Fate/Fox Chronicle    作:佐々木 空

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魔人の刃

「ふれー! ふれー! マ・ス・ター!! 行け行けマスター! 頑張れ頑張れマスター! わーーーー!!!」

 

「なぁ……お前は援護しなくていいの?」

 

零司とランサーが向かい合い、セイバーとバーサーカーが激しい攻防を繰り広げているのを他所にキャスターはライダーの戦車に戻って全力で応援していた。何処から取り出したのかご丁寧にポンポンまで振って。

 

何故自分のマスターが戦っているのにここに居るのかや何故ここに戻ってくるのか……言いたい事は色々あるがここまでの流れで自分の意見は聞き届けてはくれないのだろうなぁ、と悲しいことになんとなく理解していたウェイバーである。

 

「あのですね私は魔術師(キャスター)なんですよ? バリッバリの近接戦闘型のランサーに殴り合いで勝てる訳ないじゃないですか。殴り合いは主にご主人様(マスター)が。私はそのサポートをと言うのがご主人様(マスター)と考えた戦法です」

 

「まぁキャスターの言うことにも一理ある。ここはあ奴のお手並みを拝見するとしようではないか坊主」

 

「たくっ……分かったよ。幸い誰もこっちのこと気にも留めていないみたいだし」

 

ライダーとウェイバーは大人しく事の成り行きを見守ることにした。

 

しかしそんな二人とは裏腹に気丈に振舞っているキャスターの内心はそんなに落ち着いたものではなかった。

 

「(とは言ったものの……状況はあまり良くはありません。バーサーカーはセイバーさんが何とか持ちこたえるにしても相手は先ほど令呪により若干の魔力ブーストを施されたばかりのランサー。こればっかりはご主人様を信じるしかありません……)」

 

キャスターの思っていることは実に的を射ていた。

 

バーサーカーは何故かセイバーにしか気が向いていない為、必然的にセイバーが相手をすることになる。

片やランサーの方は本来の令呪の命令とは違うがそのサポートは相手が変わっても何ら問題はないだろう。

 

対してこちらは本人の魔力強化とキャスターのエンチャントで多少の無理には耐えられるようにしているだけ。

キャスターは少し前に零司と話していた戦法についての会話を思い出す。

 

 

 

『まず、俺たちは正攻法で戦ってもまず勝てない』

 

 

 

ぐうの音も無いほどに正論だった。

 

いくら人間としては異常の回復力と異常慣れしている零司と故郷に召喚され、知名度補正を受けているキャスターでも他のサーヴァントに真っ向から立ち向かって勝てるほど勝算は高くなかった。

 

それでも二人には他の陣営を明らかに圧倒するアドバンテージを持っている。

 

零司のこの戦いにおける原作の知識だ。

 

戦争において最も重宝される武器は情報である。例えどんなに絶望的な状況だとしても相手のことを知っていれば対策の立てようはある。

事実、生物としては弱い部類に入る人間が長く生存してこれたのも情報を得て対抗策を講じていたからだ。

 

今回の聖杯戦争で呼ばれたサーヴァントの対処法はすでに考えて対抗策を講じている。

 

 

「(布石(・・)はすでに用意しました。後はマスターの合図を待つだけ………。どうか無理はなさらないで下さいご主人様………)」

 

そう内心で心配しながら己のマスターを信じて見つめるキャスターであった。

 

 

 

-------

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

両者共に動かず、相手の状況を窺っていた。それでも零司以上にランサーは警戒していた。

話の状況からライダーと共に先ほどのセイバーとの戦闘を見られていたのは明白だ。恐らく自分の槍のこともすでに知られているのだろう。

それでもあえてサーヴァントではなくマスターが戦場に出て、最速の英霊との異名を持つランサーに向かって白兵戦を仕掛けてきた……。

先ほどの殺気を受けても気にしなかったことから余程腕には自信があるのだろうとは分かっていた。

 

「(先ずは小手調べ……その実力を見せてもらおうか。キャスターのマスターよ!)」

 

