インフィニット・ストラトス~A new hero, A new legend~   作:Neverleave

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これが年内最後の投稿になりそうです。

皆さま、よいお年を!



相変わらず推敲しない作者。反省って言葉を知らないんだね。


葛藤

 ――警視庁――

   6:05 p.m.

 

 未確認生命体事件が発生して、二時間ほどが経過した警視庁では、未だ電話がひっきりなしに鳴り響いていた。

 未確認生命体が出現したということの真偽の確認。

 未確認生命体らしき者を目撃したという情報。

 新たな未確認生命体出現における、警察の今後の方針。

 自分こそが未確認生命体である、次にどこどこで人を殺すなど、たちの悪い悪戯電話。

 

 一般人、マスコミ、現場の警察官……ありとあらゆる立場の人物から、様々な目的でかけられてくる電話は、この二時間の間止むことを知らず、対応する人間も軽くノイローゼになろうかというほどに疲弊していた。

 

「はぁ……今日は残業確定だな……」

 

 疲れた様子でデスクに座り、重々しい溜息を吐く一人の職員。いつまで経っても終わらない職務を前に、この人物も電話の着信音が軽くトラウマになりつつある。

 とはいえ、事は急を要することなのだ。何せかつて万単位の犠牲者を出した未確認生命体事件の再発である。しかも、出現した第50号は現場から逃走し、まだ生きているとの情報もある。こちらは現場の警察官から寄せられた報告であるから、信憑性は確かであろう。

 通報があったときに、自分が仕事をさぼっていたから新たな犠牲者が……などという事態はご免だ。こんなときだからこそ、より一層職務に励むべき……ということはわかっているつもりである。

 

 ――が。これはいくらなんでも多すぎだ。もう少し人員を増やして、交代制度などとってほしいというのが本心であったりもした。

 

「よう。精が出るな」

 

 そんなことを考えていた時。ふと背後から聞こえてきた声。続けざまに机の上に紙袋と缶コーヒーがポンと置かれたことに驚く職員。振り向いてみれば、そこには中老の刑事が笑顔で立っていた。

 紙袋の中を見てみると、そこにはこの近辺でおいしいと有名なパン屋のパンが数個入っている。刑事の方へ視線を戻せば、彼はサムスアップをして「差し入れだ」と言った。

 

「桜井係長……! もう戻られたんですか?」

 

 桜井 剛。彼もまた、25年前に発生した未確認生命体事件に立ち向かった、勇敢な刑事の一人であり……第4号の正体を知る、数少ない人物の一人である。

 

「ああ。未確認生命体事件に臨んだ刑事はとにかくこっちに戻れって指示があったんでな、他の刑事にヤマは預けてきた……杉田さんは?」

「杉田さんなら、取調室にいらっしゃるはずです……中学生二人と一緒でしたが、いったいなんなんでしょうかね? 事件の参考人でしょうか?」

「中学生二人……? わからんが、とにかくそっちに行ってみるよ。ありがとう」

 

 人づてに聞いた上司の行動に首をかしげながらも、桜井は職員に礼を言うとその場をあとにする。

 通路を歩き、杉田がいるという取調室前まで来ると、服装を正してドアをノック。「失礼します」と声をかけて扉を開けば、そこにはデスクを挟んで向かい合うスキンヘッドの老齢刑事と、件の中学生が二人。

 一人は長い赤髪にバンダナを巻いた、やんちゃそうな印象。もう一人は黒髪で、容姿の整った優等生、というような感じの学生であった。二人の制服姿を見て、桜井は被害があった東京都文京区近くにある中学校の学生であると理解した。

 老齢の刑事は桜井を見ると、その表情を綻ばせる。

 

「おお、桜井か!」

 

 歓喜の色をその顔に浮かべる杉田に、桜井も微笑みで返す。杉田はそのまま中学生と向き合うと、桜井の紹介をする。

 

「彼は桜井係長……25年前と、12年前に起こった未確認生命体事件で、俺と一緒に戦った後輩だ」

「桜井です」

「織斑一夏です」

「五反田弾です」

 

 それぞれが皆一様に挨拶をし、お互いの名を知ったところで、桜井は杉田に問いかける。

 

「ところで杉田さん、彼らはいったい……?」

 

 現場近くの学生であったこと、彼が桜井の紹介にあたって未確認生命体事件に関与していたことを伝えたこと。それらから、被害にあった子供たちかと推測しながら、桜井は杉田に疑問を投げかけた。

