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修行初日……
グレモリー領の辺境までやって来た俺は、アザゼルに説明を求めた。
「お前の修行内容は模擬戦だけだ。ファーニブルの件の時にも感じたが、お前は実践で急成長するタイプだ。ミカエルからの報告書にもあるが、末恐ろしいほどの成長率だぞ」
「……デュランダルの使い手だからこそ、デュランダルを狙う奴はいた。迎撃手段は多ければ多いほど良い。襲撃は少なくは無かったが、そのおかげでここまで成長したんだがな」
デュランダル使いなのは、憑依して直ぐに判明していた。そこで、憑依の事を話されたミカエル様は俺を戦闘機関の方に一時的においてくださった。そして、色々な人から手解きを受けたり、自ら頼み込んで模擬戦を申し込んだりして成長していった。頼んだ人には、死ぬギリギリ……血反吐を吐くまで付き合ってもらったからな。治療等でグリゼダさんには迷惑かけまくったが。
「だからオールラウンダーなのか。……さて、とりあえず今日から数日間は俺と戦って貰う」
最初はアザゼルか、ならあの紙通りなら次はタンニーン様か。……って事は一誠とも会うのか。
「了解、何か制約つけるよな?」
「当たり前だ。今日は、ジュワユースのデータ取りも並列して行う。よって、お前は聖剣はジュワユースのみ使用可能だ」
聖剣はジュワユースのみか……どこまでやれる? そして、俺はジュワユースを右手に構えアザゼルを見据える。対してアザゼルは光の槍……「
「「……!」」
同時に間合いを詰めて鍔迫り合う。そして、何度か唾競り合いを繰り返した後に、同時に距離を取る。
……アザゼルはだいぶ手加減してるな。武器のランク差に大差はなく、俺とアザゼルの実力差から考えると、唾競り合うのはアザゼルが手を抜いてるって証拠だ。まあ、データ取りと俺の修行が目的だから手を抜くのは当たり前だが……。今のうちに憂さ晴らししとくか……。
そして、俺は距離を詰め斬りかかる寸前に魔力と気によって身体強化で押し切る!
「うぉ!」
アザゼルが驚きと共に軽く吹っ飛ぶ。そして、身体強化を止めて様子を窺っているとアザゼルが口を開いた。
「今のが以前に見せた魔力と気の混合か……一瞬だったが、油断してたらそのまま斬られてただろうな」
怖い怖いとおどけるアザゼル。それを見て俺も口を開く。
「冗談言うな……あの程度なら何ともないだろ?」
「まあな、伊達に生きてねぇしな。……さて、今度はこっちが攻めさせてもらうぜ? ……
ゴッ! とオーラが溢れ出してアザゼルが黄金の鎧を身に纏う。
「は?」
いきなり
「行くぜッ!」
すると、アザゼルはさっきとは比べものにならないスピードで接近し、槍を振るった。
「くっ……」
苦悶の声を漏らすが、何とか全ての攻撃を受け切る俺。喰らいついてはいるがアザゼルには余裕が見える。
防戦一方の俺を見て、気分をよくしたのかアザゼルが挑発をしてくる。
「ほれほれ、さっきみたいに押し返してみろ」
「……」
暫く無言で耐え、隙を窺う。
「どうした? お終いか?」
その言葉と共にアザゼルは、槍を突き出すが、先程より若干動作が大きかった。反撃にでるなら今か……?
俺はアザゼルが突き出した槍に沿うように聖剣を滑らせ、アザゼルの体制を一瞬だけ崩す。
「んなっ!?」
驚くアザゼルに向けて、魔術を可能な限り発動させる。
「全弾受け取れッ!」
魔術がアザゼルに当たり、それによって発生した爆風を利用して出来るだけ後方に下がる。
煙が晴れると鎧に目立つ傷すらないアザゼルが立っていた。……やっぱり、このレベルの魔術でダメージを通すのはここまでになると不可能か。
「……お前、俺に恨みでもあんのか? 危うく俺の顔に当たる所だったぜ?」
アザゼルが変わらぬ調子で効いてくる。そりゃ、勿論……
「ワザとだからな……」
「ああ、だからか……って、おい」
「出来れば一発殴りたかったが……流石にそれはキツいからな」
魔術だったから体制を一瞬だけ崩したのに対して追撃出来たんだからな。あれでさらに距離を詰めるのには更に策を労する必要がある。……アザゼル相手に同じ手が通用はしないだろうしな。
「お前も大概だな。……さて、続きをやるぞ?」
「ああ……」
*
修行三日目……
模擬戦の合間の休憩中、グラシャラボラス家の次期当主の日記を解析しているとアザゼルが声をかけてきた。
「おい、お前……それどうした?」
「ん? これは、グラシャラボラス家の元次期当主だった奴の遺品だ」
すると、アザゼルは納得したかのような表情をする。……なんだ?
