インフィニット・ストラトス~A new hero, A new legend~   作:Neverleave

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少し遅れて投稿。

全然話が前に進まないでござる。はよ、覚悟はよ。
私も見たい! 一夏の、変身!!

モチベーションアップのためにみなさん感想をください(乞食感)


連携

 ――東京都文京区――

   10:21 p.m.

 

「クソッ! あいつらマジで何考えてやがるんだ!!」

 

 バンッ!! と苛立ちをぶつけるように、杉田はデスクを叩く。声を荒げて怒りを露わにする彼に、その場にいた者たち全員が視線を彼に向けたが、誰一人彼を咎める者はいなかった。

 当然である。男女問わず皆、ここにいる者はすべて彼と同じく、上の対応に怒りを感じずにはいられなかったのだから。

 

「杉田さん、落ち着いてください。こうなってしまった以上、もう俺たちではどうしようもありませんよ……」

「……あぁ。悪かった、桜井……だが……」

 

 桜井に声をかけられ、一旦は冷静になる杉田。しかし、落ち着きを取り戻しただけであって、彼は未だにはらわたが煮えくり返りそうな気持ちのままだ。

 それもそうだろう。あれから何度も彼はIS委員会を説得しようと試みたものの、あちら側から送られてきた返答はいずれも『NO』だったのだから。

 

「……まさか、アラスカ条約を理由にして神経断裂弾の携帯を禁じてくるとは思っていませんでしたよ。確かに今回の事件でISを運用するってことは、ISを『兵器』として利用するのと同義ではありますけど……」

「いや、あんなのは建前だ。ドイツじゃ有事の際にとISの軍事特殊部隊が存在してるって話だし、アメリカじゃ競技用じゃなく、軍用のIS機体が開発されているらしい。それなのにただ兵器を搭載することをあっちが一方的に禁じてくるっていうのは、明らかにおかしな話じゃねぇか……」

 

 IS委員会の言い分は、アラスカ条約に違反するISの運用となるから、というものである。

史上最強の兵器とも呼ばれるISを軍事的なものとして利用することは、他国にとっては侵略の危機も同義。絶対数こそ少ないものの、その戦闘力はたった一機であってもありとあらゆる現代兵器を完封し、無力化するほどのものだ。

そんなものに、人間を遥かに超えた身体能力を持つ未確認生命体を殺傷する兵器など搭載しようものなら、いったいどんな化け物じみたものになるかわかったものではない。

日本に過剰な戦力が集中しないように、というIS委員会の意図なのだろうが……杉田と桜井は、そこに違和感を感じずにはいられなかった。

なぜなら、神経断裂弾は未確認生命体(、、、、、、)にこそ凄まじい効果を発揮するものの、IS兵器と比べれば火力自体はそれほど高いわけでもないのだ。

 

「神経断裂弾は、あくまで奴らの神経組織……それによってもたらされる異常なまでの再生能力を破壊し、殺傷するために作られたもんだ。人間に向けたりすりゃそれこそ一発で人を殺しかねない代物だが、そりゃ従来の銃火器はもちろん、IS兵器と比べりゃかわいいもんでしかない。むしろ競技用だろうが、IS兵器のほうがよっぽどおっかねぇ火力を持ってるもんだろ」

 

 無論、この事実を杉田は何度も委員会の者に説明した。しかし彼の必死の説得も空しく、相手は知らぬ存ぜぬと返答するばかり。こちらの話をきちんと聞いてくれているのか疑いたくなるような対応をされ、一方的に通話を切られてしまうようなことまでされた。

 結果として杉田は激怒。それも仕方のない話だろう、誰だってこんな扱いを受ければ怒りを抑えることなどできるはずがない。

 

「……やっぱり、委員会は未確認生命体とISを直接戦わせようとしているんでしょうか? そうでもなかったら、ここまで一方的に禁止するなんておかしいですよ……」

「…………」

 

