ウェイバー・ベルベット。
第四次聖杯戦争においてライダー、征服王イスカンダルを召喚したマスターだ。
彼の家は数代続いている魔術師の家だ。熟練の魔術師から見れば
何故学生である筈の彼が聖杯戦争という殺し合いに参加しているのか?
魔術師とは神秘を行使する者の事であり、その家の歴史が長ければ長いほど行使する神秘も体に根付いている魔術回路の質も量も普通の魔術師とは異なってくる。そう彼は時計塔の授業で習ってきた。
だが彼は疑問に思った。何故歴史の長い魔術の名門だけが優れていると言えるのだろうか、と。例え高度な魔術であろうとその詠唱と魔力を調整し、尚且つ扱う魔術師が天才的な技量を以ってすれば行使は可能なはずである。
そう彼は考えて自身が受けている降霊術の講師である、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトに直訴し、論文を叩きつけた。
ケイネスは常日頃魔術師の優劣を決めるのはその血統であると提言していた。実際、ケイネス自身も魔術の名門の出であり、その実力を認められて時計塔の講師を務めているほどの技量を持っている。だからウェイバーも彼でも分かるように論理的に、そして分かりやすく論文をまとめていたつもりであった。
これで自身の考えを理解してくれたはずだ、そう思っていた。
だが彼は講義中にその論文はただの妄想であると吐き捨て、自分を大勢の生徒の前で笑い者にするという仕打ちをしてくれた。
馬鹿にしやがって。当然そう思った。自分は確かに血統は浅いかもしれない。それでも時計塔の連中やケイネスに負けないくらいの才能を持っているはずだ。それをケイネスは認めたくなくて自分を笑い者にしたんだ。そう彼は結論付けた。
悔しい――――そう思ったときだった。
講義を抜け出した後に廊下で出会った人物からケイネス宛の荷物を受け取ったのだ。
最初は何だろうと思った。荷物のことを調べるうちにケイネスがとある魔術儀式に参加するという噂が本当であると理解した。
それが聖杯戦争である。
聖杯戦争は肩書きも血筋も関係ない正真正銘の実力勝負。自分に持って来いの舞台であると確信した。それに勝って自分の考えは正しいと時計塔の連中に思い知らせてやる。幸いにも、荷物の中身はケイネスが取り寄せたマケドニアからの聖遺物が入っていた。これで自分もサーヴァントを召喚する事が出来る。
そう思い立った彼はすぐに日本に発ち、令呪の発現に成功し召喚を成功させた。
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そう。そこまで。そこまでは完璧だったはずだ。
頭痛がするのを感じながらウェイバーは自身が呼び寄せたサーヴァントに対する怒りを募らせる。
ライダーはマケドニアに君臨した征服王イスカンダルであった。しかし、問題はそこからであった。召喚した直後から略奪と称して他所の家から本を盗み出すわマスターである自分の言うことを全く聞こうとしないわ、果てにはキャスターとそのマスターには自分の真名を大声で名乗るわ。
ぶっちゃけ本当に聖杯戦争を理解しているのかと疑った。しかもセイバーが苦戦しているとこのままでは勝負が決してしまうと判断してすぐに向かおうとして自分たちだけでなくキャスターとそのマスターまでライダーの戦車に乗せるわ。
やってること全てがデタラメで理解に苦しんだ。
「お主等本当に余の軍門に下るつもりはないのか?」
「「くどいと言っている!!」」
そして現在。
キャスターたちと共にセイバーとランサーの戦いに割り込んだと思ったらまた大声で自分の真名を名乗るし、セイバーとランサーに自分の家臣にならないかと勧誘するし、もはや怒りを通り越して既に泣いていた。
案の定セイバーとランサーはライダーからの勧誘を一蹴し、零司はそんなウェイバーにご愁傷様と目で伝えていた。
「だから言っただろライダー。多分他の奴らも駄目だって?」
「いや物は試しというであろう?」
