姉が勇者として転生してきた為、魔王の右腕になって復讐することにした【凍結中】 作:ベクセルmk. 5
「御食事・・・・・・ですか?」
どんよりとした曇り空のブルームハート王国、首都デファンレ。の宮殿内に設えた修練場にて、黒い道着のような服を着た少年、レイ・クロノスと黒いロングコートの下に学ランを模した白い軍服を着崩した、ラウル・デス・ムーンが話をしていた。
内容は、レイが近々将軍になる為女王であるナハトが、直接逢いたいとのことだ。
「陛下は君に期待してのことだろう。
いつもの黒いロングコートを翻しながら、龍を象った槍を構える。それと同時に、地面から人型の植物のような何かが地面から生えてきた。
「君、黄系統の雷特化型だろ?だったらこいつらで訓練したほうがいいぞ」
『イヴィル・ウィード』焦げ茶色の表皮に、蔦と枝葉を鎧の様に身に纏う不死系植物モンスターだ。対策としては、白系統又は赤系統の攻撃魔法で攻撃するか、聖水をよく塗った剣で近接攻撃をするしかない。ワサワサと触手の様な蔦と葉を伸ばして攻撃してくる。それを槍で捌き、体を反らすことで回避する。
『・・・・・・!!』
自らの攻撃を難なく捌ききるラウルに痺れを切らしたのか、【生命力吸収】のスキルを持った【根の槍】で接近戦を仕掛けてくる。
「<攻撃 紅蓮大龍牙>」
一瞬にして、『イヴィル・ウィード』が灰塵と化したのを見て、顔が強張るレイ。
「そんな気にしなくていいぞ?陛下は服装については特にお気になさらない。今着てるそれでもいいから。今から3時間後の19:00に王族用の大食堂な?」
いつのまにか持っていた虹色の表紙から、白と青と黒が抜けた本を持っていた。
(あれが、【偽典・叡智の魔書】!)
その能力は、苦手系統と得意系統以外の基礎7系統の魔法を使用可能にするスキルだ。
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「ふむ、来たようだな」
大量に料理が並べられた長机、上座に座りながらワイングラス越しに二人を見た。
女王ナハト。長い白髪に緋色のつり目、端正な顔に冷たい微笑を貼り付けた黒いワンピースドレスを着た女性だ。今はいつも着ているタイツのような衣装ではなく、街歩き用のワンピースを着ている。
「少し遅れました」
「いや、気にせん。早く座れ」
顎でしゃくって着席を促す。それに従って着席しようとしたラウルに、白と黒の塊が飛びかかって来た。よく見ればそれは、ラウルより少し身長の低い少女だった。
「・・・・・・!っ・・・!」
「・・・・・・珍しいですね、貴女様が塔から下りてくるのは。フリューデ姫」
その少女・・・・・・フリューデはナハトとは正反対の黒髪と、青い可愛らしげな瞳。白い衣装に、今は無いが普段はかなり大きめの白い帽子をかぶっている。
彼女は人見知りが激しすぎるのと、
「あの、彼女は?」
当然、あったこともないレイは困惑している。が、ちらちらとフリューデを見ているあたり影響は出てきているようだ。
「双子の妹だ。同じタイミングで転生してきたから、そういう意味でも双子だ」
「って、陛下も転生者なんですか!?それよりも、双子なのに似てないですね!?」
「奇遇だな、私もだ。それよりもフリューデ、こいつはレイ・クロノスだ。自己紹介をしろ」
レイを指さしながら、フリューデを睨むナハト。フリューデはラウルに抱きついていたが一旦離れ、レイの前に姿を現す。
「初めまして、わたくしはフリューデですわ。以後お見知りおきを」
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どくん!という音と共に、心臓が揺らいだ。
(彼女から、目が離せない!?)