結論から言うと、彼の推測は当たっていると言えば当たっているのだが……しかし、杉田は桜井の言葉を聞くと途端に苦々しく表情をゆがめた。

 言い出そうかどうか、思い悩むように口をもごもごさせる杉田であったが……やがて決心したように口を開く。

 

 

 

「……赤髪の彼は犠牲者になりかけた学生……いや、二人ともが被害を受けているのに違いはないんだが……もう一人の彼は、第4号だ」

 

 

 

「……えっ?」

 

 あまりに予想外な返答を耳にした桜井は、思わず目を見開いて黒髪の少年を見つめる。視線を受けた少年は、ばつが悪そうに肩をすくめていた。

 

「ちょっと待ってくれよおっさん。まだこいつのこと第4号だっていうのかよ。こいつは絶対違うって」

「いや、わかってはいるんだ。俺も第4号を知ってるし、彼じゃないこともわかってるんだが……どうにも他に伝えようがなくてな」

「え、え、ええ? す、杉田さん、彼は、その……ええ?」

 

 赤髪の少年が否定し、第4号だと言い放った上司が肯定とも否定とも取れない曖昧な解答をする始末。そして桜井自身、25年前に戦った第4号の正体を知っているだけに、いったいどういうことかと混乱するしかなかった。

 

「……俺も今しがた知ったばかりで何が何だかわかってないんだ。まずは何があったのかを知らなくちゃならないだろう。すまん、織斑君、五反田君。もう一度、何があったのか説明してくれないか」

「……わかりました」

 

 杉田からの懇願に、一夏は承諾して説明した。

 自分が学校帰りに遭遇した、薔薇のタトゥーの女。

 彼女からされた、自分の中の何かをこじ開けられたような『何か』。

 想像を絶する苦痛を受けて気絶した後、弾に助け起こしてもらうまでに見た幻覚。

その後まもなく発生した、未確認生命体第50号の出現。そして、虐殺。

弾が犠牲者になりかけ、自身も殺されかけたその時……自身の肉体が、人ならざる者へと変化したこと。

――その戦いの途中、一人の警官が犠牲となったこと。

 

 

 

「……どう思う?」

「……なんと言いましょうか……あまりに自分の想像を超えたことが起こりすぎていて……」

「だろうな」

 

 一通りの説明が終わった後。杉田は率直な感想を桜井に求めたが、内容の濃さに彼は困惑してしまっているようだ。

 実際に杉田も、彼から話を聞いた当初は、桜井と同じように戸惑うばかりだったのだから、仕方のないことだろう。

 しかし、どれだけ途方のないことが起こっていたとしても、これは真実だ。

 現場へ駆け付けた警察官数名も、彼が第2号……白い4号の姿から、現在の人間の姿へと変化したところを目撃している。いきさつはわからずとも、彼が4号、あるいは4号に近いものへと変身できる人物であることには変わりない。

 彼は今回の事件において、非常に重要な参考人となる。杉田も桜井も、そう直感していた。

 

「織斑君……君は、なぜ自分の身体がその……そんな風になってしまったのか、心当たりはあるかい?」

「いえ、特に……あの薔薇のタトゥーの女……B1号、でしたっけ? 彼女から何かをされたってこと以外、本当に何もないんです」

「以前から4号として変身できたわけではないってことか……今度はあのB1号、いったい何を仕掛けてきやがったんだ?」

「自分たちにとって天敵とも言っていい第4号を……復活、とでもいえばいいんでしょうか……させるなんて。おかしいですよね」

 

 話を聞く限り、どうやら彼は今回初めて第4号……に類する何かへと変身を遂げたらしい。しかもその原因は、どうやら12年前の事件から再び姿をくらましたB1号にあるようだ。

 しかし、どうにも妙な話だ。桜井の言った通り、B1号が取った行動は自分たちの首を絞める行為でしかない。第4号は、古代にて行われたヤツらの殺戮ゲームを阻止し、現代における未確認生命体事件の発端となった第0号すら最終的に打倒した、いわば天敵。

 それを呼び覚ます動機が全く思いつかない。

 このことについては、今は考えていても仕方がないと判断し、杉田は次の質問へと移ることにする。

 

「君は……第4号を、知っているか?」

「…………知りませんけど……たぶん、この人だろうなって、人なら……」

「本当かい?」

 

 問いかける杉田の言葉に、一夏は弱々しく頷くことで肯定の返事をする。

 杉田と桜井はお互いに顔を見合わせると、再び目線を一夏へと戻した。やがて一夏は口を開き、その人物の名を紡ぐ。

 

