やはり俺の大学生活は間違っている。   作:おめがじょん

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※キャラ崩壊注意回。


第5話:やはり俺達の飲み会は間違っている(後編)

 

 

 

 

 

 全員で一服を終えると弛緩した空気になった。ちなみに彩加は半分も吸えていない。末永く吸わなくてもいい。八幡は今更辞められないので吸う。俺が辞めたら誰が先生と一緒に煙草吸ってあげるんだよ(使命感)一通り飲んで食って腹も膨れたので、義輝が押し付けられたゲームを4人で始めた。何故か妙な緊張感がある……。生まれて初めて、他人とゲームを一緒にするのだ。マジで字面にすると酷いねこれ。おい、隼人。哀れんだような顔して笑うのを辞めろ。義輝は暑苦しいから向こうへ行け。彩加はそのままの君ででいてくれ。

 

「しかし八幡。弱いのぉ……マジで引くぞこれ」

 

「仕方ねぇだろ。生まれてからずっと、CPU対戦か妹への接待プレイだぞ。強いわけねぇだろ」

 

 しかし、あまりに俺が弱すぎてゲームにならない。対戦しても弱い。共闘しても足を引っ張る。あれ、本当に孤高の雑魚って感じですねこれ。良い要素が一つもない。流石の彩加もフォローできないらしい。苦笑いを浮かべている。隼人なんかは義輝よりも強い。顔でも負け。スポーツでも負け。勉強でも負け。ゲームでも負ける。良いとこねぇぞ義輝。俺もか。

 

「つか、隼人本当に強いな……」

 

「……俺の場合、相手が相手だったからな……」

 

 遠い目をして隼人がぼやいた。それだけで俺と義輝は「ああ……」みたいな感じになった。こいつの上には更なるパーフェクト超人が居るのだ。奴がゲームでも遅れをとるとは思えない。しかもあの性格だ。負ける度に罰ゲームだとか何だとかほざいて酷い事をしたに違いない。本当に奴と幼馴染じゃなくて良かった。彩加も俺達の反応もあってか、大体わかったようである。そのまま、4人でだらだらとゲームをやりながら会話をしていく。最近こんな事があったとか、どんな本が面白かったとかそんな取り止めの無い話。そんな話をしていると、

 

「3人は、最近気になる女の子とか居ないの?」

 

 彩加がそんな事を口にした。俺の頬が一瞬強張る。だがすぐに弛緩し、何時ものやる気のない顔に戻った。自慢じゃないが、"あれ以来"色恋沙汰とは無縁の生活を送っている。隼人も自分が一緒に居るグループから特定の誰かを選んではいない。しかし、昔と違って何かを追いかけているようではなく、優先順位を決めているようにも見える。何かを成してから、みたいなそんな態度を一緒に暮らしていて感じる。義輝はまだ例のメイドの心の傷が癒えていないので当分そういう事もないだろう。俺達の態度で大体感づいたのか、だがしかし彩加は更に話題を続けた。 

 

「じゃあ、最近話した中で一番印象に残っている女の子とかは居る?」

 

「鬼」

 

「悪魔」

 

「大魔王」

 

 質問の答えには全くなっていないし、おおよそ女の子につけられるような単語じゃないが、俺達の中には共通の女性の顔が頭に浮かんでいた。先ほども一瞬話題に上がりかけた雪ノ下陽乃さんだ。鬼、悪魔、大魔王、暗黒大将軍とロクな仇名がないとても綺麗で性格の悪い女だ。色々あって俺達が高校を卒業してからは少しだけ改心したようだが、それも雀の涙程だ。偶に我が家に来ては、暴虐の限りを尽くして帰っていく。

 

「ははは……ああ、うん。誰だかわかっちゃった……。でも、とっても綺麗な人だよね。この前会ったけど、スーツ着てて凄く色っぽくなってたよ」

 

「綺麗だけどなぁ。あの人間性を知ってると"もう"何とも思わないんだよな」

 

「あれで心も綺麗だったら良かったのになぁ」

 

「我、あの女だけには欲情したくないなぁ……」

 

「何か3人とも陽乃さんに厳しくない!?」

 

 仕方が無い。全て身から出た錆なのだ。俺が1人うんうんと納得していると妙に神妙な顔で隼人がぼそりと呟いた。

 

「エロいと言えば……何か最近、沙希が妙に色っぽい時がないか?」

 

「うむ。我の前で普通にエプロンつけてるのとか見ると、何かこう、偶に来るものがあるよの」

 

「沙希ちゃん出てるとこ出てるし髪も綺麗だもんねぇ……」

 

 隼人の言葉を皮切りに、沙希ちゃん最近エロくねトークが始まった。隼人がこういった事を言うのは本当に珍しい。戸部達とこういう会話しなかったのかな? 妙に楽しそうだ。義輝もあまり女の話はしない。話したとしても次元が一つ違うし、他は2.5次元の人達ぐらいだ。後、彩加もこういう会話をしたかったのだろう。すっごい嬉しそうで俺までニヤニヤしてしまう。

 

「ふむ。確かに沙希殿いいよのぉ。……付き合ったら毎晩一緒にお風呂とか入ってくれそう」

 

「ああ、ありえる。沙希はきっと良い奥さんになりそうだよなぁ」

 