「どうなさいました?そ、そんなにマジマジと見つめられると、困ります」
困ったような笑みを浮かべながらレイに話しかけるフリューデ。
「今日は珍しく良く喋るな?」
「レイがよっぽど珍しかったのでしょう。こう見えて好奇心旺盛ですし」
そう言いながら涙目になりながらアタフタと慌てふためくフリューデを見て、次にレイを見る。レイは顔を赤くしながら棒立ちになっていた。
(あ、これはまずいな)
次の瞬間、レイはいきなりフリューデの肩を掴んだ。
「きゃあ!え?っえ?」
「ああ、やはりか」
「ですね。さてレイ、目ぇ冷ませ」
ナハトがつぶやくと同時にラウルがレイの後頭部を叩く。
「ぐぇぇ!」
レイの意識が正常に戻るのと同時にフリューデが涙目でラウルに抱きつく。
「愚妹が申し訳ないことをした」
「彼女には、呪いに近いレベルの
と説明した。彼女が塔から出ることが出来ないのはこういった理由があるからだ。
「・・・・・・フリューデの事はいい。料理が冷めてしまうぞ」
ナハトがいつも以上に厳しい氷の笑みに、こめかみをぴくぴくを痙攣させながら呟いた。
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「では、レイ・クロノスの十華冠就任と、ウルグとの正式な同盟結成を祝してかんぱ・・・・・・」
「「ちょっとまってください!」」
さらりと無視できないような大事を言うナハトをラウルとレイが止めた。ナハトは不満そうな顔のままワイングラスを傾ける。
「いつですか!いつからウルグと同盟を結んだんですか!」
ラウルが長机から身を乗り出してナハトに迫る。
「む・・・・・・一か月前だ」
ラウルが頭を抱えたまま呻く。
(そういえば、この人は重要なことを言わない人だった)
「ウルグと
そう言いながら指を立てる。
「ブルームハート同様ミストヴェール教国、パンドラ帝国と戦争状態にあること」
二つ目っと言って、指を立てる。
「ウルグも我が国の資源が欲しいようだ。もっとも、我が国もウルグの食料が欲しいがな。とはいえウルグは他国を交えての四つ巴になることを避け、戦時同盟(援軍要請に応じること)と商業同盟(貿易における減税並びにウルグへの技術提供)などの同盟を結ぶこととなった」
ここでウルグと同盟を結べたのはかなり大きなアドバンテージとなったはずだ。未だにミストヴェールとパンドラが同盟を結んだという話は聞いたことはない。
(このうちにパンドラを滅ぼし、返す刀で教国・・・・・・白の勇者を討つ!)
ほんの少しであるが、険しい表情になったラウル。それを見たフリューデは、ラウルのコートの袖をくいくいっと引っ張る。
「それにしても・・・・・・随分と見慣れた食べ物が多いですね。本当にここって異世界なんですか?」
長机に置かれた料理を半分ほど平らげられたあたりでレイが尋ねた。実際に食材そのものは違うが、料理はレイやラウルが転生前に見たことがあるようなものばかりだった。
「そう驚くのも無理はない。シャングリラ自体が強い願望や欲望を持った人間を呼び寄せる性質を持った大陸だ。先人達は武器や食品、衣類の再現、昇華を優先的に行ってきた。故に・・・・・・」
「へ、陛下ぁ!緊急事態でございます!」
突如、ドアがバーンと開かれ、レンリ大臣が入ってくる。息をつきながらその場でヘタリ込み、顔全体から汗を流している所を見ると、よっぽど大変な問題が発生したのだろう。
「どうした、レンリ。ついにデブルかオルニダあたりがクーデターでも起こしに来たか?」
「そ、それが・・・・・・青の勇者、イザヨイカグヤが脱獄しました!脱獄を手引きしたものは現在断定している限りでは、黄の勇者、センドウコウマと緑の勇者、イサリサガリ他、聖血騎士団精鋭10名の模様!」
これが王国史上最大の事件『勇者動乱』の始まりだった。
今回も万屋よっちゃん様のリクエストキャラを使用させていただきました。誠にありがとうございます。
次の話はたぶんグロ成分が多いと思います(満面の笑み)