衝動的に思いついた短編集。   作:70-90

5 / 5
・主人公生存
・名前が漢字表記
・舞台は本編後。主人公ともう1人以外、主要人物が死去している。


VVV -Revolutionary Dogma- (革命機ヴァルヴレイヴ)

 ドウドウと、森の中を吹雪が走る。足場はどこも真白で、視界も空も真白である。

 そんな中、1人の男は防寒着、ゴーグルを身につけ、背中にバッグを背負っては注意深く雪の中を歩いていた。それにしても足場の状況が悪く、膝下10センチのところまで降り積もっている。1回でも倒れては身動きがとれない。モジュールにしては異常すぎる天候である。

 森を抜け、目を凝視しながら進んでいく。見渡して白い足場が広がっていく。さらに渡れば、紙のように白い視界に影が生え始める。視界がはっきりしていくと、そこにはすっかりと変わり果てた校舎があった。200年前、そしてそれ以降の惨禍によって無残な姿に変わり果てている。あちらこちらに罅が生じており、枯れ果てた蔓が濃いほどに巻き付いている。

 だが、この吹雪から逃れるにはあの場所しかあるまい。寒さは防げぬが、強風を浴びることはない。そう判断した彼は、校舎へと向かっていく。

 校舎入口に辿り着く。本来ならば大勢の生徒が登校し、団欒としているだろう。だがドアは風化で塗料が剥げ落ち、機能としても機能していなかった。誰か既に立ち入ったのだろう、常に開けっ放しの状態でもあった。

 

「また来てしまったか…」

 

 彼――時縞晴人は見上げ、懐かしげに呟いた。晴人がここに来るのは200回目である。だがこれは、年に一度で数えたもの。

 晴人の風貌は大人らしい風貌だが、どこか若々しく見えるもの。言うならば、まだ学生に混じっても気づかないほど。

 

――だが晴人はこう見えて、200年以上を生きていた。

 

 体育館に着く。校舎と比べれば、外的損傷はさほど少ない方。だが照明などの機器は機能していない。だが、一度とどまるには十分な場所だと、晴人は思った。

 

「ふぅ…」

 

 荷物を置けば、釣られて座り込むと簡易ストーブを取り出し、暖を取る。

 しかし、一息ついた時のこと。

 

「ハァクション!!」

 

 1つのくしゃみが体育館に響き渡った。薄暗い声もとに振り向き、警戒を取る。ポケットから銃を取り出そうとして。

 

「チィッ…! モジュールの癖になんて雪だ…! もはや遭難しちまったもんじゃねぇか…! いくら俺がマギウスでも勘弁だぜ…! …おっ、誰かいるのか?」

 

 だが、晴人は驚き、ポケットから手を離した。向こうから、丸刈りで鋭い目つきをした男性が現れた。

 

「山田…?」

「サンダーだ!! …ってお前、晴人か…?」

 

 山田雷三――通称「サンダー」。彼もまた、この高校の生徒だった男だ。

 

「久しぶり。でも奇遇だなぁ…、君もいたのか」

「おう久しぶり…。…ってお前は少しぐらい危機感持てよ!」

「でもしばらく、この吹雪が止むことはなさそうだね。どうやら俺達が修理しないといけないかも」

「お前なぁ…、再会早々勘弁してくれよ…。こんな遺跡に成り果てたとこに来るのは俺たちぐらいだぜ?」

 

 毒づくサンダー。そして、「そうだね」と晴人は穏やかに応えた。

 

「そういやぁ、聞いてるぜ。年に一回ここに来てんだって? 律儀なところはホント変わっちゃいねぇなぁ。200年も繰り返しちゃ、普通は嫌になっちまうってのに」

「山田は違うのか?」

「サンダーだ! ……実を言うとここに来んのは、かなり久々だ。最後に来たのはいつ頃なのか、ここの事以外もう覚えちゃいねぇ。まぁ、いろいろとあんだよ俺にも」

 

***

 

 晴人は簡易ランプを持ち、サンダーを連れて地下を歩いていた。地上階と比べれば、天井までの高さは体育館と同等といったところだ。

 向こうには扉がある。晴人が知り限り、校舎の中でこの場所だけ奇跡的に機能している。パスコードを入力すれば、扉が開かれ、光が彼らを包み込んだ。

 

「やあ、みんな。お久しぶり」

「おめぇら、来てやったぜ。…そこの2体はやっぱ邪魔なんだけどなぁ…」

「はは、恥ずかしいよね」

「バカ、そうじゃねぇ…! 死んでねぇのに、俺達がもう1組いるみてぇじゃねぇか!」

 

***

 

 彼は1つの石碑の前に立っていた。

 彼は何も言わず、一房の花をそっと置いた。

 何も言わず、目を塞いでは沈黙する。ときに微笑み、ときにそれが消える。信号のように繰り返し、表情が変わる。

 そして目を開けると、この墓地を後にした。

 

―あの子?

 

 舗道を歩けば、白い髪の幼子がシクシクと泣きながら歩いていた。外見上はまだ幼稚園に通っているのだろう。この時は好き勝手にはしゃぎ回ったり、何かに興味を持っては付いていってしまうという、無邪気な年頃だ。しかし、おそらくその度合が過ぎて親とはぐれて迷子になってしまったのだろう。しかし、迷子にしては泥だらけである。服も顔にも泥で汚れている。

 彼はその子に対して、ある特別な感情を抱いていた。久しぶりに親友と再会した時と同じような感情である。男はしゃがみ込み、そっと話しかける。

 

―親とはぐれたのか?

 

―おともだちにからかわれたんだ…。

 

―『おまえのかみはまっ白だ』って…、『おまえはもうじじいだ』って…。

 

―それで喧嘩したのか?

 

―でも、まけちゃった…。ぼくよわむしだから…。

 

 それに対し、彼はそっと頭を撫でる。

 

 そして彼は言った――『強くなれ』と。


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