「ライダァァァァアアッ!! お前もういい加減にしろよ?! 僕の言うことを無視してさぁ!!」
「いや~本当に残念だのう……」
「だから聞けって!! 大体お前は――――」
「そうか。よりによって貴様か」
戦場にいたメンバーの誰でもない人物の声が辺りに響き渡る。
突然の声にその場にいた殆どの人物が警戒していたがランサーとウェイバーだけは他と違った反応を示していた。ランサーは動じていない風に。ウェイバーはまさかという反応と怯えた表情で……。
「一体何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思ってみれば……まさか君自らが聖杯戦争に参加するはらだったとはねぇ……ウェイバー・ベルベット君?」
「あ、ああ……」
「君については私が特別に課外授業を受け持ってあげようではないか。魔術師同士が殺しあうという本当の意味……その恐怖と苦痛とを余すことなく教えてあげよう」
「あ、ああ……ああああぁぁ!」
ランサーの反応から察するに恐らくこの声の主はランサーのマスターであろうとその場の何人かは理解した。会話からしてランサーのマスターとウェイバーは知り合いなのだろうとすぐに分かったがウェイバーの反応がランサーと違いその声に恐怖したのか耳を手で塞ぎ俯いていた。
ウェイバーはその声の主がケイネスであるとすぐに分かった、しかしその声はいつも時計塔で聞くものとは全然違った。今まで聞いたことのないような声のように感じ、その殺気が自分一人に向けられていることを感じた。
今まで殺し合いとは縁が無かったウェイバーは魔術師が発する殺気とはどういうものなのか思い知る。
あいつが本当に自分を殺しに掛かる。生徒とか関係なく。
そう思うだけで体が震える。
ふと自分の頭に何かが乗せられるのを感じた。何かと思い顔を見上げるとウェイバーの瞳に写ったのはこちらを見ているライダーの顔であった。
ウェイバーに向かって微笑むとライダーはウェイバーに語りかけているであろうケイネスに向かって大声で叫ぶ。
「おう魔術師よッ!! 察するに貴様はこの坊主に成り代わって余のマスターになる腹だったようだな。だとしたら片腹痛いのぉ。余のマスターたるべき男は余と共に戦場を馳せる勇者でなければならぬ。姿を晒す度胸さえない臆病者なぞ役者不足も甚だしいぞッ!!」
ひとしきり言い終えたのかライダーの笑い声が響き渡る。
「おいこら! 他にも居るだろうが闇に紛れて覗き見しておる連中は!」
「どういうことだ…ライダー?」
「セイバー…それにランサーよ。うぬ等の真っ向切手の競い合い……真に見事であった。あれ程清澄な剣戟を響かせては……惹かれて出てきた英霊が、よもや余一人と言うことはあるまいて」
そう言いながらもライダーはなんとも悲しそうに言葉を続ける。
「情けない! 実に情けない!! かつて歴史に名を轟かせた英雄が揃いも揃ってコソコソ覗き見だけとはのう…………聖杯に招かれし英霊は……今ここに集うがいい!! 尚も顔見せを怖じるような臆病者は――――征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れぇッ!!!」
ライダーの声が辺り一面に響き渡る。すぐ隣にいたウェイバーはもちろん、零司とキャスターはあまりの声量に耳を塞ぎ、離れたコンテナから狙撃を狙っている切嗣と舞弥も耳に残るほどの声に若干の呆れを見せている。
そして、コソコソ覗き見している数人は思った―――――まずい、と。
ライダーの破天荒な物言いはともかくあれ程の声量であの類の言葉を発してしまえば必ずあの存在は黙っている訳がないと。
「
その声と共に街灯の上に一人の男が現れる。
その場にいる全ての視線がその男に向けられる。同時に警戒することも怠らない。むしろ先程よりも警戒する。その全身を金色の甲冑で覆っている男をみて全員がアサシンを倒した遠坂のサーヴァントであると確信した。
