インフィニット・ストラトス 虹の彼方は無限の成層圏(一時凍結)   作:タオモン3

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二話目になります。
変なところがあればご指摘ください。。
それではどうぞ。


第二話  星空の夜に

一夏サイド

 

深夜。わたしはいつもの様に、星を眺めに外に出ていた。

季節は冬。コートや手袋、ニット帽をしているが、正直に言って寒い。それにわたしが星を見ている場所は小高い山の上。今日は月が綺麗に出ているから比較的明るい。それでも森の小道は木々に月明かりを遮られて、薄暗い。

それにちょっと怖い。

ならなんで来たのか?

星が好きだからとしかいえない。

森を抜けると、小さな丘に出た。

わたしは手を空に伸ばした。

届きそうなのに届かない。掴めそうなのに掴めない。

すぐに往けそうなのに、あの場所に往けない。

 

「……………」

 

虚しいだけのこの行為を、わたしは小さいころから何度もしていた。

いつかあの、光り輝く星の海に往きたい。

純粋にそう願っていた。

 

「ここに居たのですね、一夏様」

 

静かな空間に澄んだ声が響いた。

後ろを振り向くと、同じようなコートを着た銀髪の少女が立っていた。冷たい夜風でセミロングの銀髪が月明かりを反射して、キラキラとゆらめいた。

その人は家族のクロエさんだった

 

「……なに?」

 

わたしはクロエさんに素っ気なく言った。

 

「束様がどちらに行かれたか、心配しておりましたからお迎えに上りました」

「……分かった。いつもごめんなさい、クロエさん」

 

クロエさんは「いいのです」と小さく微笑んだ。

いつものことだけど、束さんは少し心配性だ。

わたしだって、もう15になるのに……やっぱり、あのことが原因なんだよね。

 

「さぁ、体を冷やさない内に帰りましょう」

「うん、そうだね…………っ!」

 

不意に頭の中を何かが過った。

この感じは……なに?

 

「一夏様?」

 

森の中に……誰かが居る?

わたしは走り出した。なぜかはわからないけど、この先になにかがあると思うから。

 

「一夏様?どこに行くんですか?!」

 

慌てた声を上げるクロエさんを置いて、薄暗い森の中を夢中で走った。

走って、走って、息が苦しくなるのを忘れて走っていった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

大粒の汗をかきながら走っていると、開けた空間に出た。

そして、驚いた。

 

「なに……あれ……」

 

全長が20メートルはありそうな、巨大なロボットが2体、倒れていた。

わたしは初め束さんの新しい発明か何かなのだと思ったけど、違うのだとわかった。

これは……ISとも違う何かだ。

 

「一夏様……いったいどうしたのですか?なんです……あれは?」

 

追いかけてきたクロエさんも巨大なロボットが目に入って、唖然とした。

わたしはロボットに近づいた。

 

「近づいては危険です!!」

 

「……大丈夫……アレからは危険な感じはしない」

「ですが……」

 

そうわかっていても、わたしとクロエさんは恐る恐るとロボットの足元まで来た。

白と薄紫のラインが入ったロボットと、黒と濃い赤のロボットは両方とも、動く気配はなかった。

まるで長い年月を掛けてゆっくりと朽ちていった車の様に、塗装が剥げ、装甲の至る所がボロボロだった。

なんでこんな状態なんだろう?

わたしが考えていると、突然白いロボットの胸の部分が動いた。

扉の様に開いた中から、青い宇宙服のようなものを着た人が出てきた。

 

「一夏様!」

 

クロエさんがわたしを守るように前に出た。

なぜだろう。

この人から不思議な感じがする。

 

 

ユウキサイド

 

 

気が付けば、コクピットに座っていた。

中が真っ暗なのは機体が停止したのだろうか。

それよりもここは何処だろう?

朦朧とする意識の中で、僕は体が重いことに気が付いた。

重力がある。

ここは宇宙じゃないの?

外に出ようとしたら右側に体が落ちた。

機体が横たわっている。

体が思うように動かないが、なんとかハッチを開ける事が出来た。

外に出ると、空の月明かりが綺麗だった。

ここは地球なの?