 

 

「五代さん……五代雄介さん、ですよね……第4号って」

「…………」

 

 五代雄介。その名前が出てきたとき、杉田と桜井は沈黙したままだった。

 それは肯定とも否定とも取れない行動ではあったが……漠然とした感覚だが、一夏は確信した。

 彼が……五代が、4号だったのだということを。

 

「彼とは……五代君とは、知り合いかな?」

「……俺が小学生のころ出会った恩人で……俺に、たくさんのことを教えてくれた人です。一時は、一緒に生活していた時もありました」

「そんな人がいたのかよ、初めて知ったぞ」

「……中学に上がる時にゃあもう、あの人次の冒険に出かけてたからな。今もどこにいるのかは知らない」

 

 五代と一夏がかなり親密な関係であったことを知り、頷く杉田と桜井。一方で弾は寝耳に水といった感じで驚いていたが、それと同時に納得できるところもあった。この男の冒険好きは、その人からうつったのかと。

 

「すげぇ人とお前知り合いだったんだな。第4号っていえば、あの事件から25年経った今でも……インフィニット・ストラトスが世に出た今でも英雄って言われてる存在じゃねぇか。未確認生命体たちを……大量虐殺を行った化け物たちを、ぶっ倒した人なんだろ?」

 

 純粋に、称賛の言葉を贈る弾。

 かつて出現した50体以上もの未確認生命体。それらを悉く打倒した謎の戦士。

 正体はおろか、性別すら一般には知られていないその存在と、目の前の悪友は顔見知りだったというのだ。

 その言葉自体に、別に他意はなかった。

 だが……弾がそう言うと、取調室の空間には重い沈黙が漂い始める。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「……え? どうしたんすか? 一夏も、どうしたんだよ、おい」

 

 皆が一様に口を堅く閉ざし、視線を落とす。

 弾は何かまずいことでも言ってしまったかと、戸惑いを隠せないでいた。彼自身としては、特に何を考えるでもなく呟いただけだった。

 そんな彼を見て、杉田は口を開く。

 

「いや、すまないね五反田君……確かに君の言う通り、彼はたくさんの人々の命を救った、英雄なのかもしれない。それは私たち警察にとっても同じで、もちろん個人的にもそれは違いないと確信しているよ……ただ……」

 

 そこまで言われて、弾は察した。

 一夏が憧れた、五代雄介という人間。彼が、一夏に大きな影響を与えたというのならば……彼にうつった……いや受け継がれたものは、それだけではないのではないか。

 織斑一夏という人間が持つ、冒険好きという性格以外の、もう一つの一面。

 

「――織斑君。君は本当に五代君のことをよく知っている。それに、とてもよく似てる……そんな君なら、わかるんだろう? 彼が、自分のしたことを、どう思っているのか。君も数時間前に、同じような境遇に立たされたんだから」

「…………」

 

 柔らかな、優しい口調で、杉田は一夏に問いかける。一夏は何も答えなかったが、その沈黙を杉田は肯定と捉えた。

 なぜならば。うつむいている彼の表情は、とても暗く。後悔の色で染まり切っていたのだから。

 

「当時の俺たちは、無力だった。奴らを相手に戦う術もなく、止める手段すら持っていない。唯一頼れるのは、警察でもなんでもない、ただ偶然にも力を手に入れた市民。戦うことは全部彼に任せて、俺たちはただサポートすることしかできない……歯がゆかった。しかし同時にどこかで安堵していた……何があっても、どれだけ叩きのめされても立ち上がる彼を見て、思ってたんだ……『ああ、彼がいるならどうにかしてくれる』ってね」

 

 一夏と弾は、口を挟むことなく、杉田の言葉に聞き入っていた。

 彼のその言葉に乗せられていた、かつて肩を並べて戦った者としての思い。それに口を割って入ることなど、許されないような気がした。

 そして一夏は、知りたいという気持ちもあった。かつての五代を間近で見ていた杉田から、彼のことを……そして、杉田自身のことを、もっと知りたいと思ったから。

 

「俺は、彼がどれだけ自分の行いで苦痛を感じているのかを、後々になって知ったんだ。いつものように、元気に振る舞って笑顔を見せる五代君……彼がその胸の中で、どんな思いが渦巻いていたかも、察することができなかった……彼は本当に、どこまでも優しい男だったんだ。未確認によって傷ついた誰か……奴らが笑いながら人を傷つけている様……そいつらから人を守るためには、殺すしかないという現実……それらを見て、人知れず嘆いていた」

