やはり俺の大学生活は間違っている。   作:おめがじょん

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第4話:やはり俺達の飲み会は間違っている(前編)

「八幡、隼人君も久しぶりだね!」

 

 この日、俺の目の前に天使が降臨した。名は戸塚彩加という天使だ。高校の頃より少し背が伸びたようだが、その可愛さに陰りは一切無い。つるっとした肌には髭すら見えない。マジで「実は女の子だったんだよ、八幡」なんて言われた日には、速攻大学辞めて就職して一生養うしかないまである。こんな汚く、むさくるしい家に招くのは本当に申し訳ないが、彩加が来たいというなら仕方が無い。午前中はめんどくさがる隼人と義輝を説得して3人で大掃除もした。

 

「久しぶりだな、彩加。ちょっと体の線が太くなったな。まだテニス続けてるんだっけ?」

 

「うん、まだ現役だよ。隼人君もサッカーはまだやってるの?」

 

「いや、俺はもうあんまりやってない。偶にフットサルをやるぐらいだな。今は、バイトばっか忙しくてさ」

 

 何だか彩加と隼人がいい雰囲気で面白くない。スポーツの話になると俺は全くついていけない。何か、家から出ずに出来るスポーツってないかな。でもそれスポーツじゃないね。今日は、給料日という事もあり久しぶりに皆で集まろうかという話になったのだ。俺達は普段一緒だが、地元に残った彩加とは中々会うことは多くない。それに、引っ越し祝いもやってなかったので、偶には男だけで集まって飲もうという事になったのだ。もう半年以上経ってるけど、彩加がやりたいなら何時でもその日が記念日。これが真理。

 

「八幡も元気そうだね。ちょっと背が伸びた?」

 

「あーどうだろ。よくわかんねぇや」

 

「相変わらず自分の事には無頓着なんだね……。義輝君は?」

 

「あいつならバイトだ。多分、もう少しすれば帰ってくるんじゃねぇかな。あと少し待っててくれ」

 

 俺の言葉に彩加は一瞬驚いたような顔を見せ、その後溢れんばかりの笑顔になった。え、俺何か変な事言った? まぁ、可愛いからどうでもいいや。隼人も苦笑を隠せないようだ。ニヤニヤしながらこっちを見ている。お前は何なの? 喧嘩売ってるの? 

 

「いや、昔の八幡だったら義輝君なんか待ってないでさっさと始めるなんて言いそうだったからさ。八幡も少し大人になったね」

 

「……いや、その……違ぇよ」

 

「ま、そういう事にしといてやるかな。とりあえず、中行こうか」 

 

 そんな事を言いながら隼人は中に入っていった。うわぁ、何かすげぇ納得いかねぇ。その後、近況なんかを話しながら義輝の帰宅を待つ。彩加はスポーツ系の大学に進んでおり、俺たちの中では進路の毛色が少しだけ違う。ちなみに、義輝は文学。隼人は経済学といった感じだ。人体の構造やら筋肉やら何やら俺には難しい話をしながら、俺の体を触ったりしちゃ……ああああああ何で今度は隼人の方に行っちゃうの……。

 

「隼人君はやっぱり体つきがしっかりしていていいね」

 

 くそぅ。八幡体鍛える。彩加に素敵な筋肉だねって言われるボディになる。そんなこんなで悔し涙を流していると、義輝が帰ってきた。汗だくでふぅふぅ言いながら紙袋を下げている。室内の気温が5度ぐらい上がった気がするが、俺達はもう慣れているので気にしない。

 

「おお、彩加殿よく来たな。これ、お土産である」

 

 義輝が持っていた紙袋の中には10年以上前に発売されたゲーム機が入っていた。俺達が小学生の頃にとても流行ったものだ。4人で対戦するゲームが特に多く、当時の小学生達の間では学校内最強決定戦やら、放課後は毎日トーナメント表を作って、対戦していたものだ。

 そしてお察しの通り、俺はCP対戦した事しかない。そもそも、我が家にはそのゲーム機こそあったものの、小町が連れて来た友達とやる専用のものであり俺は小町が気が向いた時のみ使用を許可され、尚且つお兄ちゃんとして接待プレイを余儀なくされていたものだった。

 

