やはり俺の大学生活は間違っている。   作:おめがじょん

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第14話:上京した大学生の実家リスペクト率は異常

 

 

 上京した大学生は何かにつけ、やはり、実家はいいなぁとのたまう。俺ぐらいの人間になると、実家の素晴らしさは子供の頃からよくわかっていたし、何だったら東京の大学だろうが何だろうが実家から通う覚悟まであった。ところがどっこい、親父の邪魔というたった一言で実家から叩き出され、まさか小町が遠方の大学に行くとは思っても居なかった我が両親は小町の進学時にはそれはもう大層驚いた。

 お陰で長男は仕送りを減らされ、哀れにも縛りプレイリア充と中二病デブと一緒に、古民家で共同生活を送る暗黒色の大学生活になってしまったのがここまでのあらすじ。

 そんなわけで、毎年恒例の帰省シーズンとなったので、たまには実家に顔でも出そうと帰ってきたが両親は楽しく今日も仕事である。定年まであと少し、頑張って欲しい。ついでにずっと養って欲しい。

 

「しかしまぁ、皆仕事か」

 

 飼い猫だったカマクラは小町と一緒に遠方へ旅立っている。完全なる一人だ。全く予定が無いわけではない。今晩は、沙希が一時期グレてた時に働いてた店で臨時のバイトがある。その為か夏だというのに、スーツを着込んでいるので些か暑い。というわけで、エアコンを16度強に設定して快適な家作りを始めた。やはり、実家は素晴らしい。うちだったらこんな事は出来ない。電気代で死ぬ。冷蔵庫一つ開けるにしたって、高校生の頃までは何とも思わなかったが、食材ってこんなに沢山入ってるもんなんだなって思いました。我が家の冷蔵庫には酒と野菜しか入っていない。冷蔵庫の中にあった親父のビール缶を勝手に開け、チーズを口に咥えながらリビングのソファーに戻るとそこで、ふと机の上にメモがある事に気がついた。

 

 

 八幡へ、今晩は小町が帰ってくるので外食に行ってきます。後はお好きにどうぞ。

 

 

 ちょっとこの両親冷たくない? もう一本ビール飲んじゃうぞ。しかしまぁ、どの道今晩はバイトなので無理な話なのでメモの隣にあった3千円はあり難く頂いておこう。

 

「ふっ。これでしばらく草には困らんな」

 

 嬉しさから思わず声を出してしまった。しかしまぁ、昼間からビールを飲むと煙草が吸いたくなるよね。今晩もきっと飲むだろうし、今のうちの巻き煙草を生産しておく必要がある。この金でバイト前に煙草屋に寄って新しい草と巻紙を買っていこう。そして俺がシガレットケースから残りの巻き煙草セットを取り出しせっせと煙草を生産していると、カタンと音が聞こえた。思わず顔を上げると、そこには悲しみの表情を浮かべた小町が立っていた。……実際顔を合わせるのは久しぶりだ。この前手紙なんかを書いてみたが返信はなかったので仲直りはまだ出来ていない。とりあえず、笑顔だ八幡。長旅疲れた妹に労いの言葉をかけてやるのが兄としての使命だろう。

 

「おう……。お前も吸うか?」

 

 とりあえず挨拶をしてみる。反応は無い。これは完全に嫌われちゃったようです。死にたい。っていうか、お前も吸うかって何なんだよ。隼人や義輝じゃねーんだぞ俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が盆の時期に帰ってくると母から聞いたので時期を合わせて私も帰省する事にした。最後に半分喧嘩別れみたいな感じで終わっているので、ここしばらくはメールでのやり取りが大半だった。メールは普通に出来る。でも会話はきちんとできるだろうか。不安が募る。あの手紙や沙希さんから聞いた話では大分マシになったようなので、また昔のように話せるかもしれない。そんな淡い期待を胸に家の前につくと、兄の部屋の窓が開いている。ああ、もう帰ってきてるんだ。一瞬だけ足が止まるが、それでも私は進むことに決めた。緊張するのでこっそりと家の中に入る。玄関を開けてこっそりとリビングを覗くと人の気配が合った。

