コードギアス 反逆のお家再興記   作:みなみZ

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15話

「遅れながら紹介いたします、アッシュフォード卿。

私の妹のマリーカ・ソレシィです。

マリーカ、この方がナイトオブセブンであるアッシュフォード卿であられる」

 

「お、お初にお目にかかります!

コーネリア総督の従卒を勤めているマリーカ・ソレシィと申します!」

 

「キューエル卿の妹君であったのか。

初めまして、アクア・アッシュフォードです。

何時も貴女の兄君にはお世話になっているよ」

 

「こ、こちらこそ!

兄がお役に立てて光栄です!」

 

キューエル卿の紹介により、その正体が判明した目の前の少女、マリーカ嬢と言葉を交わす。

歳は僕と同じくらいであろうか?

キューエル卿と同じ茶色の髪に、青い瞳。

冷静に考えると、キューエル卿と似ている箇所は多い。

僕とミレイ姉さんよりも兄妹らしく見える。

そしてそれより重要なのはマリーカ嬢はぶっちゃけ可愛い。

ぶっちゃけS級の可愛さだ。

もうマフマフして萌え萌えしてもおかしくない美少女だ。

 

 

………こ、これからは心の中でキューエル卿をお義兄さんと呼ばせてもらおうかな。うん。

 

ルルーシュに続く、新たな義兄の誕生だ。

 

「アッシュフォード卿、今日は私ごときの為にご足労をお掛けさせてしまいまして…」

 

「キューエル卿、何を言うか。

卿と僕は先の戦いを共に戦った仲ではないか。

そのような遠慮はしなくてもいいさ」

 

とは言っても、ぶっちゃけ僕は純血派と一緒に戦っておらず、後方から唯戦闘を眺めていただけだが。

そこは大人の事情で誤魔化されて欲しい。

 

「むしろ僕は君達に謝らなくてはならない。

僕が率いたばかりに君たち純血派を壊滅させてしまったのだから…」

 

先のナリタ連山の戦いにおいて、僕は純血派を率いた。

だが、その結果は今目の前にいるキューエル卿と、今は此処に居ないエキゾチック萌えなヴィレッタを除き、壊滅してしまったのだ。

初めて率いた部隊を壊滅させた男。

それがぶっちゃけ僕だ。

かなり黒歴史だ。

 

だが、その後の働きで、何か知らんが、コーネリア殿下からはお褒めの言葉を頂き、懲罰はなかったが、壊滅させられた部隊の一員のキューエル卿はたまったものではないだろう。

 

だから無表情な僕の顔の筋肉をフル活動させ、神妙な顔を作り、キューエル卿に謝罪する。

決して、先ほどまでキューエル卿に嫉妬し、マリーカ嬢に萌えていた事を悟らせないようにしなくては。

大根な僕だが此処は頑張らなくては。

 

「アッシュフォード卿…そのような事をおっしゃらないでください。

あれは誰が部隊を率いたとしても防ぎようがない事態です」

 

「すまない…キューエル卿…」

 

「それに…私達は嬉しかったのです。

あの時、アッシュフォード卿の指揮下の部隊に選ばれて」

 

なぬ?

初めて指揮する男の部隊に入れて嬉しい??

何故に??

そんな部隊僕なら死んでもお断りだぞ。

 

「我ら純血派は、冷遇されていました」

 

そんな僕の心情を悟ったのかキューエル卿が、話をしてくる。

 

「アッシュフォード卿もご存知でしょうが、ジェレミアのオレンジの件で私達純血派は最早終わったも同然だったのです」

 

ブリタニア軍の中でオレンジ農家がここまで差別されていたとは…。

オレンジってそんなに人気がなかったのか…。

僕結構好きなのに。

 

「最早組織として終わっていたと同然の私達に突如希望が降ってきました」

 

オレンジ農家のあんまりな待遇に心痛めていた僕に、キューエル卿が視線を向ける。

その瞳はすごく真摯な物だ。

まるで仕官学校時代のガチホモ達が僕を見つめる視線のようだ。

…死にたくなってきた。

 

「それが貴方です、アッシュフォード卿」

 

絶賛、死にたくなっていた僕を見つめながらキューエル卿は言う。

希望って…何で?

