やはり俺の大学生活は間違っている。   作:おめがじょん

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第6話:やはり俺は今後も魔王に勝てそうにもない。

 

 

 

 

 男たるもの、引けぬ戦いがある。

 誰かを守る為。泣いている人間の涙を止める為。自分のプライドの為。そして、俺達は自分の生活の為に戦いを挑んだ。俺達はただ己の後先を考えず、ほんの少しばかりの幸せを願っただけなのだ。──美味しいお肉を腹いっぱい食べたい。現代社会においてはとてもささやかで慎ましい質素な願いだろう。残ったお金、一万と2千円。俺達をそのお金を三分割して、早朝のパチンコ屋の列に早起きして並んだ。今日は、新台の入れ替え日であるらしい。

 

「あんれーヒキタニ君ひさぶりじゃん。今、隼人君から聞いたけど、お金ないってマジ? んなら、明日川沿いにあるパチ屋行ってみ? 新台の日だからマジでっべーわ。俺なんか先月6万勝っちまってさー」

 

 昨日、偶々会った隼人の友人(ここ大事)の口車に乗せられて俺達は3人でパチンコ屋に行き、財布の中身をすっからかんにして帰宅した。おのれ、戸部許すまじ。そもそもパチンコやった事のない奴がいきなり行って勝つ事なんかありえるのだろうか。そんな疑問に対し、戸部の答えは「マジビギナーズラックっしょー」との事。というわけで、俺達は目の前の儲け話につられて、今月一文無しとなってしまった。俺達の本来の予定であれば、今頃焼肉屋に居る筈だったのに。給料日まで後3日もあるのに。

 

「……隼人。マジでどうすんだよこれ」

 

「ははは……。最近妙にあいつの羽振りが良かったから話に乗ってみたんだけど、俺達はギャンブルには向いてないみたいだな」

 

「冷静に受け止めてる場合じゃなかろう! 我ら、後3日もご飯食べれないの!?」

 

「つか、義輝。テメェなんか、アニメのスロット台につられて新台にすら座ってなかったじゃねぇか!」

 

「ひぎぃ!」

 

 俺は知っている。こいつが某女性しか動かせないロボットを、男が動かしてハーレムワッショイ的なアニメの台に座っていた事を。まぁ、確かに二組は可愛いからしょうがないよな。しかし、何はともあれ後3日何とか生き残るしかない。最悪、水だけ飲んでりゃ何とかなるでしょ。カロリー0だし。ダイエットコーラ飲んでるみたいなもんだ。ないか。

 

「先月も沙希に迷惑をかけたし、今月も頼るのは避けたい。……八幡、いろはは今どうしている? 仲良いだろ?」

 

「その誤解を招くような聞き方は辞めろ。一色の奴は、何だかサークルの連中と遠出してくるとか言って、どっか行ったから頼れねぇぞ」

 

「そうなると、義輝。お前のバイト先で頼れそうな人は居ないか?」

 

「我がバイト先でそんな人間関係築けるわけがないだろうが! こういう時こそ、眉目秀麗成績優秀八方美人の貴様の出番だろうが!」

 

「最後の嫌味だろ……。大体、葉山隼人が貧乏だからお金貸してくださいなんて言えるわけないだろ。俺だって、大学内にお前らみたいに気を許してる友達なんか居ないさ」

 

「使えないイケメン過ぎるぞお前……。高スペックの人間の癖に、縛りプレイで大学生活送ってるとかお前本当に何なんだよ……」

 

「そうだそうだ! それに我は知ってるのだぞ! 貴様、あの高校の時よくつるんでた金髪の女と再会したらしいな! あの女になら頼れるであろう!」

 

 義輝の言葉に隼人の動きが止まった。え、何なのこいつ。何だかんだまだ三浦と繋がってたの? 俺、全く聞いてないんだけど。聞きたくもないけど。それにしても、こんなに動揺している葉山隼人も珍しい。何時も浮かべている上っ面の笑顔がとれ、本気で悩んでいるような表情になった。

 

「優美子か……」

 

