やはり俺が護廷十三隊隊士なのは間違っている。   作:デーブ

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第一話  比企谷八幡は雪ノ下雪乃に引き合わされる

俺の名前は比企谷八幡。

護廷十三隊で八番隊に所属する死神だ。見えないだろうが、一応中級席官である八席の地位に就かせて貰っている。

そして、超一級のエリートボッチでもある。つまり俺は、彼女いない歴ならぬ、友達いない歴=歳を地で行く男なのだ。え? 彼女? 友達いねえ奴が出来る訳ねえだろ・・・。

プライベートで人にあいさつされた事すらねえのによ・・・。

しかし、別にソレは良い。紛いなりにもそこそこの地位にいる俺だ。当然、隊舎で隊員とすれ違えば挨拶される。どんなに嫌な奴やどうでも良い奴でも、上司なら挨拶しないわけにはいかないだろう? それと同じだ。

例え、超第一級のエリートボッチでも偉ければ人と交流できるのである。

こんな風に

 

「あ、お早うございます」

 

「ん、おはよ」

 

「ひッ!?」

 

・・・・・・・・。

俺の顔を見た途端、彼はビビって去って行ってしまった。

だが、まあそれは仕方がない事だと思う。何故なら、今日の俺は、鏡を見た俺自身すらビビらせるほど目が腐っているのだから。

ホントもう、隈がひどくて呪われるんじゃねえのって思うレベル。

なんでそんな状態になってしまったのかと言うと・・・、まあ、単に寝不足なだけなんですけどね。

「ふあぁ」ほら、欠伸出た。

昨晩は就寝時間が遅く、つーか最早今日の朝布団に入ったので四時間ぐらいしか寝ていない。暗殺任務なんつー神経すり減らす任務した後なのにも関わらずだ。

どんなに寝たのが遅くても、勤務開始時間は待ってくれない。

当然と言っちゃ当然だが、だったらあんな夜遅くまで付き合わさせるなよと殺意が湧く。

え? 誰にだって? そりゃお前、昨日、俺を夜遅くまで付き合わせたアイツに決まってんだろ。

そんでもって、俺に不満を抱かせた張本人が、今、廊下で向かい合わせに俺の前に立っているもんだから、マジで怒りのポルテージMax。

 

「や、眠そうだね比企谷。今、良いかい?」

 

そう言って、朝のリア充スマイルで俺の身体を滅ぼそうとして来るのは、俺の寝不足の原因を作った十番隊第六席の葉山隼人だ。

もう、しばらく顔見たくないからホントどっか行ってくんないかな。

俺は仏頂面で尋ねる。

 

「・・・何の用だ?」

 

「昨日の事後報告だよ。合同任務だったんだから当然だろ?」

 

まあ確かに、俺はお前のわがままに付き合わされた訳だし? 当然事後報告聞く権利はあるってもんだけど? でもぶっちゃけどうでも良いんです興味ないんですハイ。

 

「別にいらねえよそんなもん。お前、忙しいんだろ? 律儀に報告に来なくても良いんだぞ」

 

「そういうわけにもいかないさ。それに、忙しいのはお互い様だろ? 二人共そこそこ上の位の席官なんだから」

 

「そこそこは俺だけだっつの。完全上位のお前と一緒にすんな」

 

俺はまだ八席。中位席官だ。まだそんなに忙しくない。うん、結構な頻度で他の隊の手伝いに駆り出されてる気がするけど全然忙しくない。そして、これ以上席次上げたくない。絶対過労死するから。

なんて事を考えていると、葉山が報告を始めた。

ぶっちゃけ殆ど聞き流していたが、葉山も特に咎める事なく、形式的な事後処理を終える。

 

「じゃ、俺は隊舎に戻るよ」

 

もう一度さわやかリア充スマイルを発動させると、踵を返し、葉山は去っていった。

 

「ふう・・」

 

小さくなっていく葉山の背中を見届けて、俺は思わず溜息を吐いた。

葉山は去った。これでようやくこの案件が片付いたという事だ。

あー、疲れた。と背伸びをする。その時だ。不意に隊士たちの色めき声が聞こえて来た。

 

「きゃあ、葉山六席よ!」

「かっこいい!」

「わ! こっちむいたー!」

 

女子がイケメンを見た時特有の黄色い声である。実際どうか知らないけど、声だけ聴くとスッゲ―偏差値低いよね。

と、そんな高い声の合間を縫うように聞こえて来る声がもう一種類。

 