 

「一夏様!」

 

突然声が響いた。

振り向くと、白銀の髪の少女と、その後ろに黒髪の、前の子より少し小さな少女がいた。

銀髪の子は後ろの子を守るように構えている。

僕はヘルメットを脱いだ。

肌を差すように寒い。

澄んだ空気が辺りを静寂にしていた。

 

「君たちは……」

 

瞬間、体から力が抜け、崩れるように膝をついた。

いきなりの疲労感に、なにがなんだかわからない。

 

「大丈夫?」

 

顔を上げると、後ろに控えていた女の子が顔を出していた。

僕は座り込んで「大丈夫」と言った。

 

「きみ、ここは何処?」

「ここ?日本の山奥……」

「ニホン?」

 

確か東アジアの島国だっけ。

何でそんなところに居るんだろう?

そう逡巡したが、同じように横たわる兄さんの機体が目に入って、考えるのをやめて立ち上がろうとした。

が、足に力が入らない。

 

「悪いけど……僕をあっちの機体に連れて行ってくれない?」

「「………………」」

 

明らかに警戒されている。とくに銀髪の子に。

しまったな、と思っていると後ろの子が前に出てきた。

僕の横まで来ると手を差し出した。

 

「クロエさんも手伝って」

「一夏様……しかし…」

「大丈夫、この人から悪意は感じないから」

「……分かりました」

 

黒髪の子に促されて、銀髪の子も手を貸してくれて、なんとか立ち上がる事が出来た。

その時、黒髪の子から不思議な気配を感じた。

 

「……きみ名前は?」

「一夏。こっちの人は」

「クロエです」

「僕はユウキ。ユウキ・キサラギ。ありがとう、クロエちゃんに一夏ちゃん」

 

ふたりに支えられながら、兄さんの機体まで来れた。

胸部にあるコックピット外部開閉レバーを引いて中に入ると、ワインレッドのノーマルスーツを着た兄さんが、僕と同じようにシートに座っていた。

 

「兄さん!」

 

三人で外に担ぎ出した。

ヘルメットを脱がすと息はしていた。

気のせいか、若干若返って見えた。

 

「よかった。生きている……」

 

安堵したが、ここは野外。それに気温も低い。

兄さんを何処か、安全な所で休ませないといけない。そう考えているとていると一夏ちゃんが、

 

「その人……家で休ませる?」

 

と言ってきた。

 

「いいの?」

「たぶん。それにその人、ユウキさんの家族でしょ?」

「そうだよ」

「なら、助けたい。わたしはそう思う」

 

一夏ちゃんの一言は何から何までありがたい。

けど、どうやって兄さんを運ぼうか。

周りは森。さっき一夏ちゃんは山奥と言った。

僕はこんな状態だし、女の子二人に担がせるわけには……

 

「クロエさんもそれでいい?」

「……わかりました。確かに危険はないようですし、ケガ人を放っておくほど私も鬼ではありません。一夏様に従います」

「うん、ありがとう」

「では、一夏様はユウキ様を。私はこちらの方を」

 

そう言うとクロエちゃんは、体重70キロはある兄さんをひょいと背に乗せてしまった。そして何事もなく歩き出す。

え?きみ本当に女の子?

 

「それでは行きます。ついてきてください」

「あ、うん。わかった」

 

一夏ちゃんに手を持ってもらい立ち上がり、先導してくれるクロエちゃんの後ろをついていった。

 

 

クロエサイド

 

わたしはクロエ。性はありません。

この名前もわたしの恩人である、束様から頂いたものです。

それまでは番号で呼ばれていました。

今日も一夏様は星を見にラボの外に行かれ、わたしは束様から迎えに行くよう言われました。

ラボの裏にある小高い山の上にある丘は、一夏様のお気に入りの場所です。徒歩で二十分ほどかかりますが、わたしは駆けていくので十分で行けます。動きにくいコートを着ていますが、問題などありません。

そう訓練されてきました。

だから、人を一人背負って山を下りるくらいはできます。

この人は大体、70キロ前後ですかね。これくらいなら、ラボまでの道のりは余裕です。

 

「みんな…………」

 

歩いていると背の人が呟きました。

しかし、それは誰かに謝る様な呻き声でした。

 

「ごめん……ごめんね………」

「……………」

 

一筋の雫が彼の頬を伝っていった。

この人は多くの人の死を背負っている。

わたしが想像したこともない、恐ろしい光景を見てきたのだと感じずにはいられませんでした。

根拠はありませんが、そう思ってしまいました。

 

「………俺は…………みんなを………」

 

不思議でした。

魘されているのに、この人から温かい何かを感じました。

安心してしまう何かを………優しい何かを……。

 

「……なんだろう……これ………」

 

そう考えていると、いつの間にかラボの入り口が見えてきました。

 


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