姉が勇者として転生してきた為、魔王の右腕になって復讐することにした【凍結中】 作:ベクセルmk. 5
「よく来たな愛弟子」
宮殿最上階にある玉座の間。そこに呼び出されたラウルはソレを見上げた。
天井に届きそうなほど巨大なウェディングケーキ。
「今日はバレンタインだろう?だから作ってみた」
匂いで分かる。
(甘ったるい!匂いで空気が甘い!)
「い、いただきます」
切り取ったそれを一口食べる。が、
(苦い!なんだこれは!甘いのはクリームだけか!?生地が苦すぎる!)
「おいおい、そんなに慌てて食べなくてもいいぞ!」
・・・・・・
「お腹いっぱいです」
「だろうな。正直作りすぎた」
ケーキは既に半分以上食べ進められていて、完食まで後僅かとなってはいた。
「ならば、絶対に食べきれるようにしてやろう」
そう言うと<付与 減速結界>を発動し、時間の流れを遅くする。
「はい、『あーん』だ」
顔を真っ赤にしてケーキの一部を食べさせるナハト。
(残せるわけ、ないじゃないか)
誰もがそう思うようなシチュエーションだった。
~~~
首都デファンレ宮殿前。そこには鬼姫修羅が立っていた。
「あ、ラウル」
「修羅先輩、こんに・・・ちわ」
鬼姫修羅。鬼人族の名家に生まれ、それに恥じぬ戦闘能力を有する彼女は―――――
「・・・・・・相変わらずですね」
女性に人気がある。
彼女は両手に大量のチョコレートの入った袋を持っているのだ。
「僕が従軍した時から・・・それ以前からこうでしたね」
「そ、そうだな」
「「・・・・・・」」
(か、会話が続かない)
ラウルにとって修羅は親代わりと言っても過言ではなかった。
戦い方、魔法、スキル運用、サバイバル技術、一般常識。れらを教えた修羅に対しては恩を感じている。
「ら、ラウル・・・これはああああ」
「せ、先輩?大丈夫ですか!?」
手に持っている袋を格納空間に押し込み、代わりに箱を取り出す。丁寧にラッピングされたそれはまるでバレンタインのチョコのようだった。
「ってこれ、酒瓶じゃないですか!?」
「馬鹿者!注ぎ口と瓶底はチョコであろう!」
「そもそも、飛竜に乗って帰るのに酒なんて・・・」
「つべこべ言わずに、受け取れ!」
~~~
ラウルの生前・・・江良儀死月にとって、バレンタインはかけがえのない日だった。
(・・・・・・もし姉に、復讐することが出来たなら、また楽しいと思えるだろうか?)
死月はイベントや行事などは、姉と過ごす事が多かった。否、姉としか過ごせなかった。
(姉が僕を・・・・・・俺を裏切っていたのは確実だ!だから―――――)
「閣下、お時間宜しいでしょうか?」
思考を止める。クロムが近くにいたのに気がつかなかった。
「あ、ラル難しいこと考えてた」
「アカーシャ、お前の差し金か?」
「気が付かなかったこと事?違うよ~!はい」
と言いながら丁寧にラッピングされた包みを渡す。
「義理か」
「そうだよ」
にこにこと笑みを浮かべながら義理だと暴露するアカーシャに動揺するクロム。
(おおおお落ち着きなさい!とりあえずこれが嘘かどうか見極めねば!)
「だって、流石に幼馴染でも・・・地雷原を笑いながら踏破するような奴を異性として認めたくないかな」
他にも『対空砲火が飛び交っている中何の装備もなしで自由落下しながら戦う方はちょっと』とか、言われているがそれはまた別の話。
「じゃ、お返し期待してるよ~!頑張ってね、クロムちゃん」
クロムにだけ聞こえる声で激励するアカーシャ。
「ん、期待していろ」
「あ、あの閣下!これを・・・」
と言いながら剣を差し出すクロム。
「え?これは・・・・・・」
「私も、どうして剣の形にしたのか・・・・・・受け取って下さらないのですか?」
耳と尻尾がシュンと垂れるクロムウェル。
「・・・・・・受け取るよ、ありがとう」
~~~
「アイナ」
アイナ・シャリティムは、実は結婚している。
「え?あ、アナタ!」
アイナがカベロニの中央広場のベンチで座っていると、声をかけられる。
ビルド・シャリティム。ポセインチアの町のひとつに魔導機工場を構える火妖精の男だ。しかもイケメンだ。
「ごめんごめん。待ったかい?」
「いいえ、全然」
爽やかな笑みを浮かべるビルドと柔らかな笑みを浮かべるアイナ。
デファンレとポセインチアはそこそこ距離がある。その為、宮殿メイドとして宮殿勤めであるアイナとビルドは別々の場所に住んでおり、偶に休みを取ってこうして遊んでいるのだ。
「それじゃあ、いきましょう!」
「うん、行こうか。エスコートするよ」
カベロニは意外とデートスポットが豊富だ。
「まずは、ワイバーンに乗ってみるのは?」
「うーん、高いところはちょっと」
ワイバーンの背に乗ってカベロニを一周するスカイツアーや
「駆竜車レースの観戦は?チケットはすぐ買えるけど」
「いいわね、それにしましょ!」
駆竜という竜種に戦車を牽かせて走るレース用の森林。
空腹になれば山で採れた肉、海で取れた海産物を使った絶品料理。
「綺麗だね、夕日」
「ええ。そうね」
最後は夕日に照らされた街を見渡せる高台。
「君も綺麗だよ、アイナ」
「え!?い、いきなりそんな・・・・・・」
顔を真っ赤にして俯くアイナ。それを夕日の所為にするほどビルドは鈍くはない。
「君と結婚出来て、本当によかった」
「―――――――――私もよ。ところで、バレンタインのチョコはこれでいいかしら?」
夕日をバックに口づけを行うカップル。
そして二人は思う。
――――――――いつの日か、今日みたいな日が過ごせればいいなと。
~~~
「私は、何を・・・・・・」
エラギミズキは毎年、この日になるとチョコレートを作る。
あげる相手はいない。いないはずなのに。
(いったい彼は、誰だ!?)
脳の中で繰り返し現れる少年。ミズキと同じ黒い髪、白い肌、しかし違う色の目と半分だけ違う遺伝子。
(そうか、私は生前・・・・・・転生前まで彼のことが好きだったのか)
「だが、今は違う。私は、エラギミズキはただの暴力装置だ!」
作ったチョコをそのままに外へと出るミズキ。
『×月へ。愛している』
というメッセージがチョコには書かれていた。
かなり遅れてしまった挙句、このクオリティで申しあけございません!