リリなの短編倉庫集   作:オウガ・Ω

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守りし者 デルク・シルヴィアーニの一人語り
第一話 加護ーアイー


新暦71年

 

 

 

 

「ねえ、デルク」

 

 

「タカヤ坊ちゃま、どうかなされましたか?」

 

 

「僕の目ってどうして色が違うの?」

 

 

 

ある日の秋月屋敷、その厨房でデルクが幾重にも生地とりんごを重ねたアップルパイを釜へ入れ焼きあがるのを待っていたタカヤの何気ない質問に

 

 

「タカヤ坊ちゃまはメイ様から何も聞いてないのですか?」

 

 

 

「うん、おとうさんも知らないから、デルクならしってるかなって思ったんだ」

 

 

 

「さようでしたか。なら焼きあがるまでの間、タカヤ坊ちゃまの瞳の由来をお話ししましょう」

 

 

椅子を出し座らせると、少し咳払いをしてデルクは語り出した

 

 

★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

深夜、城壁に囲まれた城の近くにある家から火の手が上がる。火の粉が舞い焼け付くような炎が家を包み込んで灰に変えていく中で、二つの影が踊り出すように飛び出した

 

 

一つは巨大な筆を背にし胸元にナニカを抱きしめる煤や焦げた髪を揺らし走る女性、もう一つは山羊にも似た頭に戦利品とでも言うように無数の人骨を王冠のようにかぶり、けたましい声と共に地面を跳ねながら先を行く女性を追いかけていく

 

 

『フェォォ!ニクマリヌヨ!』

 

 

風のように走る女性の胸元が動き出し、小さな手が見える…産着に包まれた生まれて一年も立たない赤ちゃんが無邪気に笑みを向けているのに気づいたのか表情を緩めた

 

 

「キリヒト、少しだけ怖いけどガマンしてね…

 

 

 

「ーーー♪」

 

 

 

無邪気な笑みを見せる赤ん坊に笑みを返す……レア・ガリア・秋月はキリヒトを抱きしめ必死に背後から迫るホラー《カプリコーン》から逃げるべく走り出した

 

 

 

 

特別話 加護 

 

 

 

 

夫であり魔戒騎士《秋月オウガ》はホラー討滅のために友である王達、イクス、オリヴィエ、クラウス、クロゼルク、リッドと共に遠出をしている。母であり魔戒法師である自分とキリヒトしかいない時を狙って上級ホラーカプリコーンが襲撃をかけてきた

 

狙いは間違いなくキリヒト、この世界に生まれた魔戒騎士の血を根絶やしにするためだ…自分たちを追って来た魔戒騎士にすでに十二体が封印されたことがアギュレイスの憎しみと怒りに火を注ぎカプリコーンを現界させたのだ。崩れ落ち燃え上がる家から生まれたばかりのキリヒトを抱き愛用の大魔導筆を背負い身体で守るように駆け出した…

 

 

「大丈夫、お母さんが必ずキリヒトを守ってあげる」

 

 

 

自らを守る力と戦う牙すら無い我が子を必ず守ると強く誓うと森へと逃げ込む…ここには夫であるオウガがリッドと共に建築している屋敷がある

 

そこには常に強力なホラー除けの結界が張られている…そこに逃げれば我が子を、お腹を痛めて産んだ愛する夫と自分の子を守る事ができる

 

 

この子は大きくなれば、誰かを守るために剣を振るう…素直じゃなくて、ぶっきらぼうで、強がりで、誰よりも優しくて、天然で、傷だらけの硝子のように繊細な心、誰よりも他者の痛みと命の尊さを知る私の愛する夫オウガのように

 

 

 

 

 

『フェォォ!ミックリヌシ!スヌアクギヌニチシ!!』

 

 

 

「嫌よ、アナタ達なんかに渡さない………ホラーには絶対に渡すもんですか!」

 

 

 

行く手を遮るようにジャンプしながら口元をゆがめ渡すよう迫るのを目にし片手にキリヒトを抱き、大魔導筆《靈呀(レア)》を構え魔導力を練り上げ波動を放つ…無数の魔導文字が龍へ変わりカプリコーンの身体を激しくぶつかり締め上げていく。

 

 

 

     ー魔導龍縛の陣ー

 

 

 

『ヌ、ヌヒハアア!?』

 

 

「そこで朝までおとなしくしてなさい!!」

 

 

 

そう言い残し、森の奥にある未完成の屋敷へ駆け出すレア…後少しで安全な場所にキリヒトを連れていける。かすかに緊張が緩んだ時、ナニカに吹き飛ばされ地面に叩きつけられるもキリヒトをしっかり守り抱きしめ、少し離れた場所に大魔導筆が落ちた。ナニが起きたと困惑するもレアの目の前に息を荒くし両腕をかざすカプリコーン…術を力づくで破ったのか生臭い血が身体から流れおちている。それによく見ると肘から下が無い。いや空間の切れ目が見える

 

 

「まさか、空間を操るホラー………ノゴ…」

 

 

「ーーーーーーーー!」

 

 

大魔導筆を手にしようと発した言霊がキリヒトの泣き声に消された…胸元には烈火のように泣き出す我が子の首にカプリコーンの手が空間を超えて現れようとしている…咄嗟に界符《弾》を取り出し貼りつけた瞬間、空間の向こうに消え閉じた

