インフィニット・ストラトス~A new hero, A new legend~   作:Neverleave

12 / 13
半年もお待たせして申し訳ない。
あと数話で覚悟完了すると言ったな? あれは嘘だ(土下座)

思ってた以上にもたつく可能性が浮上。なんでこうワイは話を上手くまとめられんのや。ウゴゴゴゴ……!!

IS委員会のキャラを書くことになりますが、オリジナルの登場人物が出ることになりますのでご了承ください。
また、本話の最後にて小説版仮面ライダーのネタバレがございますので、未読の方などはお気をつけください。

ではどうぞ。



※後書きでグロンギの名前を間違えていたので修正。恥ずかしいよォォォォ!!

(#0w0)<ウェーイ‼
(#0M0)<デタラメヲイウナ‼
(#<::V::>)<オレァ クサムヲ ムッコロス!
( 0H0)<オッペケテームッキー‼


懺悔

――警視庁・入り口前――

   7:53 a.m.

 

 午前8時数分前。ISの操縦者とIS委員会の日本支部部長がやってくると聞いていた時間は8時だったので、杉田達はやや早めにこちらへと来た。

 するとそのタイミングを見計らったかのように、一台のタクシーが警視庁の前で停車する。その中から現れたのは、先ほど電話をしたばかりの千冬と一夏であった。

 その姿を確認した杉田と桜井はすぐにそちらへ駆け寄り、新井と氷川も彼らに続く。

 

「千冬さん、おはようございます」

「杉田さん、桜井さん。おはようございます。先ほどは申し訳ありません、こちらの都合でこのような不躾なお願いをしてしまって……」

「いえ、これも我々の仕事ですから。それに彼は事件の当事者ですし、千冬さんのたった一人のご家族です。あなたが心配されるのも無理はない」

「……どうもありがとうございます」

 

 深々と千冬は頭を下げ、礼を述べる。

 そんな彼女を制していると、後ろについてきていた氷川と新井が警察手帳を取り出して名乗った。

 

「この度未確認生命体事件合同対策本部の一員になった、杉田課長の部下、新井 栄嗣です」

「同じく刑事の、氷川 誠です」

「どうも、織斑千冬です……新井……つかぬことをお伺いいたしますがもしや、事件当日に弟の一夏を保護してくださった……?」

「ええ、まぁ……」

 

 千冬からの問いかけに、曖昧な返答をする新井。彼からしてみれば、現場に駆け付けた時にはすでに一夏――第4号が第50号を撃退しており、新井はそれを保護しただけなので、どこか肯定しづらい感覚があった。

 そんな心情を知ってか知らずか、千冬は彼の返答を聞くと頭を深く下げる。

 

「私の弟を救ってくださり、本当にありがとうございます。あなた方がいなければ、弟はどうなっていたことか……」

「……頭をあげてください。私たちは別に特別なことは何もしていませんよ」

 

 千冬が叩頭するのを見て、新井は目を丸くする。千冬の人格は先ほど杉田と桜井から聞いていたものの、実物と対面するのとは違う。

その姿勢、目つき、声音……自信に溢れ、かつ厳格な性格を想像させる立ち振る舞いだというのに、実際に会話をしてみると非常に腰が低い。

杉田の言う通り、自分たち警察の世話になるような女性とは全く違う人のようであると、新井は改めて認識した。

 

「昨日ぶりだな、一夏君。大丈夫か?」

「………………」

 

千冬と少し会話を交わし、新井はチラと一夏を一瞥する。暗い表情を浮かべ俯く彼の目元は赤く腫れあがり、ついさっきまで大泣きしていたことが一目でわかる有り様だった。

 問いかけの言葉に対し、一夏は返答しない。視線をあげて口を動かすものの、それが声にならない。何も言えないまま、一夏は再び目を伏せてしまった。

 彼が涙を流す理由を知っている杉田達三人は、その胸中を察してやりきれなさを顔に表す。

 