 無言で蹲りぶつぶつはやとが呟き始めた。一緒に生活してからある程度砕けた葉山隼人は見てきたが、こんな状況に陥ってるのは初めて見る。俺と義輝は無言で目を合わせると頷きあった。「三浦優美子」は禁止ワードな、と。ちなみに俺にも禁止ワードが沢山ある。でもこいつら気にしないから禁止もクソもないけどね。何なの。そんな隼人を2人で見ていると、義輝の携帯が音を立てた。

 

「ブモォッ!?」

 

 最初は興味なさそうな顔で携帯を開いて居た義輝が気色悪い悲鳴を上げた。あ、これ凄い嫌な予感してきた。そんな予感を覚えつつ義輝の端末を覗き込むと、そこには「鬼」とメッセージを送ってきた人物の名があり、本文には「これから行く」とだけ書いてあった。どっと冷や汗が噴出す。この状況で、こうなるか、事態は最悪だ。だが、希望の光も少しだけはある。とりあえず、今晩の晩飯には困りそうもない。未だうずくまる隼人に蹴りをいれ、俺は神妙な顔で呟いた。

 

「おい、緊急事態だ。雪ノ下陽乃が、今こっちに向かってるってよ……」

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪ノ下陽乃という人間は非常に苦手だ。

 元々は同級生の姉というだけの、人生で一瞬すれ違ったと思えばそのまま二度と会う事のないような関係の人間になる筈だった。それがどういうわけか「面白い」だの「見つけてくれる」だの抽象的な奴にしかわからないような表現で関係を強要され、今日までの付き合いに至る。大学を卒業し、一度平塚先生にあの腐った性根を拳で叩きなおされてからというもの人間性に若干の変化を見せたが、俺にとってはその変化は更に歓迎できないものだった。いや、マジで。俺たちの前であの分厚い強化外骨格を外してくれるのはいいんですけど、もうちょっと人としての限度ってもんがありますよね。といった感じだろう。

 

「いや、どうもお疲れ様です。陽乃さん」

 

「ん」

 

 玄関に現れた雪ノ下陽乃は有り体に言って不機嫌そうだった。ビシッとスーツを着込み、妖艶な色っぽさと共に、近づき難い風格も出している。昔から少し女性としては短めだった髪も、今では更に3センチ程短くなっており、どこからどう見ても仕事のできるお姉さんといった感じだ。少しボーイッシュな感じが出ているのに、これまた出ている所がきちんと出ているのもまた腹立たしい。陽乃さんは無言で両手に抱えた寿司やらピザやら高そうな酒が入った大袋を俺達に渡すと、どすどすと家の中に入り始めた。ここ、貴様の家じゃないからね。お土産のご飯なかったら叩き出してるからね。後、玄関までこれをもってきてくれたであろう運転手の都築さん。今日もお疲れ様です。数年前は、突然飛び出して申し訳ありませんでした。サブレが。

 

「は、はちまん……。我、大トロなんて食うの3ヶ月ぶりでござる……」

 

「こういうのがあるから憎みきれないんだよな……」

 

 子供の頃より、それなりに良い物を毎日食べていた隼人とデブの義輝は食べ物に弱い。俺は妹の手料理こそ至高といったタイプなので、あまりこだわりはない。やはり小町は女神。でも焼肉は食べたかった。しかし、食料危機から一転、この贅沢な晩飯である。隼人の言う通り、内容といいタイミングといい完璧である。だから俺達はこの人には勝てないのだ。居間に入って貰った食材やら酒やらを並べていると、奥の方で着替えた陽乃さんがラフな格好で戻ってきた。これで、可愛いパジャマでも着てれば笑えるのだが、それでも品格があるのがタチが悪い。隼人が気を利かせてワイングラスにワインを注いでやると、無言で受け取り、乾杯も何もなく思い切り煽る。

 

「────っぷは。うん、やっぱりこの仕事終わりの一杯が最高だよね。というわけで、久しぶりだね。男だらけのお家でお酒飲むなんて、お姉さんドキドキしちゃうぞ~」

 