それは図らずも、昨日俺と葉山で倒したあの男の捨て台詞と同種のモノだった。

 

「葉山さん、なんでヒキタニなんかと・・・」

「どうせヒキタニが媚び売ったんだろ」

「たく、ほんと卑怯な野郎だぜ」

「なんであんな奴が八席なんだよ・・・」

「インチキして伸し上がったって、専らの噂だぜ」

 

おいおい、随分な言われようだな。

インチキも何も、お前等が俺が虚倒すトコ見て無いだけじゃねえか。

つーか、戦闘中に味方に存在認識されないって、ステルスヒッキー凶悪すぎない? そのうち幻の六人目とか言われるまである。 ・・・いや、ないか。

 

俺は悪口を聞き流しながら廊下を歩き出した。俺ぐらいのボッチになると、最早この程度で傷ついたりはしないのである。

やべえ、悪口に動じないとか超クールじゃん。俺カッコいい。なんでモテないんだろ? 

ボッチだからですねハイ。

 

と、まあ、そんな事はどうでも良いとして、お前等に1つ言いたい事がある。

さっきからちょいちょい名前出るけど・・・、ヒキタニって誰よ? もしかして俺の事? 

比企谷な。『比企谷八席』。

つーかヒキタニ言ってるの殆ど俺より下位の奴じゃねえか。

部下に名前覚えて貰えないとか俺どんだけ人望無いの? テラ悲しい。

 

悲しい事実を再認識しつつ、俺は八番隊舎の廊下を突き進み、目的の人物を探し当てた。

探し人は、資料室にいた。

 

「平塚先生」

 

「ん? お、比企谷か。どうした?」

 

そう言って振り向いたのは、俺の霊術院時代の恩師であり、上司でもある八番隊第五席の平塚静だ。流石に美人だけあって、『声を掛けられて振り返る』といった、なんてことない挙動でも絵になる。

俺はそんな美人上司に持ってきた書類を手渡した。

 

「一昨日頼まれた資料ッス」

 

すると、先生は「おお!」っと顔を輝かせ、受け取った資料に目を通し始める。

どうやら不備はなかったようで、うんうんと頷いて見せると俺に労いの言葉を投げかけた。

 

「ご苦労だったな、比企谷。君の仕事の早さにはいつも感心するよ」

 

「どうも・・・」

 

先生の言葉に短く返す。それで話が終われば良かったのだが、どうやら平塚先生はまだ俺を開放する気はないらしい。

 

「そういえば葉山から聞いたぞ。昨日、十番隊の任務を手伝ったんだってな」

先生の言葉に俺は驚いて目を見開いた。

アイツどんだけ自分の隊の不祥事暴露してんの? 隊長さんにブッ飛ばされても知らねえぞ・・・。

まあ、それだけ平塚先生の事を信頼してるって事なんだろうが。

実際信頼できる人ではあるけれども、ちょっと俺には理解できませんわ、アイツの神経が・・・。

 

「まあ、とどめ刺したのは葉山なんで、働いたのは殆どアイツですけどね」

 

俺が何となしにそう言うと、意外にも先生は食い掛かって来た。

 

「しかし、標的の尾行は君が行ったんだろう? 君だって十分任務成功に貢献したさ」

 

「尾行だけッスよ、俺がやったのは。今回の任務は暗殺。つまり、標的を殺す事が目的でした。任務に貢献したのは間違いなく葉山ですよ」

 

「任務の貢献度は結果だけで決まるモノではないさ。その結果に至るまでの過程が一番大事なモノだと私は思うよ」

 

「・・・綺麗事ですね」

 

それは本当に綺麗事だ。

 

思わず低い声が出る程、先生の吐いたセリフは希望論だった。

霊術院時代はそれでも良かっただろう。

しかし、俺が席を置いているのは護廷十三隊。結果だけがモノを言う瀞霊廷守護のプロの世界だ。

『任務に失敗しても、良い働きをしたから良し』なんて半端な事は許されない。

つまり、『葉山隼人が敵を斃した』という結果を導いた、『比企谷八幡が敵を尾行した』という過程は、なんの意味も持たないのだ。

そんな事は先生も良く分かっている筈。俺なんかよりもずっと長く、この世界に身を置いているのだから。

にも関わらず、そんな言葉を吐くのは、教師という仕事に毒されてしまったからなのだろうか? それとも、俺に気を使ってくれたのか・・・? 多分後者だろう。

 