「八幡。アンタ友達居ないんだからこんなゲームやっててもしょうがないでしょ。勉強しなさい」

 

 ちなみにこの台詞が俺が母親に言われた事で一番泣いたものだった。事実とはいえしょうがないが、もうちょっと言い方あるんでないのお母様……。勉強しなさいだけでいいですやん。といったわけで、俺は義輝が持ってきたゲームの全く良いイメージが無いわけで。

 

「義輝。今度はどこの女にこのガラクタを10万円で買わされたんだ?」

 

「違ぁぁぁう! これは我がバイト先の盟友である、フリーターの先輩から引っ越すしもういらないからと無理矢理押し付けられて……」

 

 おい、剣豪将軍は何処へ行った。今日も辛いバイトだったのだろう。何時もよりキャラのブレが激しい。そして、リア充組である彩加と隼人は懐かしそうな顔でゲーム機を眺めている。こいつらはきっと友達の家でやったりしてたんだろうなぁ……なんて思う。同じような場所に生まれて、同い年なのにこの差は一体何なの? そんな俺の切なぃ心情を察してくれたのか、彩加はゲーム機から目を外した。

 

「まぁ、これは後にしてさ。とりあえず皆揃ったことだし乾杯しよ」

 

 やっぱり彩加は天使。俺の永遠のヒロインである事は間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飲み会がスタートした。俺達の飲み会スタイルは少しだけ変わっている。というか、これしか選べない。まず、ビールは1人一本まで。金がない。ついでにあまり腹にたまらない。どちらかというと、俺達はおつまみに金をかけるタイプだ。何故なら共同生活を始めた頃、この家の床下に埋まっていた梅酒を発見したのだ。しかもかなりの量があり、味も良かったので俺達も暫くした後、皆で自家製梅酒を作り始めた。その甲斐あってか、酒にはあまり困っていない。

 

「八幡、この梅酒美味しいね。凄い熟成されていて、とても甘いや」

 

「何時作られたか不明なものだからな。昔、大家さんの親戚が作ってたらしいけど、勝手に飲んでくれって言われてそれっきりだ」

 

「これ、誰が最初に飲むかで凄い揉めたよな……」

 

「うむ。そうであったな。確か男気じゃんけんをやって、一発で勝った隼人が震えた顔で飲んでいたような……」

 

「あはは。でもこれ当たりだよね」

 

「いや、でも彩加。中には腐ったのもあったんだぞ。一本目が美味くて調子乗って他のも空けたら腐った奴でなぁ……。全員でトイレの奪い合いになったりしたな……」

 

「ああいう時、人間の本性でるよな。まさか、隼人が我を突き飛ばしてトイレに駆け込むとは思わなかった……」

 

「仕方ない。俺はキャラ的に漏らせない立場にあるからな。大体お前らだって、トイレットペーパー隠したり、自分の番には焦らしたり酷い事しただろ」

 

 こうして思い出してみると、色々とバカな事をやった思い出もある。当時は必死すぎて気がつかなかったが、今思えば笑い話だ。最終的には沙希に泣きついて薬を持ってきて貰ったり、看病して貰ったりと本当に酷かった……。あの時から沙希のカーチャン化が始まったとも言える。そんな話を彩加は何処か物憂げな表情で聞いていた。その横顔がとても色っぽい。思わずごくりと唾を飲み込んでしまう。つい何時もの癖で、懐を探って煙草を取り出し、火をつける。そして、不味いという事に気づいた。

 

「あ、すまん。彩加。煙草大丈夫か?」

 

「ううん。大学にも吸う友達居るし。大丈夫だよ」

 

 彩加が俺が煙草を吸うのをじぃっと見ている。え、何なの? ついに俺に惚れたの? でもなぁ……副流煙もあるし、あまり彩加の近くでは吸いたくない。他の2人ならどうなろうがし知ったこっちゃないけどな。それに、こいつらも意外と吸ったりするのでお互い様だろう。

 

「八幡達、貧乏だって言ってるけど、煙草吸うお金はあるんだね」

 

「ふふん。甘いな彩加殿。これらは全部試供品なのだ。我らにそんな金あるわけないだろう!」

 

