インフィニット・ストラトス 虹の彼方は無限の成層圏(一時凍結)   作:タオモン3

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なんとか書き上げた。
十一話目です




第十一話  試験一戦目 ユウヤVSガトー

ユウキサイド

 

ガトー先生に案内され、入室した部屋は更衣室だった。数十のロッカーがびっしりと並び、ベンチがあり、観戦用のモニターまで備わっている。

 

「ますはISスーツに着替え、隣のピットに往くぞ」

「了解」

「わかりました」

 

目に付いたロッカーを開ける。

着替えるといっても部屋の方で既に着てきているから、後は服を脱ぎさるだけ。

さっとTシャツとジーンズを脱ぎ、ロッカーの中に押しやる。

僕のISスーツは着用していたノーマルスーツの色にあやかった青色にした。

兄さんは僕とガトー先生の反対側、一列向かい側のロッカーにした。

多分気を使ったんだと思う……僕の隣の人に。

 

「…………」

 

ロッカーにあるハンガーに黒のジャケットを掛け、ブラウスのボタンを外すと胸が露わになる。

 

「ん? どうしたのだユウキ少尉?」

「いえ、別に。あと、もう少尉じゃないです」

 

怪訝そうにガトー先生は訊いてきたが、素っ気なく返した。

僕の視線は胸の二つの大きなものに喰いついている。

 

「そうか。なら……ユウキと呼んでいいか?」

「どうぞ」

 

やっぱり素っ気なく返す。視線はそのまま。

別に羨ましいわけではない。そう、断じて羨ましいわけではないんだ。

 

「しかし、いつも思うのだがこのスーツは少しばかり窮屈に感じるな」

 

ブチッ。

ISスーツを着込むときにガトー先生が何気なく発したそれで、僕の中の何かが切れた。

 

「特に――」

「胸ですか? 胸ですよね? おっぱいですよね!」

「う、うむ。そうだが……」

 

うがぁああああっ!! むかつくっ!! 腹立つっ!! そして何より羨ましいっ!! どうせ動き辛いというんでしょ!! こんなものない方がいいって言うんでしょ!! なにより許せないのが、知っている人が生まれ変わって自分より胸大きくなっていることの理不尽なことにだよ!!

 

「あ……あははは……こんな事実……僕は認めない」

「わ、わたしはISの準備あるので先に行っているぞ」

 

遠い目をしているとガトー先生は着替え終え、逃げるように更衣室からピットの方に行ってしまった。

 

「フフフ……」

「ユ、ユウキ? どうしたんだ?」

 

着替え終えた兄さんは顔を青くしている。

 

「ナンデモナイ。ウン、ナンデモナイヨ」

「お、おう。じゃ先にいくな」

 

兄さんはやや引きながら、逃げるようにピットに向かった。

オカシイナ、ボクハイツモドウリナノニナ。

 

 

ユウヤサイド

 

 

更衣室からピットに逃げる。いまのユウキはヤバい。

本能的に危機を感じるほどのどす黒い何かを纏っていた。

あの状態のアイツには手を出さない方がいい。

昔からの教訓だ。

切れたユウキに近づくな、だ。

 

「来たか」

「いや、まだユウキが……」

「……そうだな」

 

ガトーは察したように頷く。数分してユウキがピットに入って来た。

 

「ごめんなさい。遅くなりました」

 

普段道理になっているユウキを見て二人して安堵の息を漏らす。

 

「では、試験を始める。どちらが先に行う?」

「なら俺からやろう」

「いいだろう。ユウキ、君は更衣室に待機してくれ。モニターで観戦ができるぞ」

「お構いなく、ここで待っています。すぐに終わると思うんで」

 

ユウキの自信を含んだ言いように、ほうっとガトーは不敵に微笑した。

 

「それならいいだろう。しかし、一つだけ言っておく。ISとMSでは違うということをわたしが教授しよう」

 

ガトーは踵を返すと、用意していた二機のISに向かった。

機種はIS委員会も扱っていた《ラファール・リヴァイヴ》と《打鉄》だ。

この学園でも扱うということは汎用性と操作性に優れたISなのだろう。

ガトーは展開待機状態の《打鉄》に乗り込んだ。

その姿は、古い歴史書に載っていたサムライを沸騰させる。

 

「さあ、ユウヤ。君のISを出したまえ」

「ああ」

 

促されるまでもない。俺は《ネオサイコ・ドーガ》を起動。

光が全身を包み、ワインレッドの全身装甲を展開する。

 

「なんと神々しいIS……すばらしい」

 

そういうと思ったよ。

 

「まあな。開発者はユウキと束だからな」

「なるほど。天災と君の妹の合作。俄然楽しみだ」

 