零司も最大の警戒を以ってその男を見る。たとえFateに詳しくなくてもその存在は至る所で名が挙がるほどに有名であった。
英雄王ギルガメッシュ。通称金ぴかと呼ばれる彼が今回の聖杯戦争での最大の鬼門であると零司は考えていた。
「難癖付けられた所でな……イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが?」
「たわけ。真の王たる英雄は天上天下に
「そこまで言うのならまずは名乗りを上げたらどうだ?貴様も王たる者ならばまさか己の異名を憚りはすまい」
その何気ない―――と言うより当たり前の流れによる問いが彼の逆鱗に触れたことを誰も知らなかった。
「問いを投げるか……? 雑種風情が……この
明らかに不機嫌になったアーチャーの立っている街灯が点滅し、そのまま踏み壊す。
「我が拝謁の栄によくして尚、この面貌を見知らぬと申すなら――そんな蒙昧は生かしておく価値すらない!!」
その直後アーチャーの背後で変化が起きる。
まるで水面が波紋を奔らせるかのように空間が歪むとその中から剣と槍がそれぞれ出てくる。アーチャー自身は何の武器も持っていないことから恐らくアサシンを倒したのもあの宝具であろうと予測を立てる。
アーチャーの標的は恐らく自分のことを王と宣言しただけでなく問いを投げたライダーであることは皆確信していた。
だが、それでも下手に動くことが出来なかった。
一体どんな反応がアーチャーを刺激するのか分からない。ライダーの会話の流れからの当然の問いですらあの反応だったのだ。下手に動けばその標的が自分に向きかねない。
その時だった。
「■■■■■■■■ーーーーーーーーー!!!!」
戦場の一角に叫び声と共に黒い霧が現れる。やがて黒い霧が形を変えるとそこに立っていたのは漆黒の鎧を身に纏った
「バーサーカー!」
「なぁ征服王、あいつには誘いを掛けなくていいのか?」
「誘おうにもなぁ……ありゃのっけから交渉の余地が無さそうだわいなぁ。坊主よ、サーヴァントとしちゃどの程度のもんだあれは」
「…………分からない。まるっきり分からない!」
「おい何だ。貴様とてマスターの端くれであろうが? 得てだの不得手だの色々と”観える”ものなのだろ? んん?」
聖杯戦争でサーヴァントを召喚したマスターは聖杯からの僅かながらの恩恵を授かっている。
その一つがサーヴァントのパラメータの『視覚化』だ。
サーヴァントを一目見るだけでそのサーヴァントの強さが現れるというゲームでいうステータスを見るようなものだ。当然ウェイバーにもその恩恵が与えられている。
にも関わらず、サーヴァントである筈のバーサーカーのステータスが見えないというウェイバーの言葉に疑問を持つがライダーに零司が補足を加える。
「ウェイバーの言う通りだ。恐らくあいつの宝具かスキルで自身を隠蔽しているんだと思う。実際俺にも全く分からん」
「ふむ……バーサーカーにして自身の存在を隠した英雄か………」
「ていうかそんな知能を持つ人が普通バーサーカーになんてなりますかね?」
聖剣を持つセイバー。魔力無効と治癒不可の槍を持つランサー。突如戦いに乱入したライダー。ライダーの戦車に乗ってきたが全く実力を見せないキャスター。アサシンを蹂躙し、正体不明の宝具を持つアーチャー。そして、混沌とした状況の中に現れた正体不明のバーサーカー。
六騎。聖杯戦争に呼ばれた一騎当千の英雄たちが今ここに集った。
先ほどのセイバーとランサーとの戦いやライダーとアーチャーの乱入とは比べ物にならないほど状況は混沌と化してしまった。
相手が一人や協力関係になっている者ならば誰が敵なのかはハッキリする。だが、この場に集まったのは会話から分かる通り自分以外が敵という状況。
一体誰を狙い、どう動けばいいのか、その些細な判断が自分の命運をわける戦場となってしまっていた。
「――――――誰の許しを得てこの
最初に動いたのはやはりと言うか傲慢な態度を依然貫いているアーチャーだった。
その瞳は先ほど現れた黒い霧を身に纏うバーサーカーに向けられている。
