Aria on The Middle of Ahead 作:壊れかけ自動書記
「通りませーー通りませーー」
東京武偵高校女子寮から少し歩いた所にある廃ビル群の中でも高いビルに彼女はいた。
長い銀色の髪は朝に吹くそよ風に揺らぎ、銀色は朝日を反射し煌めく。
顔の肌色は女性らしい白色に近い肌色だが、肩から腕まではまるでカーボンが覆っているかのように黒色だ。
廃ビルに住み着いた燕が鳴き出し、翔び立つ。バサバサ、バサバサと。
燕は彼女の前を横切り、彼女の青色の瞳に朝日をバックに映り込む。それでも彼女は驚いたような顔をせずに歌を歌い続ける。
廃ビル群の近くには少し広めの墓地があり、朝、墓参りに来た人たちは「また歌っているのか」と思い、その歌に耳を傾ける。まるで墓に眠る死者たちを弔う鎮魂歌のように穏やかなその歌、通し道歌は静かな朝に響く。
「我が中こわきのとおしかなーー」
そして彼女は歌い終わる。すると途端にそよ風よりも少し強い風が吹き、髪を揺らす。
「P-01s、ホライゾン・アリアダスト、動作確認終わります」
そう彼女、ホライゾン・アリアダストは言い、廃ビルを後にした。
第1章 朝起きし武偵達 配点 立ち向かう勇気
彼女、ホライゾン・アリアダストは現住まいである東京武偵高校女子寮の一室に帰ってきていた。現在、時刻は午前六時を回る頃、まだ初春なため、朝日は出たばかりで、そこまで明るくはない。
「今日から二学期ですか...」そう彼女は呟き、ため息をつく。
彼女の所属はSSR科、つまるところ超能力を持った武偵が所属する科だが、彼女は現在、SSR科は最低限の授業にしか出ておらず、強襲科、つまるところ敵の鎮圧が目的の前衛部隊に所属する科を主に受けていた。
本人も正直に言えばSSR科よりも強襲科の方が圧倒的に楽しいという節もある。だが強襲科も強襲科で武偵高校の中では大概の科なのだ。
「まぁもう死ねを挨拶代わりに言われるのも慣れましたけど」
挨拶代わりに死ねという声が飛び交う学科、そこが強襲科だ。実際、卒業率は九十七%とアメリカ高よりは低いものの死亡率が存在する学科だ。この日本ではまともとは言えない学科であろう。
「キンジ様は大丈夫でしょうか? 強襲科に放り込んだおかげで大丈夫でしょうけど、まぁアウトだったら骨の欠片くらいは拾っておきましょう」
そう言いながらもホライゾンなりに友人である遠山キンジのことを心配する。少し前に起きた事故で一時的に塞ぎこんでしまった彼を助けることは自分だけではできなかった。そう、他の友人たちがいなければ。
様と付けるのはホライゾンの特徴であり、決して遠山キンジに対して尊敬とか、そう言った感情は存在しない。
口では散々なことを言ってはいるがホライゾンなりに心配しているのだ。自分だけでは救えなかったが多人数の手で絶望という沼から引きずり出され彼を。 いくら救えたとはいえまだ脆いと言える彼を。
そんなことを口にしながらもホライゾンは武偵高校の制服を着始めた。
●
現在、時刻は7時頃、遠山・キンジは起床した。
どうやら作業中に寝てしまったようで、ソファに横たわっていた。机の上には整備がほぼ終わっている遠山の愛銃であるキンジスペシャルと友人たちで撮った写真が置いてあった。十人は軽く超える規模の大所帯が写っており、まるでクラスの集合写真みたいだった。
その写真を見ていると兄の事故直後のことをキンジは思い出した。
とある船の事故で遠山は兄を失い、そしてそのことを御門違いなはずなのにマスコミは兄を責めた。それも必要以上に。
そのせいで遠山は「武偵とは報われないロクでもない仕事だ。いっそやめてしまおう」とその時は考えていた。
遠山の目標である兄を失い、それを尚且つ大勢から非難されたのだから仕方のないことだとも言える。
だが友人たちが遠山から言えば馬鹿共が救いの支えになってくれたのだ。その時の会話を状況を遠山ははっきりと覚えていた。ーーもしかしたら友人たちがいなければあのまま自堕落な生活を送っていたかもしれないのだから。
その時のことを遠山は思い出す。
「まぁ事故で貴様の兄が失われたことは悲しいことだな。あぁそれが新庄君だったら私は立ち直れる気はしないな。ーーだがそれでも立ち直れ。歯を食いしばって地面を這い、泥水を啜っても。
それが貴様が貴様の兄に対してできることだ。遠山、お前、武偵として兄を尊敬していたのだろう。ならばそれに並ぶくらいになれ。なって汚名を返上するくらいはしてみろ。
