(プロモーション)します!」

 

そして、一誠は部長に許可を取り「女王(クイーン)」に昇格するとともに禁手化をし、馬車から出てくる。それを見てロキは笑みを浮かべる。

 

「そうか。ここには赤龍帝がいたのだな。いい具合に力をつけているではないか? だが……」

 

ロキは手に光り輝く粒子を数秒溜め、一誠に放った。放たれたロキの波動に一誠は連続で倍加した魔力弾……ドラゴンショットを撃ち込む。

 

「神を相手するにはまだ早い!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

ロキと一誠の攻撃がぶつかり合い辺りに弾け飛んだ。

ロキの手に赤い煙が立ち上がっていたので一誠の攻撃が少しは通ったらしいが、目立った外傷はない。

 

「……特別手を抜いたわけではないのだがな」

 

そして、残りのメンバーが馬車からアーシアとギャスパーを除いて外に出てきた。

 

「紅い髪は確か、グレモリー家……だったか? 現魔王の血筋だったな。堕天使、天使、悪魔、赤龍帝……ただの護衛としては厳重だな、オーディン?」

「お主のような馬鹿者が来たんじゃ。結果的には正解だったのぅ」

 

オーディンの一言にロキは頷き笑みを作る。

 

「よろしい、ならば呼ぼう……出てこい! 愛しい我が息子よッ!」

 

ロキが叫ぶと空間が歪む。そして、そこから10m程の灰色の狼……神喰狼が出てきた。

 

「不味い……お前ら、あの狼に近づくな! イッセー、距離をとれ!」

 

それを見たアザゼルは、焦った表情で叫んで俺たちの警戒度を上げさせた。色々知識不足の一誠は本能で危険性は感じているが、その正体は分からず呟いた。

 

「あれは……?」

神喰狼(フェンリル)だ。神を殺せる牙を持った獣……と言えば理解出来るか?」

 

俺の説明を聞いた部長たちはフェンリルを呼び出した事に驚愕し、警戒を強めた。アザゼルが一誠に再度注意を呼びかけると、一誠も警戒度を最大までに上げていた。そんな中、ロキは余裕の表れかのようにフェンリルを撫でる。

 

「気をつけたまえ。こいつは我が開発した魔物でも最強・最悪な部類だ。そこの聖剣使いも言っていたが、こいつの牙で神を殺せるからな。試したことはないが、他の神話体系でも有効だろう……上級悪魔や伝説のドラゴンでも致命傷を与えられる」

 

そういいながら、ロキはフェンリルを撫でていた手を動かして、部長を指す。

 

「本来、北欧の者以外に我がフェンリルの牙を使いたくないんだが、この子に北欧以外の血を味わわせるいい機会だ。魔王の血筋、その血を味わ……!」

 

ロキの言葉は、俺の放った斬撃によって遮られた。フェンリルを避けてロキに当てるのは少しばかし時間と相手の隙が必要だったからな。ただ、ダメージは魔術障壁によって与えられていない。

 

「……ふむ、私が話している間に攻撃してきたとはいえ、フェンリルの目を掻い潜り攻撃を当てるか……」

 

俺がわざわざ攻撃をしたのは、部長から目を逸らさせるのが目的だ。あのままならば、部長がフェンリルに狙われて、それを庇おうとした奴らから再起不能にされていたからな。

 

「貴様の考えは読める。これで、フェンリルの矛先を自身に移そうというわけだろう? ……だが、その思想に乗ってやろうではないか」

 

まあ、流石にトリックスターに陳腐な作戦は読まれるよな。だが、乗ってくれたのは好都合……! フェンリルの殺気も此方にしか向いていない為、そうやって部長を狙う訳でもなさそうだ。

 

「──やれ」

 

ロキの言葉と共に、フェンリルが此方に向かってくる。目で捉えようとなると、見失って致命傷を受けるだろう。

だから、ここは第六感に頼るしかない……!

 

ガギィン! と金属音が響くと共に、左手に構えていた複製の聖魔剣が破壊される。そして、ほぼラグがなく繰り出されたフェンリルの牙をジュワユースで一瞬受け止め、そのままスライドさせてフェンリルを斬ろうとする。

 

だが、単純計算でフェンリルは牙に両前足の爪と、攻め手が三つに対して、此方は腕に構えられる聖剣は二本。明らかに手数では不利で、格上との戦闘となると、攻撃を当てるのすら至難の技となっており、先程の攻撃は爪で受け止められた。

 

また、魔術を使おうにも、得意というか慣れている北欧系の魔術はフェンリルに通用するわけもなく、動きを止めることすら不可能である。大魔術ならば動きを止める事は可能だろうが専門外だ。

デュランダルさえあれば……という阿呆な言い訳をしてみるが、無いものを強請っても仕方が無い。

直様、聖魔剣の代わりに一誠の所有するアスカロンを使っているものの、デュランダルと比べると使い手という事もあるが、どうしてもそれには至らない。

 