 桜井の言葉に、杉田は何も返答することができなかった。

 桜井の言い分はこうである。彼らがISによる神経断裂弾の使用を頑なに拒否するのは、『ISのみの力で未確認生命体を倒した』という結果がほしいからではないか、と。

 女尊男卑と呼ばれている昨今の社会情勢であるが……実はここ日本におけるその風潮は、他国と比べるとまだ優しいほうなのである。

 社会における女性の権威上昇、女性による男性への虐め、パワハラなど、ある程度の影響こそ出ている。しかし裏を返せば、そこまでしかまだ影響はない(、、、、、、、)のだ。

 実際に他国の様子を見てみれば、女性であるというだけで男性よりも明らかに有利な条件や権利を与えられている国、ひどければ裁判でも相手が女性であるからという理由だけで男性側が不利になるなど、理不尽なケースが後を絶たない。しかし、日本はまだそこまで女尊男卑染まり切っているわけではないのである。

 

 理由は簡単。この国には25年前と12年前に、未確認生命体事件が発生していたからである。

 

「どうしても欲しいんでしょうね……『ISは未確認生命体だろうが倒せる』っていう言い分が……」

「……もしもホントにそれだけだったなら、さっさと委員会を解体するか幹部を全部挿げ替えるしかねぇぞ……」

 

 かつて、この国を襲った史上最悪の災厄。

 ありとあらゆる現代兵器が通じず、大量の死者を発生させた未確認生命体事件。その恐ろしさは今でも語り継がれ、恐怖の象徴として存在し続けている。

 ISが登場したのは、その事件が起こった後であり、故に未確認生命体と対決をしても勝てたという『実績』がないのだ。

 事件を解決したのは、彼らと同族でありながら人々を守るために戦った『男』の第4号であり、そして警官たちなのだから(クウガの正体は世間一般に知られていないものの、性別に関しては男性であるという説が有力となっている)。

 

 ――つまり、奴らはISの有用性を誇示したいのだ。

 こんなものは杉田と桜井の邪推でしかないが、そうだとしても理屈が通ってしまうほど相手の対応はあまりにもおかしい。

 

「……理由はどうあれ、こうなった以上……神経断裂弾は俺たち警官が扱うしかなくなった。奴らと戦う危険性はグッと高くなっちまったが、戦う手段がなくなったわけじゃない。それに、ISの兵器がまだあいつらに有効じゃないとわかったわけじゃないからな」

「そうですね……俺たちだけで、やれることをやるしかありません」

 

 確かに『ISによる神経断裂弾の運用』こそ禁止されたものの、『神経断裂弾の運用』そのものが禁止されたわけではない。それに杉田が言うように、ISの兵器がまだ通用しないとわかったわけではないのだ。

 最善の案こそ通らなかったものの、まだやれることはある。

 そう自分たちに言い聞かせ、決意を新たに行動を再開しようとする杉田と桜井。

 その時。

 

 

 

「失礼します。ここに、杉田課長と桜井係長はおられるでしょうか」

 

 

 

 唐突に発せられた声。

 名を呼ばれ、何事かと振り返る杉田と桜井。そこに立っていたのは、スーツに身を包む凛とした顔立ちの女性。腰に達するまで長い黒髪を後ろで束ね、鋭い目つきが特徴的な女性。

 その顔を見た途端、その場にいた全員が凍り付いた。

 それは、日本……いや、世界中に知らない人などいないほどの知名度を誇る人だったからだ。

 

「お、織斑……千冬……!?」

 

 ふと誰かが、その名を呟く。

 織斑千冬。ISの世界大会『モンド・グロッソ』において優勝を果たした、生きる伝説とも呼ばれる人物。優勝者にのみ贈られる二つ名『ブリュンヒルデ』の称号を持つ、名実ともに最強のIS操縦者と語られるその人であった。

 

「ああ、夜分遅くに申し訳ありません。ここに、杉田課長と桜井係長がいらっしゃると聞いたのですが、どちらにおられるでしょうか」

 

 丁寧だが、どこか威圧感を持つ口調。しかしそれを聞いた誰もが失礼とは思わず、むしろある種の納得を抱く。

 