「ご丁寧にお迎えにあがってくださり、感謝します。その、早速で申し訳ないのですが……」

「……ええ、そうでしたね。じゃあ氷川君。頼めるか?」

「わかりました。どうぞこちらへ……一夏君?」

 

 身内であるとはいえ、一夏は一般人である。これからIS委員会と警察の合同会議が行われるという時に、ここにいられるのはまずい。千冬の意図を察した杉田は、打ち合わせ通り氷川に一夏を保護するよう懇願する。

快諾の返事をする氷川。しかし一夏は、心ここにあらずといった様子で立ち尽くしていた。声をかけられたことでようやく気付き、彼についていこうとしたものの、その足取りはおぼつかない。

 フラフラと警視庁内に入っていく一夏を不安げに見つめていた杉田達は、千冬が心配してしまうのも無理はないだろうと思った。誰もそばにいない時間を作るなど、むしろ家族としてはなくしたいと考えるのが自然だろう。ある意味、彼女の方からこちらへ保護を申し込んでくれたのは有難いことだったのかもしれない。

 

 やがて、氷川と一夏がここから離れたことを確認すると、杉田と千冬は向き合って、これからのことを話し合う。

 

「……あとは、IS委員会の方々がやってくるのを待つだけですな。ここで立っているのもなんでしょうし、千冬さんはお先に中へ入られては?」

「お気遣い感謝いたします。しかし、私もここで待とうかと思います。彼らがやってくるまでそれほど時間はかからないと思われますし……それ以前にあなた方と少し、お話しをしておきたいものですから」

「……何か、そちらであれから進展があったんですか?」

 

 杉田の提案をやんわりと断る千冬。彼女の言う〝お話し〟という単語に、桜井が反応を示した。

 昨夜は千冬がIS側、IS学園側に様々な交渉を行ってくれるという約束をしていたが、その件で何かしらの動きがあったのではないかと察しての問答である。問いを投げかけられた千冬は、一呼吸を置いて言葉を紡ぐ。

 

「その前に一つ、あなた方に質問がございます。あなた方……少なくとも、杉田さんと桜井さんが、25年前に発生した未確認生命体事件の当事者である……ということから、お伺いしたいことが」

「……何でしょう?」

 

 杉田達はその質問の意図こそわからなかったが、千冬が意味もなくこんなことを訊ねてくるとは思えず、とりあえずは返答の意思があることを示す。

 しばらく千冬は、何やら逡巡しているかのような素振りを見せたものの……意を決して、その重い口を開いた。

 

 

 

「……五代雄介……という方を、あなた方はご存知でしょうか?」

 

 

 

 ――訊ねられた瞬間、杉田と桜井は思わず表情を強張らせてしまう。

 なぜ彼の名前が、千冬の口から出てきたのかと考える二人だが……そこでふと、一夏と五代の間に交流があった――と、一夏本人が語っていたことを思い出す。

 それも彼の口ぶりから察するに、一緒に暮らしていたこともある、と。ならば千冬と一夏の間にも、交流関係があったとしても不思議はない。

 

「……ええ。知っています」

「……では、彼の〝2000番目の技〟も?」

 

 慎重に、しかし『知っている者』には察せる程度に言葉を選ぶ千冬。

 このタイミングで、彼の名前を出す。そして、この物言い……一夏は知らなかったものの、だからといって千冬まで知らないとは限らない。

 そして、〝2000番目の技〟。これは、彼と親しい間柄の者としか通じ合うことのない、ある種の合言葉。

 それは――。

 

 

 

「――〝変身〟ですか」

 

 

 

 その一言で、千冬は確信を得たように小さく頷く。

 

「……やはり、あなた方が……」

「ええ。知っていますよ……クウガ……第4号のことを」

「……変身? クウガ? いったいお二人は何を……」

 

 千冬と杉田の会話に、唯一新井だけがついていけていない様子だった。彼だけが、25年前の未確認生命体事件とも、五代とも繋がりが存在しないため、仕方のない話ではあるが。