こうやって描写したが、実際の時間では僅か数秒の交戦にしか過ぎない。ロキがフェンリルを一旦止めるまで……数分間か? それまで、俺とフェンリルとの防戦一方の交戦は続いた。

 

「ゼノン!」

 

フェンリルがロキの指示で離れ、俺も一旦部長たちの元に下がると、イリナの悲痛の叫びが響き、直様アーシアの【聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)】による治療によって傷の手当てを受ける。一撃で逝きうる牙の攻撃や致命傷こそ受けていないものの爪による傷跡があり、そこから血が滲み出ている。……失血を抑える魔術を使用していた為に、血が足りないなんて事は起きていないが、普通なら多量失血で終わっていただろう。

ロキがフェンリルを撫で、此方を見ながら口を開く。

 

「このままいけば、その聖剣使いは殺せる……だが、その間にオーディンたちに逃げられるのも釈だ。私も相手してやろう」

 

確かに、逃げるだけならオーディン様なら可能だろう。それに、最悪の場合でも他数名程度も同時に転移出来るだろうしな。

そして、ロキはマントをはためかせると戦闘体制に入り、フェンリルも此方に再度殺気をぶつけて来た。

 

……これは、不味い!

 

『Half Dimension!』

 

しかし、フェンリルとロキを中心に空間が歪み、動きを封じた。だが、フェンリルがすぐに牙で歪みを噛み切るようにすると、その呪縛から解放された。突然の奴の登場に驚く俺達の間に、白龍皇ヴァーリが降り立つ。

 

「随分楽しそうなことをしているな」

「ヴァーリ!?」

 

ここにいた者たちがヴァーリの登場に驚いていた。

……本気で、ヴァーリが此方に加勢? してきた理由が読めずに今だに困惑している俺だがとりあえず、いくら魔術によって出血を抑えているとはいえ、流石にそのままは不味いので、丸薬の増血剤を服用し万が一に備える。

 

「俺っちもいるぜぃ!」

 

増血剤の味に慣れずに顔を歪めている間にも、觔斗雲に乗ってきた美猴が現れた。

 

「おお、白龍皇か!」

 

ロキがヴァーリの登場に嬉々として喜びの声をあげる。そして、降り立ったヴァーリはロキへと語りかける。

 

「俺は白龍皇ヴァーリ……貴殿を屠りに来た者だ」

 

ヴァーリの簡潔な宣戦布告にロキはさらに喜ぶが、わざとらしく頷くとフェンリルを自身へと近寄らせて口を開く。

 

「二天龍が見られるとは満足した。今日のところはこれで引きさがろう」

 

言い終えた瞬間に、空間が歪みだしロキとフェンリルを包み込む。そして、去り際にロキは以下の言葉を残していった。

 

「だが、この国の神々と会談の日にまたお邪魔させてもらう! オーディン、次こそ我と我の子フェンリルがその首を噛み切ってくれよう!」

 

 

 

 

 

 

俺達は現在、駒王学園近くの公園に集まっている。深夜かつ、魔術による結界を簡易的だが張っている為に一般人が入ってくる事などあり得ない場所には、オーディン様とロスヴァイセさんに俺たちが集まっていた。

 

「……ヴァーリたちは?」

 

周りを見渡して、ヴァーリと美猴がいつの間にか消えていた事に気付いた俺は、奴らと会話をしていたアザゼルに問う。そのアザゼルは、俺に問われた事がわかると苦々しげに顔を歪めて溜息をつく。

 

「あいつら、言いたいこと言って帰りやがった……しかも、その内容も俺たちに用があるから翌日のロキ、フェンリルの対策会議に参加させてくれだとよ」

 

アザゼルは再度頭に手を当てて溜息をつく。確かに、堕天使総督という立場であるならば頭を抱える問題だろうな。あの場に出てきた理由は知る必要はあるが、わざわざ俺たちの拠点に来させずにすることも可能だった筈だ。

だが、ヴァーリたちが直様帰った為にそういうわけにはいかなくなった。話を聞かなければ、ヴァーリたちを拠点に入れずに済むがアザゼルには少なくともヴァーリの言葉が真実なのは理解している筈だ。拒否した場合は場合でどうなるかも理解しているだろうしな。

よって、拠点に入れる必要があるが、少なくともサーゼクス様やミカエル様の許可が必要だろう。その為にアザゼルが事情を説明するのだが……アザゼルとしてはミカエル様の小言はディオドラの件で散々言われた事も有って聞きたく無いだろう。その為にこんなに気落ちしているんだろうな。

 

「そうか、頑張れよ……」

 

と、俺は特に何もしないがアザゼルに同情しておいた。

 

そして、俺たちは一度散会しまた翌日にロキとフェンリルの対策会議の為に一誠の家に集合することにした。


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