やはり俺の日常はまちがっている。   作:黒甜郷裡

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その8 戸塚彩加

 

家を出てから十数分が経過した。俺は相変わらず戸塚と手を繋ぎながら歩いている。緊張して手汗がすごいことになるかと思いきや、女の子と触れ合うこと(強制)があまりに多かった俺はそのような事態に陥ることはなかった。…多分。きっと大丈夫だと思う。

 

そのまましばらく歩くとある家の前で戸塚が止まった。どうやら家に着いたようだ。何だかここに着くまでやたらと曲がったり明らかに遠回りをしていたような気がする。戸塚は意外と方向音痴なのかな?なにそれかわいい。

 

「着いたよ、八幡。ここがぼくのお家だよ。」

 

戸塚の家は黒い屋根で白の壁にグレーのレンガを組み合わせた洋風のオシャレなもので、ザ二階建てという感じだった。俺も戸塚とこんな家に住んでみたい。

 

「ちょっと待っててね。今鍵を開けるから。」

 

そう言うと戸塚は鍵を取り出し扉を開く。そういえば田舎の方だとわざわざ鍵をかけたりしないんだよな。長崎の離島には鍵かけてても家に入り込んでくる小学生や中学生がいても問題にならないぐらいだからな。なんならそれが普通なまである。田舎すごい。

 

「ほら、八幡。どうぞお入りください。」

 

冗談めかして俺を促す戸塚。敬語の戸塚もいいな…。メイドさんとして雇いたいくらいだ。

…そうか。その手があったか。そしたら毎日戸塚と一緒にいられるしメイド姿の戸塚も見られるし動かなくてもいいし。おいおい一石何鳥だよそれ。

 

「お邪魔します。」

 

そんなことはさておき家に入る。

久しぶりに言ったなこの言葉。最後に言ったのは一体いつだったか…。思い返してみると………2週間ほど前に断りきれず由比ヶ浜の家に行った時以来か。なんだよ、割と最近じゃねえか。

 

「ただいま。」

 

戸塚がそう言っても家の中からは応答がない。おいおいあの戸塚がただいまって言ってんだから返事しろよ両親。あ、両親も戸塚だな。つっても戸塚は両親に愛されてるみたいだし無視をしている訳ではないだろう。考えられるのは気づいていないのか、或いは…。

 

「なあ、戸塚。もしかして今両親って…。」

 

「うん。いないよ。実はお父さんもお母さんも急な用事ができちゃって。それでお泊まりするつもりの旅行が急遽日帰りになっちゃったんだ。だから…今日は八幡と2人っきりだね…。」

 

なに⁉︎

戸塚と2人っきりだと⁉︎

いや今までも2人っきりだっただろとか思うかもしれないがちょっと待って欲しい。室内と屋外じゃ全然気持ちの持ちようが違うだろ?密室で2人っきりって表現するだけでなんかエロく感じるのと同じだ。

 

「そうだな。彩加と2人っきりだな。」

 

さり気なく名前で呼んでみる。調子乗んなって?千葉なんだから調子に乗ったっていいだろ。実際には調子の方が乗っちゃってるけど。

 

「…嬉しい。また名前で呼んでくれたね、八幡。」

 

そう言って顔を綻ばせる戸塚。

おいおいなんだよ、まるで付き合いたての恋人同士みたいなやりとりじゃねえか。俺は誰かと付き合ったこととかないからよく分からないけどな。

 

「じゃあお部屋に案内するね。こっちだよ、八幡。」

 

そう言うと戸塚は階段を上って二階に上がって行く。階段を上り終えるとふた部屋あるうち右の部屋の前に歩いていきその扉を開ける。

 

「ほら、八幡。ここがぼくのお部屋だよ。」

 

戸塚の部屋は可愛らしいカラフルな家具で彩られていた。そこらの女子なんかよりよっぽど可愛い部屋なんじゃないだろうか。少なくとも雪ノ下なんかよりは絶対可愛い部屋だ。名は体を表すというが部屋まで表すこともあるんだな。

 

「八幡…。あんまりじろじろ見られると…、ぼくも恥ずかしいよ…。」

 

どうやら自分でも気づかないぐらいがっつり見ていたようだ。戸塚の部屋ならしょうがないよね。なんかいい匂いもするし。

 

「お、おう。すまん。」

 

「もう……。いくら八幡だからって恥ずかしいんだからね…。」

 

恥ずかしがってる戸塚もかわいいです。八幡的に超グッときます。ほんと戸塚は俺のオアシスだぜ……。

そうだ、戸塚にならあいつらの事を相談できるんじゃないか?