 やれやれというように首を横に振り、桜井が彼に事情を説明する。

 

「俺たちが25年前……最初に発生した未確認生命体事件で、一緒に戦った第4号の、名前だよ。クウガは、一部の人たちが使っていた、第4号の呼称だ」

「……五代雄介さんに……クウガ……ですか」

 

 話を整理するため、独り言をつぶやく新井。彼からしてみれば、自分が見た一夏よりも以前に、第4号――クウガとして戦った者がいるということになるため、非常にややこしいことになっている。

 だが、同時に納得もできた。もちろん家族構成や年齢などを鑑みた結果でもあるが、何より一夏という少年は、クウガにしてはあまりに『幼い』。精神的にまだまだ未熟すぎる面があるのだ。

 以前から戦っていたというよりも、普通の少年だった者が突然クウガに変身した――こちらも謎が多すぎるし、突拍子もない理論ではあるが――その方が、まだ現実的ではある。

 一応得心した新井だが、同時に疑問に思うことがある。そのことについて彼女に問いかけようとした時、桜井が先に口を開く。

 

「なぜこのことを、今我々に訊ねたのですか? このことと、今回のことで何か関係が?」

 

 どうやら桜井も新井と同じことを考えていたらしい。

 問いを投げかけた桜井と向き合って、千冬は返答する。

 

「事情を知っている方の耳に挟んだ方がいいかと思いまして……少しややこしいのですが、IS委員会が日本に対して支援を積極的に行わない理由に……誠に遺憾ながら、第4号の存在が関係しているのです」

「なんですって?」

「……それはいったい、どういうことなのですか?」

 

 千冬の言葉に、桜井が聞き捨てならないというように食いつく。そんな彼を杉田は片手で制して、千冬に続きを述べてもらうよう促した。

 

「私もIS学園の理事長に嘆願して、IS委員会による支援を請うたのですが……どうやらIS委員会側は、日本に未確認生命体第4号という味方が存在するから、すでに国が所有しているIS以外の支援は行わない……そういうスタンスを取っているようです」

「……そういうことか……クソッ、上層部は何を考えてるのかと思えば……!!」

 

 千冬の説明を聞き、罵倒の言葉を吐き捨てる杉田。

妙に日本に対して厳しい姿勢を取っていると思えば、まさか第4号を理由に援助を断っていた。未確認生命体の危険性、事件の大きさを間近に見てきた彼からしてみれば、それはタチの悪すぎる冗談でしかなかった。

 確かに第4号は、警察の助力を得ていたとはいえ、ほぼ一人で数十体もの未確認生命体を倒すという戦歴を誇る。最後に戦った第0号など、神経断裂弾が開発されたとはいえ、まともに警官が戦えば何万人が死ぬことになったか想像できない……いやまず、倒せたかどうかすら怪しい。

 ならば、そもそも日本にはISなど必要でないということすらあり得る。確固たる実績を持つ第4号に加えISという力があるのだから、我々の懸念は杞憂であると、彼らは言外に言っているのだ。

 

 だが杉田達にとってこれは、その過程で発生した一般人の被害を度外視した、愚かな裁定でしかない。25年前も、12年前でも、奴らを追いつめるその一方で、殺人ゲームの犠牲となる人間は増えていたのだ。自分たち警察組織、そしてIS委員会が行うべき責務とは、未確認生命体の『殲滅』ではない。未確認生命体による『犠牲を阻止』することだ。そこを委員会ははき違え、あまつさえ自分たちが扱っているISの性能を誇示することに固執している。

 これだけでも、市民の安全を守るべく戦ってきた杉田達警官からすれば腹立たしいものだったが……これ以上に彼らを憤慨させているものが、もう一つある。

 

 

 

「あいつら、第4号を……クウガを、人間だと思ってねぇ(、、、、、、、、、)……!!」

 

 

 

 

 明らかに彼らIS委員会は、第4号をISと同列視していた。

 すなわち第4号を、兵器としかみなしていなかった(、、、、、、、、、、、、、、)