 

(お兄ちゃん……)

 

 と、そこまでは良かった。だがしかし、兄の様子がおかしい。まず、スキンヘッドである。一体何があったのだろう。それにあのガラの悪いスーツの着方は何なのだろうか。スキンヘッドの兄は想像以上に怖い。元々腐ったような目に眉毛も濃い方ではない。明らかにイッっちゃった人にしか見えない。しかも、あの淀んだ目に薄ら笑いは何なのだろうか。兄はニヤニヤ笑いながらチーズを口に咥え、あろう事か朝っぱらからビールの缶を開け始めた。それを一気に半分ほど飲み干すと、満足げな顔で机を眺め始めた。よくよく見てみると、お金が置いてある。

 兄はあろう事かそれを何の躊躇いもなくポケットに入れ、

 

「ふっ。これでしばらく草には困らんな」

 

 満足そうに、淀んだ瞳でそう呟いた。草って何? お兄ちゃんは一体何の草を買おうとしているの?そして兄は腰につけているポーチから怪しい紙と草を取り出し、何やらごそごそと丸め始めた。最後に、紙の部分を満足そうに舌で舐めるとくるくる回して新しい紙と草を取り出した。まさか、兄がアル中のヤク中になっているとは思わなかった。きっと、薬のやりすぎで髪も抜け落ちてしまったのだろう。沙希さんの嘘つき。悲しみで、涙が出そうになるのを堪える。すると、持っていた荷物を落としてしまったようで音に気づいた兄が顔を上げた。兄は最初驚いたような顔をしていたが、すぐににやぁっと怪しい笑いを作り、こう言った。

 

「おう……。お前も吸うか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫く小町の反応を待ってみたが何も起きない。よくよく見ると、背も少し伸びて髪も長くなっている。昔のようにだらしのない格好はしてないし、大人の女になったんだなぁとしみじみ思った。すると、小町の瞳から涙がこぼれ始めた。一体何があったというのだろうか、もしかしたら数年ぶりの再会に感極まってしまったという事なのだろうか? 何それ、最高じゃん。やはり小町は天使。間違いない。しかし、抱きついてくるかと思いきや涙目で俺を睨むと、

 

「お、おにいぢゃんのばが……! 昼間っがらそんなもんやっで……!」

 

 どうやら小町は俺が昼間からビールを飲んでいるのが気に入らないらしい。言われて見れば、真面目な人間は昼間から酒を飲まない。静さんという反面教師が居ながら俺は何を学んで居たのだろうか。しかしまぁ、水よりは腹に溜まるしつい飲んじゃうんだよね。我が家は自転車も壊れてるし、車もバイクも運転しないしね。隼人も義輝も飲む時は飲むのでその辺の感覚が麻痺しているようだ。俺の周りには改めてロクな奴がいない。

 

「悪かったよ小町。でも俺にとってはこれは毎日やってる事だしなぁ。気に入らんのはわかるが、我慢してくれよ」

 

「ま、毎日!?」

 

「……あー、毎日でもないぞ。一応、週に三日ぐらいだ。腹が減るとイライラしてなぁ。ついやっちゃうんだよなぁ」

 

「週に三日だって異常だよっ!!!」

 

 小町ちゃん激おこプンプン丸である。こういう所は変わってなくて可愛い。あまりの可愛さについニヤっとしてしまったのを小町は見逃さない。更に怒ったようで持っていたカバンを投げつけてきた。

 

「おにいぢゃんのバカ!! ボケナス!!! 八幡!!!!」

 

「落ち着けって。……何なんだよ小町。確かに、少しは悪い事かもしれないけど、この一杯の為に生きてるって大人はよく言うだろ?」

 

「その一本が命とりなんじゃん!! 中二さんも葉山さんもきっと、お兄ちゃんの事心配してるよ!?」

 

「いや、あいつらも毎日のようにやってるしな……」

 

 そこまで言うと小町の顔面が真っ青になった。こんな小町初めて見る。いや、マジで酒辞め様かな。小町にこんな顔させたくないし。すると、小町は意を決したかのように息を吸い、

 

