衝動的に思いついた短編集。   作:70-90

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・別ルート
・主人公はワン(弟)
・原作キャラ死亡

***

 ちなみにワン(弟)の外見は、『死ニ至ル赤』と同様です。

 スランプ気味かちょっと駆け足なのですが、ご了承ください。


DRAG-ON DRAGOON 3 -Raise The Hope-

―何かがおかしい…。

 

 西洋風の大広間に、1人の女性が歴史書に読み更けている。顔は幼さを残している印象だが、威厳を感じさせた。床一面に広がる真っ赤な絨毯の上に書斎。彼女――ワンはウタウタイの出生について、独自に調査を続けていた。

 ウタウタイ――突如現れた5人の女性。圧政で汚す領主を誅伐、貧困や差別に苦しむ国々を救い、平和を齎した。人々はこの時の事態を把握しきれなかったものの、しばらくして彼女達は英雄として称えられ、莫大な支持を得られた。今ではそれぞれの国か都市を治めており、ワンは教会都市の領主である。

 だがワンは生まれつき五感が鋭いため、止む無く地下の書斎に閉じ籠っていた。緊急時には無論外に出るが、それ以外の日々は全てこの部屋に留まり、兵士達とともに政策を立てていた。

 

―何故だ…?

 

 この時は、歴史書を読み漁っていた。真面目で正義感が強いために、自分の出生に底知れぬ疑念を抱いていた。何冊か読んだのだろう、しかし彼女に関する史実が未だにどの書籍にも記されていない。

 何故だ? 何故自分達の存在が記されていない? 自分達はどの一族で、どの環境で育ち、どの親から教えを乞うてきたのか? 胸の奥から来る、この強い正義感はどこから来るのか。

 その集中は、一つのノックの音を聞いたことで途切れた。我に戻ったワンは気に病むことなく、向こう先のドアの方に視線を向けて声をかけた。

 

「開いているぞ。入れ」

 

 ワンは再び諸本に目を向ける。

 そして重々しく扉を開けそこに入った、1人の少年。

 

(きみ)…」

「ただいま、姉さん」

 

 その端麗な顔、クリーム色の髪はワンと同一であった。だが性別は男だ。彼女はボブカットだが彼の場合は跳ねたセミロング。服装も一見でわかるほど男性寄り。

 ウタウタイの性別は全て女性。しかし彼の場合は例外だった。ワン自らの助骨の一部で生まれた少年、彼も名をワンという。

 

「姉さん――ゼロ姉さんを殺したよ」

 

 一重を捲る手が止まる。

 

 ――ゼロを、殺しただと?

 

「……朗報にしては、俄に信じがたいな」

 

 ゼロ――ワン達からしては姉に当たる存在。または宿敵。

 ワンは彼女に対して強く敵対心を抱いていた。ゼロは自分を含め、ウタウタイに殺意を抱いているためだ。理由を聞いても、彼女の性格上大人しく説明する義理などない。ただ殺しにかかってばかりだ。

 以前、ワンは時が来たと言わんばかりに、白いドラゴンを連れて強襲を仕掛けてきた。何人ものの兵士を無差別に斬り殺し、行路を血に染めていった。この時、ワン含め5人のウタウタイで何とか追い返した。片腕を失い、ドラゴンにも致命傷を与えたが、止めはさせなかった。

 今でも特にワンは警戒している。ゼロは決して屈する者ではない。とんだ死に損ないで実力は確かなもの、いつしか自分の前に戻ってくるだろう。そのために切り札として弟を生み出し、彼を鍛え上げてきた。

 しかしこれはどうなんだ。まだ過ごした夜など自分達より遥かに少ないというのに、ゼロを倒しただと? ワンは喜ぶこともなく、声の調子を落として尋ねた。

 

「お前も承知しているだろう、ゼロがどれぐらい恐ろしい奴か…」

「うん。何度も姉さん達から聞かされたからね。でも、僕はもう子供じゃないのに」

(きみ)のためなんだよ。……片腕を奪ってみせたが、気の毒と情けをかけたいほどに執念深いからな。いつしか、再び私達のもとに必ず現れる、そんな気がしたんだ」

 

 ワンは思い更けるように、視線を下に向けた。しかし真摯な表情に戻り、弟の顔を窺った。

 

「あいつを倒したというならば、私を唸らせるほどの代物を持っているのか? それともまさか、ゼロに肩入れをしているのか?」

「僕は姉さんだけには嘘はつかないよ。これ、見覚えあるよね?」

 

 弟は怖気づくことなく、とあるものを前に出した。ワンは大きく目を剥き、咄嗟に立ち上がった。人間一人ほどに大振りな刀であった。

 

「それは、ゼロの…!」

「そう。ドラゴンの体組織を加工して作られた剣。これを奪って、ゼロ姉さんを殺したんだ」

 

 弟はその時の場面を思い浮かべながら答えた。

 散歩の最中に出会った彼女。自分を姉と見誤って襲いかかり、弟は応戦。生まれて日も浅いはずが、怪我が完治していなかったのか終始、ゼロを圧倒したという。

 ワンは「もういい」と仕舞うように告げた。彼女にも信じがたい出来事だった。表では冷静を装うが、心の内では酷く動揺している。まさか生まれて間もない弟がゼロを打ち負かすほどの実力を持っていたとは、とんだ食わせ物だと我ながらに思った。ひょっとしたら、自分達を超えてしまうのかもしれない。