 人間の理解の範疇を超越した怪物と戦う恐怖。死ぬかもしれないという不安。彼らを殺さなければならない悲しみ。

 あらゆる思いを押し殺して、それでもみんなの笑顔のために戦ってくれた第4号。それをIS委員会は、人間のために戦い、傷つき、死んでくれる都合のいい存在としかみなしていなかったのだ。

 納得すること等、到底できないような事実を突きつけられ、悔し気に歯噛みする杉田は――底知れぬ怒りを感じる一方で、しかし彼は事態が想像以上に悪いことも同時に理解していた。

 

「杉田さん、桜井さん、新井さん……IS委員会……少なくとも上層部は、信用すべきではありません。我々の知るこの事実が、彼らに知られることがあってはならないのです」

「……ああ。奴らにこのことが知られれば……多分奴らは、何としてでも五代君を捕まえようとするだろう……実験材料として」

 

 つまりは、これこそが千冬が彼らに警告したいことだったのだ。

 第4号を兵器とみなしたIS委員会。彼らはあらゆる手段を用いて、彼を捕らえようとするかもしれない。

 未確認生命体と戦うため、人類のためときれいごとを並べて、彼の人体を徹底的に調査する可能性もある。そうでないと信じたいが、可能性を否定することはできない。

 

(……ますます、一夏君をこの事件と関与させるわけにはいかなくなったぞ……)

 

 そしてそれは、第4号に変身した一夏にも同じことが言える。彼の正体がこのメンツ以外に明かされることがなかったのは、間違いなく僥倖だった。

 彼より幼く、弱い一夏などIS委員会からすれば格好の餌食でしかない。千冬という盾が存在するとしても、それこそ委員会は搦め手を使って彼を調べ尽くそうとするだろう。

 それだけは避けなければならない。子供が大人たちの手によって解剖される未来など。そんなもの、あってはならない。

 

「……我々は第4号の正体を知らない。そのように振る舞う必要があります。ご理解いただけましたでしょうか?」

「わかりました。ご忠告いただき、感謝いたします千冬さん……っと。どうやらお越しになったみたいです」

 

 千冬の言葉を受け、桜井が謝意を述べる。

 そこで桜井が何かを見つけたように小さく呟いた。彼の視線を全員が追いかけると、そこには如何にも重役が乗っていると誇張している、黒塗りの高級車があった。

 パッとだけ見ると、まるでヤのつく自由業が扱う車のようであったため、そこにいた全員が内心苦笑する。

 やがて高級車は杉田達の目の前で停車した。女性の運転手がまず先に降りると、後部座席の扉を開ける。

中から出てきたのは、二人の女性。二人とも白いシャツの下に黒いスーツを着ていたが、一人はスカートにハイヒールという、いかにもキャリアウーマンといった服装だった。もう一人はシューズにズボンを着用した、オリンピックの選手を想像させるような佇まいである。前者はニコリと微笑み柔和な印象を与える一方で、後者は無表情で杉田達を見つめている。その視線はまるで、彼らを品定めするかのようにあちこちに動き回っていた。

 

「初めまして。IS委員会日本支部局長の、金剛 律子と申します。こちらは、日本代表候補生のIS操縦者、三樹弥 茜です」

「……どうも」

 

 軽く頭を下げ、金剛という女性が自己紹介を述べる。その後、隣に立っていた三樹弥に挨拶するよう促すと、彼女は気だるげに一言呟いた。

 その姿に、千冬を含めた警官側は若干の苛立ちを覚える。金剛はともかく、三樹弥は頭を下げることなく、感情のこもっていない言葉をただ紡いだだけ。それだけで、こちらが下に見られているのだとわかった。

 

「……随分と礼儀のなっていないヤツだな」

「申し訳ありません。緊張してしまっているのか、今日はずっとこの調子でして……三樹弥さん」

「……すいません」

 