「道理でそんな貴重な魔導具持ってんのか」
「魔導具? 魔法がかかった日記ではないのか?」
魔導具の可能性は考えていなくは無かったが……
「魔導具ってわかんねぇのも仕方ねぇくらいの高位の魔導具だかんな。ほれ、貸してみろ」
「ああ」
手渡すとアザゼルが中身をパラパラと捲りながら言う。
「結構な物だ。見たお前もわかってるだろうが、これは所有者の記憶をトレースするものだ。まあ、大部分は漏洩を防ぐ為に封印されて読めなくなってるがな」
「封印は解けないのか?」
俺は、アザゼルに質問をする。
「いや……可能は可能だが、この魔導具は封印解除にパスワードがあってな……大概はキーワードによるものが多い。しかし……」
「……解かれてない所をみると、元当主にも不可だった可能性が?」
「普通に考えりゃそうだな。しかし、何でそんな物を借りたんだ?」
アザゼルの問いに一瞬詰まる俺だが、言う。
「……塔城に関係する事だ」
「……どう言う事だ?」
神妙な顔になったアザゼルに、俺は黒歌について話した。すると、アザゼルは納得したような顔をした後に問いかけてきた。
「……そういう事か、お前の言う事だから真実だろうな。しかし、何故その事を小猫に言わない? サーゼクスにもだが」
「塔城に言わないのは、情緒不安定なあいつに言うのは効果的じゃないと思ったから……というのと、証拠がないとあいつが信じない可能性があるからだな。サーゼクス様は時間の上の都合の問題と証拠無しでは流石にはぐれ解除までは不可能だからな」
その話を受けたアザゼルがふと、疑問を口にする。
「確かに証拠無しはキツいな……で、そこまで肩入れする理由は何だ? お前の場合、何かメリットが有ると踏んだ上での行動なのはわかるが……」
メリット……か、そんなに俺が合理的にしか動かない奴だと思ったのか? ……ファーニフルの件はアザゼルに貸しを作る目的はあったが……。アザゼルにも本心を話しても問題ないだろうな。
「……そこまで言われるか。まあ、最初は同情からだったな」
「同情?」
「ああ、親がいないという共通点があったからな……」
黒歌から話を聞いた時は、多少共感できた。……憑依前のゼノンの記憶と心には「親」という存在が抜けていたからな。凄く心打たれたのは確かだ。
「成る程ね。で、どうするつもりだったんだ?」
「最悪、天使側で秘密裏に保護する予定だった」
「マジか? よくミカエルが許可したな?」
「まあ、色々手を回したり、色々な条件の上での許可だったけどな。まあ、ほとんど無駄にはなったが」
ミカエル様に黒歌の事を話すまでは簡単だったが、保護となるとそれなりの地位がなくては誤魔化しきれないらしく、本当に色々やったな。吸血鬼討伐なんかもやったしな……。
「……で、今はこれを頼りに証拠を得てはぐれ解除しようって事か」
そして、アザゼルが魔導具である日記をポンッと叩き、言う。
「まあ、これが手に入ったのは運が良かったとしか言いようがないけどな」
「……そうだな、証拠さえあれば、小猫がこれで自身の力に向き合えるようにはなるだろうな。……よし、予定変更だ。明日はダンタリオンの書架を俺の地位権限で見に行くか」
アザゼルの地位……? ああ、堕天使総督か。
「アザゼルの権限……見れる範囲は広がるのか?」
それが、疑問だ。見れても許可証と同じ見れる範囲なら無意味なんだが……。
「多少だがな……それに見た所で封印解除が出来るかわかんないがな」
やる価値はあるだろう、と言葉を続けるアザゼル。そして、俺は今更ながら問いかける。
「そういや、封印解除はどうやって?」
「基本は指定された言霊によって封印が解かれるみたいだが、さっきも言ったが身内が解けなかったから普通のワードではないのは確かだ。そういう時の為に、こういうのには特殊な解き方があるんだよ」
「本当か?」
特殊な解き方なんてあんのか……。
「ああ。だが、問題はこの魔導具が誰によって作られたのかがわからなきゃなんねぇんだ。で、わかったら、そいつに解いてもらう。……だが、そいつが死んでたらこの方法は没だ」
ん? わざわざそれを調べるのか? それなら……
「……ある程度有名な魔法使いに見せて見るのは?」
「……一概にそちらの方が良いとは言えない。何故ならこれが魔法使いが作ったのではないかもしれない可能性があるからだ」
アザゼル曰く、他にも辺境の魔法使いが趣味で作ったものだったりする可能性が高いそうだ。
「そうか、なら明日はダンタリオンの書架か。まあ、今は修行だな」
と、アザゼルから返された魔導具である日記を亜空間に仕舞って言うと、アザゼルは笑みを浮かべる……なんだ?