「あ、ああ……私が杉田です」

「同じく、桜井です」

 

 呆然としながらも、杉田と桜井は彼女の言葉にハッとして名乗り出る。彼らの返答を聞き、視線を向ける千冬。捕食者を彷彿とさせる鋭い視線を受け、ごくりと唾を飲む二人。やがて千冬は口を開き、彼らに話しかける。

 

「私の愚弟……織斑一夏があなたたちにお世話になったと聞いて、お礼を申し上げたくて参上したしました。この度は、本当にありがとうございます」

 

 そう言うと、千冬は二人に向かって頭を下げた。

 二人は呆気にとられた。世界的な有名人が突然訪問したかと思えば、いきなり自分たちに向かって礼を言ってきたのである。二人の反応は当然と言えば当然であった。

 しかし、二人にとって衝撃的だったのは、千冬の訪問そのものよりも、千冬が放った言葉。すなわち――。

 

「え……ぐ、愚弟って……」

「……一夏君の、お姉さん……!?」

「ええ。織斑一夏は私の弟です」

 

 桜井の問いかけに、千冬はあっさりと肯定する。

 今度こそ二人は開いた口がふさがらなかった。『第4号と思しき者へと変身した少年』の姉が、ブリュンヒルデ。現実は小説よりも奇なりと言うが、突拍子がなさすぎて理解が追い付かない。

 そんな二人の心境をよそに、千冬は言葉を続けて放つ。

 

「……実は、お二人に折り入って話があってここへ訪問させていただきました。どこか個室でお話できればと思うのですが、お時間は大丈夫でしょうか?」

「え、ええ……今は見ての通り忙しく、部屋も取調室しかご用意できませんが……よろしいですか?」

「構いません」

 

 短いやり取りのもと、心中穏やかでないまま、空いている取調室へと案内する二人。その道中でもやはり、周囲は騒然としたものになる。理由は言わずもがな、千冬の存在だ。

 特に女性の反応は大きかった。何せ世界最強の称号を持つ彼女は、全女性にとって憧れの的なのだ。こんな縁もゆかりもなさそうな場所でお目にかかることができるなど誰も思っておらず、皆一様に目を見開いて驚愕の声をあげていく。中には千冬に走り寄って声をかける者もいたほどである(無論これからの話し合いがあるので、早々に切り上げてもらったが)。

 

「どうも申し訳ありません。うちの者たちが」

「慣れておりますので。職場でもああいう手合いの者はたくさんいますから……」

「ああ……なるほど」

 

 同僚や後輩たちが好奇の視線を向けることに謝罪する杉田だったが、どうやら本人からすれば珍しいことでもないらしい。自分たちと比べてこんな年若い女性が、注目されることに慣れているということに、何とも言えない感情を抱く杉田と桜井。

 部屋にたどり着き、三人がそれぞれ腰かける。最初に口を開いたのは、千冬だった。

 

「改めてお礼申し上げます。一夏を助けていただき、ありがとうございます」

「いえ……これが、我々の職務ですから」

 

 再び頭を下げ、礼を述べる千冬に対し、杉田は複雑な気持ちで返答した。

 名目上では自分たち警察が一夏を助けたものの、あの場にいた人々を助けたのは、一夏と言っても過言ではない。理由はどうあれ、第4号――いちいち『第4号のような何か』と言うのも面倒なので、もはやこう呼ぶことにする――に変身し、第50号と戦ったのは彼なのだ。警官こそ一人死亡することになったものの、逆に言えば『それだけの被害で済んだ』のである。彼がいなければ、更なる犠牲者が発生していたであろうことは想像に難くなかった。むしろこっちが助けられたようなものだ。

 しかしそんな事実を――もし一夏が彼女に話していなければ、であるが――彼女が知るはずもない。何とも言えない気持ちで言葉を受け取る杉田と桜井だったが、千冬は言葉を続ける。

 

「それで、ここを訪ねた要件ですが……単刀直入に申し上げます。私をこの未確認生命体事件に関わらせていただきたい」

「えっ!?」

 