「そういった色気がまぁ全体を通して若妻感もあっていい。一色殿もああいうとこ見習えばいいのにのぉ」

 

「いろははなんていうか……空回りしてそうだよな。エロい雰囲気にしようしようみたいな感じで盛り上げてくれるのに、こっちは冷めてくみたいな」

 

「一色殿に、一緒にお風呂入りましょうとか言われても裏を疑ってしまうな……」

 

「一色さんはちょっと小悪魔的な所があるもんねぇ。でも、付き合ったらいっぱいベタベタ甘えてきてれくれそうでいいよねー」

 

「まぁ、それもあるが俺は一色はどちらかというといじめたい派だからなぁ。彼女っていうのは何ともわからんなぁ……」

 

 俺の言葉に、隼人達がシンと突然静まり返った。八幡覚えてるぞこれ、皆でわいわい楽しく話してたのに俺が話すと急に会話が止まるってやつだ。マジで何なのあの現象。3人で顔を合わせてひそひそと何かを話し始めた。やめろよそういうの。小学校の頃を思い出しちゃうだろうが。

 

「ねぇ、八幡。一色さんの事ってどう思ってるの?」

 

「あぁ? なんつーか、手のかかる後輩ってイメージだな。まぁ、要所要所フォロー入れてくるし、態度悪いけどふざけた事はしねぇから良い奴だとは思ってるけど……」

 

「では、八幡よ。沙希殿の事はどう思ってるのだ?」

 

「沙希はぼっち仲間で、最近じゃ俺達のカーチャンみたいな感じだな。まぁ、でも可愛いと思うし、俺を引っ張ってってくれるのはありがたいとは思ってるけど……」

 

「そうか。じゃあ、陽乃さんはどうだ?」

 

「鬼、悪魔、大魔王って感じだ……。まぁ、でも……偶に真面目に進路の話とかしてくれるのは有難いし。能力面では結構尊敬している所あるけど……」

 

 俺の言葉に満足したのか再び3人はひそひそと話し始めた。……俺にだってわかっている。陽乃さん達が俺の事をどう思っているかぐらいは。だが、俺も問題は何も解決していない。かつて、俺は2人の女の子に好意を寄せられて最悪な行動を取ってしまった。どれだけ心を傷つけてしまったかはわからない。とても大切な人達だった。ずっと一緒に居たいとさえ願った。あの選択は正しかったのか、間違っていたのか後悔はしているが俺は未だに答えを得ていない。だから、もう間違えたくないのだ。あんな思いをするのはもう御免だ。都合の良い事を言っているのはわかっているが、もう少しこのままで居たいのだ。

 

「ごめんね、八幡。ちょっと突っ込んだ事聞いちゃったね」

 

 俺の表情から察した彩加が申し訳なさそうな顔で頭を下げた。やはり、彩加は優しい。義輝と隼人はもう少し神妙な顔をしようね。ぶっ飛ばすぞ。俺が隼人と義輝を睨んだのを彩加は不安に感じてしまったようで、何とか話題を変えようとし、とんでもない事を口走った。

 

「あ、あの……その……あ、そうだ! 3人とも、忘れてたけど、平塚先生って異性としてどうかな!?」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………うん。変な事聞いちゃって本当にごめんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飲み会も終わり、良い時間となったので今日はお開きとなった。

 俺も義輝も隼人も自室に戻ってそれぞれのベッドに入っている。彩加も居間に彩加用の布団があるので、それを敷いて貰って寝ている。そして、俺はというと暗闇の中でずっと目を見開いていた。今日は珍しい事も話した分、俺がずっと目を背けて来た事を、もう一度考えなくてはいけないと思ってしまうような事も話した。恋愛感情。かつて、俺には縁がないと思っていたもの。二度と勘違いしないと誓ったもの。結局、勘違いではなかった高校時代は、それが原因で一番大切なものを壊してしまった。

 

 雪ノ下雪乃

 由比ヶ浜結衣

 

 とても大事な2つの名前。高校二年の終わりから、俺達は3人で居たのが2人と1人になってしまう事が余儀なくなってしまう関係に陥ってしまった。考えに考え抜いた。無垢な何の含みの無い好意を伝えてくれた由比ヶ浜結衣。強く儚く、触ったら崩れ落ちてしまうようだった雪ノ下雪乃。俺は、2人の事を優先とした。雪ノ下と由比ヶ浜がずっと2人で仲良くやっていける道を選んだのだ。自分の気持ちを殺して、何も考えないようにして──そして、俺は自分の気持ちがわからなくなった。今では、彼女達の事をどう思っていたのか、よくわからない。決別をした日以来、顔を合わせない。彼女達が、今、何処で何をしているかもわからない。

 

「………………」

 

 そうして心に蓋ができて、俺は義輝と隼人と新しい関係を築く事が出来た。沙希や一色や陽乃さんとも、昔とは違う関係を築きつつある。きっと、それは喜ぶべきなのだろう。もはやぼっちでもない、新しい自分に変われたという自負もある。かつて、あれだけ変わることを嫌悪していた俺だというのに。そんな俺が自分が変わったからといって、再び過去をどうこうするというのは、酷く傲慢で、醜い願いだ。身の程を知れ、と自分を自制する事で、俺は今日もこの暖かい日常に溶かされていく。"このまま"を願い、逃避を続けながら──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、魔王襲来編。

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