 

 『暴力』。

 それは、かつての自分の恩師を、徹底的に傷つけた理不尽。

 未確認生命体は、己の愉悦のためだけに人をそれで傷つけた。そのために、多くの人が大切な人を亡くして、悲しみの涙を流した。

 その涙をこれ以上流させないために、彼もその手段を取るしかなかった。

 繰り出すその拳一つ一つに、身を引き裂かれるような痛みを感じながら。

 人知れず、その仮面の下で……涙を流しながら。彼は、ひたすらに苦痛に耐えるしかなかった。

 一夏には、わからなかった。ほんの短い時間、自分もその位置に立ったからこそ、理解できなかった。

 殴った後に去来する虚しさ。自身も殴られる悲痛さ。人が目の前で死んでいく、無残さ。

 それをどうして、最後まで続けることができたのか。

 彼には……まだ、わからなかった。

 

 そんな彼の思考を読んだように、桜井は一夏に向かって語り掛ける。

 

「一夏君。経緯はわからずとも、君も確かに、彼と同じ力を手に入れたんだろう。それは確かに奴らと戦うことのできる、貴重な力だ……だが、君の心は優しすぎる。そのために君が自分の心を犠牲にする必要はもうないんだ。俺たちは、すでに奴らと戦うための武器を手に入れている。そんなことは……俺たち刑事に任せてくれればいい」

 

 一夏は、戸惑った。

 『戦う』か。『逃げる』か。選択を迫られている中、逃げてもいいのだと、告げられたのだから。

『戦う』ことを選んだ先に、何が起こるのか。彼はすでに、知っている。知ってしまっている。

 彼が見た、あの幻覚。あれと同じことが……下手をすれば、もっと悲惨なことが……未来で、起こり得るかもしれない。

 それは普通の人からすれば、救いの言葉のように聞こえただろう。数時間前に聞いていたならば、その選択を選んでいたかもしれない。

 

 だが、『逃げた』先のことを……彼は、見てしまった。

 自分が人を殺せる拳を振るうことをためらったせいで起きた……一人の人間の犠牲。

 その前に起きた、第50号による大量殺人……人をおもちゃか何かのように蜘蛛の糸で捕まえ、何のためらいもなく殺していく様を。彼は、目撃してしまった。

 そんな彼にとって、桜井の言葉は、辛い思いを積み重ねる毒にしかなからない。

 

 憤怒。悲哀。不安。恐怖。

 ありとあらゆる感情が津波のように押し寄せ、摩擦し、一夏の心は徐々にすり減っていく。

 その苦悩はあまりにも重すぎて。それと向き合うには、あまりに一夏は幼すぎた。

 

「……俺は……本当に、戦わなくていいんですか……?」

 

 葛藤で精神を蝕まれる中、震える声で一夏は皆に問いかける。

 逃げることが、本当に許されることなのか。自分は、戦わなければならないのではないか。

 どうしても、そんな思いが消えない。消えてくれない。

 彼の言葉を聞いた杉田は、重い口を動かして答えた。

 

「……これは俺の友人……ともに戦った、刑事の言葉を借りることになるが……俺個人として、一刑事として、そしてかつて未確認生命体と戦った者として言わせてもらう……」

 

 そこから数刻の間を置いて。杉田は、言い放った。

 

 

 

 

 

 

「――中途半端な気持ちで。この事件に関わろうとするな」

 

 

 

 

 

 

 ――ズシリ、と。

 一夏の胸に、鉛が落とし込まれたような鈍い感覚が走る。

 それは、慈悲にあふれた言葉だった。それと同時に、非情な言葉だった。

 その一言で、杉田は一夏の疑問に答えると、隣の弾に言葉をかける。

 

「すまない、五反田君。この件に関しては、一切のことを内密にしてもらいたい。五代君のこと、もちろん一夏君のことも……いいかい?」

「……了解っす」

「ありがとう。保護者の方に連絡を入れよう。50号の消息も不明だ、我々が自宅まで送らせてもらう。これは俺の携帯電話の電話番号だ、何かあったら連絡してくれ」

 

 そう言って、杉田は名刺を取り出して裏に電話番号をペンで書き込む。桜井もそれに倣って、二人は一夏と弾にそれぞれ名刺を渡した。

 

「あとで部下をこちらに寄越す。それまでここで少し待っていてくれ……協力、ありがとう」

「夜中に一人で出歩こうとはしないように。昼間も気を付けてくれ。じゃあ」

 

 杉田と桜井は、それだけ言い残すと、取調室を後にした。

 あとに残された弾は、名刺を仕舞って一夏の方へと目を向けるが……一夏は、未だに表情に暗い影を落としたままだった。

 

 

 

 

 

 

 ――警視庁――

  7:01 p.m.