いや、違う。先に見ていたのはバーサーカーだった。まるで最初からアーチャーだけが狙いだったかのようにアーチャーをただ見ていた。その素顔はフルフェイスの兜により全く分からない。
その態度が気に入らなかったのか、ライダーに向けていた二振りの武具をバーサーカーに構えて――――
「せめて散り様で
―――――放った。
アーチャーの言葉が号令となったのか凄まじい速さでバーサーカーに向かって飛来し――――バーサーカーに
爆風が当たりに吹き荒れるがその状況を真に理解しているものたちは驚愕していた。
「奴め…本当にバーサーカーか?!」
「うむ……狂化して理性をなくしているにしてはやけに芸達者なやつよのう」
「お、おい……どういうことだよ?」
「何だ分からんかったのか? あの黒いのは最初に飛んで来た剣を難なく掴み取り、そのまま第二激の槍を打ち払ったのだ」
「つ、掴み取ったって!」
ウェイバーがその事実に驚愕したのも無理はない。本来バーサーカーが狂戦士のクラスで呼ばれるのには理由がある。
英霊とは人類史に名を残した英雄たちを指すものだが当然その逸話や基礎能力には埋められない差が存在する。ならばその差をどう埋めればいいのか。マスターの魔力供給の問題もあるが、最も簡単な方法は呼び出す際に特別な詠唱を追加して召喚するサーヴァントにあるスキルを加えればいい。
それこそがバーサーカーが狂戦士と呼ばれる由縁である固有スキル『狂化』だ。
その効果はその名の示す通り理性を完全に消失させる代わりにサーヴァントのパラメータを大幅に底上げするスキルだ。これにより弱いサーヴァントが格上と戦うことになってもすぐに負けるということはない。
いうなればその姿は爆弾を積んで突貫して来る船と同じなのだ。
どんなに攻撃しても痛みを気にせずに喰らい付いて来る。なんの戦法も取らずにただただ殴りかかってくる。単純ゆえに強力。シンプル・イズ・ベストとはよく言ったものだ。何の策も無い圧倒的な攻撃に通用する術は殆ど無いのだから。
故にあのバーサーカーもその名の通り気にせずに突っ込むのか当たったとしても痛みを気にせずに立っているものだと思った。
だが、あのバーサーカーは理性を失くした状態でありながらまるで熟練の達人のような技術で攻撃を回避したのだ。
理性を失くした獣でありながらその動きは洗練された達人。その事実はこの場にいる全ての者を戦慄させるのに十分過ぎる程だった。
「その汚らわしい腕で我が宝物に触れるなど……そこまで死に急ぐか!! 狗ッ!!」
それでもアーチャーの態度は変わらない……いや、むしろ酷くなっていた。
無造作に射出された武具を防ぐだけならまだしも直接触れられただけでなくそのまま使われたという事実が彼の機嫌をさらに損ねていた。
武具の扱いは雑に近いが自身が持っているということによほど心意気があったのか、尚もこちらを見ているバーサーカーを怒りの顔で見ていた。
その背後からは先ほどの武具と同じように空間から出てくる武具の数々。その数は……十四。そのどれもが宝具並みの威力を保有しているであろう事実にその場にいる者たちは驚愕する。
「その小癪な手癖の悪さでを以って何処まで凌ぎきれるのか……さぁ、見せてみろ!!」
怒声と共に圧倒的暴力が放たれた。
まずは一つ。バーサーカーは飛んで来た槍を掴み取る。その衝撃で数歩ほど後ろに後ずさるが続けてきた二振りの剣を弾き飛ばす。
その間を縫って飛来する槍と剣を回避し、続けて来る二振りの剣を弾き、飛んでくる斧を右手の剣を投擲し空中に弾き飛ばした。
そのまま重力に従って落下してきた斧を掴み取り飛んでくる剣を弾き飛ばす。弾き飛ばされた剣が背後のコンテナに衝突し、爆発を起こし煙が辺りに漂う。
バーサーカーは煙を気にせずに左手の槍を地面に刺し、飛来してきた剣を掴み取り、そのまま続けて飛んで来た二振りの剣と一本の槍を両手の剣を巧みに扱い弾く。