 世界最強のIS操縦者を前にして、この態度。

金剛が咎めるように呼びかけるものの、出てきた言葉はたった一言。しかも全くそう思っていませんと言わんばかりの声音である。大物だと見るべきか、はたまた只の大バカ者だと見るべきか。

 その場で頭を抱えたくなる衝動を抑え、杉田は早々に話を切り上げるべく発言する。

 

「本日は警視庁までご足労いただき、ありがとうございます。ご案内いたします。」

 

 そう言って、杉田は先に警視庁内へと入る。それに千冬達と金剛達も続いた。

 

(……本当に大丈夫か、このメンツで……)

 

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、杉田は内心密かに不安を呟く。

IS委員会と警察。お互いまるで歩調を合わせようとしない二つの巨大組織。これで、人々を守ることができるのか。

 いや、それ以前に……解決まで我々は進むことが出来るのか(、、、、、、、、、、、、、、、、、)

 そんな未来すら可能性の一つとして思い浮かんでしまう展望。杉田はその恐ろしい思考を頭の隅に追いやって、会議室へと足を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 ――警視庁・取調室――

  7:56 a.m.

 

 

「――こちらです。どうぞ、一夏君」

 

 氷川に案内され、一夏が辿りついたのは、昨日に杉田や桜井と出会った取調室だ。千冬の時と同じ駒、相も変わらず多忙な警視庁内では、生憎とこのような場所しか用意が出来ない。

 扉を開けて促すと、一夏はうなだれたまま取調室へと入る。その後氷川も入室し、適当な椅子に座るように言うと、頭を下げて一夏は座った。向き合うように氷川も対面の椅子に座って、ひとまず一息つく。

 

「未確認生命体事件に巻き込まれてしまったその心中はお察しします。でも大丈夫ですよ、ここなら我々があなたを保護できますから」

 

 暗い表情のままの一夏を見て、氷川が彼を元気づけようと声をかける。しかし、その言葉にあまり意味はなかったようで、一夏の曇った表情が晴れることはなかった。

 

「……何か飲み物はいりますか? コーヒーやお茶などでしたらご用意できますが……」

「……いえ。大丈夫……です」

 

 投げかけた問いに対して、否定の返事。否定されたことに対しては特に何も思わず、むしろようやくまともな言葉を返してもらえたことに氷川は安堵する。

 そこからしばらく、どちらが話すこともない静寂に取調室が包まれた。一夏は何を喋る気にもなれず、氷川はどうやって彼に話しかけようかと思考して、口を閉ざしていた。

 

(……どうしたものでしょうか……)

 

 氷川は、一夏の口から三村の最後を訊ねたくて、彼を保護する役割を買って出た。

 しかし先ほどは衝動的になってそう口走ってしまったものの、よくよく考えれば――いや、考えるまでもないが、『自分を守って死んだ警官はどんな死に様だったか』など軽々しく聴けるはずがない。

 ましてや、その守られた本人はこんなにも精神的に追い詰められている様子だ。下手に刺激などすれば、また深く傷つく結果に終わってしまう。そんなことは氷川も望むところではない。

 

 ……一旦三村のことは置いておくとして、だ。ここは本来の目的である『一夏の保護』を優先するべきだろう。

 そう判断して、氷川は再び一夏に声をかけることにしたが――。

 

「……ごはんか何かは必要じゃないですか? こうして朝早くから警視庁にお越しいただいたわけですし、お腹すいてませんか?」

「……いえ……」

「……ごはんがダメなら、軽くつまめるお菓子は如何です? 多分、探せば何かあると思いますけど……煎餅とか……」

「……いえ……」

「……飴玉あるんですけど、一つどうです……?」

「…………」

 

 ――困った。

 これもまた当然と言えば当然だが、今の一夏には何かをする余裕など一切ない。しかし氷川はこういった状態に陥った人と接したことがあまりなく、どうすればいいかわからなかった。