 

「ごめんなさい」

 

 大剣を背負われた鞘にしまうと突然、弟は深く頭を下げて謝罪した。

 

「このままゼロ姉さんを捕まえて、話を聞こうと思ったんだけど…」

「話…、だと?」

「ゼロ姉さんのことを聞いて、前から思っていたんだ」

 

 ワンの問に対し、弟は頭を上げて後悔を感じさせるような口調で答えた。

 

「どうして僕達ウタウタイに殺意を抱いているのか…。どうして姉さん達が築き上げてきた平和を壊そうとするのか…。そして、僕達を殺してからどうするか――姉さんの手伝いをしていく内に、僕も知りたくなって」

 

 だから、自発的に動いたというのか。

 あくまで切り札として、素直に自分のいうことを聞く彼を利用するつもりだった。しかし『姉さん達の手伝いをしたい』と聞く耳を持たなくなり、ガブリエラを連れて他の国々を訪問し、トウ達に会うようになっていた。

 これは新たなる脅威が現れる節目なのか。いや、今はそんなに深く考える必要はなかろう。ワンは微笑んだ。

 

「気にするな。どちらにしろ、奴と戦う前途に変わりはなかったのだ」

 

 「えっ?」と弟は顔を上げた。

 

「ゼロから事情を得るのは、確かに理に適うことだろう。だが、奴がこんな()()な手段に応じるとは私には思えない。一度出くわせば、すぐに奴は殺意を向けてくる。獲物を見つけ、自分の糧にせんと牙をむく――虎の本能と同じだな」

 

 できることは、ウタウタイの頂点に立つものとして、二番目に偉い次女として助言することだけだ。

 

「……姉さんはゼロ姉さんのこと、よく知ってるんだね」

「本望ではないが――私達には一人の()だったからな」

 

 ワンは名残惜しげに答えた。

 宿敵とはいえ、1人の姉に違いはなかった。それはトウ達も同じこと。違う形で出会っていれば、いや一から姉妹として共に過ごしていれば何か違ったのかもしれない。

 

「ありがとう、私に報告してくれて」

「……怒らないの?」

「ああ。別にゼロの手助けは必要ない。私だけでも真実を突き止めてみせるよ」

 

 しかし、これはある種の始まりにすぎない。

 自分達は何なのか、なぜゼロは自分達を殺そうとしていたのか。まだ突き止めるべき謎は残っている。死ぬ間際までその答えを見出さねば。

 

「なら手伝うよ。姉さんを手伝いたいんだ。僕も知りたいから」

 

 弟は笑顔を見せて、希望した。これほどに姉としての心を擽られることなどあっただろうか。

 

「ありがとう。だが今は休め。少なくとも私の倍以上は仕事しているはずだ」

「姉さんほどでもないよ。……わかった」

 

 ここからは事務的ではなく、姉弟として話が進む。

 

「そうだ。明日、ガブリエラと一緒に砂の国に行ってもいい?」

「何故だ?」

「トウ姉さんに会いに行くのと、ちょっと様子見。……トウ姉さんに話すべきかな…」

 

 トウとは砂の国を治める三女で、無邪気で明るい。料理も得意で、たまにワンと一緒に絶品料理を作ってくれる。使徒のセントとも相思相愛だそうで、その度合にワンはいつも呆れ果てていた。ただ、弟にとってはそれを見るのが好きだった。とても幸せだから、見ている自分も安堵できるためだ。

 トウはゼロに対しても親しげな態度をとってばかりだから、聞けばショックを受けるに違いない。

 

「いや、話さなくてもいいだろう。あいつは意外と打たれ弱いところがあるからな。……いつしか腹を割らなければならないだろうが、その時はセントがうまくフォローしてくれるだろう」

「そうだね。あの2人幸せそうだし。……僕は部屋に戻ってるよ」

「ああ。……そうだ、ゼロの剣を少し貸してくれないか?」

「いいよ。じゃあどこに置いとけばいい?」

「そこの扉のそばに置いてくれ」

「わかった。……それじゃあまた後でね」

 

 「ああ」とワンは答え、弟を見送った。扉が閉まりきるとワンは椅子を回して立ち上がり、ゼロの形見の元へと歩み寄った。刃先を床に向け、壁に立てかけられている。

 上から下へと見下ろしていく。ゼロのことだ、ろくに手入れもしていないために、刃先や柄などに返り血による汚れが染み付いている。一体どれだけの人間を殺したのか、それだけじゃない、人ではない化け物達も斬り殺してきたはずだ。

 未だにあの頃を思い出す。残忍な笑みを浮かべ、自分達の兵士を次々と殺していく姿を。

 

―ゼロ、お前というやつは…。呆れたぞ…。

 

 1人部屋に残されたワン。

 彼女が抱くこれは情けというものなのか、いやそうではなかろう。




正規の4つのルートとは異なる、新たな分岐。

しかし、アコールさんは出ません。

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