 

 

『ヌシ、マチリチシヌクヲワチシ!』

 

 

 

空間を操るホラー《カプリコーン》、先ほどと同じような攻撃ができ、最悪自身をも転移する事が出来る能力は強固な結界をも通り抜けるとキリクと夫オウガから鍛錬をしながら聞いたことを思い出した…屋敷に逃げたとしてもキリヒトが狙われる、ならどうすればと考えた時、あることが閃く…大魔導筆を手元に呼び構え胸元で泣きじゃくるキリヒトを慈しみと強い決意を秘めた瞳で見ながら魔導力を今まで以上に練り上げていく。その動きはまるで水鳥のように可憐、流れるような動きと共に魔導力が光となりレアから溢れ出す

 

 

『ニ、ニム!?』

 

 

まばゆい輝きに怯むも、先ほどと同じようにナニもない空間へ手を差し込む向かう先には忌々しい魔戒騎士の血を持つ人間の赤子、そのか細い首をへし折り絶やしてやると伸ばした…がナニカに阻まれる。何度も繰り返すも結果は同じ。空間を操る力が通用しない

 

 

眩い光の中、レアがひざをついた…息も荒く顔色が悪い…激しく泣いていたキリヒトがジッとみている。それに気づいたのか柔らかな笑みを浮かべた

 

 

「大丈夫………必ず守ってあげる………オウガが来るまで…」

 

 

優しく話しかけるとレアは旧魔界語の歌を口にする。空間転移攻撃を封じられたカプリコーンは能力を封じた魔戒法師レアを力一杯殴りつけた、なんども宙を舞うもキリヒトには衝撃は伝わらない…しかしレアは額から血を流し、激しい痛みが襲いかかる。途絶えそうになる意識をつなぎ止め殴られ蹴られながらも必死に魔導力を維持し続けた…………やがて空が白みかけ、カプリコーンは焦り出した…ホラーは夜にしか力を振るえない…さらに力を込め殴る。すべては王であるアギュレイスの為。すでにひざをつき祈るようにへたり込むレアから魔導力から生まれた光が薄れ始めた

 

 

『フゥオオオオ!!』

 

勝利を確信したのか今まで以上に力を込め握りしめた拳がレアの頭をとらえ迫ろうとした。意識が朦朧としながらキリヒトを守るレアの耳に狼のうなり声、地獄の底から響く蹄音が届いた

 

 

『………………ウオオオオオオ!!』

 

 

『ヌル!マチリシチヌツ!?』

 

 

血で赤く染まった瞳にうつりこんだのは鋼色の牙を剥き出しにした狼の鎧を纏い魔導馬にまたがり巨大な斧でカプリコーンを吹き飛ばし、魔導馬の背を蹴り頭から下へと真っ二つに斬り捨てた…来てくれたと思った瞬間、全身から力が抜け魔導力が消えていく

 

 

 

 

「………レア!!」

 

 

「姉様!」

 

 

「クラウス!早く医者を……」

 

 

「しっかりしてくださいレア様!」

 

 

鎧を返還し駆け寄るのはレアの夫秋月オウガ、そして友クラウスと呼ばれた青年、甲冑姿の女性、黒い服に身を包んだ青年?がそばへ来たのを見て笑みを浮かべた…最後の力を振り絞り腕に抱いた我が子キリヒトを見せた…穏やかな寝顔に皆、安心した

 

 

 

「オウガ…クラウス、リッド、ヴィヴィ…」

 

 

「なんだ、今はしゃべるな…」

 

 

「………キリヒトをお願いね…この子はアナタと私の大事な子………いつか…あなたみたいに…立派な魔戒…騎士に」

 

 

「ああ、わかった……だからもう……もう………」

 

 

 

「キリヒト…………ノマエハワチシヌニイスルクドム、ガルチョルブ、ナハガノマエヲマモッチアグル…」

 

 

「レア………!!」

 

 

力なく頭を垂れた妻をだき声をあげるオウガ…その声はまるで狼のようにも聞こえた。クラウス、リッド、ヴィヴィも涙を流し膝をついた時、亡き母の腕で眠っていたキリヒトが起きゆっくりと目をあけたのをみた全員は息をのんだ

 

 

キリヒトの瞳が黒から母レアと同じ虹彩異色の瞳に変わっていたことを

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「レア様の加護の証として虹彩異色の瞳が現れるようになられたのです。それは歴代継承者の方々すべてに現れているわけでは無いですが…」

 

 

「そうなんだ…デルクは何でも知ってるんだね」

 

 

「いえ、コレはオウガ様からじかに…ごほん、文献と伝承をみたものですから、さあアップルパイが焼き上がりました、どうぞタカヤ坊ちゃま」

 

 

「うん!いただきま~す」

 

 

 

可愛らしく首を傾げるタカヤの目…深い紫と朱の虹彩異色の瞳を見ながら、アキツキ家令デルク・シルヴァーニは搾りたてのオレンジジュースグラスにそそぎ入れ、アップルパイを切り分けタカヤの前におく。目をぱああっと輝かせ夢中になって食べていく姿に笑みがこぼれた

 

 

 


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