完全に困惑している僕を置き去りにしてキューエル卿は遠くを見るように視界を上げる。

 

「あの、兵達を前におっしゃてくれました言葉。

私は生涯忘れることは無いでしょう。

我らをブリタニアの忠義の剣にして愛国の盾と評してくれた言葉を」

 

は、恥ずかしい。

あんな勢いで言ってしまった言葉を…。

どうか忘れてほしいと心から願う。

マジで。

 

「あの言葉だけで私達は救われました。

本当に…本当にありがとうございました。アッシュフォード卿」

 

だが、そんな僕の気持ちを知らずにキューエル卿は感謝の気持ち100パーセント籠もってます。

なんて言葉が相応しいキラキラとした瞳を僕に向けてくる。

 

ま、眩し過ぎる。

純血派を壊滅させてしまった僕には眩し過ぎる瞳だよ。姉さん。

 

「と、ところでこれから純血派はどうするんだい?

生き残ったのは君とヴィレッタさんのみとなってしまったのだろう?」

 

薄汚れている僕には眩し過ぎる話の流れを変えるために違う話題を切り出す。

純血派を壊滅させてしまった、僕としてはこれからの二人の動向は気になる所だ。

特にヴィレッタさんは。

 

「まだ何とも…私はまだ入院が必要ですので、現場復帰には時間がかかりそうです。

ヴィレッタは怪我はなかったのですが、どこに所属されるかはまだ決まっておりません」

 

「そうか…」

 

ぬぬぬ…これではヴィレッタさんと、うきうき職場ラブ体験は出来そうにないぞ。

何てこったい…。

僕が脳内で勝手に作り上げていたヴィレッタさんとの明るい未来家族計画が頓挫してしまうではないか。

二回言っちゃうくらい、何てこったい。

地味に落ち込む僕であった。僕を見ながらキューエル卿は苦笑いをしながら言葉を発してきた。

 

「まあ、純血派であった私たちを受け入れてくれる部隊があるかも問題ですがね」

 

「キューエル…」

 

僕を見ながらキューエル卿は苦笑いをしながら言葉を発する。

そしてそんなキューエル卿を痛ましげに見つめるマリーカ嬢。

…も、萌え!

 

と、いかんいかん。

切なげなマーリカ嬢に萌えるのは後にしなくては。

まずはキューエル卿の問題に関してだ。

マリーカ嬢をオカズに萌えるのは部屋に帰ってからにしよう。

ぐふふ。

 

にしても行き先がないか。

確かにあれだけ軍に嫌われていた純血派の生き残りである二人を快く受けれいてくれる部隊は少ないのかもしれない。

下手すればこのまま僻地送りにあい、軍人としては日陰の一生を送るかもしれないのか。

……う、羨ましいかも!!

 

冷静に考えてみれば、僻地送りにされても、毎日のように戦場でラブドンパチ繰り広げている僕としてはちょっとっていうか、かなり羨ましいかもしれない。

僕も戦場でミスをし続ければ、僻地送りにされるか、もしくはラウンズを首となって、ニートになれるのではないだろうか。

おお、何かいい考え!

…ではないよな。

 

冷静に考えてみれば、僕が戦場でミスをし続けるということは、それだけ軍に迷惑をかける事となる。

そしてその迷惑によって、仲間が死ぬかもしれないのだ。

いくらラウンズを辞めたいからといって、仲間を危険に晒すわけにはいけない。

それ以前に、ミスをし続けているうちに、僕自身が戦死してしまうかもしれない。

軍人を辞めたい為に、わざと失敗を繰り返すうちに戦死してしまったのでは元も子もない。

というか、下手したら皇帝に殺される気がする。

弱者は死ね!って感じで。

僕は女の子といちゃラブする前に死ぬわけにはいかんのだ。

それと爺に熱すぎる鉄拳を喰らわせてないしな!