 けらけらと子供のように陽乃さんは笑った。大学生の頃の笑顔とはまた違う、あどけない笑みだ。社会人になってからというもの、流石の雪ノ下陽乃も傍若無人には振舞えなかったらしい。先ほどのように更に強固な仮面をかぶり、女だからと舐められないよう親の会社で常に実績を上げる事を意識している。また、タチが悪い事に、大学生の頃の仮面の上に更に今の仮面をかぶっているらしく、時折休憩時間等に見せるギャップもまた、陽乃さんの人身掌握術の一つにもなっているらしい。隼人と平塚先生がそんな事を言っていた。まぁ、そんなクソどうでもいい事はおいといて、とりあえずいただきますといきたい。

 

「──はい。ストップ。この食べ物はまだ私の所有物だよ? 何で当たり前のような顔をして食べようとしてるのかな?」

 

 悪魔が牙を剥き始めた。ニコニコ笑いながら陽乃さんは大トロを一つ摘んだ。隼人と義輝の顔が強張る。

 

「陽乃さん。……俺にもご飯を頂けないかな」

 

「うん。隼人は随分と素直に頭を下げるようになったね。……じゃあ、はい、あーげた」

 

 隼人が誠心誠意頭を下げたにも関わらず、陽乃さんは楽しそうに大トロを上に掲げた。流石の隼人も本気でイラっときたのか固まった笑顔のままプルプルと震えている。笑ってはいけない。横を見ると義輝も我慢しているようだ。横目で隼人が睨んでくるが気にしない。

 

「私を満足させたり、楽しませてくれた人から食べていーよ。じゃあ、まずはヨッシーから行こうかな。何か面白い事をして?」

 

 隼人で遊んだのに満足したのか、今度は義輝をターゲットにしたようだ。義輝はしばし青い顔をした後、死にに行くような顔でライターの先を口に含み始めた。暫くもごもごしてたかと思うと、ライターを着火させ、そのまま俺目掛けて火を噴いた──って熱いわボケ。反射的に蹴りを放つと、見事奴の腹に入り、向こうも転げまわる。

 

「あははははは! ヨッシー、いいじゃない。……まぁ、前にも言ったけど、良い話を書きたいなら、ジャンルを問わず良い作品を見る事。そして、人を知る事が大事だよ。そして、人を知るには人の輪の中心に居る事が大事なんだよ。悪い部分も良い部分もきっとそれは君に蓄積されるから、そういった芸は人の輪に入るのに役立つからこれからも磨いておきなさい」

 

「は、はいでございます……」

 

 あんだけゲスい命令を出しておいてまともなアドバイスもする、これがニュー雪ノ下陽乃だ。何か知らんけど、最近どこぞの女教師と似ている所が多くなってきた気がする。ちなみに義輝がこんな芸をするのは初めてではない。会う度に宴会芸を強要され、泣きながらもこの悪魔の命令に従ってきた結果、今では俺らの中で宴会芸といったらコイツみたいなポジションを獲得してきた。ちなみに、ラノベの方はその成果があったのかどうか知らんが、最近ようやく2次選考ぐらいまでは進めるようになった。

 

「といわけで、ヨッシー。いっぱい食べなさい!」

 

「……え、あ、……ヒャッハー! 大トロだぜぇ!」

 

 先ほどまでの泣きそうな感じは何処へ行ったのか、寿司をガツガツ食べ始めた。コラ、まずはあったかいピザから食べなさい。後、ウニを全部食ったら殺す。義輝がガツガツ食いまくるので不安になってきた俺を楽しむように、陽乃さんはこちらを見ている。そして、形の良い唇を歪めると、

 

「じゃあ、八幡には何をして貰おうかなぁ……。うーん。どうしようかなぁ」

 

 見てくれだけは美人の陽乃さんに名前で呼ばれるとちょっとドキっとするよね。まぁ、怒気っともするんだけど。ちなみに、俺が隼人や義輝を下の名前で呼ぶようになったのもこの人が原因である。何だかんだでこの人は雪ノ下建設のご令嬢なので住宅業界にも顔が広い。俺達が都心のこんな良い物件を見つけられたのも彼女の手助けがあってのものだ。そんな人に、下の名前で呼ばないと家賃5万上げるよう仕向けるなんて言われたら呼ぶしかないでしょ。そんな感情を抑えつつ、俺は半ば諦めを含んだ声で懇願した。