 元々氷川は喋ることがそれほど得意ではない。先の会話でお察しの通り、本人も自分はいったい何を言っているんだと戸惑う頓珍漢ぶりである。

 かといって、ひどく落ち込んでいる人を見て放っておけるような性分でもない。『身体的な保護』のみが自身の任務であったとしても、その彼が傷ついているのならば、見ているだけじゃなく手を差し伸べたい。

口を滑らせて、彼をさらに傷つけてしまったら……そう思いながらも、どうしても動かずにはいられない。結果として、何か元気づけたいと思って口にしても、大体が空回りするばかり。

 〝氷川 誠〟という不器用な人間にとって、今の〝織斑 一夏〟は大きな難問であった。

 

(――杉田さん達なら、上手く話すことが出来たんだろうか――)

 

 自分の情けない現状に嘆息しながら、氷川が思い浮かべるのは、尊敬する上司達の顔だった。

 口下手な自分などより、やはり彼らに任せた方がよかったのではないか。そんなことを考えていた時だった。

 

「――同僚、なんですか?」

「……えっ?」

 

 不意に、一夏がその重い口を開いた。

 戸惑いの声をあげる氷川。最初のところを上手く聞き取れなかったものの、一夏は何かを自分に訊ねかけていたように聞こえた。

 

「……三村さんと……同僚、なんですか?」

 

 再び、一夏が問いを投げかける。その内容に、氷川は驚きを禁じ得なかった。

 まさか自身が逡巡していた話題を、本人から振ってくれるなどとは思ってもいなかったのだから、それも仕方のない話である。

 いったいなぜそんなことを訊ねてきたのかと疑問に思いながらも、氷川は返答した。

 

「ええ……どうしてそのことを……?」

「……三村さんと、歳が近そうだったから……その……」

「……そうですか……」

 

 そう返して、そこで一旦会話が途切れてしまう。

 せっかく三村について話す機会を得たのに、それを潰してしまった。またやってしまった! と思い慌てて会話を再開させようとする氷川であったが……ふと一夏を見ると、彼は目を伏せつつも何かを言おうと口をまごつかせているのがわかった。

 言いたいことがあるのに、それを言っていいのかわからない。知りたいことがあるけれど、それを問いかけていいのかわからない。どう切り出すべきか、その言葉を必死に探しているかのようだった。

 ここで話が終わってしまうことはないようだと内心安堵し、氷川は一夏が再び口を開くのを待つ。

 やがて一夏は顔をあげて、氷川に再度問いかけた。

 

「……三村さんって、どんな人だったか……わかりますか?」

 

 一夏から投げかけられた問い。

 それはどういった意図から訊ねられたものであるのか、首をかしげながらも氷川はそれに応える。

 

「……知ってますよ。彼は、僕の同期にして……僕にとって、親友であり、尊敬すべき人でしたから」

 

 氷川がそう述べた途端、一夏はハッとして顔をあげ、驚愕で目を見開く。

 その目には、まるで自分の罪深い業を、一番知られたくない人に知られてしまったような闇を抱えていた。

 そこで一夏は何かを口にしようとするも、ただ口を開いては閉じるだけに終わり、そのまま顔を伏せてしまう。膝の上に置かれた彼の拳は小刻みに震え、小さな嗚咽に似た声が彼の口から洩れた。

 

「……ごめんなさい」

 

 震える声で、一夏は小さく呟く。

 鼻をすする音と、必死に堪えて絞り出すような泣き声が混じった、静かな慟哭。机の上に、ぽたりと滴が落ちる。一滴、二滴と零れたそれを、氷川は痛ましい思いで眺めていた。

 

「……どうして謝るんですか……君は、何も悪くないのに」

「……ごめんな゛ざい……ごめんな゛ざい゛……ッ」

 

 氷川が言葉を投げかけても、今の彼には届かなかった。

 何度も何度も、必死に謝るように。取り返しのつかない過ちを嘆き、自分を責めるように。一夏は涙声で、幾度も謝罪の言葉を口にした。

 氷川は何も言わず、彼の泣く様を見続ける。否、何も言うことができなかったのだ。

 彼自身、未確認生命体事件に関わることはこれが初めてになる。何度か先輩刑事と出会ったとき、当事者からどんなものだったのかを聞いたりした程度で、現場のことなど何も知らなかったのだ。