 突然の申し出に、二人は肝を抜かした。

 なんと千冬自ら、この事件解決に身を乗り出したいと言ってきたのだから。IS委員会の対応を受けた直後の二人は、ISに関与する人物に対しあまりいい印象を持っていなかった。偏見とも取れる心情ではあるものの、あれほど悪辣な応対をされた後ならば、誰でも同じような気持ちにもなろう。

 そんな中、彼女は警察へ積極的に協力する姿勢を見せたのである。驚愕するとともに、猜疑心を抱かずにはいられなかった。

 二人の心中を察してか、千冬は再び口を開く。

 

「IS委員会が、未確認生命体事件についてどのような決断をしたかは私も知っております。そのため、このようなことを申し上げてもお二人は私を疑うかもしれません。その気持ちはお察ししますが、なぜこのようなことを申し出たかについて、信頼を得るためにも順を追って説明させていただきたい。よろしいでしょうか?」

「……ええ。お願いします」

「感謝します。まず申し上げておきたいのは、私個人として、IS委員会の対応はあまりにも問題を軽視しすぎたものだと思うところがあるのです。おそらくはお二人も同じ考えに至ったかと思いますが、あの頭の固い連中はどうもISの性能を誇示したがっている節がある。未確認生命体事件も、ISのみで解決できる……そう言うのは勝手だが、事は人命に関わる一大事で、私は納得がいきませんでした」

 

 淡々と千冬が口にする内容に、杉田と桜井は『そんなことをあなたが言っていいのか』という不安と、自分たちの気持ちを代弁してくれている爽快感とが入り交じった気持ちで聞いていた。

 自分たちと違い、ISに携わる……しかも、世界最強の操縦者である千冬の言葉である。その説得力は他者とは段違いであり、自分たちの認識が間違いではなかったと二人を納得させるには十分なものであった。

 

「そのことは、委員会には……?」

「もちろん進言しました。しかしそれでも奴らは姿勢を崩すことはなかった。どこまでISを過大評価しているのか……もしくは、未確認生命体を過小評価しているのかは知らないが、はっきり言って事態を軽んじているとしか思えない。一夏から、あなた方は25年間と12年前に発生した事件に関わっていたとお聞きしましたが……お二人とも、私と気持ちは同じであると推察します」

 

 千冬……世界最強のIS操縦者が進言しても態度を変えなかったという事実に、杉田と桜井は落胆する。

 どこまで奴らは自分勝手なことを言うつもりなのかと憤りすら感じたが、目の前の世界最強も同じ心中だという事実が彼らを落ち着かせた。

 説明する口調にも、IS委員会への苛立ちがちらほらと現れていることから、彼女が不満を抱いているのは確実だった。

 

「……正直、ISに関しては門外漢なので何とも言えませんが……不安がないとは言えません……ISの関係者として、あなたはどうお考えでしょうか?」

 

 杉田からの問いかけに、少しの間思案するように目を閉じる千冬だったが……やがて、彼女は開口する。

 

「断言します。ISのみで奴らを殲滅するのは不可能です」

 

 世界最強の操縦者の言葉。そこには、筆舌しがたい重みがあった。

 意気消沈こそした。しかし二人にとって、この返答はおおよそ予想がついていた。

事件前半に出現していた奴らこそ、ISは上手く立ち回れば善戦、勝利することもできるだろう。

 だが、後半からそれは困難なものとなる。途中から出現しだした、複雑なルールに則って殺人を実行するようになった個体……ほかの連中とは一線を画す戦闘力を誇る未確認に、ISが対抗できるかどうか怪しかった。

それに極端な話……ISと未確認生命体第0号が戦うことができるとは思えない。

 