だが、天使をこんなことに巻き込んでいいのだろうか。

 

「じゃあぼく飲み物とか持ってくるから適当に座ってて。…勝手にクローゼットとか開けないでよ?」

 

俺が相談しようか迷っていると戸塚はジト目でそう言った後部屋から出ていった。可愛い子のジト目っていいよな。

 

 

 

戸塚の部屋に1人。初めての体験に俺はいつになく落ち着きがない。ガハマさんもびっくりなぐらいキョロキョロしてる。なんならそのうちクエクエ鳴きだしちゃうまである。

身の置き場の無い俺はそのまましばらくクエクエし、違う。キョロキョロしていると机の上のパソコンの電源が付けっ放しになっていることに気づく。ヘッドホンも繋ぎっぱなしだ。

マウスを動かすとモニターが明るくなり画面が表示された。どうやら何か音楽のアプリケーションが開いてあるようだ。

戸塚は普段どんな音楽を聴いているんだろう、好奇心からヘッドホンをつけ、表示されている3つの曲のうち適当に2Lというものをクリックする。…が、音楽は一向に流れてこない。パソコンには2L再生中という表示が出ているにもかかわらずだ。

 

「あれ?」

 

不思議に思い今度は1Rというとこをクリックしてみる。っていうかさっきから曲名が意味不明なんだが。目の前には三曲の意味不明な楽曲‼︎ちなみにもう一つのタイトルは3Bだ。金八先生かよ。一八先生はそろそろ怒られるぞ。

 

「…ちゃ…の……ド。……ち…きに……ント…いよ…。」

 

なんだ……?…喋り声か?それにしてもどっかで聞いたことあるような…。何にせよ音が小さくてよく聞こえないな。

そう思いボリュームを上げていくと

 

「はあ…はあ…。お兄ちゃんの制服…。小町の匂いが染み込んだ制服を着てお兄ちゃんが学校に…これはもうお兄ちゃんと一つになってると言っても…」

 

慌ててヘッドホンを外す。何してんだよ小町。なんか制服から甘い匂いがすると思ったらお前の仕業か。ってそんなことよりもなんで小町の声が…?

……俺の家に…?……だがどうして…。

……まさか戸塚も…。

 

「八幡ー、手が塞がってるから扉開けてー!」

 

戸塚の声ではっと我に帰る。慌ててモニターを元に戻して応答する。

 

「お、おう。今開ける。」

 

「ありがとう、八幡。…勝手に漁ったりしてない?」

 

戸塚がオレンジジュースとコップ、チョコレート菓子を乗せたお盆を持って入ってくるなり不審げな表情で俺を見る。

先ほどの衝撃が強すぎたせいか、疑いを持ったジト目と膨らんだ頬という普段の俺ならとつかわいいと思わずにはいられないコンボを前にしても俺の心は癒されなかった。いや、かわいいんだけどね?

 

「あれ…?八幡もしかしてパソコン触った?」

 

まずい。いくら画面を消しておいたとはいえ、丁寧に置かれていたヘッドホンは小町の声が聞こえた衝撃で外したため乱雑に置かれているのだ。気づかないわけがない。

 

「ねえ…八幡…。本当のことを教えて…?」

 

…何だろう。戸塚からすっごく黒いオーラみたいなのが見える。雪ノ下さんの黒さにも負けてないんじゃないかこれ。正直超怖い。

 

「あ、ああ。その…パソコンの電源が入ってたみたいで、つい気になってな。」

 

「ふぅん……。…何をしてたの?ヘッドホンを使ってたみたいだし何か聞いてたの?」

 

「…音楽のアプリが開いてあったから戸塚が普段どんな曲聞いてんのか気になってな。…それで、聞いてみたんだが何も流れてこなかったんだ。だからちょっと怖くなっちまって慌ててヘッドホンを外したんだよ。」

 

戸塚に真実を告げるのが恐ろしくなった俺は咄嗟にそんな嘘をついた。なんか俺浮気がばれた夫みたいになってんな…。

 

「そうなんだ…。ありがとね八幡。正直に言ってくれて。でも次からはこんなことしちゃダメだよ?誰にだって見られたくないものがあると思うし、八幡も勝手に秘密にしてるものとか見られたら嫌でしょ?」

 

「……そうだな、すまん。戸塚の言う通りだ。…親しき仲にも礼儀ありって言うしな。俺が悪かった。」

 

あの厨二病の頃のノートとか見られたら恥ずかし過ぎて死んじゃうだろうしな。

 

「うん。じゃあもうこの話はおしまい。飲み物とお菓子持ってきたから一緒に食べよ?」

 

やっぱり戸塚は戸塚だな。

一旦あの音声のことは頭の隅に押しやって戸塚との時間を堪能する。まだ恐怖は残っているが、それ以上に戸塚との時間を楽しみたいからな。

 

戸塚に注いでもらったオレンジジュースを一口飲む。…なんだ?変な味がするな…。市販品だろうし変な商品を売るとは思えないが…。

 

「なあ、戸塚。これ…」

 

その後の言葉を発することは叶わず、そのまま倒れ伏した。なんだ?身体が動かない。

……もしかして、ってかやっぱり戸塚もヤンデレなのか…?