「そうだな。……
……って、初っ端
こうして、今日の修行は続いた……
*
……修行開始四日目
「で、広過ぎんだろ」
「初めてきたな、ここ」
俺とアザゼルの二人はダンタリオンの書架に来ていた。……というかアザゼル、始めて来たって当たり前だが……
「大丈夫なのか?」
色んな意味でな。
「わからん、とにかく探すぞ」
「……了解」
しかし、アザゼルはこのような返事を返す。とにかく、探すか……。
「……どうだ? 見つかったか?」
粗探しする事約四時間、ほぼ手がかりはなかった。まあ、この魔導具の製作者に関して以外なら色々と調べられたから無駄ではなかったが。
「いや、駄目だ……って、なんだその紙は」
すると、アザゼルの手に持っている紙に気付いたので問いかける。
……メモか?
「探してる合間に、キーワードになりそうな単語をランダムに書き殴ってみた。案外組み合わせてみれば、封印解けたりしてな」
「そうか……試してみるか?」
「そうだな、気分転換にやるか」
そして、例の魔導書を取り出して二人で呟き始めた。
「無限……オーフィス……神滅具……悪魔……デーモン」
「魔王……四凶……覇輝……覇龍……覇獣……」
……明らかにキーワードにならない単語が転がっているが、とりあえず呟く。
「堕天使……天使……龍……ドラゴン……高校……ハイスクール」
「D×D」
そして、俺が呟いた途端に俺とアザゼルは光に包まれた。
「「は?」」
わけがわかない俺たちは互いに見合わせる。そして、俺はアザゼルに質問をする。
「どうなってんだ、アザゼル?」
「知らん、だが封印は解除されたみたいだ」
すると、目の前に若い青年が現れ、話を始めた。
『封印を解いたということは、その定で話させてもらう。それに、これは死ぬ前に残したものだから、勝手に喋るので悪しからず』
「こいつは、死んだ前次期当主か……時間が無いって事はこいつは遺言か?」
アザゼルが呟く。そして、青年が話を続ける。
『先ず最初に、黒歌の件の証拠は何時でも見られるようにはなった。……それ以外の情報は大部分は抹消済みだ。何せ、見せられないものもあるからな。そちらも唯一のアドバンテージを残しておきたいだろ?』
……アドバンテージ? 何を言っているんだ?