「君は本当に捻くれているな」

 

彼女の顔には、不満そうな表情が張り付いていた。

 

「そうっスか? 過程より結果が優先されるなんて当然の事でしょう」

 

「それは極論と言うモノだよ。確かに君の言うような側面がないとは言わない。しかし、全てが全て、君の考え通りだとは思わない事だ」

 

先生は決して怒っているわけではなさそうだった。しかし、紡がれた言葉が抽象的過ぎて、どうにも先生の言っている意味が掴めない。

そんな俺を見かねた様に、先生はそっと、俺の頬に手を当てた。

 

「君の頑張りを評価したいと思う者もいると言う事だよ」

 

聞き様によっては扇情的事を言っている様にも聞こえなくもないその言葉に、俺は内心ドキッとする。

ソレを悟られないよう、俺は憎まれ口を返した。

 

「誰です? その酔狂な人は」

 

平塚先生はハアッとタメ息を零す。

 

「ここまで言ってもそんな言葉を口にするか。どうやら君は、本当に霊子一つ一つがひん曲がっているようだな」

 

アレ? なんかいきなり辛辣じゃね? さっきまで割と褒めてくれてたのに。

 

「仕方がない。付いて来たまえ」

 

ピシャリと言って、平塚先生は悠然と歩き出した。

 

「え、ちょっと」

 

「どうせ八席の君に、早急に取り掛からねばならない大きな仕事は回って来ないだろう?」

 

「いや、まあそうですけど・・・」

 

「だったら黙って付いて来たまえ!」

 

暴君か! なんだよ、せめて何処行くかとか、これから何するかとか教えてよ! 怖いから! 

そんな俺の心の叫びも無論届かず、先生は結局何も言わずにズンズンと歩いて行ってしまった。

俺も一応組織の人間。上司の命令に逆らえるはずもなく、訳も分からず先生の後姿を追いかける事しか出来ない。

背中を追いかけるって字面だけ見るとなんかカッコいいけど、結局社畜精神刷り込まれてるってだけなんだよね・・・。

 

俺達がやって来たのは、なんと六番隊隊舎だった。

四大貴族の一角を担うあの朽木家の現当主が隊長を務める六番隊は、隊長の気質が反映され厳格な隊として有名だ。

ぶっちゃけ、護廷十三隊入隊時に六番隊に配属されなくて良かったとホッとしたのを覚えている。だって、先輩達怖そうじゃん。

そんな、お堅いイメージで凝り固まった六番隊の隊舎に、今俺達はいる。

うわあ、超帰りてぇ・・・。何か柱一つ一つが厳格に見える。で、厳格な柱って何よ?

 

「平塚先生、体調悪いんで早引きして良いですか?」

 

「ハハハ! まだ夜は始まったばかりだぞ、比企谷」

 

「いや、まだ朝ですよね?」

 

話し噛み合ってないよー、やだよー、帰りたいよー。

心なしかすれ違う隊員たちの顔つきも厳格で、その鋭い双眸によって厳格に睨まれてる気がする。もう何言ってるか分かんねえな、コレ。

まさに蛇に睨まれた蛙状態だ。ゲコ。

ていうか、平塚先生、なんでアンタ涼し気に歩いちゃってんの? 六番隊士さんの放つ厳格なオーラ意に介してないの? 最強なの?

あ、そっか。先生蛙じゃないんだ。立派な死神さんなんだ。じゃあこの重圧、俺しか感じてないんだな。納得。って、納得しちゃうのかよ。

 

「さて、ここだ」

 

平塚先生が、くだらない事を考えていた俺の意識を引き戻す。

そこは、六番隊の部屋の一室である様だった。何処の隊にも無数にあるであろう、平凡な部屋である。ここで一体何をすると言うのだろうか?