 ――未確認生命体第0号。それは25年前に発生した、未確認生命体事件の元凶。すべての始まりであり、諸悪の根源。

 長野県にて発見された古代遺跡。そこを調査団が暴いてしまったがために、遺跡に封印されていた第0号は復活し、現代に未確認生命体が出現することとなった。

 およそ三万。

 それが25年前の事件の最後に出現した第0号……奴によってもたらされた犠牲者の数である。

 それまでに出現した未確認生命体たちにより発生した犠牲者の数は、数千人。この犠牲者数は、如何に奴がイかれた存在であるかを示す数値だった。

 何より特筆すべきは、その戦闘力。これまで出現してきた未確認生命体を打倒してきた第4号を……文字通り一瞬にして蹴散らしてしまったのである。

間違いなく、奴らの中で最強と呼べる存在。そんな奴と、ISが戦って勝てるかどうか。

 ハッキリ言って、二人も勝てるとは到底思えない。

 

 そうしたことから、千冬の言葉に得心する杉田と桜井だったが……同時に、彼女の発言が妙だと感じた。

 

「……すみません。一つお聞きしたいのですが……ISはともかくとして、未確認生命体に関して、あなたはどうしてそう断言できるのでしょう? 何か、根拠があるのですか?」

 

 確か彼女は、まだ24,5の年齢だったはず。未確認生命体事件が発生した時はまだ生まれてすらおらず、12年前の事件でも12,3歳の少女でしかなかったはずだ。

事件に関与などできるはずがない。なのに、そこまで彼女を言いきらせる理由とはいったい何なのか。

 まるで彼女の言葉は……自分たちと同じ、『実際に奴らと対峙してきた者』のような響きがあった。

 なぜそんな風に聞こえるのか。気になって訊ねかけた桜井だったが……。

 

 

 

「……………………」

「……千冬さん?」

 

 

 

 ふいに、千冬が口を閉ざし、瞑想するように目を閉ざす。気になって声をかけた桜井だが、その言葉は千冬には聞こえていなかった。

 

 

 

 目を閉じた千冬の瞼に映る光景。

 おびただしいほどの死体。血塗られた地面と壁。警報ランプの光も相まって、映る光景すべてが赤く染まる。

 けたたましいほどのアラーム音。自分の乗る『暮桜』が次々とアラートを発し、危機的状況であることをひっきりなしに伝えてくる。

 ズタズタにされた機体。ボロボロになるまで痛めつけられた自分の肉体。

 その目に映る、異形の姿。己が耳が捉える、魑魅の声。

 

 

 

 ――ねぇ。こんなので、終わり?――

 

 

 

 神々しいとすら感じる、洗練されたフォルムと圧倒的な力を持つ存在。

 対峙するだけで、『生きる』ことを諦めかけてしまった殺意。

 ほぼ全快状態だった自分の機体を、たったの一撃で粉砕した怪物。

 自身が放った渾身の一撃を受けて、傷一つ付かなかった化け物。

 

 

 

 ――つまんないなぁ……君がリントで一番強いって聞いてたのに……――

 

 

 

その声には、退屈の色だけしかなかった。その声には、殺し合うことを求める狂気の響きがあった。

 ただ、人を殺すために。ただ、あらゆるものを破壊するためだけに生まれた存在。

 理由も何もなく。ただ全てを粉々に打ち砕くことのみに愉悦し……本能のままに、無邪気に振る舞う魔物。

千冬の目に今も焼き付いている――金と純白を身に纏う、四本角の怪人。

 

 

 

 ――もっと強くなって、もっと僕を笑顔にしてよ――

 

 

 

 

 

「――私なりに過去の事件を調査してみましたので。データとISの性能を鑑みての結果にすぎません」

「……はぁ……」

 

 千冬の言葉に首をかしげながらも、一応納得する杉田と桜井。これ以上聞こうとしても、おそらく彼女は何も言ってはくれないだろう。なら、根掘り葉掘り尋ねるのはお互いにとっていいことはない。

 

「話を戻させてもらいましょう。先に言った通り、私はISによって奴らを一網打尽にできるとは考えていない。奴らを倒すための武器――神経断裂弾は、いずれ確実に必要となる。そのためにも警視庁の方には協力を仰ぐしかないのです。お互いの連携は被害を最小限に抑えるために必要不可欠。出し得る限りのものを出して、戦うしかない」