刀を両手で握り、正面に構える零司に向かってランサーが走り出した。

最初の一突きで殺すつもりは無い。あくまで実力を見るのみ、そう思いながら右手の赤槍を零司に向かって突く。

 

「(さぁどう出る!!)」

 

狙いは胸。当たれば即死の攻撃を繰り出すランサーの槍に零司が刀を振り上げ―――当たるとそのまま槍を弾き、バウンドするかのような感じでランサーの首目掛けて刀を奔らせて来た。

 

「っ!」

 

本当に刀で弾いたのかと疑うような感触と予想外の動きに驚いたが、すぐに体を捻らせ回避する。槍は僅かに軌道を逸らされたようで零司の腕を掠っただけに終わる。

 

「(あの攻撃にあそこまで軽いカウンターで返してくるか……)」

 

肝が据わっているのか、はたまた死ぬのが怖くないのか。

 

初撃で胸を狙った自分が言えることではないが、まさかいきなり首を狙ってくるとは思わなかった。

体制を立て直し再び零司を見据えるランサー。次撃に備えたが相変わらず零司は刀を構えてこちらを見据えたままだ。

再び槍を構えて走る。二槍を器用に使い分け零司に振るうランサー。

その激しい攻撃に少し焦りの色を見せる零司だが刀を使い、致命傷になる傷だけは防いでいた。

 

攻防の中でランサーは思案する。

 

 

「(キャスターの魔術強化もあるのだろうがここまで防ぐのは人間としては見事と言う他無い。だが……)」

 

先ほどの攻防で受けている筈の傷がたちどころに治っていっている。そこまでならまだいい。

だが、驚くべきは必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)で受けた筈の傷まで治っていることだ。

 

必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)の能力は癒えない傷を付けることではない。傷を付けた状態を全快の状態にする宝具だ。体自身に傷を付けた状態が全快の状態だと誤認させる呪いを付与し、それ以上回復できない状態とする。なぜなら全快以上に万全の状態などないのだから。

 

それでも零司の体に受けた傷は例外なく直っていく。

 

ありえる可能性としては一つ――――――必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を上回るほどの呪いをその身に有しているか。

 

 

その予想は外れてもいないし、正解でもない。零司の体は普通の人間の体だとしてもその体はこの世界で一度死に神という存在によってもたらされた回復力で蘇生している。

そもそも神という存在自体が異常そのものだ。その存在によって得た半悪魔の回復力が必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)の呪いを受け付けない程に呪いのようなものとなり、零司の体に刻み込まれていた。

 

 

それでも致命傷になる攻撃を受ければ死ぬことには変わりは無い。零司はそのことを理解したうえでランサーの攻撃を防ぎ続ける。

 

ランサーもそのことはなんとなく理解していた。例え必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)で受けた傷でさえも治るほどの呪いを持っていたとしても致命傷を避けるということは殺せるということ。

ならばわざわざ必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)の呪いに拘るまでも無い。

 

尚も激しい攻防を続ける。

 

「(曰く、戦士は心を静めたまま戦う『静』のタイプと感情を爆発させ戦う『動』のタイプに分かれるという。恐らくこいつは前者。俺の槍に対して一切のくるい無く刀を振るい続けている………)」

 

まさか聖杯戦争で魔術師と白兵戦をし、ここまで心が躍るとは思わなかった。

 

 

「(嬉しいぞ……キャスターのマスターよッ!!)」

 

「ッ……!!」

 

 

内心で感謝を伝えながら左手の黄槍で刀を絡め取り、心臓に向かって破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を突く。

 

だが、刀から左手を離し足元にある鞘を足で蹴り上げたかと思えばそのままキャッチし破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を逸らす。よく見ると鞘全体に青い線が奔っている。

 

「(鞘に魔力を通し、防ぐのではなく流すか。本当によくやる!)」

 

両手が塞がったが、そのままランサーは零司に向かって蹴りを繰り出す。蹴りが直撃し、苦悶の表情を見せ油断したランサーに向かって零司が蹴られてくの字になった要領を利用しおでこではなく顔に向かって頭突きをかます。

 

「がふっ………」

 

「んぐっ………」

 

