ーーーレーティング・ゲーム当日
俺達はオカルト研究部の部室に集まっていた。
アーシアはシスター服、俺は黒を主体とした戦闘服、他の皆は駒王学園の夏服を着て待機していた。
そして、時間になり魔法陣に包まれて転移する……。
*
目を開けて視界に飛び込んで来たのはとてつもなく広い場所だった。ギリシャにありそうな神殿の様な風景で、後方に入り口があった。
「……おかしいわね」
部長が怪訝そうに言う。
すると、神殿とは逆方向に魔方陣が出現する。しかも、一つだけじゃなく辺り一面、俺達を囲うように。
「これは……アスタロトの紋様じゃない!」
「
祐斗が剣を構え、姫島も手に雷を走らせ戦闘体制に入る。
そして、魔方陣から大勢の悪魔が現れた。
「忌々しき偽りの魔王の血縁者、グレモリー。ここで散ってもらおう」
悪魔の一人が部長に挑戦的な物言いをすると同時に魔力弾を放つ。
それを前に出て拳で弾き飛ばすと同時に、直感がアルジェントの危機を告げる。
「部長ッ! アルジェントを囲めッ!」
その直後、アルジェントの悲鳴が聞こえた。……今の魔力弾は囮だったというわけか。
「イッセーさん!」
空から聞こえてきた声、上を見るとアルジェントを捕らえたディオドラの姿が……。
「やあ、リアス・グレモリー。そして赤龍帝。アーシア・アルジェントはいただくよ」
「アーシアを放せ! この糞野郎! 卑怯だぞ! ゲームをするんじゃないのかよ!?」
一誠の叫びにディオドラは醜悪な笑みを見せる。
「バカじゃないの? 最初からゲームなんてしないさ。キミ達はここで彼ら『
精鋭……か。どっちかと言えば質より量のような気がするんだが?
「ディオドラ。あなた、『
部長の怒りによって、真紅のオーラが一層膨れ上がる。
「彼らと行動した方が、僕の好きな事を好きなだけ出来そうだと思ったものだからね。ま、最期の足掻きをしていてくれ。僕はその間にアーシアと契る……意味は分かるよね赤龍帝? 追ってきたかったら、神殿の奥まで来てごらん。素敵なものが見られる筈だよ」
一撃なら与えられるか?
「一誠、アスカロンを」
「あ、ああ!」
俺の呼び掛けに反応した一誠は籠手を出し、先端から聖剣アスカロンを取り出して渡してきた。
「返してもらう」
そして、ディオドラに向かって愚直にジャンプし、注意を自分に向けさせると共に油断を誘う。ディオドラは魔力弾を撃って俺を落とそうとした。しかし……
「グァッ! ……な、何だと!?」
聖剣がディオドラの肩を貫いた。
そして、その貫いた聖剣を掴み取るとディオドラの魔力弾を打ち消した。……本来なら亜空間から剣を射出する技なんだが、アルジェントに刺さる危険性を考えてデュランダル一本しか射出しなかったのが仇となったのか、ディオドラに致命傷を与える事ができなかった。
魔力弾を打つ際に身体がブレたのも要因の一つみたいだ。
傷付けられたディオドラは俺に怒りの表情を見せるも、直ぐに元に戻りアルジェントを連れ去り逃げた。
「アーシアァァァアアアアアアッ!」
「一誠くん! 今は目の前の敵を片付けるのが先だ!」
祐斗は一誠に檄を入れる。一誠も頷いて囲っている悪魔の軍勢と対峙する。
すると、オーディン様が転移してきたので、声をかける。
「オーディン様、どうして此方へ?」
「……あとちょっとだったのにのぉ……まあ、いいわい。今、運営側と各勢力の面々が協力態勢で迎え撃っとる。ディオドラ・アスタロトが裏で旧魔王派と手を引いていたのまでは判明しとる。だがの、このままじゃとお主らが危険じゃろ? 救援が必要だった訳じゃ。しかし、このゲームフィールドごと強力な結界に覆われててのぅ、そんじょそこらの力の持ち主では突破も破壊も難しい。内部で結界を張っているものを停止させんとどうにもならんのじゃよ」