 

話を戻して純血派の受け入れ先。

軍のはみ出し者扱いされている純血派を受け入れてくれる部隊先か。

実は僕には心当たりがあったのだ。

それはぶっちゃけ僕直属の部隊---つまりはナイトオブセブンの親衛隊だ。

 

ブリタニアでは、皇族や軍ならば将軍やラウンズクラスであれば、自らの直属部隊、親衛隊を持つことができる。

ナイトオブセブンである僕はその気になれば、親衛隊を作ることができるのだ。

まあ、部隊を指揮するのが面倒なのと、軍を辞めれなく要因を自ら作りたくないので、今まで親衛隊を作る気など皆無であったのだが。

 

僕が新たに親衛隊を作れば、僕の意向で隊のメンバーを選ぶことが出来る。

それならばキューエル卿やヴィレッタさんを受け入れることは容易なのだが…。

前にも話したとおり、親衛隊を作れば、さらに軍を辞めづらくなるのは目に見えている。

確かに、あのエキゾチック萌えなヴィレッタさんと、ドキドキ職場恋愛はものすごくしたいのだが、目先の萌えに目が眩んで、軍人への縛りをこれ以上強くしてしまっては、本末転倒だ。

断腸の思いだが、ここは冷静に判断しなければならない。

非常にひじょーに残念だが、うきどき戦場ラブは諦めざるをえない。

 

うんうん、と僕は自らの英断に酔いしれていた。

 

「キューエル…大丈夫だよ!!私も来年士官学校を卒業する!私絶対キューエルと同じ部隊になるよう申請するから!それでキューエルを支えるから、二人で頑張ろうよ!」

 

「…マリーカ」

 

酔いしれタイム終了。

 

え??マリーカ嬢ってキューエル卿と同じ部隊を希望しているの??

ということは、僕が親衛隊を作って、キューエル卿を招き入れれば、マリーカ嬢ももれなく付いてくるということ??

つまりはヴィレッタさんとマリーカ嬢の両手に花状態??

戦場のラブロマンスここに極まり??

 

いやいや、何を考えるんだアクアよ。

つい先ほど、親衛隊は作らないと決心したばかりではないか。

この後先考えずで親衛隊を作ったら、生涯後悔し続けることになるぞ。

キューエル卿、ヴィレッタさんには悪いが、ここは心を鬼にするんだ。

そう、心を鬼にして…。

 

「ありがとう、マリーカ。その心は嬉しく思う。だが、もはやブリタニア軍には俺の居場所は無いも同然なのだ。

ジェレミアの失態に加え、純血派は壊滅。もはや元純血派というだけでどこも爪弾き扱いさ。今更俺を受け入れてくれる場所などないのさ…最早退役したほうがいいのかもしれない」

 

こ、心を鬼にして…。

 

「何でそんな事言うの!?夢を忘れたの!?昔から言ってたじゃない!自分は皇族の為に命を捧げ、その身の盾となるって誓ったって!その夢を忘れたの!?」

 

こ、心を鬼に…。

 

「忘れていないさ!だが、もはやもう駄目なんだ。仮にこのまま軍に残ったとしても何になる!?下手をすればKMFにも乗らせてくれず、ただ、ごく潰しとして軍に残るだけかもしれないのだぞ!?」

 

ここ、心を鬼にに…。

 

「それでも!例えそうだとしても、諦めちゃだめだよ!小さいときにキューエルのその夢を聞いて、私もキューエルと同じ道を選んだんだよ!?キューエルがそんな事言ってたら…私の夢も終わっちゃうよ」

 

こここ、心をオーガににに。

 

「…マリーカ」

 

「だから、頑張ろう。私も頑張る!だからキューエルも…夢を諦めないでがんばろう…ね」

 

「……………………………………よ、よかったら、僕の部隊に来ないか?」

 

「「え!?」」

 

思わず、言葉を出してしまった。

 

そして僕の言葉を聞いて大変驚愕するソレシィ兄妹。

 

感動の兄妹劇を目の前で見てしまった。

ちくしょー!こんなの目の前で見せ付けられて心を鬼にできるはずがねー!

できるはずがないんだよちぃくしょー!

