姉が勇者として転生してきた為、魔王の右腕になって復讐することにした【凍結中】 作:ベクセルmk. 5
16話 ○ フェーリン海域の戦い 1
爛々と輝く星空、冷たく吹き付ける風、進む木製の船。
フェーリン海域西部、ミストヴェール側の海。14隻もの船がブルームハート王国領レパルタ島へと向かっていった。
中央にはミストヴェール教国の誇る最強の戦艦『聖なる小鹿号』とその護衛艦5隻。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
そこには2人の勇者がいた。
一人は平凪・閃。白の勇者の一人で、聖獣を体内に飼っている少年だ。
もうひとりはリトル・スノー。青の勇者候補の少女だ。彼女が魔除けの結界と防御の結界を張っているおかげで、今まで戦闘らしい戦闘をしておらず、閃は暇を持て余していた。
そこに、ブンブンという羽音を響かせて、何かが飛んできた。
「総員戦闘態勢!敵の斥候虫だ!」
斥候虫。巨大な蜻蛉のような見た目をしたその虫は、ブルームハート王国が斥候を行う際に放つ虫だ。今回それは、緑色のパイナップルのようなモノを抱えていた。
「問題ない、俺が一撃で潰す!」
勢いよくジャンプすると、斥候虫が飛んでいる高度まで到達する。
「<攻撃 赤き嵐槍><攻撃 浄き光弾><攻撃 樹木の枝剣><攻撃 氷竜咆哮砲>」
山吹系統魔法を持つ彼は、ひとつの分類に限り全ての系統の魔法を使うことができる。
「よし、これでまた静かになったな!」
ただ、この時には誰も、あんな事が起こるとは思いもしなかった。
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「呼虫?」
鉄や竜骨、様々な鉱石で創られた巨大戦艦、『リヴァイアサン』に乗っている少年、ラウル・デス・ムーンと鬼姫修羅は話をしていた。
「はい。見た目はパイナップルみたいなんですが死ぬと人間にはわからない甘い匂いを発するんですよ」
修羅の前で一匹殺して見せるラウル。すると、周囲に甘い匂いが立ち込め、思考が鈍くなるような感覚に囚われた。
「こ、これがどうかしたのか?」
「これ、さっき死んだ斥候虫の腹に抱えさせたんですよ」
にこにこと笑いながら語るラウル。そこへ、今にも人狼の本能剥き出しでラウルに襲いかかろうとするクロムウェルが現れる。さすがに危機感を覚えたのか【偽典・叡智の魔書】で<攻撃 魔風>を使って、匂いを消す。
「閣下、準備が出来ました」
「ん、ありがと」
クロムの頭を軽く撫でるラウル。そのまま、艦首まで歩いていき、軍服の袖をまくる。その腕にはびっしりと縫い目じみた跡が残っていた。
「
縫い目の一つが開き、中から赤黒い液体が流れ出る。それが、魔物の形に再創成されていく。
このスキルは召喚された魔物を体内に格納することのできるスキルだ。今回召喚された魔物は、海を泳ぎ、ながら界面を低空飛行する魚『爆発トビウオ』、船に乗り込んで直接人間を食い殺す『虎鮪』、巨大な岩礁に擬態する『大岩ヤドカリ』、竜骨製の船すら貫く水の砲撃を行う魚『大砲鮫』など、食材としての利用価値も大きいが好戦的な種を多く召喚した。
「んじゃ、頑張ってきてね?」