 

「……あれで、よかったんですかね」

「…………さあな」

 

 取調室から出た桜井は、杉田に訊ねかける。聞かれた杉田もハッキリとした返答はできなかった。

 現状では、あれが最良だったと杉田も桜井も思ってはいる。戦うことを決意しきれず、また逃げることもできないままで事件に関わろうとされても、新たな犠牲を増やすだけにしかならない。ならばいっそ、冷たく突き放したほうがいい。

 それに先に言った通り、今の自分たちは未確認生命体に対抗できる手段を持っている。そして、当時よりも技術は進歩している。

 

「神経断裂弾の手配を急ごう。未確認生命体事件を解決するためにも、人手が足りない。あの50号だけならいいが、他にもまだいたらたまらんからな……」

 

 神経断裂弾。それは、科警研の協力のもと、ついに完成した未確認生命体を殺害しうる兵器の名称である。

撃ち込んだ弾丸が体内で炸裂することで、未確認生命体の驚異的な回復力の源である神経組織を連鎖的に爆発させ、ダメージを与える弾丸。これにより、すでに数体の未確認生命体を殺害することに警察は成功している。

 流用や悪用を避けて設計図などもろもろ破棄されたものではあるが……一度量産することに成功した武装だ、作り直してもらうこともできるだろう。

 

「あとは……ISの部隊にも、協力を要請することができれば……」

「そうですね。あの機動力と、操縦者への防御機能。そして神経断裂弾……組み合わされば、まさに鬼に金棒です」

 

 インフィニット・ストラトス。女性にしか扱うことのできない超兵器。

 その武装に関しては、未確認生命体を相手に通用するかどうかはわからないが……自由自在に空を飛行し、ありとあらゆる脅威から操縦者を保護するシステムは、戦うときに心強い。

 それに、神経断裂弾の装備をさせることができれば、これ以上ない味方となってくれることだろう。

 犠牲者が触れることを止めるためにも、一刻も早く上から承認を得なければならない。

 決意を改め、杉田と桜井は自分の職場へと戻ろうとした。

 

 だが。

 

 

 

「杉田課長!! 桜井係長!!」

 

 その矢先、自分たちが歩いている方向から、不意に呼び声が響く。

 続いて駆け足で若い職員が杉田達のもとへとやってくる。何事かと顔を見合わせる杉田と桜井だが、桜井がまず職員に問いかけた。

 

「どうした? 何があった?」

「いえ……その……IS委員会から通達がありまして……アラスカ条約に違反するとのことから、ISに神経断裂弾の携帯をすることを禁ずる、との指令が……!」

「なんだと!?」

 

 自分たちの計画が瓦解した事態に、杉田と桜井は困惑を禁じえなかった。

 アラスカ条約とは、軍事転用が可能になったISの取引などを規制すると同時に、ISの技術を独占的に保有していた日本への情報開示とその共有を定めた協定の通称。史上最強の兵器と呼んでも差し支えないISを、軍事的に利用することを是とせずに日本含む二十一の国と地域が結んだものであった。

 確かにその理念は正しい。しかし、まさかこの緊急時にその条約が邪魔になるなどとは思いもしなかった。国によっては、有事の際に動くことのできるISの軍事部隊が存在しているとも聞くし、何より今回の事件は国家レベルでの危機と言っても過言ではない。過去の事件で発生した犠牲者は数万人。これは第4号の協力があってなし得たことであり、それがなければ数百万の人間が死んだとしても全くおかしくなかったのである。

 それなのに、運用が不可能?

 

「くそっ、何考えてんだ奴ら……! 俺が話をつける、電話借りるぞ!!」

「杉田さん!!」

 

 杉田はそう啖呵を切ると走り出し、それに続いて桜井も走る。

 未確認生命体事件をめぐる、様々な立場の人間の思惑。それが交差し、新たな波乱が巻き起ころうとしていた。

 

 




IS委員会の組織図とかそこらへん全くわからん。オリジナルになりそう。というかなるだろ絶対。

全然ISもクウガも出てこない、ISの原作スタートにすら到達しないこの作品、そろそろ詐欺だとか言われそうで怖い(笑)

まだ一夏君の葛藤は続くんじゃよ……

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