Fate/Fox Chronicle    作:佐々木 空

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英霊召喚

その昔、伝説上の存在でしかなかった万能の願望機たる聖杯を作ろうとした魔術師たちがいた。

 

聖杯降臨のための霊地を提供し、管理者でもある宝石魔術に特化した魔術師―――遠坂。

サーヴァントの技術を作り、呪術に優れ蟲の魔術を得意とする―――マキリ。

器となる聖杯を作り、第三魔法と錬金術を司る―――アインツベルン。

 

後に聖杯戦争を作った”始まりの御三家”と呼ばれる者たちだ。

 

元々は聖杯戦争なんてものは存在しなかった。遠坂、マキリ、アインツベルンの御三家は聖杯降臨の為の足りない部分を補い共に魔術の奇跡を見届けるつもりであった。

 

 

しかし、聖杯が降臨した時――――その友情は終わりを告げた。

 

 

聖杯が望みを叶えるのはただ一人のみ。その事実を知り、御三家は自らの望みを叶えるべく争いを始めた。それから60年周期で聖杯は魔力を貯蔵し日本の冬木の地に降臨するようになった。そしてその度に魔術師たちは争った。御三家だけでなく外来の魔術師も聖杯の存在を知り、自らの望みを叶える為に極東に集まる数多の魔術師たち。戦いは行われる毎に苛烈を増した。

 

そこに魔術協会と聖堂教会が介入を始め、ルールを設けることで一旦の落ち着きを取り戻すことになった。

 

まずは監視役として聖堂教会から監督者が派遣されることとなった。それによりサーヴァントを失った魔術師の保護が可能となり、優秀な魔術師を失うリスクが限りなく少なくなった。同時に完全な中立に徹することによって聖杯戦争中如何なる戦力もこれを害してはならないという決まりも設けられた。

そして神秘の秘匿のため、戦闘は夜か人目の付かない場所で行われることも取り決められることとなった。

 

もしもこれらが破られた場合、その魔術師は違反を犯したとされ監督役の権限で討伐対象とされ他の勢力から狙われる危険を伴うことになる。

 

 

厳正なルールが敷かれた聖杯戦争も今回で四回目。

 

魔術師たちが自らの望みを、悲願を、誇りを懸けた聖杯戦争が幕を開ける。

 

 

 

 

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ドイツの人里離れた雪が降る山奥……そこにアインツベルンの城はあった。

その部屋の一室に一人の人影。デスクの上には魔術師らしからぬ電子機器が置いてあった。電子機器は数枚の紙を排出し終わると役目を終えたかのように動きを止めた。

 

魔術師殺し――衛宮切嗣は資料に目を通す。

 

聖杯戦争の為にアインツベルンの当主ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンに婿養子として迎え入れられ早数年。彼はその全てを聖杯戦争の準備期間としてきた。

資料に目を通す切嗣だが、突然置かれたコーヒーに気が付く。

 

「はい、これ。今度は上手く入れられたと思うんだけど」

 

「ああ、ありがとう」

 

そう言いながらコーヒーを入れてくれた自身の妻、アイリスフィール・フォン・アインツベルンの入れたコーヒーを口に含む。感想を聞きたそうにしているアイリに、うん、おいしいよ、と言うとよかった、と言うアイリ。そこだけでも二人の仲の良さが見て分かる。

 

「紙が少し増えてる気がするんだけど?」

 

「ああ、追加で頼んでいた資料が届いたから目を通していたんだ」

 

そう言いながらアイリに資料を見せる。

 

「南雲零司。『異端殺し』と呼ばれる魔術師としては珍しく僕と同じように銃器を使う魔術師だ。異端専門の依頼を主にこなしていて、両親は日本人で生まれも日本だがすぐに海外に行ったから日本にいた期間は少ない。さらに詳しい詳細は一切不明」

 

「どうして?」

 

「こいつだ」

 

そう言いながら追加で送られてきたもう一つの資料を見せる。

 