そして煙の中から飛んで来た稲妻が迸る一際強力な槍をそのまま切りつけた。切りつけられた衝撃で槍に内容されていた魔力が爆発し、辺りに爆煙が吹き荒れる。
静かになった一瞬――――煙の中から二振りの剣が飛来し、アーチャーの乗っていた街頭を切断し、乗っていたアーチャーが地面に着地する。
煙の中からは依然無傷なバーサーカーがアーチャーを見ていた。
「痴れ者が……天に仰ぐべきこの
どこまで傲慢なのかアーチャーは地面に立たせられたという事実にさらに怒りが増し、その背後に再び武具が現れる。それも先程までとは比べ物にならないほどの……それこそこの場を焦土にするのではないかというほどの武具がたった一人に向けられている。
それでも変わらない。バーサーカーは先程と同じようにただただ……アーチャーを見つめている。
「そこな雑種よ…………もはや肉の一つも残さぬぞ!!」
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『ギルガメッシュは本気です。さらに
遠坂邸の地下でアーチャーのマスター、遠坂時臣は連絡機からの綺礼の言葉に頭を抑える。
あの場には分裂したアサシンの一人が監視として配置している。つまり、あの場所には聖杯戦争に参加している全てのサーヴァントが揃っているということだ。
だが、そんな事よりも時臣はアーチャーの軽率な行動に悩んでいた。本来は他のサーヴァントの監視として見に徹していたのにライダーの言葉がよほど響いたのかアーチャーは独断で戦場に姿を現してしまった。
それだけならまだしも、自身の宝具をあれだけ大々的に使ってしまっている。軽率にも程があるというものだ。
「愚かな……必殺宝具をあれだけの衆目の前に晒すとは……」
『我が師よ……ご決断を』
綺礼の言葉で自身に刻まれている令呪を見る。
遠坂時臣の聖杯に託す望みは先祖から受け継がれてきた悲願、根源へと到ることだ。そのために様々な準備を進めてきた。監督役の助力という大きな助けに加え、言峰綺礼という優秀な弟子でありマスターを味方に付け、ギルガメッシュという最強の切り札を引き当てた。
だが、何事にも計算外というものは存在する。
一つ目は、ギルガメッシュがアーチャーのクラスで現界したこと。アーチャーの固有スキルは『単独行動』。それにより本来マスターからの魔力供給が必要なサーヴァントがマスターを失って、魔力供給が絶たれても数日の間なら戦闘を行えるくらいには現界し続けることが出来る。
そして、二つ目が言うまでもないあのギルガメッシュの性格。いくら最古の王といってもあれだけのことで姿を現し、怒り狂うなど気が短いにも程がある。
自分が聖杯戦争に勝ち残るに当たって令呪は必要不可欠である。時臣はギルガメッシュの機嫌をとるという目的もあるがその威厳には心の底から敬服している。
だが、所詮ギルガメッシュもサーヴァント。過去の英雄を模したただの使い魔に過ぎない。その偶像であるアーチャーのサーヴァントであるギルガメッシュには大した忠誠心は存在していない。
それに加えて時臣には根源に到るという悲願がある。そのためには勝ち残った後に残るギルガメッシュは邪魔なのだ。その為の自害に必要な令呪は残しておかなけらばならない。
しかし、ここで倒れては元も子もない。
「令呪を以って奉る――――英雄王よ……怒りを静めて撤退を……」
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「ッ……貴様如きの諫言で王であるこの
令呪の縛りが通じ、ギルガメッシュは
突然の変わりように警戒したその場の全員が警戒したがその言葉で恐らくマスターが何かしたのだろうと察した。
「命拾いしたな狂犬……雑種共! 次までに有象無象を間引いておけ。
そう言い残すとアーチャーも武具と同じように姿を消した。
「終わった……のか?」
「のようだな。どうやらあの金ぴかのマスターは奴ほど豪気ではないようだ」
アーチャーの退場で一先ずは安心する。辺りにはセイバーとランサーとの戦いの比ではないほどの、それこそ嵐が過ぎ去った後のように滅茶苦茶になっている。