「スキー場とかイベント施設でバイトすると結構貰えたりするんだよ。それに、煙草会社のサイトに会員登録をしたりすると、偶に試供品が送られてきたりするんだ」

 

「ちなみに、どうしても買いたい時は手巻き煙草を買うんだ。あれは、安いから半額ぐらいの値段で吸える」

 

 恐ろしくどうでもいい事で胸を張る俺達。本当に貧乏人には辛い時代になった。ちなみに、俺達3人に煙草の味を覚えさせたのはどこぞの女教師である。高校卒業して偶に挨拶がてら飲みに行ったりするが、兎に角面倒くさい。酔っ払って窓ガラスに映った自分に話しかけたり、一緒に煙草吸うまで放してくれなかったり、隼人を横に置いて壁ドンをさせたりとやりたい放題である。ちなみに、あの人の煙草に火をつける時の作法があり、俺達が火のつけた煙草を咥えて、先生の火のついていない煙草に当ててまるでキスをするような形で火をつけてやらなければならない。わかりやすく言えばレヴィとロックがやってたアレ。先生の憧れらしい。

 

「八幡達、本当に逞しくなったね。あのさ……。僕も一本貰っていいかな?」

 

 は?と俺達は目を丸くした。まさか彩加がこんな事を言い出すとは夢にも思わない。彩加も、自分の言った言葉が上手く伝わってないのに気づいたのだろう。顔を赤くしながら、下を向き小さな声でぽつぽつと語り始めた。

 

「僕ね……。こういうなよなよした外見だからかな。こういうさ。男だけでわいわい隠し事やったりする事の仲間には、何時も入れて貰えなかったんだよね……」

 

 男子といえば格好をつけたがる生き物だ。慎ましく生きてきた俺でさえ、そういった思いを全くしなかったわけではない。俺なんかは違うベクトルで変な日記をつけたりしたが。横に居るデブなんかも現在進行形で自分が一番かっこいいと思う事をやっている。普通の子なら、中学に上がったあたりでこっそりと髪を染めたり、煙草を吸ってみたり、喧嘩をしてみたくなったりするものであろう。彩加も性別的には男性なのだ。表には出さないこそ、そういう思いがあってもおかしくはない。だが、外見で仲間に入れて貰えない。目の前に吊るされて、それに触れないという事はどれほど酷な事なのだろう。俺も経験がある。

 

「だからさ……。僕も、仲間に入れて欲しいな」

 

 酒の効果か、目が少し潤んでいる。はたまた違う何かだろうか。こんな煙草を一本吸うぐらいで何があるというのだろうか。だが、それは俺の主観でしかない。彩加にとっては自分の殻を破るような儀式みたいなものだろう。瞳から覚悟を感じる。俺が何も言えないでいると、隼人が煙草を一本取り出し、口に咥える。義輝も察したようで一本口に咥えた。そして、俺も持っていた箱から一本取り出し、彩加へと渡した。「ありがとう」と礼を口にした彩加は、煙草を咥える。正直、全く似合っていない。

 

「別に、こんなん吸った所で仲間になるとかねーっての……。なんつーかその、アレだ。高校の時から……仲間だったろ……」

 

「うわぁ、出たでござる捻デレ。しかも男に」

 

「彩加。八幡の言う通りだよ。流石、特に理由もなく仲間に入れて貰えなかった男は良い事言うな」

 

「違ぇよ! 違ぇから! 一応キモいとか根暗とか理由はあったからね!」

 

「八幡……自分で自分のフォローぐらいしようよ……」

 

 彩加の言葉に義輝が笑う。釣られて、隼人も笑う。俺も自分で言って面白くなったのか笑ってしまった。昔は、笑われる度に死にたくてしょうがなかったが、今ならわかる。──こういう風に気持ちよく笑われるならば、とても心地が良いものであると。それがわかって良かった。心の底からそう思う。

 

 

(後編に続く)

 

 

 

 




前編です。
戸塚彩加については自分は男性だと思っていますのでこういう話になりました。可愛いし、何より可愛いですけどね。
後編は猥談となる予定ですが迷っています。
自分が大学生の時は飲み会というと猥談ばかりだった記憶があります。
原作でも八幡は女体には興味がある描写がありますが、実際猥談するかはわかりません。
一応、次回はキャラ崩壊注意という事でお願いします。

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