 

「入るぞー」

 

一言断ると、相手の返事を待たずに先生はドアを開けた。

木製のフローリングに、中央に置かれたテーブル、ソレを囲むように置かれた椅子以外は特に内装もない、いたって平凡な空間が現れる。

中には椅子に座って本を読んでいる少女が一人、ポツリといるだけだった。

 

「ん?」

 

来客に気付いた少女は本を机に置き、此方を向く。先生に負けずとも劣らない、その壮絶な美貌が露わとなった。

 

「平塚五席。入る時はノックをしてくれと、何度も申し上げた筈ですが?」

 

しかし、お姫様の様な顔立ちとは裏腹に、発せられた声音は冷たく厳しい。コイツの斬魄刀、絶対氷雪系だわ。(名推理)

 

「ノックをしても君は返事をしないじゃないか」

 

「返事をする前に平塚五席がドアを開けるんです」

 

先生に堂々と苦言を呈すと、今度は冷めた瞳で俺を捉える。

 

「それで、そこのぬぼーっとした男は?」

 

 

「八番隊の比企谷八幡八席だ」

 

「ど、ども・・・」

 

いきなり振られたのと、少女が美人という事で、対人能力が極端に低い俺はそんなコミュ障みたいな返ししか出来なかった。

おいそこ、コミュ障みたいじゃなくてマジモンのコミュ障だろとか言うな。

 

「で、こっちが六番隊の雪ノ下雪乃五席。流石に君も彼女の事は知っているんじゃないか?」

 

「ええ、まあ・・・」

 

平塚先生の言う通り、俺は彼女を知っている。というより、彼女の事を知らない奴の方が少ないだろう。

六番隊第五席・雪ノ下雪乃。

霊術院時代の成績は座学・実技共に常にトップ。

入隊と同時に席官入り確実と謳われた、上流貴族・雪ノ下家の才女だ。

実際、入隊と同時に第十六席に取り建てられ、高い能力をいかんなく発揮し、今や上級席官の五席様である。

これは同期で一番の電撃出世だ。

その美貌と家柄、そして名に恥じぬ確かな実力も相まって、雪ノ下は十三隊の中でも屈指の有名人なのである。

かたや俺は同期の中でも出世率、実力ともに平凡なステルスヒッキー。認識されない事においては他の追随を許さない影の実力者だ。・・・ホントに実力あったら良かったのにね。

ああ、何か言ってて悲しくなってきた。

と、まあ、ざっと挙げただけでも俺と雪ノ下はこんなにも違う。

そんな対照的な俺達を引き合わせて、先生は一体どうするつもりなんだろう?

 

「実は、雪ノ下は有志で奉仕活動なるモノを行っていてな。比企谷、君もそれに加わり給え」

 

へ?

俺は耳を疑った。

 

「いや、初耳なんすけど、なんスかそれ?」

 

尋ねると、先生はいけしゃあしゃあと答える。

 

「奉仕活動は人の手助けをする素晴らしき活動だ。奉仕に触れ、心を清め、その捻くれた性根を叩き直すと良い」

 

「は!? ちょ、意味が分からん! 性根直す事と奉仕活動になんの繋がりがあるんスか!?」

 

「問答無用! 上官命令は絶対だ!」

 

「聞いたことねぇよ! こんな私利死滅な上官命令! 奉仕活動が素晴らしいから性根が直るってこじつけも良いトコじゃねぇか!」

 

必死に反論するも、平塚先生はこれ以上の異論反論抗議質問口応えを認める気はないらしい。

 

「うるさいぞ! 八席ならそう頻繁に大きな任務は入らないだろう。奉仕活動の片手間に通常業務もこなせる筈だ」

 

いや、こなせるこなせない以前に俺の人権思いっきり無視してない? 俺の意思総スルー?

 

「では後は頼んだぞ、雪ノ下。コイツの腐った性根を叩き直して、まともな死神にしてやってくれ」

 

「それは、彼の直属の上司である貴女の役目だと思いますが・・・」

 

そうだ、まだ望みはある。雪ノ下が先生の頼みを拒否すればいいのだ。そして、今までの感触からすると、多分雪ノ下は断る。だって、俺を見るコイツの眼差しマジで絶対零度なんだもん。凍てついてるんだもん。

 

「他ならぬ平塚五席の頼みなら仕方ありませんね。霊術院時代、とてもお世話になりましたから」

 

え? て、おい、ここは断る流れじゃないのかよ!?

 

俺は反論しようとするが、次の雪ノ下の一言で全てが決定してしまった。

 

「誠に遺憾ではありますが、その依頼、承ります」

 

「嘘・・・だろ・・・」

 

 

 

こうして、まだギリギリましな忙しさを保っていた俺の八席ライフは、音を立てて終わりを迎えたのだった。

 


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