「………………?」
セイバーが何かの視線を感じその先を見る。そこには先ほどまでアーチャーの攻撃を完璧に凌ぎ切ったバーサーカーがいた。先ほどのアーチャーを見ていたようにその視線はセイバーに向かっていた。
「A……A、A、A――――――■■■■■■■■Aurrrrrr----------ッッ!!!!!!」
「っ! アイリスフィール下がって!!」
バーサーカーが吼える。
この場に姿を現して以来一言も発さなかったバーサーカーの叫び声が辺りに木霊する。アーチャーの攻撃を受けるときに見せていた達人のような体裁きではなく、本来のバーサーカーのような動きで落ちている街灯のポールを拾い、雄叫びを上げながらセイバーへ飛び掛る。
いきなりの行動に驚きつつもアイリを下がらせ、バーサーカーの攻撃を受け止める。
「何ッ……!」
セイバーは驚いた。いやセイバーだけではない。アイリも狙撃のために姿を隠している切嗣も、敵である筈のランサーとライダーもその異様さに目を見開いた。
セイバーの真名は嘗てブリテンに君臨した騎士王『アルトリア・ペンドラゴン』である。
アーサー・ペンドラゴンで知られている彼女だが、その武器は彼女以上に世界に名を轟かせている。
聖剣エクスカリバー。万人の希望を束ねる星により生み出されし神造兵器である。彼女が己の剣に風の魔力で光を屈折させて不可視の剣とさせているのもその伝説が有名すぎて武器を見るだけでその正体を看破されかねないからだ。
もちろん姿を隠していてもその内包されている神秘はそこらへんの鉄パイプで叩きつけられても傷一つ付かない。
だというのにバーサーカーはそのそこらへんに落ちていた鉄パイプでセイバーに殴りかかり、あまつさえ鍔競り合っていた。よく見るとバーサーカーの握っている部分から全体に向かって黒い霧のようなものが鉄パイプを浸食している。
「そうか! あの黒いのが掴んだものは何であれ奴の宝具となるのだ」
「掴んだものって……じゃあ、あの棒も宝具になってるってことか??!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■uuuuur-----ッ!!!!」
「(くっ…! まずい……左手が万全でない状態でこのまま攻撃を受け続けるのは………!)」
セイバーの左手は先ほどのランサーとの戦いで腱を切られ、親指が全く動いていない。つまり全力で剣を握れていないのだ。
その状態で獣の如き荒々しさを持ちながら、達人の技で仕掛けてくるバーサーカーの攻撃を受け続けることは不可能に近かった。
「■■■■■■■■■■■■-------!!!!」
「しまっ……!」
一瞬の隙を突かれ、バーサーカーの振るう鉄パイプがセイバーの頭を直撃する――――――かに思えた。
「悪ふざけはその程度にしてもらおうかバーサーカー」
セイバーに直撃するかに思えた一撃をランサーが切りつけ切断した。
ランサーの使った槍はセイバーの風の魔力すら無効化するほどの力を持つ。故に掴んだものを己の宝具とするバーサーカーの鉄パイプに触れた瞬間、その部分の魔力だけを断ち切り、セイバーへの直撃を防いだ。
「そこのセイバーにはこの俺と先約があってな。これ以上つまらんちゃちゃを入れるつもりなら俺とて黙ってはおらんぞ」
「ランサー……貴様……」
「何をしているランサー? セイバーを倒すのなら今こそ好機であろう」
「ッ……セイバーは! 必ずやこの『ディルムッド・オディナ』が誇りにかけて討ち果たします! 何となればそこな狂犬めも先に仕留めて御覧に入れましょう。故にどうか――――我が主!!」
自身のマスターの声にそう懇願するかのようにランサーが叫んだ。
ディルムッド・オディナ。
ケルト神話に登場するフィオナ騎士団において『輝く貌のディルムッド』として知られる妖精王オフェングスを育ての親に持つ戦士だ。
彼は嘗て二槍の槍と二振りの剣を持った優れた戦士だった。彼が振るった槍こそが魔力を無効化する赤槍『
