やはり俺が護廷十三隊隊士なのは間違っている。   作:デーブ

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第三話  比企谷八幡は雪ノ下雪乃+αと共に任務に出る。

俺・比企谷八幡は、六番隊隊士数名と共に夕暮れの流魂街を駆け抜けていた。

西流魂街第一地区『潤林安』。

流魂街で最も治安の良が良いとされるその区域の、とある森が今回の任務地だ。部隊長である雪ノ下から受けた説明によると、その森に大量の虚が出現し、大移動を続けているらしい。

それだけなら単純な虚討伐任務として片づけられるが、今回は少し特殊だった。

どうにも、虚共の進行方向に小さな村があるらしいのだ。つまり、奴等が村に辿り着く前に殲滅しなければならない。時間との勝負と言う訳だ。

うわ、めんどくせー。まあ、あの雪ノ下雪乃が駆り出されてる時点で、一筋縄ではいかない任務確定なんだけどね。

というかこの隊編成、雪ノ下抜きにしても何気に豪華だよな・・・。

上位席官である雪ノ下を筆頭に、中位席官の俺(八席)ともう一人(六番隊第九席)、それに下位席官が二人もいるのだ。

冷静に考えて、席官のみで編成された部隊って、かなり凄くない? 

ヤダもう、そんなの面倒くさい案件にきまってるじゃないですかー。やめてくれよ、俺を巻き込むの・・・。大体、「部員の能力を知るのは部長の務めよ」って、そういうのはもうちょっと軽い任務で推し量ってくんないかな雪ノ下ぁ!

「見えたわよ」

心中で雪ノ下に文句を言っていると、雪ノ下の鋭い声が聞こえて来る。前を見ると、眼前に、緑色の葉を付けた立派な樹木群が迫って来ていた。どうやら目的の森とやらはここらしい。随分ガッツリ深い森だな・・・。

この先をずっと行くと村があり、虚共のそこへの侵攻を阻む形で、これから交戦に入ることになる。

森の中に大量の虚共の気配を感じた俺は、空気中の霊子を踏み鳴らし、空上空に飛んだ。

自分の目で虚の位置を確認するためだ。あと、ついでに村までの距離も測れたらいいねと思っている。

「どう?」

雪ノ下が俺の隣にやって来た。それに続く形で、九席と下位の二人も姿を現す。

俺は、生い茂る緑の隙間から除く黒い点々を指さした。

「多分アレじゃないッスかね。もう結構村も近そうなんで、とっとと突っ込んだ方が良さそうッスよ」

「そうね」

雪ノ下は頷き、

「各自散開して虚の迎撃に当たりなさい! 一匹も取り逃がさない様に!」

「「「はっ!!」」」

彼女の指示に六番隊隊士達が力強く返事をする。おー、良いね良いねぇ、そのやる気。ついでに俺の仕事もやっといてくんないかな。

雪ノ下の指示だからか、やたら彼等の士気が高い。まあ、分かるよ。男だもんな。可愛い女子の前じゃ張り切っちゃうよな。その気持ちは痛い程分かる。

でもさ、その十分の一で良いから、俺が部隊長の時もやるき出してくんない? 凹むんだよ俺の下に付いてる時と、他の奴に付いてる時のお前等温度差に。他隊のお前等に言ってもしょうがないけどさ・・・・。

まあ、何はともあれ、これなら割と楽できそうだな。こんだけテンション高けりゃコイツ等が率先して狩ってくれるだろう。俺がする事は殆どない。

なんて思っていた時だ。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 

虚の大音響が響き渡った。

まだ、森の上空だと言うのにこのデカさ。かなりの数が犇めいているのが分かる。

 

「・・・・!」「ほ、虚の鳴き声だ!」「多いぞっ!」

 

その声は隊員たちの士気を削ぐには十分だった様だ。やる気に満ち溢れた表情が一転、急に不安そうな顔になる。

いや、てか、もうちょっと頑張れよ。仮にも席官だろうが、声ぐらいでビビってんじゃねえ。

まあ、正直五人で足りんのかって言いたくなる数いそうではあるが、こっちには天才雪ノ下がいるのだ。それにお前等は、その雪ノ下雪乃が選んだ精鋭だろう。もっと自分に自信を持ってくれ。・・・まあ、手が空いてるのがコイツしかいなかったとか、そう言うんじゃなければの話だけど。

 

仕方ない。ここは俺が先行するか。部隊長にいきなり突っ込ませるのもどうかと思うし、誰かが行けばコイツ等も動くだろう。

シュン!