戸塚のヤンデレとか最高じゃねえか。むしろ推奨しちゃうまである。

 

「どう?八幡。身体、動かないでしょ?少しの間身体が麻痺してるはずだよ。いつも八幡ぼくに結婚してくれって言ってたでしょ?八幡、ここで一生ぼくと一緒に暮らそう?でもその前に逃げ出せないように縛っちゃわないとね。本当はこんなことしたくないんだけど小町ちゃんの言うように八幡はすぐに逃げ出しちゃうから。大丈夫だよ八幡のお世話はぼくが一生見てあげるから。」

 

ごめん、やっぱりさっきのなしで。

戸塚ならかわいいからいいかなって一瞬思ったけど病んだ愛情と監禁とかはまじで無理なんですごめんなさい。

どうやら今までの経験から、俺にはまだあざとい後輩の真似をするくらいには余裕があるらしい。それとやっぱりさっきのあれは盗聴だったのか?小町との会話も筒抜けみたいだし。…いつの間に。

そんなことを考えているうちにも戸塚が手錠を俺の手足につけベッドに括り付ける。戸塚って腕立て伏せ5回しかできないんじゃないのん?よく俺を運べたな。っていうかそろそろ危機感持てよ俺。

まああのヤンデレ達だ。きっと誰かしら助けに…

 

「そういえば、ぼくのお家は誰にも教えてないから誰も助けには来れないよ。」

 

え?マジで?ちょっと戸塚きゅん用意周到すぎでしょ。ってまた俺心読まれたのかよ。うわっ…私の心情、読みやす過ぎ?

…あれ……なんかだんだん眠く……。

 

「…やっと薬が回ったみたいだね。あはは、寝ちゃってる。…普段はかっこいいけど、こうしてると可愛いね。猫みたいだよ、八幡。」

 

少年は拘束された少年に覆い被さるようにもたれかかると頭を撫でながら眠りについた。

 

 

 

*****

 

 

「んー…、つっかれたぁ……。」

 

お兄ちゃんの私物を一通り堪能し終えた小町は自分の机で受験勉強をしながらそう呟いた。

早く受験終わんないかなぁ…。お兄ちゃんとの学園生活のためにも勉強をしなくちゃいけない。そんなこと分かっててもやっぱり勉強は小町にとって苦痛なものだ。

…ちょっとお兄ちゃんの動向でもチェックしようかな。そう思いパソコンの電源を入れる。お兄ちゃんは今頃戸塚さんと何してるのかな…。

小町のパソコンにはお兄ちゃんの位置情報が1時間毎に更新されるようになっている。どこに居て、どこを通ってそこに行ったかまでバッチリだ。

あれ?位置が全然変わってない。戸塚さんの家にでもいるのかな?なんか嫌な予感がするけど…。

 

「まあ戸塚さんなら大丈…」

 

そこまで言いかけて考えてみる。

戸塚さんはお兄ちゃんのことが好きなはず。それは小町から見てもよくわかる。でもそれは友達として?それとも…。

 

「いやいや、だって戸塚さん男の人だよ。ありえないって。」

 

そんな風に言葉に出しても1度考えてしまうと嫌な方にばかり考えてしまう。それにお兄ちゃんの周りには小町も含めてありえないような人ばかりが集まってるんだよね…。

 

「…念のために行ってみようかな…。お兄ちゃんにも会えるしね。あっ、今の小町的にポイント高い!」

 

小町はそう言うと戸塚さんの家に向かった。

ヤンホモなんて小町は認めないからね、お兄ちゃん。

 

 




8話目です。
戸塚です。次ぐらいには終わるかなという感じです。
書いてる途中にちょっとしたハプニングが起きたりしましたがなんとか投稿できて一安心です。
ようやくキャラソンを買ってきて聞いている今日この頃。
いろはすがあざとかったり、安定の戸松さんだったり、
葉山の合いの手がいちいちかっこよくてイラっとしました。

次回の投稿は未定です。
多分センター試験が終わってからになると思います。
遅くなってしまいますが次回もよろしくお願いします。

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