「相手は北欧の神だ! 討ちとれば名が揚がるぞ!」
すると、実力差のわからない旧魔王派の悪魔共がオーディン様に攻撃を仕掛けた。対して、オーディンは杖をトンッ、と地に突くと、攻撃の魔力弾が掻き消える。
「本来ならば、わしの力があれば結界も打ち破れる筈なんじゃがここにいるだけで精一杯とは……。はてさて、相手はどれ程の使い手か。ま、これをとりあえず渡すようアザゼルの小僧から言われてのぅ。まったく年寄りを使いに出すとは、あの若造はどうしてくれるものか……」
オーディンはグレモリー眷属人数分の小型通信機を渡す。
「ほれ、ここはこのジジイに任せて神殿の方まで走れ。ジジイが戦場に立ってお主らを援護すると言っておるのじゃ。めっけもんだと思って、さっさといけ」
オーディンが杖を俺達に向けると、薄く輝くオーラが発生する。
「それが神殿までお主らを守ってくれる。ほれほれ、走れ」
その言葉に一誠がいらぬ心配をするが、オーディン様はいとも簡単に、グンクニルで悪魔共を蹴散らしてみせた。
そして、俺たちはオーディン様に感謝して神殿に走った。
*
神殿の入り口に入り、全員がオーディン様から貰った通信機を耳に付ける
『無事か? アザゼルだ。とりあえず、言いたい事もあるだろうが、まずは聞いてくれ。このレーティングゲームは禍の団の旧魔王派の攻撃を受けている。そのフィールドや近くの空間領域にあるVIPルーム付近も旧魔王派の悪魔だらけだ。現在、各勢力が協力して連中を撃退している』
観戦側にも敵が乗り込んでいるようだが、各勢力が協力しているなら彼方は平気だろう。
『最近、現魔王に関与する者達が不審死するのが多発していた。裏で動いていたのは「
グラシャラボラスの家柄の関係者は『
『首謀者として挙がっているのは旧ベルゼブブと旧アスモデウスの子孫だ。カテレア・レヴィアタンが同じだった様に、旧魔王派の連中が抱く現魔王政府への憎悪は大きい。このゲームにテロを仕掛ける事で世界転覆の前哨戦として、現魔王の関係者を血祭りにあげるつもりだったんだろう。現魔王や各勢力の幹部クラスも来ている。襲撃するのにこれ程好都合なものはないからな』
グレモリー眷属の試合は最初から旧魔王派に狙われていた。ターゲットはそれだけではなく、現魔王とその血縁者、観戦に来ていた各勢力の長達を狙いに来たという訳だ。
「やはり、ディオドラが急激に強くなったのは……」
勘付いたように部長がつぶやく。
『オーフィスの力を借りたんだろう。最も、ディオドラがそれをゲームで使った事は奴らも計算外だったろうな。グラシャラボラス家の一件と併せて、今回のゲームで何か起こるかもしれないと予見が出来たんだ。しかし、奴らは作戦を途中で覆さなかった』
ディオドラはオーフィスの「蛇」の力でパワーアップして試合に勝った。……「蛇」なんか使ったらバレるまではいかなくとも怪しまれるだろうに頭弱いのか? ……弱いんだろうな。
『あっちにしてみれば、こちらを始末出来ればどちらでも良いんだろう。しかし、俺逹としてもまたとない機会だ。今後の世界に悪影響を出しそうな旧魔王派を一気に潰すにはちょうど良い。現魔王、天界のセラフ逹、オーディンのジジイ、ギリシャの神々、帝釈天が出張ってテロリスト共を一網打尽にする寸法だ。事前にテロの可能性を各勢力のTOPに極秘裏に示唆して、この作戦に参加するかどうか聞いたんだがな。どいつもこいつも応じやがった。どこの勢力も勝ち気だよ。今全員、旧魔王派達と暴れてるぜ』
うわぁ、現魔王にセラフ、オーディン様にギリシャの神々、帝釈天かよ。相手に同情したくなる面子だな。