そんな音を残して、俺は森目掛けて急降下して行った。バサッと葉っぱや枝を突っ切り、森内部に侵入する。反射的にデカ目の木の影に隠れて様子を伺った。

虚共は紛いなりにも列と言うモノを形成して突き進んでいた。進行速度は遅い。俺達死神の接近に全く気付いていないのだろう。これだけの数がいて、霊圧探査の高い個体がいないのはラッキーだった。もし接近に気付かれていたら、進行速度を上げられていた可能性がある。

俺は首を巡らせ、虚の群れの先頭を探した。

これもさっきと同じ理由だ。後ろから攻撃して前に、つまり村の方角に逃げられたら、それこそ本末転倒である。

真正面を陣取ってしまえば、わざわざ前方へ逃げようとする者はいないだろう。

「あそこか・・・」

虚集団の切れ目を見つけた。

木々の葉に光を遮られ、薄暗い空間と化している森の中を駆ける。虚共の先頭部に踊り出て、俺は群れを睥睨した。

その瞬間、虚たちはにわかに色めき出す。

『誰だてめえ!』 『ひ! 死神だコイツ!』 『何だと!?』

声がだんだん大きくなり、『やっちまええ!』と一斉に襲いかかって来た。

『しねええええええええええ!!』

「ふッ!」

その中で、特に先行して来た一体を、一閃する。

仮面が割れ、一瞬にして消滅した同胞を前に、虚共の動きが止まった。

その静寂をぶち破る様に、

『なめやがってえええ!』

怒涛の突進が始まる。

無数の虚の凶刃が迫って来た。が、俺の身体を貫かんとしていた彼等の鋭腕は、即刻スパッと両断される。それと同時に数体の虚の身体が消滅し、その所業を為したであろう人物が姿を見せた。

「かなりの数ね。このままじゃ、ホントにゾンビガヤ君になりそうだから助けてあげるわ」

雪ノ下だ。抜刀した雪ノ下雪乃がそこにいた。あと、六番隊第九席も。

てか、言い方。普通に死にそうだから助けてあげるって言えよ。

「他の二人は?」

「この群れ以外に虚がいないか探しに行って貰っているわ」

俺が聞くと雪ノ下が答える。

まあ、確かにこの数相手じゃ下位席官のアイツ等はちょっとキツそうだもんな。死なれても目覚めが悪いし、雪ノ下の指示通り、はぐれ虚の掃討に行かせるのが最善だろう。

それに、こんだけいれば戦力としては十分だ。

俺一人ならいざ知らず、席官クラスが三人もいれば、通せんぼぐらいは出来るだろう。

『くそぉ! 救援か!』 『ふざけやがって・・・! 殺せ! この死神どもをぶっ殺せぇ!!』

一体の虚が苛立ちを隠さず同胞たちに呼びかけた。次の瞬間もの凄い大合唱が巻き起こる。

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

「来るわよ、構えて!」

雪ノ下の指示に無言で答え、俺達は臨戦態勢に入った。

 

 

 

 

戦闘開始から数分が経過した。

現状、俺達三人は横並びになり、虚の進撃を防いでいる。そろそろ、虚共も俺達との力の差を理解し始めた頃だろう。圧倒的な数の理も、流石に護廷十三隊の席官クラスが三人も固まっていれば大した理にはならない。

どうあっても俺達を倒せないのであれば、多少脳のある連中は蜘蛛の巣を散らす様に逃げてゆく筈だ。数が減ればその分虚群の本隊を早く潰せる。逃げた虚共はその後各個撃破していけばいい。

なんてことを考えていると予想通り虚が数匹逃げ出した。

俺達の方に――――。

「「「!!?」」」

は!? なんで!?

ちょ、なんでわざわざこっちくんだよ!? 普通俺等とは別の方向に行くだろ!

なんて驚愕していると、俺はここで気が付いた。

此方に向かって逃げてきている虚は最前線で俺等と戦っている奴等じゃない。もっと後ろの方の、最後尾付近の奴等・・・・。

つまり、これは―――。

「待て、虚共! 逃げるな!」「正々堂々勝負しろ!」

かすかに、そんな声が聞こえて来た。

え、まさかこの声ってと思っていると、こめかみを押さえながら雪ノ下が言う。

「釘峯十七席と、呂久十九席の声ね・・・」

ああやっぱり、周辺の虚狩りに行った下位席官二人か・・・。大方、雪ノ下の指示通りあぶれ虚を探しに行ったが、そういった個体が見つからなかったので、群れの本隊に奇襲を仕掛けたのだろう。後ろから・・・。

まあ、背後から襲いかかれば敵もパニくるだろうし、あの二人でもグイグイ敵を倒せるんだろうが・・・。

後ろからそれやっちゃうと村に逃げられるだろうからやんなかったんだよ! だから、わざわざ正面から立ちふさがってたんだよ! 席官だろ、そんぐらい分れ!

「ど、どうする!?」

俺はすがる様に雪ノ下を見た。

だってマジで怒涛の勢いなんだもん! アイツ等に追い立てられた虚共の波が、怒涛の勢いで押し寄せて来てんだもん! このままじゃマジで突破されるぞ!