 

「ラ、ラウンズである、僕は親衛隊を持つことができる。い、今まで親衛隊は無かったけど、今度作る…かもしれないというか…」

 

ああ、でも僕の迷いが垣間見る言葉となってしまった。

僕の意志弱すぎ。

いろんな意味で。

 

「ほ、本当ですか!?アシュフォード卿!?」

 

「た…多分」

 

驚きながら僕に尋ねるキューエル卿。

それに対してあやふやな答えを返す僕。

この意思の弱さ。流石は僕だ。

 

「キューエル…アッシュフォード卿は…本当は親衛隊を作りたくないんじゃ…」

 

僕の言葉に一度は嬉しそうな顔をしたマリーカ嬢であったが、僕のその後の煮え切れない態度を見ると、こちらの心情を察してきた。

僕の心情を察したマリーカ嬢は苦しい顔つきとなった。

そして妹の言葉で察したキューエル卿も笑顔から、顔をうつむける。

い、いかん…。ぬか喜びをさせてしまった。

 

というか、本当に親衛隊を設立していいのか、僕よ。

二人の感動の兄妹劇を見てしまい、ついつい勢いで発言してしまったが、前言撤回するなら今しかないぞ、僕よ。

 

「アッシュフォード卿…兄共々、見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ございませんでした…」

 

「い、いや、そんな事は…」

 

顔をうつむけるキューエル卿に代わり、マリーカ嬢は頭を下げながら、謝罪をする。

ぐはぁぁ…心が痛い。痛すぎる。

僕の勝手な発言で、二人の心を弄んでしまった…。

こ、心が…やばいっす。

 

「アッシュフォード卿も事情があり、親衛隊を設立しないのでしょう。私たちの事情で、アッシュフォード卿を困らせるわけにはいきません」

 

そう、僕には軍を退役したいという事情があるのだ。

人にはとても言えないが、立派な事情なのだ。

僕が夢のニート生活を送るには、前言撤回をするしかないのだ。

ココこそ心を鬼にして前言撤回を宣言するのだ!アクアよ。

 

「マリーカさん…」

 

「でも…」

 

謝りの言葉と、前言撤回を言うとした僕の言葉に重ねて、マリーカ嬢は言葉をつむぐ。

 

「でも…私たちの事を思って、親衛隊を設立しようと言ってくれて…本当に嬉しかったです。

アッシュフォード卿のそのお気持ちだけで…とても救われました…本当にありがとうございました…」

 

涙を目じりに溜めながら、マリーカ嬢が微笑む。

僕の身勝手な発言で喜び、そして悲しんだというのに、僕に感謝の言葉を告げている。

何この聖女。

後光が眩し過ぎてマリーカ嬢をまともに見れない。

僕は現代の聖女を垣間見ているのかもしれない。

それほど僕にとって今のマリーカ嬢は聖女っていた。

だ、だが、いかにマリーカ嬢が聖女パワーを身に纏っていたとしても、僕は前言を撤回してみせる!

そう、前言撤回を…。

 

「いや、大丈夫だとも。マリーカさん。

元々僕は親衛隊を設立する気でいたんだ。

ただ、急だったから、言いよどんでしまっただけさ」

 

あれ??

前言肯定??

 

「ほ、本当なのですか!?」

 

おい。どうした僕の口。

何やら勝手に口走ってるぞ?

しっかりしろ!ここで親衛隊設立を約束してどうする!?

撤回しろ!前言撤回を徹底するんだ!

目の前のマリーカ嬢を見ると、もう僕を憧れのハリウッド俳優を見るような瞳で僕を見つめている。

だが、僕は映画に出てくるようなヒーローではないのだ。

ただのニート志望のニブ厨なのだ。

ここで彼女に現実を知ってもらおう。

 

「ああ、親衛隊を設立した時には、キューエル卿とヴィレッタさんを迎えることを約束しよう」

 

だと言うのに何故か話を肯定しちゃう憎い僕の口。

ハリウッド進出決定!!

おいー!いつから僕はこんな役者になっちまったんだ。

もはや僕の口が僕の口じゃねーー!!ファックマウス!