嘗て最強の戦士とまで称された彼の人生は彼の思い描く騎士には程遠い……愛憎に塗れた人生であったという。
そんな彼が騎士の王とも称されるブリテンの王と出会った。なればこそ、そんな彼女を討ち果たせば自身の描く騎士に近づけるかもしれない。
故に例え自分の主の意に反してもセイバーとの決着だけは自分の手で付けたかった。
―――――――だが。
「ならぬ。ランサー……バーサーカーを援護し、セイバーを殺せ。―――――令呪を以って命ずる」
――――――そんな彼の懇願がケイネスに届くことは無かった。
その直後、ランサーの槍がセイバーを襲うが辛うじてセイバーはそれを防ぐ。
「くっ……ランサー! ッ……!」
「すまない……セイバー……!」
ランサーの苦悶に満ちた表情を見てセイバーは言葉を失う。なんと声を掛ければいいのか分からない。
だが、その顔を見れば今の状況がどれほどランサー自身を傷つけているのか理解した。
かたや最速の
それに加え、セイバー自身も傷のせいで万全ではない。ハンデを背負った状態で何とかできるレベルを圧倒的に超えていた。
「――――アイリスフィール、この場は私に食い止めます。その隙にせめて貴方だけでも離脱してください……出来るまで遠くまで…………アイリスフィール……どうか!!」
「大丈夫よセイバー……貴方のマスターを信じて!」
貴方のマスター……アイリの言葉に思案し、気付く。私ではなく
だが、セイバーは現界してから切嗣とは碌に会話もせずずっと避けられ続けている。その実力は全く分からないがアイリが言うということはこの状況をどうにか覆す策を切嗣が持っているということになる。
それでもはたして持ちこたえられるだろうか?
圧倒的状況の中……セイバーは眼前に構える二人を見据える。
来る―――――そう思ったときだった。
「キャスター!!」
「了解です! 炎天よ、奔れ!!」
声が聞こえた直後に自分の背後から炎が奔り、バーサーカーに直撃した。
突然の攻撃に避けきれずまともに食らい、そのままコンテナに衝突する。ランサーは持ち前の速さで間一髪難を逃れていた。
「キャスター……何のつもりだ?」
「いえですね。マスターが、二体一は卑怯だろ? と仰るのでちょっとした手助けを。ああ、もちろんあの黒いのと殴りあうのは私ではなく貴方ですけど」
「では、ランサーはそちらがどうにかすると?」
「ええ。ですからあの相変わらず貴方を見ている黒いのはお任せします」
「…………感謝する」
「………………」
「何処見てんだよ。お前の相手はこっちだっつーの」
声の方向に目を向けてランサーは目を見開いた。いや、ランサーだけではない。ケイネスも、アイリも、ライダーとウェイバーも、その場にいる全員が驚く。
ランサーに声を放ったであろうキャスターのマスター、零司が刀を抜きながらランサーに向かっていた。
「貴様……正気か?」
「当たり前だ。言っとくが死ぬ気はないぞ。トロイヤの英雄程じゃないけど俺も相当粘るほうだからな」
放った殺気に全く動じていないことから多少の実力はあるのだろうとランサーは理解する。
それでも、人間が英霊に向かってくる事実はそれを凌駕する程に大きかった。
「キャスター――――
「分かりました。………
ああ、と返事を返すとキャスターは離れていく。どうやら本当に一人で戦うつもりのようだ。
ならば断る理由は無い。例え無謀だとしても向かってくるというのなら騎士として無碍にするわけにはいかない。
それに成り行きだがバーサーカーと共にセイバーを攻撃するという愚行を止めてくれたことには少なからず感謝していた。
「言っておくが手加減はせんぞ」
「上等」
片や刀。片や槍。構図は同じでも人間対英霊という前代未聞の戦いが幕を開ける。
詰め込みすぎたような気がする…………説明が多くてすいません。
とりあえずは次回は零司対ランサー!!戦闘描写が満足いただけるか分かりませんが努力します!!
質問なども気楽にお待ちしています。