トール様が加わったり、シヴァとかのインドラの神々が加わったら更に圧倒的なんだろうけどな。
「……このゲームは完全にご破算って訳ね」
『悪かったな、リアス。戦争なんてそう起こらないと言っておいて、こんな事になっちまっている。一応、ゲームが開始する寸前までは事を進めておきたかったんだ。奴らもそこで仕掛けてくるだろうと踏んでいたからな。案の定その通りになったが、お前逹を危ない所に転送したのは確かだ。この作戦はサーゼクスを説得して、俺が立案した。どうしても旧魔王派の連中をいぶり出したかったからな』
すると、一誠が叫ぶ。
「先生、アーシアがディオドラに連れ去られたんです!」
『……そうか、どちらにしてもお前逹をこれ以上危険な所に置いておく訳にはいかない。アーシアは俺達に任せておけ、そこは戦場になる。どんどん旧魔王派の連中が魔方陣で転送されてきているからな。その神殿には隠し地下室が設けられている。かなり丈夫な造りだ。戦闘が静まるまでそこに隠れていてくれ。後は俺達がテロリストを始末する。このフィールドは禍の団の所属の
神滅具の『絶霧《ディメンション・ロスト』。結界・空間に関する神器の中でも抜きん出ているためか、術に長けたオーディンでも破壊出来ない代物。所持者は恐らく、ゲオルクと言う人物。
「先生も戦場に来ているんですか?」
『ああ、同じフィールドにいる。かなり広大なフィールドだから、離れてはいるが……』
それを聞いた一誠は、静かに告げる。
「……アーシアは俺達が救います」
その表情は決意に満ちていて、一歩も引かないようだった。そこで、背中を押すようにアザゼルに言う。
「アザゼル、俺たちの意思は変わらん。お前らもそうだよな?」
「ああ! アーシアは俺の仲間だ! 家族なんだ! 助けたいんだ! 俺はアーシアを失いたくない!」
「アザゼル先生、悪いけれど私達はこのまま神殿に入ってアーシアを救うわ。ゲームはダメになったけれど、ディオドラとは決着をつけなくちゃ納得出来ない。私の眷属を奪うと言う事がどれ程愚かな事か、教え込まないといけないのよ!」
一誠と部長に続き、姫島、祐斗、塔城、ギャスパーが意思を語る。
「……だとさ」
それを聞いたアザゼルがやれやれとしているのが浮かぶ。そして、アザゼルは俺たちにこう言う。
『……ったく、頑固な餓鬼どもだ。今回は限定条件なんて一切無い。だからこそ、お前逹のパワーを抑えるものなんて何も無い。存分に暴れてこい! 特にイッセー! 赤龍帝の力をディオドラに見せつけてこい!』
「オッス!」
『最後にこれだけは聞いていけ、本当に大事なことだ。奴らはこちらに予見されている可能性も視野に入れておきながら事を起こした。多少敵に勘付かれても問題の無い作戦でもあると言う事だ』
「つまり、相手の方にも隠し球があるということ?」
可能性としては「蛇」か?
『ああ、可能性は高い。それと、レーティングゲームが停止している以上リタイヤによる転送は無い。危なくなっても助ける手段は無いから肝に銘じておけ……充分に気をつけてくれ』
ここでアザゼルからの全体通信が切れる。が、個別通信がアザゼルからかかる。
『ゼノン。理解してると思うが、あれは使うなとは言わんが、出来るだけ隠せ。それと、こっちが使用している際には使用は不可能だから注意しておけ』
「了解……」
そして、通信が切れる。その間に部長が塔城に仙術でアルジェントの居場所を探らせたのか、塔城が神殿を指差し口を開く。
「あちらからアーシア先輩とディオドラ・アスタロトを感じます」
全員が無言で頷き合い、神殿の奥へ向かって走り出した……。
次回、戦闘(一瞬)。