「ツバキ・コーネリウス。魔術協会や聖堂教会から依頼を受ける魔術師で南雲零司の師にあたる人物だ。どんな手を使っているのかは分からないけど彼女が何か工作をして彼の情報を隠蔽しているのは確かだ。いつ何処で会ったのかは不明だが彼は彼女と行動を共にしていた。そして彼は彼女から独り立ちした後、死徒や暴走した使い魔、果てにはまだ誰も行った事がないような未開の地の調査までしている。常に危険に身をさらしてきた事から恐らくは突発的な自体や荒事に慣れているかもしれない……強敵だよ」

 

そう言い終えると部屋の窓の向こうを見る。

激しかった雪もすっかり勢いを失くし、雪が降り積もっている中に一人の少女の姿があった。

 

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 

切嗣とアイリの愛の結晶であり――――愛すべき娘だ。

 

 

聖杯戦争……その為に全てを犠牲にしてきた。人生も、師も、そして――――

 

「……大丈夫」

 

その言葉と共に暖かさを感じる。背後から首に手を回され、自身を抱きしめるように包み込む温もりを。

 

「貴方は負けない。だって貴方は衛宮切嗣で、アインツベルンが用意した切り札でそして―――――私の夫で……イリヤの父親なんだから」

 

「――――ああ」

 

 

そう負けられない。必ずこの戦いに勝ってみせる。

 

 

必ず――――世界を救ってみせる。

 

 

 

 

 

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『初めましてで悪いんだが、お前は死んだ』

 

車にはねられたかと思ったら、いきなり知らないところに居て目の前には見知らぬ男が居た。話を聞くと自分は神だというみたいだ。曰く、神の手違いにより俺が死んでしまったから責任を取って俺を別の世界に転生させるらしい。で、それに伴って俺に何か欲しいものはないかと聞いてきた。

 

だから俺は……

 

「じゃあ、俺が知ってる中で死に難い体をくれ」

 

と言った。

 

一度目の人生では車にはねられて死んだから二度目の人生では車にひかれても早々死なないようにしたかったからだ。頃合を見て死ににくくしてくれと頼んでおいた。生まれた時から体がおかしかったら違和感しかないからな。

 

 

そうして俺は新しい世界へと転生した。自分が転生したということを思い出したのは4歳になった時だった。記憶については特に何も言っていなかったけど正直に言ってナイスだと思った。生まれた時から大人の記憶があったら違和感しかないからな。

新しい親はとても優しい人だった。当たり前の両親。当たり前の幸せ。それが何よりも嬉しかった。

そして海外に移り住んでしばらく経った頃……俺たちの住んでいた町が死徒に襲われた。俺も死徒に襲われて死んだかと思ったけど、どうやら家の瓦礫の下敷きになっていたらしい。俺の師匠のツバキによると大量の血を流していた俺の手をそれぞれ両親が血を流しながら握っていたらしい。ツバキは、最後まで寂しい思いをさせたくなかったんでしょうね、と言っていた。

 

……ああ、本当に優しい人たちだったよ。結局、俺は一度目ならず二度目までも両親より早く死んじまったんだな。

 

―――その直後だった。死んだ俺の傷が急激に治っていったらしい。

 

恐らく神に言っていたことと関係があったのだろう。ちょうど依頼で来ていたツバキに一部始終を見られていたらしく、そのまま俺はツバキに連れて行かれたらしい。最初は死徒かと思ったみたいだけど死徒の特徴が全く無かったから疑問に思ったらしい。

 

気付いたときにはツバキの隠れ家に着いていた。体の傷は全部治っていた。近くにツバキがいて開口一番に、貴方は一体何? と聞かれた。そりゃそうだ。目の前でいきなり死んだ人間が生き返ったんだからな。最初は誤魔化そうとも思ったけど一応恩人だったからあんまり嘘はつきたくなかったので正直に全てを話した。

 

神と会って転生したこと。

 

体が治ったのも神に言っていた死ににくい体にしてくれといったことと関係があるのだろうということ。

 

最初は信じてくれるか疑問だったが目の前で見ていたからなんとなく納得はしてくれたみたいだった。

それから話を聞き、魔術師、魔術協会、聖堂教会という単語でここがFateの世界だと理解した。もしかしたら全く違う可能性もあったけど、どうやら間違ってはいなかったようだ。