さらに深く笑むとガトーは《打鉄》をカタパルトシャフトに乗せ、固定する。

呼応するようにピットゲートが開かれた。

 

「先に行っているぞ」

 

カタパルトシャフトが高速で流れ《打鉄》をアリーナへ射出した。俺も同じくカタパルトに乗せようとしたが、足がデカすぎって乗せられない。

 

「ゼータならここのカタパルトは使えそうだけど、《ネオサイコ・ドーガ》はデカいから無理だね」

 

ユウキは苦笑する。

まあ、確かに重ISって言う部類だろうな。あるか分からんが。

仕方なく《ネオサイコ・ドーガ》を浮遊させる。

 

「じゃあ、行ってくる」

「うん、がんばって兄さん」

 

手を軽く上げ、バインダー内部のスラスターを噴かし、アリーナに飛び込んだ。アリーナ内部は縦横ともに広い。ISでなく、MSでもここなら限定的だが模擬戦をする事が出来るな。

ガトーの《打鉄》はアリーナの中心あたりで滞空している。

《ネオサイコ・ドーガ》をガトーと十メートルくらいまで近づかせた。

 

「只今から実機試験を開始します。両名、準備はよろしいですか?」

「…………」

「…………」

 

アリーナ内部のスピーカーから山田先生の声が響き、俺とガトーは無言で答えた。

お互いに臨戦態勢に入っているのだ。

 

「では、模擬戦開始です!」

 

ビーッ!!

 

ブザーと同時に俺はメガ・ビームライフルとシールドを展開。

後方に移動しながら照準をガトーに定めトリガーを絞る。

十数メートルからの近距離射撃をガトーは最小限の身の動きで躱した。

さすがに当たってはくれないか。

 

「アナベル・ガトー――参る!!」

 

ガトーは近接ブレード展開し《打鉄》が驚異的な速度で猛進してくる。

その速度はIS委員会の奴らより数段速い。 

 

「くっそ!!」

 

二発目を放つが、やはり最小限の機動で躱される。

加え、射線を外すように小刻みに動きながら距離を詰めてくる為、オートの照準が合わせる事が出来ない。ハイ・ビームライフルは遠距離の武装だ。一発の威力と引き換えに次発までのタイムラグが長くエネルギー消費も激しい。俺はガトーとの一定の距離を保ちつつ、ハイ・ビームライフルを牽制し続ける。

 

「甘いっ! その程度の射撃でわたしを止められると思うな!!」

 

なおも速度を緩めないガトーに心臓の鼓動は速く、ひしひしとしたプレッシャーが息苦しさを促す。その時《ネオサイコ・ドーガ》がアリーナのシールド接近警報を発する。

 

「ッ!!」

 

アリーナのシールドすれすれをなぞるように飛行する。

刹那、バインダー上のファネルポットから二機のファンネルが飛び出した。

サイコミュが危機感を察知してファンネルをガトー目がけて突貫させたのだ。

 

「なにっ?! 無線誘導兵器か!」

 

ファンネルのビーム射撃にガトーは回避機動をする。

機動力の乏しい《打鉄》で最小の動きでビームを躱し、肩部のシールドで防ぐ。

ハイ・ビームライフルでファンネルのビームを躱したところを狙撃する。回避行動を終えた直後は避けることは不可能のはずだ。

バンッ!!

命中する寸前、爆発的な音と共にガトーの《打鉄》は弾かれるように後方に加速、ビームはガトーの眼前を通り過ぎた。

なんだいまのは?!

 

「ちぃ!」

 

ファンネルをさらに二機を飛ばすが、ガトーの接近を抑制させるので精一杯だ。

 

「行くぞユウヤッ!!」

 

ガトーはアリーナいっぱいに高度を上げ、急降下する。

バンッ! 

再び爆発音が轟き、《打鉄》が加速する。

追従するファンネルを振り切り、一直線に向かってくる。

 

「うぉぉおおおおっ!」

 

保持しているブレードを振りかぶる。俺はシールドを掲げ身構える。

 

「ぐっ!!」

 

甲高い金属音が鼓膜に突き刺さる。

打ちつけられた衝撃が凄まじく左手を押し込まれそうになる。

なんて重い一撃だ!