零司はそのまま飛ばされるが、ランサーはその場で少しよろけるだけだった。

しかし、自分の蹴りを食らった状態を利用しての頭突きは予想外で意外に効いたのか少し顔を押さえつける。異名の『輝く貌のディルムッド』は自分が付けた訳ではなく、それほど自分の顔を大事にしている訳ではないが、的確に顔を狙われたのが相当効いたようだ。

 

 

「ただではやられない、という訳か」

 

「日本には、やられたらやり返す……倍返しだッ!! って言葉があるんだよ」

 

「なるほど。実にいい言葉だ」

 

互いに軽口を叩けるくらいには余裕がある。しかし、ディルムッドは半ば確信していた。

 

 

「だが、気付いているのだろう? ――――――このままではお前は俺に勝つことは出来ない、と」

 

「っ…………」

 

承知していたが改めてその現実を突きつけられ、零司の表情が歪む。

 

悔しいがランサーの言う通りだった。今も自分とランサーは互角の戦いを繰り広げているかのように見えているが、ランサーはまだ本気を出していない。先の攻防でランサーにも傷を与えているがそのどれもがさほど響いてはいない。

 

そもそも人間とサーヴァントの素のスペックが違う。サーヴァントが魔力100%に対して人間は表面上に魔力を纏っているようなものだ。零司の戦闘方法(スタイル)が主に生き抜く為のものに特化して、全身の魔力強化とキャスターのエンチャントでようやっとサーヴァント相手に立ち回ることが出来る。

対してランサーは白兵戦を挑んでくる零司に対し、警戒して様子見や小競り合いをしてくるおかげで何とか保たれている状況だった。

 

このままではランサー相手に押し切られるのは時間の問題だ。

 

 

かと言ってこのまま黙っている訳にもいかない。

 

「申し遅れたが、我が名はディルムッド・オディナ。フィオナ騎士団が一番槍『輝く貌のディルムッド』だ。貴様はなんと言う?」

 

「――――零司。南雲零司だ。『異端殺し』だなんて呼ばれてる」

 

「そうか。ならば零司よ。俺はまず貴様に謝らなければならない。俺はお前が人間だからといって少しばかり手心を加えていた」

 

「こっちとしてはその方がありがたいんだけどな」

 

「ふっ……そう言うな。俺はお前を一人の戦士として認めたのだ。やれ人間だのサーヴァントだの関係ない。今から俺は一人の戦士として―――――お前を我が槍で倒す」

 

 

殺気。先ほどまでとは比べものにならないほどの精練された純粋な闘気と殺気が嫌と言うほど体に突き刺さる。

 

槍を構えたランサーに合わせてすぐに閻魔刀を構えるが構えたと同時にランサーの姿がぶれたかと思えば、一瞬にしてその間合いを詰めてランサーが槍を突いてくる。

その速度の違いに驚きながらも槍を弾くが、先ほどまでとは違う槍捌きに一瞬反応が遅れ、肩を切りつけられる。

 

すぐに後退し、左手で鞘を逆手に持ち前に突き出し、右手で閻魔刀を突きを放つ体勢のまま上段に構え攻撃に備え、上段から、下段から、中段からというあらゆる方向からの攻撃を最小限の動きで捌き続ける。

 

 

「(まずい……!)」

 

零司が考えている中で一番最悪なパターンで相手は来ている。

倒すまではいかなくても何とか時間を稼ぐのが目的だった。相手が本気でないならばいくらでもやりようはあるからだ。

しかし、もとより勝ち目の無い戦いなのに相手が本気になられたら時間稼ぎすら出来なくなる。

 

 

「はぁぁああっ!!」

 

「がはぁ?!」

 

必死に槍を捌き続けるが槍に気が向きすぎて注意が薄まったところを蹴りつけられ、弾き飛ばされる。

すぐに体制を立て直し、相手を見据えようとするが目の前に迫る槍を見て半ば条件反射で回避する。

もしも、避けていなかったらその槍が自分の額に突き刺さっていたであろう一撃だった。

その事実に内心ゾッとしたがその余韻に浸る暇も無くランサーの攻撃は続く。

 

 