それともあの事故で貴様の兄のついて調べてろ。調べて、調べて、真実を曝けさせろ。その先に何があるのかは私にも分からん。ーーだがそれでも追い続けろ。そうすれば前に言ったように汚名を返上できるかもしれんし、犯人を捕まえることすらできるかもしれん。もしかしたら貴様の兄が生きているということさえありえるな。この二つのうち、一つでもできないのなら貴様は兄のことを悔やむ資格すらない」
そう髪オールバックに、一部が白髪になっている彼ーー佐山・御言は言った。いつもは隣にいる新庄・運切を過剰に愛でる変態だったが、今回ばかりは遠山・キンジを友人として立ち直らせようとしている。口は悪いが。
最後の辺りの言葉に遠山・キンジはピクリと反応する。死んでいた死者が息を吹き返すかのように。
「生きているだと...?兄さんが」
「あくまでも可能性の一つだがね。私はあくまでも〈尋問科〉所属だが私は世界で最も聡明な男だ。だからこそあの事故は不可解な点しか見つからない。私はそんなことしているよりも新庄君を愛でる方が優先的だ。世界の真理だね。だからこそこの事故、いや事件は貴様が解くといい。私からはこれくらいだ」
佐山が言い終わるとキンジは「あの事件をそんなことだと...」と死にそうな眼で殺気を佐山に向ける。
だが隣に立っている青髪の少女、新庄・運切は宥めるように言う。
「確かに佐山君は基本的に頭が可笑しくて変態で口が悪いけど、遠山君のことを心配して言っているのは確かなことだから。それが僕には分かるよ。素直に言えないのは佐山君らしいしね」
「ふむ...私が素直ではないと。それはないよ新庄君。こうして新庄君の尻を愛でているじゃないか」
そう言いながらも佐山は新庄の尻を触り始める。
「それとこれは別‼︎」と新庄はどこからか取り出したのか新庄のメイン装備であるEx-Stで佐山の頭を殴りつける。メキッと何が折れる音がして、佐山は地面に倒れ伏すが数秒後に復帰する。
その光景を武偵高校の制服を派手に改造した物を着ている男はケラケラも笑う。そして笑い終わると真剣な顔をして言う。
「俺も結構前にキンジ、お前と同じようになった。事故でホライゾンと俺が轢かれて、帰ってきたのは俺だけで、その時の喪失感たらなかったぜ。でもよ、俺はねーちゃんに教えて貰ったんだ。その時、いなくなっちまったホライゾンが失った物を、いや人が生まれてから失ったり奪われたりする生き方をしろと。
俺はそん時も、そして今も馬鹿だから深くは分からねえけど、それでも今、キンジ、お前は大切な何かを失おうとしている。それだけは俺には分かる。だから俺は取り返したい。俺の考えはそれだけだ。俺、ーー葵・トーリはここにいるから頼れよ」
そう言って派手に改造した制服を着た男子、葵・トーリは遠山・キンジに手を差し出した。
シャランと制服についている鈴が鳴り、軽やかな音色を立てる。
「珍しくトーリ様がまともなことを言ってますね。今日は馬鹿でも降ってくるのでしょうか?」
「ふむ、出雲並みの馬鹿の貴様がそこまで考えているとは、何かIAI製の試作品でも食べたか?」
「佐山君、葵君が確かに出雲君、いや佐山君並みなのは事実だけどそれを面と向かって言うのはどうかと思うよ。あとIAI製の試作品に関しては否定できないかな...」
そう言いながら新庄は苦笑する。
IAIとは出雲航空技研という大企業で、日本でも有数の規模を誇っている。だが最近のラインナップは飲み物として例を挙げれば「俺の塩」などといった常人には理解できない物がある。ーーといっても武偵をサポートする道具を作ったりもしている。
「ホライゾン、御言、俺が折角かっこよく決めているのにそりゃねーぜ。特に運切、特に聞いたぜ」と葵は言いながらクネクネと身体を揺らす。
「普段から女装とか馬鹿な言論をしてるのが主な原因かと思われます。端的に言えば普段の行いが悪いということです。トーリ様」
「えぇ...ホライゾンはセメントだなぁ」としょぼくれるどころか更にクネクネし始める。
そんな自分に説教しに来たはずなのに身内で潰し合っている外道を見ていると遠山は馬鹿らしくなってくる。
通偵を遠山は開いてみた。
あさま「遠山君、大丈夫でしょうか?」
十ZO「ふむ、身内が亡くなるというのはさぞ辛いでござろうからなぁ。しかも罵倒付きでござるし」
未熟者「まぁあの事故は可能性事件として処理されているぽいから何かあるとは思うんだけどね」