 ただ何の理由もなく襲い掛かる殺戮の嵐。それは多くの人々を死に追いやり、残された人々に悲しみを残す。

 氷川誠は……ここで初めて、未確認生命体が残す爪痕の深さを知ることとなった。

 そしてそれとともに。自分たち『人々を守るための』警官が、何をするべきなのかを、改めて自覚することとなった。

 懐からハンカチを取り出して、氷川は一夏に差し出す。一夏はこくりと頷くとそれを受け取り、涙を拭きとった。

 

 

 

「…………僕も三村も、君のことを恨んでなんかいませんよ」

 

 

 

 不意に、氷川の口から出てきた言葉。それを耳にした一夏は、ゆっくりと顔をあげる。

 大粒の涙を流し、泣きはらして真っ赤になった顔。氷川は優しく微笑んで、一夏と向き合った。

 

「言ったでしょう? 親友だって……だから、わかりますよ。彼は……君を守れたことを、誇りに思ったはずです。ならそれで……僕は、いいんだと思います」

 

 一夏と話す前から、一つだけ氷川が確信していたことだった。

 殉職した、自分の親友は。彼を守って死んだことを、何一つ後悔していないだろう。

 三村は、そういう奴だと。氷川は信じていた。

 やがて一夏は、震える口を開いて言葉を紡ぐ。

 

「……笑ってたんです」

 

 今にも泣き崩れそうなか細い声。途切れ途切れになりながらも、必死に口を動かして一夏は言葉を続けた。

 

「自分が死ぬのに……三村さんは……笑っていました……やったよ、父さん、母さん、りさって……家族のことを、最後に呼びながら……あの、人は……なんで……死ぬ、のに……家族も、親友も、残して……あの、人……っ」

 

 さながらそれは、懺悔のようだった。

 自分の罪を涙ながらに告白するように。深い後悔と悲しみの色を滲ませた声と表情で、一夏は氷川に伝える。

 自分は人であるべきか。クウガであるべきか。

 どうするべきかわからないまま戦い、そして死なせてしまった人――三村は死ぬ間際、確かに笑っていた。

 クウガを……一夏を守れたことを誇らしげに思いながら、笑って死んでいった。

 それがわからなかった。どうしても、理解できなかった。

 自分は、守れなかったのに。第4号の目の前で、彼は死んでしまったのに。

 死ぬことを恐れるのではなく。どうして、そんな風に笑っていられたんだろう。一夏はそう思わずにはいられなかった。

 今の一夏は、それがどうしても知りたかった。

 自らの親友の最後を知った氷川は、何も言わず……呆れたように、笑う。

 

「……そう、ですか……彼は……笑ってましたか……」

 

 全く仕方のない奴だ、と言わんばかりに嘆息する氷川。

 氷川の様子に首をかしげる一夏だったが、その視線に気づいた氷川は応えるように口を開く。

 氷川の告げた事実に、一夏は驚愕で目を見開かれることとなった。

 

 

 

「……三村には……もう、家族はいないんですよ」

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三村は12年前の……未確認生命体事件で、家族を失ったんです。未確認生命体が細工したとされる、酸素カプセルによって」

 




金剛 律子……真矢ミキ
三樹弥 茜……堀北真希

という感じのキャスティングを脳内で行ってました。日本代表候補生ということで簪も考えたけれど、学生であることや楯無さんのこと考えると起用するのは無理だなと思った。咄嗟にオリジナルの人物書いてしまったけれど、許してや読者はん……。
金剛さんはともかくとして、三樹弥さんはモブで終わるかそうじゃないかはわからんちん。

三村さんのご家族は、12年前に起こった未確認生命体事件……ザルボによって殺された人たちという設定にいたしました。
三村さんは殺されるだけのモブではなく、一夏のこれからに大きく関与していくことになります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。