「どうした! もう後が無いぞ!!」

 

「く、そ………!!」

 

槍の一撃を防ぐが込められた力が予想より大きかったのか、そのまま弾き飛ばされる。

 

 

「そろそろ終いと行こうか」

 

 

 

 

「………何勝った気でいるんだよ」

 

 

止めと行こうとしたランサーだったがその言葉に足が止まる。

 

 

「まだ終わってねーだろうが……」

 

煙の中から出てきたのは閻魔刀を鞘に納めたまま腰を低くし、構えたままランサーを見据えている零司だった。

槍使いであるランサーでもその構えは知っていた。

 

―――――居合い切り。

 

刀を鞘に納め、抜き様に相手を切りつける抜刀術の構えだった。

 

 

「ほう、この俺に速さで挑んでくるか。ならば、受けて立つぞ」

 

ランサーも槍を構える。

 

辺りは二人の攻防と先ほどのアーチャーの攻撃で安定した足場ではないがそれでもさほど気にする程ではなかった。

 

ランサーは不謹慎だと思いつつも自らに無謀ともいえる戦いを挑んできた零司を賞賛していた。(ケイネス)を侮辱するわけではないが、ライダーの言う通り彼はこの戦いをただ見ているだけだ。前線に出るのはサーヴァントである自分だけ。それに不満は何一つ無い。生前では当たり前だったし、何よりその作戦は理に適っているのだから。

マスターはサーヴァントのサポートを。サーヴァントはマスターの為に己が刃を振るうもの。故に、自分自身もかつての英雄たちとの戦いを楽しみにしていた。

 

しかし、今目の前にいるのはこの時代を生きている人間だ。

 

自分に真っ向から立ち向かってくるのはサーヴァントではなくまごう事なき人間だ。

 

 

「(今にして思えば……俺にもこういう時期があったのやも知れないな…………)」

 

 

――――故に全力を以って倒す。

 

それが自分の望む騎士の姿であり、目の前の敵に対する最大の礼儀なのだから。

 

 

 

両者とも構える。

 

零司の目はまっすぐにランサーを見据える。

 

ランサーもまっすぐに零司を見据える。

 

 

穿つは心臓。鞘から放たれる刃の軌跡を歴戦の感覚で感じ取り、勝利の光景(ヴィジョン)を思い描く。

 

 

「――――――はあっ!!」

 

破魔の紅薔薇《ゲイ・ジャルグ》を心臓に向けて突く。そのための最高の速度を持った動きで左足を踏み込み――――――

 

 

 

 

――――――目の前がひっくり返った。

 

 

「(な、にィィィィィィィィイイッッ!!!!)」

 

 

一体何が起きたのかランサーには理解できなかった。

 

確かに自身の最高の速度で零司に向かって行った。そこまではまだ理解できる。そして一歩踏み込んだ瞬間、まるで地面が動いたような感覚で横に滑り、全身でひっくり返っていた。

 

何だ。何だ。何だ。何だ。何だ。何だ。何だ。何だ。何だ。一体全体どうしたというのだ。

 

ランサーの頭の中は先ほどまでの精練された集中力ではなく自分の理解を完全に超えた、完全に意表を突かれた感覚と疑問でいっぱいだった。

 

 

「(こ……れ……はぁぁぁぁああッ??!!)」

 

 

視界が安定しないランサーの目に映ったのは一つの鏡(・・・・)だった。

 

何故こんな所に鏡があるのか。何故自分はひっくり返っているのか。尽きぬ疑問の中ランサーは先ほどの零司とキャスターの会話を思い出す。

 

 

 

 

『キャスター――――準備を頼む(・・・・・)

 

『分かりました。………ご主人様(マスター)……お気を付け下さい』

 

 

 

準備。

 

確かに準備と言っていた。そこからの戦闘から自分はてっきり体を強化するエンチャントの準備だと思っていた。事実、戦闘に入ってからも特に怪しい動きは全く無かった。

しかし、この状況と会話から察するにこの鏡は十中八九キャスターのものだ。

 

――――――だったら一体何時からこの鏡はあったのか。

 

 

――――――まさか。

 

まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさか。

 

 

「(…………まさかぁぁぁぁぁアアッッ!!??)」

 

 

――――――最初から。

 

戦う前からこの場所にあらかじめ鏡を設置しておき、自分がこの場所に足を置いた瞬間にキャスターが鏡を操作して自分の体勢を崩してきた。

このタイミングで。零司が居合い切りの構えを取り、ランサー自身もそれを向かい撃つ為に極限まで集中力を高めたこのタイミングであらかじめ講じていた策を取って来た。

 

 

 

ライダーの戦車からランサーを見つめているキャスターは会話の続きを思い出す。

 

 

零司とキャスターは己の実力を把握した上で正攻法では勝てないと確信していた。

 

――――故にこう考えていた。

 

 

『だが逆に言えば手段を選ばなかったら勝てる可能性はあるってことだ』

 

 

原作の知識を最大限に使い、それぞれの性格や方向性を利用した戦法。

真っ向切手の正々堂々とした戦いかと思いきや、ランサーがセイバーにしたようなことと似たような方法でランサーの裏をかく。

まさか自分がしたことを戦闘中に相手からやられるなど誰が思うだろうか。

 

それらを考える零司の顔は……まるで悪巧みを考えるような悪い顔だなぁ……と思った。

 

 

「(恐らくはあれが素のご主人様なのではないでしょうか……?)」

 

 

 

 

「(……は! 奴は……?!)」

 

完全に零司の事が頭から抜けていたランサーだったが、安定しない視界の中で零司を見る。

 

完全に自分の意表を突いたのだ。これを利用しない手は無い。

しかし、ランサーの予想とは裏腹に零司はその場を動かず、こちらに向かって刀を構えたままだった。

 

「(何故…………?)」

 

これ以上ない絶好の好機に動かない零司に疑問を持つランサー。

 

 

 

――――その直後だった。

 

安定しない視界が少し歪んだかと思えば、直後に閃光が奔り―――――

 

 

「……………………!!!???」

 

 

 

――――――鮮血が宙に舞った。

 

 

 

 

-------

 

 

神から送られていた手紙には続きがあった。

 

 

『閻魔刀は魔に絶大な力を発する刀であることに変わりは無いが、その刀にはかの半悪魔が振るっていたものとは違う点が一つだけある』

 

 

『その刀はお前が振るう際にのみ限定的な概念武装(・・・・・・・・)へと変異する』

 

 

『お前の体は半悪魔の再生力を持っているといっても『奴』と同じことが出来るわけじゃない。俺が言うのもあれだが『奴』は常識の外にいる存在だ。比べるほうがおかしい』

 

それはまごう事なき事実であった。

零司自身は普通の人間であり、『彼』のような貪欲に強さを求める精神も、自らを鍛える為の悪魔(かいぶつ)も、人間を超越する身体能力も持っていない。

故に、どれほど努力しても『彼』の技量に到達することは不可能である。

 

 

『だが、お前の技量によって擬似的に『奴』の奥義を再現することは可能だ』

 

 

『少し勝手が違うが………まぁ、全てはお前次第だ。精々有効活用してくれ』

 

 

-------

 

 

 

刃を構える。

呼吸を整え、結末(ヴィジョン)を思い描く。

『彼』の奥義は『彼』だけのものであり、『彼』にしか成しえない奥義だ。自分が出来るのはその再現でしかない。

ランサーが疑問の表情でこちらを見るが関係ない。

距離なぞ関係ない。距離を越え、間合いを越え、空間を越え、この斬撃は相手へと移動(・・)する。

零司がようやく到達し、会得した限定奥義。

その名は――――――

 

 

 

 

「――――――『次元斬(じげんざん)』」

 

 

刀を抜き、その軌跡がランサーの元へと飛び…………鮮血が舞った。

 

 




VSランサーでした。

色々引っかかる部分があると思うけど、まぁ、そういうものだと納得していただければ幸いです。バージルと零司の次元斬の違いは次回で明らかになります。

零司とランサーの攻防に関しては膝丸とジェットの攻防をイメージしていただければ分かりやすいと思います。


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