 

それからはツバキに付いていった。自分の体のことを知りたかったのとこれから先生きていく術を身に付けたかったからだ。

 

それからしばらく経って9歳のクリスマスの日に枕元に刀と拳銃と手紙が置いてあった。ツバキも身に覚えがないというから少し警戒しながら中を見た。どうやら差出人は神からだったみたいで内容は刀と拳銃と俺の体のことについてだった。

 

刀の名前は閻魔刀(やまと)で、拳銃の名前はエボニーというらしい。それだけで俺の体について完璧に理解した。続きを見ると俺の体は前世にあったゲーム『DMC(デビルメイクライ)』のキャラクター、ダンテやバージルと同じ半分悪魔の体と同じものだった。なるほど、それなら異常な回復力にも納得がいく。ただ、流石に半悪魔と同じじゃなくて回復力だけだった。二度目のナイスだと思った。流石にいきなり人間を辞めたくなかったからな。

 

クリスマスプレゼントが武器って……随分物騒な神様なのね、と少し笑いながらツバキが言っていた。

 

それからもひたすらに頑張り続けた。ツバキに戦い方を教えてもらって、同じ仕事をこなして、情報に詳しいラルを紹介してもらって―――――血は繋がっていなかったけど……まるで本当の親子のように楽しかった。

 

 

それからしばらく経った頃――――ツバキは死んだ。

 

 

どうやらツバキの家の一族は代々短命みたいでツバキも長らく病気みたいだった。何度か治療はしたが完治は無理だったからいけるところまで行こうと思っていたらしい。結婚も子供も諦めていなかったみたいだ。

 

そんな中で――――俺と会ったらしい。

 

 

『色々諦めていたけど……最後に女の幸せを感じることが出来た。血は繋がっていないけどまるで本当の子供のようで楽しかったわ』

 

 

『零司――――――ありがとう』

 

 

『――――俺も……貴方がいてくれたから寂しくなかった』

 

 

『本当にありがとう――――母さん』

 

 

そう……心のそこから嬉しそうな笑顔をしながら――――ツバキは死んだ。

 

初めて知った……目の前で家族が死ぬことがこんなに悲しいことだと。いつもツバキと言っていたのに初めて言った……母さんと。

 

生んでくれた親が死んだと聞いた時も悲しくなかったわけじゃない。

 

それでも……三人目の母親との別れはすごく悲しかった。

 

 

 

 

 

「…………ん」

 

飛行機のアナウンスで目を覚ます。

 

どうやら懐かしい夢を見ていたみたいだ。あれからしばらく経ち俺の右手に令呪が宿った。それだけで聖杯戦争のマスターに選ばれたのだと分かった。

問題は一体何時の聖杯戦争なのかだった。

本来なら原作には必要じゃない限り一切介入しないつもりだった。――けど、そうも言っていられない事態になった。俺に令呪が宿るということは、本来なら選ばれるはずのマスターが選ばれないということだからだ。

 

すぐにラルに連絡を取り聖杯戦争についてと聖遺物について調べてもらった。

時期はすぐに分かった。

 

――――第四次聖杯戦争。

 

よくは覚えていないが、確か第四次で壊された聖杯の泥が街になだれ込み大災害を起こすはずだ。そして十分に魔力を消費されなかった聖杯は再び魔力を貯蔵し、本来なら60年後に行われるはずの第五次聖杯戦争が十年後に行われる。

何で俺に令呪が宿ったのかは分からない。

 

原作のことを考えるのなら手を出さないのが一番いい方法だろう。

 

それでも俺に令呪が宿った時点で恐らく原作の流れは破綻しているのだろう。

 

 

何が一番いい方法なのかは分からない。

 

ただ分かっているのは……このまま聖杯戦争が行われれば大勢の人たちが死ぬ。

 

何の慈悲も無く……何の意味も無く。

 

 

それではまるで俺のようだった。

 

だから……参加しようと思った。

 

何が正しいのかは分からないけど――――きっと……何かは出来るはずだから。

 

 

 

「到着……っと」

 