「警察に電話する!!!!! お兄ちゃんのバカ!!!! 大っ嫌い!!!!!」

 

「ええ!? ちょっと小町ちゃん?!? 警察って何!? 俺もう成人してるんだぞ!?」

 

「馬鹿にしないで!!! 成人したって薬なんかやったら駄目だって小町だってわかるもん!!!」

 

「ちょっと薬って何!?!??! 頼むから警察に電話するのだけはやめてええええええええ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おにいぢゃんごめんなさい……」

 

 ようやく小町も落ち着いてくれたようだ。しかしまぁ、紙巻き煙草を覚せい剤と間違えるなんて小町は可愛いなぁ!! 小町は可愛いなぁ!!! 小町は可愛いなぁ!!!!

 ……よし、終了。小町式多段精神統一法が終わった所でようやく、落ち着いて話せる状態になった。

 

「じゃあ、お兄ちゃんは薬やってないんだね? あれはただの煙草なんだよね?」

 

「そうだ。金が無くてなぁ……。普通の煙草は中々買えないんだよ」

 

「ヤニいちゃんだね……」

 

「その呼び方はやめろ」

 

「後、お兄ちゃん、どうしてスキンヘッドになっちゃったの?」

 

「陽乃さんの仕返しだ。雪ノ下家の留守電に限界まで陽乃さんの事吹き込んでやったんだよ……。したら、恥かいただの。彼氏なのかだの散々詮索されたって喚きやがってな……」

 

「自業自得だね……」

 

 そこまで言うとようやく小町は笑った。俺も安堵からか微笑を返す。そして、

 

「お兄ちゃん、お帰りなさい」

 

「おう。ただいま。小町もお帰り」

 

「うん。ただいま」

 

 多分きっと、これだけで俺と小町の間にあったわだかまりは無くなったような気がした。最初は俺も不安だったが、会って見れば何の事は無い。きっと、小町も俺を理解してくれるし。俺も小町の事を理解してやっているつもりだ。俺が思うに、どこの家だろうが兄妹ってのはそんなもんじゃないだろうかって思う。どこぞの姉妹も、聞いた事はないが、今は上手くやっているのだろうか。ふと、そんな事が頭に浮かんだが想像しても仕方が無いので、すぐに頭の中から消した。

 

「じゃあ、小町部屋に荷物置いてくるね。お兄ちゃんは?」

 

「臨時収入が入ってな。……まぁ、お前に要らん心配かけちまったって事でアイスでも買ってきてやるわ。それまでに荷物の整理しとけ」

 

「うん。待ってる。じゃあ、小町二階に行かなきゃ……」

 

 小町が二階に上がっていくのを見送ると、俺も靴を履いて家の外に出た。今日も良い天気で気持ち良い。コンビニまでだが、少しの散歩もたまには悪くないだろう。そんな事を思っていたが、現実はそうは甘くないらしい。家の前には何でかわからないけど、警察官が二人と、見知らぬおばさんが怪しげな目で俺を見ていた。そして、おばさんは俺を指差し、

 

「この男です!!! この男がこの家の娘さんに無理やり抱きついてました!!! さっきも家の中から凄い大きな声が聞こえてきたんです!!」

 

「……という事ですが、貴方。この家の方ですか?」

 

「え……? い、いや……あのその……い、一応この家の長男なんですけど……」

 

「嘘よ!!! 私、この辺りに二年ぐらい住んでるけどアンタなんか見たことないもの!!! 比企谷さんとお話した事あるけど、息子さんの話なんか聞いたことないわ!!!」

 

 おい、あの両親。どういう近所付き合いしてやがるんだ。俺の存在をなかった事にしようとしているのではないだろうか。警察官も疑惑が増したのか、一人が俺の手を掴んだ。

 

「ちょっと、署の方までご同行願えますか?」

 

 いよいよ手詰まりらしい。できる男はこういう所で慌てない。もう大学生だしな。そして、俺はゆっくりと息を吸い、喉の奥底から叫んだ。

 

「小町ちゃあああああああああああああああんっ!!!!!! たあああああああすけてええええええええええっ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 


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