車両兄「あいつのところ行ったけどまるで中学生がエロ本見つかった時みたいなこの世の終わりの顔してたぜ」
頑丈男「キンジの場合、そもそもエロ本買わねえだろうな。勝手に寄ってくるし。あのムッツリめが。後で元気出させるためにエロ本ツアーにでも参加させるか」
怪力女「覚、何馬鹿なこと言ってんのよ。途中までしんみりしてたのに。武藤も余計なことを言わない」
車両兄「ひっ...エイプキラー怖い」
怪力女「何か言ったかしら?」
車両兄「滅相もございません」
怪力女「まぁ武藤は後で半出雲するとして」
あさま「途中まで真面目だったのにこの空気は...そう言えば出雲君、応答がありませんね」
十ZO「ついさっきまで隣にいたでござるが風見殿が突然現れてジャーマン・スープレックス決めた後、格ゲーのようにエアリアルした結果、伸びてるでござる」
副会長「うわぁ...随分と酷いな」と話の路線が変わっていた。
そんな物を見ていると遠山はいつの間にかしょぼくれているのが馬鹿馬鹿しくなっていた。いつの間にか死んだ目も少し蘇っていた。
ふと自分のご先祖様について考えた。
遠山の金さん。江戸時代の奉行者で、肩の桜の彫り物を見せつけるのが印象に残る人物だ。実際に時代劇でもそのことはよく使われる。
そして悪を成敗するという奉行者としての善を貫いているということだ。
それは武偵にも通じていることではないかと遠山は思った。自分の善を貫いて働く武偵、その善を貫くために命をかける武偵、兄もその善を貫いて武偵として死んだ、または消えたのではないかと。
それなのに自分はどうだ。体質、ヒステリアモードの一部が中学ではバレ、使いこなしていないのが原因で特定の女子の偽善の正義の味方をさせられ、そしてその善を貫く前に武偵を辞めようとしている。ーそれは正しいのか?いや正しい訳がない。きっとここで辞めたら後悔しか残らないに決まっている。
佐山の言う通り、追ってやろうじゃないか、地を這い、泥を啜りながらも追い続け、俺が思う正義を貫こうじゃないかと遠山は思った。まだそんな正義を見つけていないが。
「あー悔やむのもやめだ、やめ。お前らを見ていたら馬鹿馬鹿しくなった」
そう言いながら遠山は苦笑しながら葵が伸ばす手を掴む。
「よっと」と葵は引っ張るが力が足りないようで引っ張りきることができない。
するとその手を新庄が、ホライゾンが更に引っ張った。
佐山は手が塞がっている新庄の尻を捏ねていた。
一瞬、新庄は手を離し、再びEx-Stで佐山を殴りつける。佐山は顔面から地面に倒れ伏すが、まるでテレビの巻き戻しかのように立ち直り、遠山の手を取る。
そして遠山は立ち、友人たちを見る。
「ほう、さっきとは目が違うな。死んだ目から庶民の目に戻っている」
「それは褒めているつもりなのか?佐山」
「褒めているさ、褒めている私に感謝するといい」
「相変わらずだな...運切も大変だな」
「うん、それについては完全に同意するよ...良かった、一応立ち直れたようだし」
「すまなかったな」
「別にいいよ。これくらいなら佐山君の相手してる方が軽くマシだから」
「さっきからヤケに鋭い言葉だな運切」
「そ、そんなことないよ。た...多分」
「キンジ、通偵見てみろよ」
そんなことを突然、葵に言われる。
「ああ」と遠山は答えると再び通偵を開く。
俺「なんやかんやでキンジ立ち直ったから心配無用だぜ」
副会長「お前が言うと随分と不安なんだが」
俺「大丈夫だって」
ホラ子「それについては大丈夫かと。トーリ様の他に運切様と佐山様が一緒にいるので」
十ZO「頼もしいと言えば頼もしいでござるが、別の意味で不安が漂う面子でござるなぁ」
中心男「何を言っているのだね男の方のパシリ忍者、世界の中心の私がいるのだよ?何の心配があるのかね」
銀狼「相変わらずと言いますでしょうか...」
まロ神「心配要素って佐山君だけだよね⁉︎僕入ってないよね⁉︎」
十ZO「...」
副会長「...」
あさま「...」
銀狼「...」
まロ神「三点リーダーだけ打ち込むとか酷くない⁈ 何、僕も不安要素なの?」
十ZO「なんと言うでござるか」
あさま「その〜あれです、あれ、佐山君との化学反応がメルトダウンレベルで不味いだけで...」
まロ神「随分とズバッと言ったよ⁉︎」
副会長「話が変わるが新庄、前々から思っていたのだが、通偵名自分で付けたのか?だったら...」
まロ神「そんな訳ないに決まってるよ‼︎ 僕がこういうの苦手だから佐山君にうっかり頼んだからこうなってたんだよ」