『さて……死ぬ前だったから大したメッセージは残せなかったが、最後にゼファドールに伝えてくれ「自身に負けるな……」と。さて、そろそろ終わりだ』
そして、俺たちは元の場所へ戻った。しかし……
「……目的は達成したが、疑問が残ったな」
「今は深く考える必要はないんじゃねぇか? とりあえず、ここを出てサーゼクスに会うか」
俺の呟きにアザゼルはそう返してきた。まあ、今は考える必要はないか。
「そうだな……しかし、レーティングゲームの準備やらで忙しいのでは?」
魔王の職務も大変なのはわかってるしな。……よくサボるセラフォルー様や全てを眷属に任せているファルビウム様の元についている悪魔の方々をみればわかる。
「まあ、そりゃそうだ。多分アポ取るだけになると思うが、しないよりはマシだろ」
「という事は今日は首都に行ってアポ取るして終わりか……」
「そうなるな……明日の予定ではタンニーンともやり合う」
「了解した、移動するか……」
そして、俺たちは帝都に移動し、何とかアポを取る事に成功した。サーゼクス様とはレーティングゲーム後に会えて、場所はレーティングゲーム後に知らされると告げられた。
*
「ゼノン、少し連絡がある」
サーゼクス様にアポを取って帝都に宿泊した翌日、早朝にグレモリー邸に行ったアザゼルが戻ってきて、俺にそう言った。
「なんだ?」
「小猫がオーバーワークで倒れたんだとよ。あと、ヴェネラナからイッセーを呼べ、って頼まれた」
話の続きを促すと、案の定塔城が倒れたらしい。ヴェネラナ様が一誠を呼ぶのはダンスの練習の為らしい。まあ、それくらいは出来るようにならないとな。
「そうか。で、どうするんだ?」
「とりあえず、あの山に行ってイッセーを呼ぶからついて来い、タンニーンにも説明しとかねぇとな」
すると、アザゼルが何かを持っている。行く前には無かったが……。
「その包みは?」
「一誠のだ」
一誠の? ……ああ、差し入れか、部長たちだろうな。
そして、俺とアザゼルは一誠とタンニーン様の修行場所の山に向かった。
「美味い! 美味しい……!」
一誠は、アザゼルが渡された部長、姫島、アルジェントが作った差し入れのおにぎりを涙を流しながら食べていた。あの包みがやはりそうだったようだ。しかし……
「一誠、そんなにおにぎりで感極まるのか?」
すると、一誠が立ち上がり声を荒げる。行儀悪いぞ?
「あったりまえだ! この数日間俺がどんだけ過酷な思いをしたと思ってんだ!?」
それから一誠は泣きわめくように自分の修行の日々を語った。
内容は省略するが、それが一息つき、食事が終わると一誠が何かを思いだしたかのようにアザゼルに問いかけた。
「そういえば、あの時にヴァーリが何か呪文みたいなものを唱えようとしていたんけど、あれは何だったんですか?」
「あぁ、『
「『
「知らないのか? ドライグ辺りが教えてると思ったが……」
『未だに
「え? もしかして、
「いや、
例をあげるなら『
「で、本来は
アザゼルは真剣かつ憂いを含んだ目で一誠に忠告を出した。その表情に一誠も真剣に頷く。確かに今の一誠には制御は無理だろうしな。
補足すると、残りの神滅具で『
「まあ、
「別のアプローチ?」
すると、一誠が疑問の声をあげる。とりあえず、考えついたのを例にしてアドバイスする。
「例えば、お前は転生悪魔で「
「
「まあ、今はそれよりも……問題は塔城か」
黒歌からの言葉を伝えなきゃなんないしな。黒歌の件に関しては既にアザゼルが部長や塔城本人に話しているがな。
「塔城? 小猫ちゃんがどうかしたのか?」
「アザゼルが与えたトレーニングを過剰に取り組んで……今朝倒れたそうだ」
「ええっ!?」
一誠が驚く。そして、アザゼルが俺に変わって話を続ける。
「怪我はアーシアに治療してもらえるが、体力だけはそうはいかん。特にオーバーワークは確実に筋力などを痛めて逆効果だ。ゲームまでの期間が限られているのだから、それは危険だ」
確かにな。……というか、俺の修行内容は大丈夫なのか? ……教会にいた時もそんな物だったし、普通だよな。
「まあ、それも今日限りになるとは思うがな」
「え? どうしてですか?」
「その小猫が倒れる原因になった悩みが解決したからだ。……ゼノンの奴がな」
アザゼルのこの一言に一誠が俺を見てきたので、説明する。……俺だけで、人を救える力は無いんだよな。残念ながらな。
「……実際はグシャラボラス家の元次期当主の手柄(?)だけどな」
一誠には例の日記を時間の都合上、見せてないので疑問が解けない表情だった。そして、アザゼルが納得してない一誠に声をかける。
……すまん、一誠。後で教えるか教えて貰える用にしとく。
「さて、行くか。イッセーを一度連れ返せと言われたんでな。一度グレモリーの別館に戻るぞ」
「連れ返せ? 誰に言われたんですか? 部長ですか?」
「その母上殿だ。……小猫について聞きたきゃ母上殿にでも聞いておけ」
と、思ったらアザゼルがフォローしてくれた。先程言ったが、ヴェネラナ様もアザゼルから話と例の日記を見聞きしているからな。
そして、俺たち三人は山を後にした……
今更ですが、主人公であるゼノンの顔は広いです。ただ、天使側だったので、悪魔側とは面識は薄いですが……。各神仏の重役との面識も勿論有ります。