 

「なんという強度! 傷も付かぬか?!」

 

速度とISのパワーを利かせた一撃は重いがシールドの装甲を破損させるまでにはいたらない。流石のガトーも驚きを隠せないようだ。

 

「ぬう!」

 

楯越しにハイ・ビームライフの銃口をガトーに向ける。

この距離なら避けるすべはない。

 

「堕ちろ!」

 

銃口に収縮される光。ガトーは《打鉄》の左肩のシールドを銃口に押し当てた。

 

「なっ?!」

 

ビームはシールドを貫通するが、ガトーを捉えず通過した。

シールドを目隠しに使いビームが貫く瞬間、シールドでハイ・ビームライフルの銃口を僅かに逸らし、身体を後ろに傾け避けきったのだ。

そして流れるかのような動きで右回転。ブレードの切り上げがハイ・ビームライフルを手から弾き飛ばした。

ビーム・アックスを掴もうとするが、強烈な蹴りがシールドの上から叩きこまれ、吹き飛ばされる。機体のダメージはないが衝撃が体を軋ませる。

くっそ……ここまで肉体にくるのか。

 

「はぁあああっ!!」

 

体勢を立て直す間もなくガトーの刃はすぐそこまで迫る。

 

「うぉあああっ!」

 

叫びシールドから素早くビーム・アックスを振り抜いた。交差したブレードは熱で赤化していき、数秒足らずで断ち切れた。

 

「ブレードが?!」

 

返すビーム・アックスの斬撃を見切り難なく後退する。

 

「はぁ……はぁ……」

 

息が荒く自分から踏み込む事を体が拒む。

ガトーの言ったMSとISの違い。それは生身の肉体を使った戦いだ。

操作一つでMSは腕、足を動かすが、ISその動作は自身の肉体。

つまり、MS以上に体の疲労がくる。

 

「どうした? もう終わりかユウヤ?」

 

悠然と空中に佇む姿が目に映る。

あれだけの機動と戦闘をしているのにガトーは汗一つ掻かず、新たなブレードを呼び出し、右手に持つ。

 

「まだだ!」

 

ビーム・アックスを左右の手に持ち、シールドを捨てスラスターを全開で突貫する。

滞空しているファンネル四機に加え、残りの六機を含む全機をガトーに突っ込ませる。

 

「意気込はよし! ならこちらも全力を持っていく!」

 

さらにブレードを一本呼び出し、先行したファンネル十機の放火を絶妙な機体操作と爆発的な加速で回避しながらガトーも距離を詰めてくる。

相対距離は徐々に縮まり、

 

「うぉおおおお!」

「はぁああああ!」

 

ぶつかる寸前にお互いの得物を振るう。

《打鉄》のブレードは実体剣。ビーム・アックスの出力なら易々と溶断できる。そのことをアイツは分かった上で正面から来るのか?

 

「っ!?」

 

ビーム・アックスと《打鉄》のブレードが交差するが溶断されない。《打鉄》のブレードは振り下された左右のビーム・アックスの柄の部分で交差している。高速機動でこんな芸当をやってのけるのかよ?!

 

「まだぁああ!」

 

鍔迫り合いの中、腰部にある隠し腕を起動。スカートアーマー内に収納してあるビーム・サーベルを握り、ガトーの懐を薙ぎ払う。

 

「なに?!」

 

ビーム・サーベルは《打鉄》の腰部の装甲を破壊した。

ガトーの顔は苦悶に歪み、受け止める力が緩んだ。ここで一気に押し込む!

 

「うぉおおおおっ!!」

「くぅううううっ!」

 

隠し腕のビーム・サーベルを返すように振るうが、左足の蹴りを当て防ぎ、上体を後ろに捻ることでビーム・アックスをいなし、《ネオサイコ・ドーガ》の肩部を蹴り飛び引いた。

 

「不覚……そのような機能が内蔵されているとは」

「……はぁ……だろ」

 

お互いに距離を置く。ビーム・サーベルの斬撃を受け、シールドエネルギーは減少しているはずなのに追い込まれているのはこっちだと錯覚してしまう。滞空中のファンネルは内蔵エネルギーが無いことを知らせる表示がバイザーに出ている。ファンネルを呼び戻してバインダー上のファンネルポッドに回収する。

 

「しかし、無線誘導兵器をあれほどまでに操れるとは感服した」

「その割には易々と躱していたように見えたが……」

「ふふ、入学試験で似たような者を相手にしたのでな。彼女と似た機体性であったためにできた戦術だ。無線誘導兵器の操作技量も君の方が数段上だよ」

 

そう評価してくれるのはいいが、正直自信を無くすぞ。

 

「どうする? まだ続けられるのかユウヤ?」

「当然っ!」

 

ガトーの問いに答え、ビーム・アックスの柄どうしを連結。ナギナタを形成する。

 

「勝負はここからだろ? ガトーッ!」

 

ビーム刃を発生して突っ込む。近接格闘戦ではガトーが有利だろう。

だが、《ネオサイコ・ドーガ》のガンダ二ウム装甲の防御力という最大のアドバンテージがこちらにはある。

守りを捨て、攻勢に転じるしかない。

 

「……ッ!」

 

攻めに攻め、徐々にガトーを押しはじめるが決定打を与えることができない。すべてを見切るように紙一重で光刃を避ける。

その都度ブレードでのカウンターを受けるが、ISにダメージはない。

だが、なんだこの胸を過る不穏な感じは? 