「……そのために、最強の搭乗者であるあなたが名乗り出た……と?」

「仰る通りです」

 

 千冬の言葉を聞き、なるほどと頷く杉田と桜井。

 再び最大の脅威と相対するためには、出し惜しみなどするわけにはいかない。蘇った未確認生命体と戦うための、現状出し得る最強の戦力は、神経断裂弾を除けば千冬しかない。

 

「しかし、よろしいのですか? あなたの現在の立場は確か……」

「IS学園の教員、ですか?」

 

 杉田の疑問を察して、続きを口にする千冬。この策に関して問題となるのは、彼女の現在の立場。IS学園の職員ということだ。

IS学園とは、アラスカ条約に基づいて日本に設置された、IS操縦者育成用の特殊国立高等学校。操縦者に限らず専門のメカニックなど、ISに関連する人材はほぼこの学園で育成される。また、学園の土地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという国際規約があり、そこに属する千冬が警視庁……日本国に干渉するというのは、果たして承諾されるのだろうか。

 

「心配はご無用。IS学園はある種の島国と化しているとはいえ、交通機関を使えば日本からこちらへ来ることなど簡単にできる。それはつまり、IS学園も奴らの標的になり得るということ。そこを突いて、生徒と施設の安全のためにという名目で申請すれば、上も無碍にはしないでしょう……言いづらいことですが、私の専用機はとある事情から徹底的に破壊され、利用ができなくなってしまいまして……施設のものを拝借するしかないのですが、そこもなんとかなるでしょう」

「なるほど……」

 

 確かに、自分たちも危険に晒されるというのならば、中立の立場である学園側も動かざるを得まい。得心した杉田は、これならば協力を得ることができると思った。思わぬところでこんなにも頼もしい人物から助力を得ることができるなど、想像すらしていなかった二人からしてみれば、この提案は棚から牡丹餅。諸手を挙げて喜ぶべきことである。

……ただ一つの、問題を除いて。

 

(……この人が一夏君の姉でさえなけりゃ、なぁ……)

 

 織斑千冬が気づいていない……いや、知らなくて当たり前だが、この案には大きな懸念があった。

 それは、名乗り出た彼女が『第4号』である一夏君の姉であるということ。

あれほどまでに優しい性格をした彼だ。もし自分の肉親がこの事件に関わると知れば、彼はそれこそ戦いに身を投じることとなるだろう。

彼を巻き込むまいとこちらで対処しようとしているというのに、下手をすれば本末転倒の結果となりかねないのである。

 

「――わかりました。こちらとしても、あなたのような方の力をお借りすることができるのはとても有難い。是非に、と言いたいですが……こちらとしても、他者から助力していただく場合には、上の判断を仰がねばなりません。検討するためのお時間を、いただけますか?」

「構いません。私も学園の者たちを説得するために少し時間が必要となるでしょうから」

 

 決断しかねた杉田は、結局時間をもらうしかなかった。事は慎重に進めなければならず、考えなしに行動しようものなら最悪の結果を招く事態となる。それに実際、警察が他の組織の者から助力してもらうなら、自分たちで勝手に判断するわけにもいかない。上に話を通すしかないだろう。

 頭痛の種が増えてしまった。杉田はこれから解決すべき様々な問題を思い返し、そこに加えられた新たな課題を考え、内心嘆息するのだった。

 




すでにダグバと接触済みの千冬さん。ちなみにその時の戦闘のせいで暮桜は木っ端みじんに破壊され、現在も石像みたいになって凍結状態にあります。

まぁ……あいつと対峙して生きてるだけでもものすごい幸運なんですがね(白目)



もしIS世界とクウガの世界が同一で、こんな風に事件が再発したら、委員会の対応はこうなるんじゃないかな~どうかな~と思って書きましたが、いかがでしたでしょうか?

あと千冬さんの口調こんなんで大丈夫?
さすがにIS学園外なので口調とか丁寧になるかなと思ったけど違和感がハンパない。

感想お待ちしております。

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