空港からバイクで冬木に到着した。ラルに事前に移動手段を手配してもらっていて助かったなぁ…。

一応、何かあったときのために車とバイクの技術は一通り身につけておいた。ツバキ曰く、人生何が役に立つかは分からないから何でも使えるように常に考えておくこと、らしい。

 

実際に仕事のときでもそこら辺の木の枝から石ころまで使っていたからなぁ。

 

 

「………うん」

 

懐かしい雰囲気を感じる。

 

久しぶりの日本。一見すると当たり前の日常そのものだがもうじきここは戦場になる。

 

神秘を携えた者たちの戦場へと……。

 

「とりあえず、まずは拠点に移動するか。生活する分には困らない程度であってほしいけど……」

 

確か第四次で召喚されたアサシン、ハサン・サッバーハの宝具は分身だか分裂だか詳しくは忘れたけどその類だったはずだ。そしてアサシンのマスターは言峰綺礼。確か奴はアーチャーのマスターで遠坂家当主、遠坂時臣と聖杯戦争の監督役と結託して聖杯を取りに来ていたはずだ。

 

街中に潜んでいるアサシンと監督役の二つは注意しなけらばならない。

アサシンの実力は知らないけど一人か二人までなら何とかなるかもしれない。でも流石にたくさんで来られると何の用意もなしではどうにかできないかもしれない。

 

とりあえず奴らに気付かれないように細心の注意を払いながら拠点に行って、英霊の召喚準備に取り掛かるとするか。

 

 

 

 

そして夜。

 

 

 

人が寝静まった頃を見計らい行動を移す。

聖遺物はどうにかならなかったから聖遺物無しで召喚を行うしかない。もしも聖遺物を召喚の触媒にしていればその触媒に縁のある英霊が呼ばれることになる。昔の服の切れ端だったらその服を着ていた持ち主だったり、刀だったらその刀の所有者だったり。

 

もし、触媒無しで召喚を行った場合は完全にランダムになって誰が召喚されるのかは分からないが召喚した本人に最も相性のいい英霊が呼び出されることになっている。

俺は用意できる触媒が無かったから後者を選択するしかないって訳だ。

 

一体どんな英霊が現れるのかは分からないけど、出てきていきなり殺しに来ることは無いはずだ………多分。

 

召喚場所に選んだのは神社だった。ここら辺で一番信仰のある神社で最も古いものらしい。

そのせいかは分からないけどこの神社の場所がここら辺で最も魔力が集まっている霊地だった。

召喚のための魔方陣を魔力の篭っている自分の血液で用意し、全ての準備が整う。多少目眩がしたが問題は無い。後は俺の魔力が最も活性化する時間になるのを待つだけだ。

 

 

「時間だ――――始めるか」

 

神社の中に描かれた召喚用の魔方陣に令呪の刻まれた右手を向け、召喚の為の詠唱を紡ぐ。

 

 

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 

 「閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

  繰り返すつどに五度。

  ただ、満たされる刻を破却する」

 

 

 「―――――Anfang(セット)

 

 

 「――――――告げる

  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

魔方陣が次第に光り輝いていく。全身の血がまるで沸騰していくかのように熱くなる。

それでも途中で詠唱を止めることだけはしない。

痛いのなら我慢すればいいだけの話だ。熱いのだってそれは変わらない。

 

 「誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、

  我は常世総ての悪を敷く者」

 

 

 「汝三大の言霊を纏う七天、

  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

光が視界を覆っていく。魔方陣から煙が吹き荒れ周りを覆っていく。

 

手応えはあった。失敗はしていないはずだ。

 

一体どんな奴が現れるのかは分からないけど、これから現れるのは一騎当千の英雄の一人。

 

これから共に戦っていく――――頼りになる仲間のはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「御用が無くても即参上! あなたの頼れる巫女狐(みこぎつね)、キャス狐ことキャスター! ここに罷りこしましたー!」

 

 

 

「……………………は?」

 

 

 

直後、空気が凍った(死んだ)のを感じた。

 

 




先のことを考えてるとオリジナルのサーヴァントを登場させるかどうか少し悩み中……
まぁ話には何の問題も無いんですけどね。

新年もよろしくお願いします。

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