 

「なるほど、確かに強固ではあるが……」

 

ガギィィンッ!

ブレードの振り下ろしが右肩の装甲を捉えた。

 

「っがぁ?!」

 

刹那、鋭い痛みが右肩を電撃のように貫いた。

 

(右肩関節部被弾、シールドバリアー部分展開? シールドエネルギー減少?!)

 

バイザーに表示されることに戦慄する。

 

「やはり関節は他より強度は低いようだな」

 

ガトーの顔がほころぶ。数十にわたるガトーの剣戟は《ネオサイコ・ドーガ》の絶対的なアドバンテージをやすやす看破して見せた。

本当に俺の知るガトーなのか……いまの彼女は前世のアイツを人間として上回っている。

 

「ではいくぞっ!」

 

ガトーが来る。《打鉄》のスラスターを全開にし両手にブレードを携え。振るわれるブレードは的確に関節部を狙う。

バイザーに被弾箇所を知らせるアラート、シールドエネルギー減少の表示が鳴り響き続ける。

 

「……ッ!」

 

斬撃を絶え間なく打ち込まれ被弾しながら後退することしかできない。

 

「ファンネルッ!」

 

ファンネルのエネルギー補充完了数は四機。ファンネルポットから四機全てを射出する。

少しでも機動の妨害と攻撃の隙を作らないとジリジリとシールドエネルギーを削られる。

 

「その兵器は見切っているぞっ!!」

 

ファンネルが四方からビームを浴びせるが、《打鉄》を捉えることはできない。

嘘だろ?!ファンネルの軌道を読まれている?!

 

「はっ!」

 

僅かな動揺がファンネルの機動を鈍らせ、一つがブレードに切り伏せられ四散した。

容量を得たのかガトーは二つ、三つ、四つとファンネルを次々に切り裂いた。

 

「…………」

 

驚愕を飛び越え唖然とする。これがガトーの実力……

 

「……っ! しまっ」

「遅いっ!」

 

その僅かな静止は戦闘での死を意味する。

疾風の如く迫りきたガトーは二本のブレードを振り上げ、バイザーの上から叩き落された。

鈍器で叩かれたような重い剣戟に耐えることができず真下に墜ち、地面に激突した。

 

「……あ……っく」

「どうだ……これがIS戦だ」

 

ISの補助システムで意識は失っていないが体は重たい。数メートル先に降り立ったガトーは見下ろしている。

 

「ここまでだなユウヤ。君の負けだ」

「…………っ」

 

唇を噛み締めた。

侮っていた。IS委員会との戦闘で容量を得た俺は年甲斐もなく慢心していた。

《ネオサイコ・ドーガ》なら勝てる。戦争をしたことのない連中に負けるはずがないと。

相手はアナベル・ガトー。宇宙世紀の戦乱を駆けた抜けたやつを相手なのに侮って勝てるようなレベルか? 初めからなぜ全力でいかなかった? 俺は……バカやろうだ。

 

「もうよせ。いまの君ではわたしは倒せん」

 

立ち上がりビーム・ナギナタを構える俺にガトーは諭す。

 

「忘れたのか? 俺は負けず嫌いなんだよっ!」

 

突っ込んだ。全力の一撃をぶつけるようにビームナギナタを振りかぶる。

 

「ならば……」

 

ガトーは左右のブレードを地面に突き刺した。振り下ろされるビーム・ナギナタを紙一重に避けると伸びきった右手を掴み引き、背をその中に入れた。そして俺は空を仰いでいた。

 

「……っあ」

 

ふわりとした浮遊感の後に背中が受けた衝撃で投げ飛ばされたのだと気付く。流れるよな体の動きをISで実践できる技量に感服してしまう。

 

「これならば認めるか?」

 

ガトーはビーム・ナギナタを持つ右手を踏みつけ剣先を向ける。仰向けのままではファンネルは出せない。ここまでだ。

 

「……俺の負けだ」

 

俺は絞り出すように言った。決着を告げるブザーがアリーナに響いた。

 

 

 

 

 

 




いかがでしょうか? ガトー少佐はニュータイプに匹敵する実力をお持ちだと自分は思っています。キマイラ隊みたいなカウンターニュータイプ組だと。
あとISがチートであって、人間は普通ですけどそれでも一方的すぎますかね?

感想、ご指摘、誤字脱字報告お待ちしております。

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