7月中旬相変わらず暑さは続く中彩南高校一年B組に衝撃が走った。今日はヤミは来ていない。恐らくサボりだろう。
「転校生?」
「うん。なんかかなりの美少年らしいよ」
「変な奴じゃなければいいけど……」
するとチャイムと同時にティアーユ先生が転校生を連れて教室に入ってきた 。
「それではHRを始める前に転校生を紹介します」
「初めまして長月奏と申します。これからよろしく」
自己紹介が終わった瞬間教室がわっと盛り上がった。
「キャー!かっこいい!」
「すげえ……かっこいい……」
「あの子本当に日本人?かっこよすぎでしょ!」
女子はもちろん男子も感嘆の声しか出なかった。しかし大夢は彼をどこかで見たような覚えがあった。
「あいつ……まさか銀河警察の……」
大夢がそう呟くと長月奏は大夢に向かってウインクしてみせた。その瞬間クラスの女子ほとんどが鼻血を吹き出した。
「それでは皆さん長月君と仲良くしてくださいね」
ティアーユ先生が教室を出た瞬間女子ほとんどが長月に押し寄せた。
「どこから来たんですか?」
「好きな食べ物ってなんですか?」
「好みのタイプ教えて!」
案の定クラスの女子のほとんどが長月の周りに集まり質問攻めをしていた。男子達はその光景を妬ましく見ていた。大夢も同じように彼を見ていた。
「妬いてるの?」
「まさか。そんなんじゃないよ。ただ……」
「ただ?」
「いや……続きはまた今度にしよう」
~昼休み~
昼休みも相変わらず長月は女子に囲まれていた。恐らく昼飯の誘いだろう。そう思って大夢が昼飯を買いに教室を出ようとすると、突然呼び止められた。
「七原君。昼御飯買いに行くのなら僕もご一緒させてもらってもいいかな?」
「あいつらはいいのか?」
「うん。断ってきたから。それに君とは一度話してみたかったんだよね」
彼は不気味な笑みを浮かべる。その不気味さに不安を覚えながら一緒に購買に向かった。買い終えたあとは学校の中庭のベンチに二人揃って腰かけた。
「何年ぶりかな。こうやって君と話すのは」
「さあな。結構経つんじゃないのか?」
「まぁ初めて会ったのが麻薬組織の壊滅作戦のときだったからね」
「だいぶ前だな。いつの話だよ」
「僕が銀河警察の遊撃隊に入隊して少し経ったころだから……6年前かな……」
「時間が経つのは早いもんだな」
「だな…………」
その後は二人ともずっと黙ったまま時間が過ぎていった。
「そろそろ失礼させてもらうね。色々話せて楽しかったよ」
「ああ。じゃな奏」
「うん。またね」
奏はまた不気味な微笑を浮かべながら去っていった。奏が去ったあと大夢も教室に戻ろうとしたら建物の陰からひょこっと芽亜が現れた。
「聞いてたのか?」
「ごめんね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど……それで何話してたの?」
「別に。ただの思い出話だよ。大したことは話してない」
「そうなんだ。……そう言えばヒロ君と長月君はどこで知り合ったの?」
「戦場だ。もうこの話はいいだろう。さっさと教室に戻るぞ」
話を途中で切ると大夢はその場から逃げるように去っていった。
~放課後~
「ヒロ君帰ろー」
「おう。行くか」
大夢と芽亜が教室を出たあとも奏はクラスの女子に囲まれていた。多分遊びとか一緒に帰ろうとかの誘いだろう。
そして帰り道。時刻は5時半を回ろうとしていた。辺りはまだ明るく公園には元気に遊ぶ子どもが見かけられる。
「長月君すごいねー。女の子にモテモテって感じだね」
隣で歩く芽亜が呟く。大夢も転校初日はわいわい騒がれたが、当時は大夢のコミュニケーション能力が乏しかったため、同性の親しい友人など一人もできなかったのだ。
「他の男子はすごい殺気だしてたけどな」
「少しゾクッと来ちゃったかも」
「やめろ。マジで洒落になんないから」
過去にも彼女のスイッチが入ってしまったときは大夢一人では手に負えないほどだった。
「冗談だよ♪」
「冗談ならいいけどさ」
芽亜の冗談だという発言に少しホッとした大夢だったが、自宅のマンションに近づくにつれ、強いエネルギーが体を襲ってくる。
「ヒロ君これ……何?」
どうやら芽亜もその強いエネルギーを感じ取ったらしく体を震わせていた。
「わかんない。今までとは違う感じだ。気をつけろよ」
「ヒロ君!後ろ!」
芽亜が気付く数秒前に大夢は飛んできた短剣を素早く弾き、臨戦モードに切り替えた。
「……気配が無くなった?」
不思議なことに大夢が臨戦モードに切り替えた瞬間強いエネルギーは弱くなり、気配も消えた。
「なんだったの?」
「わかんない。でも狙いは完全に俺か芽亜、または両方だった。」
「でも方向的にはヒロ君だったよ」
弾かれた短剣を拾いながら芽亜が言う。
「何か恨まれるようなことしたの?」
「俺は全然身に覚えがない。むしろ芽亜じゃないのか?」
「昔ならよくやったけど……最近はないよ」
「とりあえず今日はもう帰ろう。また襲ってくるかもしれないし」
「うん。そうだね」
彼は知らなかった。短剣を投げた本人が数百メートル後ろにいることを。
「次は逃がさないよ……大夢」
ヤバイなテスト勉強してない……来週なのに……