副会長「まぁそんなことだとは予想していた」
とまだまだ別の話題が展開されていく。そんな中、遠山は自分の表示枠を開き、通偵を書き込む。
金ツー「心配かけて悪かったな。皆、俺の話題の時に別の話題になってるのには流石に笑ったが」
十ZO「キンジ殿が復活して良かったでござる」
貧乏忍「師匠が復活して良かった。復活しなかったらと思ったら...」
副会長「遠山、立ち直って良かったよ。まぁそっちで馬鹿二人が騒いでいるだろうが気にしないでくれ」
俺「馬鹿って誰だよ」
中心男「いや貴様だろう。他、あと一人となると誰だ?」
副会長「お前だよ‼︎」
中心男「何を言う、私は世界で最も聡明な男だ。馬鹿な訳がなかろう」
あさま「馬鹿と何とかは紙一重ってよく言いますもんね。佐山君の場合、もはや紙は紙でも濡れた和紙でしょうけど」
まロ神「うわぁ...否定できないや」
金ツー「ははは...でもまぁこれから俺はあの事故をいや事件を追うことにした。迷ってても仕方ないしな。それでお前らに頼んだり、迷惑をかけるかもしれないが、その時はよろしく頼む」
副会長「今更だ。馬鹿共相手にするよりはずっと楽だからな。まぁこっちも迷惑をかけるかもしれんがそれはお互い様ということだ」
十ZO「自分だってきっと迷惑をかけるでござろうから遠慮なしでいいでござるよ」
貧乏忍「師匠のためならいくらだって手伝うでござるよ」
あさま「空気が一瞬にして切り替わりましたね」
銀狼「流石はこの巣窟の数少なき良心ですわ」
俺「迷惑? おう、かけろ、かけろ。勿論、俺もかけるけどな」
ホラ子「トーリ様は少し自重という言葉を学んでは? それと反対にキンジ様はもう少し迷惑をかけることを学んではいかがでしょうか?」
金ツー「そうするよ」
と書き終わると表示枠を閉じる。
「さてと、まずはここ数日身体を動かしてなかったから動かすか」
「そうかね、私と新庄君は戻るとしよう。IAIに呼ばれているのでね。さっき男の方のパシリ忍者を呼んでおいたから好きにするといい。ほらもう来たぞ」
そう佐山が言うとインターホンの音がなる。おそらくは佐山が呼んだであろうクロスユナイトであろう。
「助かるよ。トーリ、ホライゾン、お前らはどうする?」
「俺はなんも戦闘スキルねぇし帰るぜ。丁度浅間神社からの依頼もあるしな。ホライゾンはどうするんだ?」
「私は点蔵様とキンジ様と訓練をしようと思います」
「そうか、助かるよ。じゃあな」
「おう、頑張れよ」
そう言って佐山、新庄、そして葵はドアを開けて出て行く。
そして入れ替わるかのように赤いマフラーで隠した点蔵・クロスユナイトがそこにはいた。
「拙者も協力させてもらうでごさる」
そう言ってクロスユナイトが入ってくると同時に帽子はかぶっていないが、布で顔の一部を隠した少女、風魔・陽菜が天井から現れた。
「いつからいた?」
「ついさっきでござる」
その答えに「そうか」とだけ遠山は軽く答える。
「じゃあ協力して貰うからな。‘‘今”の俺は精々Cランクの上の方がいいところなんだからな」
「目標はどのくらいでござるか?」
そうクロスユナイトに言われる。その問いに対して遠山は今まで向けた中で一番真剣な表情で言った。
「今と同じSランクに決まっている。波があっちゃならない。兄さんみたいに、金一兄さんみたいにSランクにい続けてやる」
「そうでござるか、では自分、全力で協力させてもらうでござる」
「某もでござる」
「では、キンジ様、不肖私、ホライゾン・アリアダストも協力させてもらいましょう」
「よろしく頼む」
そう言って四人は外へと飛び出す。ーー高みへと至るために。
そうして遠山はその思い出に浸っていると時間が随分と経っていることを思い出す。
「げっ...もうバスの時間過ぎてるじゃねーか⁉︎、仕方ねえ、自転車に乗っていくか」
そう言って遠山は思い出に浸りながら調整し終えたキンジスペシャルを手に取り、武偵高校の制服を着用し始める。
着替え終わると玄関に置いておいた自転車の鍵を手に取りドアを開ける。
「さて、行くか」と遠山は言って自分の寮、強襲科の寮から飛び出していった。
現在、遠山・キンジ、東京武偵高校二年強襲科"S"ランク。
書く場合、本格的な活動は3月後半からだと思います。期待される物好きな方がいらっしゃるのなら光栄です。
元々は作者がカワカミンを供給するために書く自己満足なのであまり期待されると怖いです。