 

「アッシュフォード卿…!!本当に…本当にありがとうございます!!」

 

「お礼を言うのは僕のほうかもしれないよ?キューエル卿とヴィレッタさん…そしてマリーカさん、君にもしっかりと働いてもらうんだからね」

 

止まることを知らない僕の口。

もはや別の生き物だ。

マウスは生きています。

16年生きてきて初めて思いました。

 

「わ、私もですか!?」

 

驚くマリーカ嬢。

僕も驚いてます。

何を言ってるんだ??僕の口は。

もはや展開に付いていけない。

僕自身が展開を新たに繰り広げているというの、僕自身が展開に付いて行けない。

 

マリーカ嬢と僕の内面の困惑を置いてけぼりにしながら、僕の外面は顔の筋肉をフル作動させ、ジノの王子様スマイルを真似たエセ王子様スマイルをかます。

そして口は勝手に口走るのだ。

 

 

 

「ああ、勿論だとも。キューエル卿と二人で僕を支えてほしい…。

ナイトオブセブン親衛隊…僕の部隊に来てくれるかな?」

 

 

 

 

 

 

これが後にナイトオブセブン直属親衛隊---通称、エインフィリア隊の誕生のきっかけとなる出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーネリア殿下やキューエル卿と面会した後、僕はアッシュフォード学園に来ていた。

もう午後を既に過ぎているので、授業は残り1時間しかないという、重役出勤ぶりだったが。

大変疲れた一日となったので、萌えの女神のナナリーやカレン、シャーリー、ニーナに癒してもらおうと学校に来たのだ。

 

「およ、こいつは重役出勤お疲れ様だな」

 

「もう、リヴァルったら。アクア君は軍に所属しているんだから仕方が無いでしょ!」

 

教室へと顔を出すと、リヴァルトシャーリーが話しかけてきた。

うう、シャーリーその心遣いに僕の心は癒しMAXです。

 

「シャーリーありがとう。

リヴァルも、そう言う訳だから重役出勤を許してくれ」

 

返答をしながら、荷物を置こうと自分のロッカーへと向かう。

 

にしても、本当に疲れた一日となった。

コーネリア殿下からは更なる戦闘を要請され、何をトチ狂ったか、ソレシィ兄妹に親衛隊を作る約束をしてしまった。

うごごごご…こ、これから先の事を思うと目眩がしてくる。

だ、だけど僕はある意味いい事をしたんだ。

絶望に暮れるソレシィ兄妹に希望をもたらしたじゃないか。

 

日本の言葉にも情けは人の為ならずなんて、根本的な意味を間違えそうなことわざだってあるじゃないか。

いい事をした僕に明るい未来が待ってるはず!!

具体的にはニートで彼女と退廃的な生活を送るとか!!

そうきっと送れるはずなんだ!そう信じなければやってられないよ。

 

気を取り直して、自分のロッカー扉を開く。

ロッカーの中には、数少ない僕の荷物、教科書や文具が入っている。

そして見知らぬ便箋が鎮座していた。

 

便箋……手紙か?

 

な、何だ?この手紙は?

まさか、不幸の手紙か?

 

恐る恐る便箋を手に取る。

ピンク色の便箋に、ハートマークのシールが貼ってある。

 

ま、まさか…こ、これは…。

 

即座にその便箋を手に取り、教室を出て、トイレへと向かう。

男子トイレの個室に入り、一つ深呼吸。

芳香剤の匂いが肺の中にいっぱいはいってしまった。

 

 

緊張に震える手で便箋を開ける。

そして中の手紙を取り出し、読み始める。

 

『いきなりこんな手紙を出すのを許してください。

でも、どうしてもこの気持ちを抑える事ができないんです。

ぜひ、一度二人っきりでお話をしたいんです。

今日の放課後、校舎の裏で待っています。

どうか私の気持ちを…聞いてほしいんです。

よろしくお願いします』

 

 

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情けは人の為ならず過ぎだろ………。

 

いいことキターーーーーwww

 

僕はトイレの個室の中で喜びの感情を爆発させる。

人生において、初めてではないがラブレターをもらってのだ。

これを喜ばないはずがない。

アッシュフォード学園に転入してきてはや2週間。

たった2週間でもしかしたら、うきどきスクールライフを送れるかもしれないのだ!

これを喜ばずに何に喜べというのだ!

ああ、わが春が来たのかもしれない。

 

 

しかし、喜んでばかりとも言えない。

僕には一つ、ある懸念があったのだ。

それは士官学校の黒歴史。

忘れたいのに決して忘れられない黒歴史。

人生初のラブレターと喜んでいた若かりしき頃の僕の記憶。

トラウマと言っても過言ではない記憶である。

 

 

 

 

それは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………このラブレターの差出人………男じゃないだろうな?

 

 

 

 

 

 

過去のトラウマというのはきついものがある。


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