 

「簡単なのでお願いしますよ……」

 

「仕方ないなぁ……。じゃあ、私の目を見て愛してるよ、陽乃って言って。そうしたら食べていいよ。あ、ご飯と私、両方食べても良いよ?」

 

 言えるか、ボケ。何とかその言葉を胸の奥にしまいこむ。危ない。晩御飯が完全に遠ざかって消えていく所だった。こうしてからかわれる事早数年、もはやお家芸とも言える。だが、この人が最近ちょっとマジでそういう気持ちをちょろちょろ出してくるようになったけど、鋼の意思で回避してる。だって、陽乃さん闇が深すぎて怖いんだもん……。

 

「いや、俺の愛してるは妹専用なんで……」

 

「えー。んじゃ、先に隼人でいいや。私に愛してるよって言ったら食べていいよ」

 

「愛してるよ、陽乃さん」

 

 ニコッと笑顔つきの隼人の愛してるよは俺が女子だったらその場で孕む程の破壊力があったが、男なので心底どうでもいい。また悪魔にも響かないようだ。「あーはいはい。ありがと」とつまらなそうな顔でコメントをするだけだ。隼人ももはや、陽乃さんの方を見る事もなく、ピザの箱を開け始めた。あの……僕の分残しておいてくれるよね。

 

「ほら、八幡。早くしないと無くなっちゃうよ」

 

 悪魔の計略は恐ろしい。隼人も追加する事で兵糧攻めに走り始めた。マジで人のする事じゃねぇよ。いや、でも言えませんよこれ。

 

「だから無理ですってば。他の事にしましょうよ。このままじゃ、お互い不毛でしょう?」

 

「そうだねぇ……。じゃあ、私といろはちゃんと沙希ちゃんの3人でずっと一緒に居たいと思うのは誰かな?」

 

「あっ。それなら沙希ですね」

 

「馬鹿」

 

 持っていたワインの瓶で顎を小突かれた。速い。そして痛ぇよマジで。沙希のカーチャン力を陽乃さん達は舐めすぎでしょ。一緒に居ると、本当に感謝しかないよ? 陽乃さんはそのまま俺を無視すると、再び食事に戻ってしまった。隼人も義輝もこちらを見ずに、黙々と食べている。あの、これ本当に僕の分あるんだよね? ネタだよね? 寿司だけに。すると、隼人も少し腹が膨れて余裕が出てきたのか、助け舟を出してくれた。

 

「陽乃さん。質問が悪いと思うな。八幡と一緒に居たいなら、こう聞くべきだ。──専業主夫になるなら、誰とがいいかと」

 

「……それもそうね。ねぇ、八幡。この3人の中の専業主夫になるなら誰と良い?」

 

「それなら、陽乃さんです」

 

 嘘ではない。これからの時代、夫婦共働きが基本となってくるだろう。流石に、俺も専業主夫はかなりキツいかなんて思い始めている。遅いってよく言われるけどね! そんな時代で女1人働いて養うならば相当の財産が必要だ。庶民の沙希や一色にそれはかなり荷が重いだろう。その点、雪ノ下家なら俺1人ぐらい全く平気だろう。凄いゲスい事を言ってるが事実だ。

 

「じゃあ、八幡は、大学卒業したら私の所が永久就職先だね」

 

「え、いや。まぁ……その前向きに検討だけはさせて頂きます……」

 

 日本語って便利! 検討だけはしたもんね。検討だけは(するとは言っていない)俺のそんな反応に少し驚いたのか、陽乃さんはじっと俺の顔を見つめた。この前彩加に見つめられた時には照れたのに今はすっごい怖い。何なのこの差。

 

「……ま、悪い変化じゃないしいいでしょ。何だかんだ楽しかったし、八幡も食べていいよ。それじゃあ、全員揃った所でもう一回乾杯と行こうか!」

 