雪ノ下は憎々し気顔で指示を出した。

「くっ! 各自、斬魄刀を―――」

恐らく、『始解しろ』と言いたかったのだろう。だが不幸な事に、丁度その時、よりいっそう虚の勢いが増し――

「きゃ!」「うお!」「うわ!」

俺達前衛の三人は、押しつぶされる形で奴等の進行を許してしまった。

遠慮土足が死覇装越しに俺の身体を踏みつける。痛い! けど、軽い奴らで良かった!

「この、汚ねえ足で踏んづけてんじゃねえよ・・・!」

ドテドテと大きな足跡を間近で聞きながら、俺は斬魄刀に霊圧を込めた。

 

「引き込め『陰浸』!!」

 

名を呼び、斬魄刀を解放する。

一条の黒い影が虚の群れから天に突き出し、余波で吹っ飛ばされた虚共をその影で薙ぎ払った。

『ぎゃああああああ!!』

数体の虚が霧散する。

俺の斬魄刀の名前は『陰浸』。名前見れば大体察しが付くと思うが、能力は影を操る事だ。

『てめえ! よくも同胞を!』

一体の虚が俺に向かって来た。割とデカイ。特に両腕が巨大だ。俺は再び陰浸に霊圧を込める。

俺の脳天を勝ち割ろうと迫って来た強靭な拳を、影のシールドを作り受け止めた。まあ、結構ヒビ入ったけど。

『なッ!?』

虚が驚きの声を上げる。この太腕だ腕力には自信があったのだろう。

さかし、残念だったな。俺はお前の攻撃を防いだが、陰浸の真価は防御力じゃない。汎用性の高さだ。『攻撃』、『防御』、『拘束』、『止血』と様々な事をそつなくこなす事が出来る。そして、なにより――――『拘束』の応用でこんな事も出来る。

俺は陰浸で影を伸ばし、奴の太腕に絡ませた。困惑顔をする虚。俺は伸ばした影を鞭の様に振り回してソイツを投げ飛ばした。霊圧が膨れ上がった雪ノ下の元へ。

『ぐおおおおおお!??』

そんな叫び声を上げながら投げ飛ばされて来る剛腕虚に、一瞬驚いた顔を見せた雪ノ下は、しかし直ぐに冷静さを取り戻し、流麗な声を奏でた。

 

「降り積もれ『白吹雪』!」

 

ピキイイン。そんな音と共に周囲の気温が低くなる。雪ノ下の刀の刀身が霜つき、ぐるぐると吹雪を纏う。

「はあ!」

振り払われた刀から巨大な吹雪が放たれ、俺が放り投げた敵もろとも周囲の敵を一蹴した。

しかも、少し離れた位置にいた虚も霜つかせて動きを止めてくれたので、後始末が凄い楽。てか、マジでいいなあの斬魄刀。攻撃と拘束同時にこなせるとか、超高性能じゃん。だって、もし敵倒せなくても動き封じられるんだろ? それって助かる何てもんじゃねえぞ、MVPもんだよアシストの。はあ、俺も氷雪系の斬魄刀が良かった・・・。

「ちょっと、比企谷八席、どういうつもり? いきなり虚を投げて来るなんて」

「いや、俺の始解じゃデカイ相手だとちょっと攻撃力不足なんで」

そう、俺の斬魄刀は様々な用途に使えるが、各自の性能自体は高くないのだ。あの虚の攻撃一発で盾にヒビが入った事からもそれは分かるだろう。そして、攻撃力はそんな防御力よりも低い。

つまり、俺の斬魄刀は、良く言えば万能タイプだが、悪い様に言ってしまえば器用貧乏なのだ。

「はぁ、そんな理由で上官に虚を投げ飛ばすなんて、全く貴方は・・・」

あの、雪ノ下さん。そんなこめかみ押さえないでくれません。それ、下位席官達がやらかした時と同じ仕草だから。なに? 俺アイツ等と同レベルなの?

なんて思っていると、雪ノ下はこめかみから手を離し、

「まあ、良いわ。もし、卑屈で陰湿な虚と相対した時は貴方に丸投げさせて貰うから」

え、何それ、どういう事?

「だって、卑屈者同士、対処の仕方が分かるでしょ?」

ニッコリと、雪ノ下はそう言い放った。おい、良い笑顔で言うな良い笑顔で!

 

だがまあ、確かにそうだな。俺はそんな奴等のやりそうな事を熟知している。卑怯な事させたら俺の右に出る奴はいないだろう。仕方ない、ここは俺が引き受けてやろうじゃねえか。

「了解、承りましたよ。雪ノ下五席」

 

なんて答えた時には彼女は既に戦闘を再開していて・・・

 

「ん? 何か言ったかしら?」

 

「・・・いえ、なんでも」

 

 

 

ああ、悲し・・・。

 


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