「いや、乾杯してないし。アンタが先に1人で飲み始めちゃったし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は明日も学校だが、陽乃さんは明日も仕事だ。責任の重さが違う。サボろうと思えばいくらでもサボれる俺達と違って陽乃さんはそうは行かない。というわけで食事会も速めに切り上げて、俺は陽乃さんに指名されて、駅まで送る係となっていた。この人襲う度胸のある人とか居るんですかね? 俺は怖くてできない。駅から少し離れた住宅街とは言え、人通りもあまり多くはない。基本的に、俺も陽乃さんも沈黙は嫌いではないので、2人して無言のまま駅まで向かっている。

 

「八幡。何かやりたい事が見つかったんだね?」

 

「え……」

 

「さっき私が養ってあげるって聞いた時の反応が、昔の君だったらもう少し違う答えが返ってきたかなって思ってさ」

 

「まぁ……そのまだおぼろげですが」

 

「えー何? 何? 教えてよー」

 

 近い近い近い当たる当たってるってば……となって離れたのは高校までの話。今の俺なら無言のまま多少前かがみになるだけで済む。AVコーナーに入るだけで歩けなくなった過去とは違う。

 

「すいません。最初にその事を報告する人はもう決めてるんで。陽乃さんには、その次にお話しますよ」

 

「……ふぅん。まぁ、一瞬女の影がチラついたけど許してあげる。その女も、私にとっては悪い女では無さそうだし」

 

 怖いよこの人。本当はサイコメトラーHARUNOとかじゃないよね? さっきおっぱい当てた時に読んだりしてるんじゃないよね? 何それ最高じゃない。幾らでも読み取って。とはいえ、ほぼほぼ当たっては居るので大体どういう事かはもう既に予想がついているのだろう。わざわざ口に出して言わない所が有難い。まだ決まってないし、恥ずかしいし。

 

「陽乃さんのそういうとこ、嫌いじゃないです」

 

「そう。有難う。ま。何かあったらお姉さんの所に相談に来なさい。後、隼人の事もよろしく頼むね」

 

「はぁ……。ま、俺に出来る事があれば協力しますよ。一緒に暮らしてるんだし」

 

 苛烈で攻撃的なのが雪ノ下陽乃の本性だと思っていたが、こういう優しい所もある。本当に、混沌とした人間だ。だから真意が掴めなく、怖い。だがこの偶に見せる、この人が持っている暖かさに惹かれるのも事実だ。そうこう話している内に、駅までついた。これで、この会話も終わりだろう。陽乃さんは「ここまででいいよ」とだけ言うと、俺から離れた。

 

「陽乃さん。終電大丈夫なんですか?」

 

「ああ、私そこのホテルもう予約してあるからここでいいよ。明日はこっちの方で会議があるしね。今日はそのついでってわけ」

 

 何それすげぇセレブ。俺も一度でいいからあんなでかいホテルに泊まってみたいと駅前のホテルを見上げた。絶対ビジネスじゃないでしょあれ……。

 

「何? 終電なかったら家に泊めようとしてた? いやらしい子ね」

 

「違います。流石の陽乃さんでも、この時期に野宿は危険でしょって話ですよ……」

 

 すると陽乃さんはニヤリと意地の悪い笑みを作り、こちらへと音もなく距離を詰めた。そして──

 

「──私だって、八幡と一つ屋根の下は恥ずかしくて寝れなかったりするんだぜ」

 

 耳元でそう囁くと手を振って逃げていった。いや、マジで反則だわあれ。周りの男が跪くのも無理ないわ。それ程までに、脳に響くような甘い声だった。暫く呆然と立ち止まり、俺は小さく呟いた。

 

「やはり、俺は今後も魔王に勝てそうにもないな……」 

 

 

 

 

 




あけましておめでとうございます。
今回で出したいキャラが出揃って第一部終了みたいな感じです。
暫く大学っぽい日常が続くかと思います。
仕事が始まったので更新頻度は落ちますがよろしくどうぞ。

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