Fate/Fox Chronicle    作:佐々木 空

18 / 19
頭痛に吐き気に学校の課題と連続してトラブルが押し寄せてきてましたが無事乗り越えることが出来ました!!

何処かで見たような聞いたような内容ですが温かい目で見て下されば幸いです!!


聖杯問答

 

通常であれば、夜というのは人々にとっては休息のために睡眠をとったり仕事の残りをこなしたり等の日常的な生活習慣の時間帯である。それはこの冬木という町も例外ではない。

 

しかし―――聖杯戦争中は別だ。

 

聖杯戦争に参加している者たちにとって夜とは自らの命を懸け、冬木という町一つを戦場とした儀式とは名ばかりの戦争の開始を合図するものに他ならない。

 

 

 

アインツベルン城

 

アインツベルンとの取引によって聖杯戦争に参加している魔術師にしてセイバーのマスターである衛宮切嗣が拠点としている城だ。

その内部は先のランサー戦に加え、代行者・言峰綺礼との戦闘によって外観とは正反対なほどに銃痕や切り裂き傷などに満ち満ちている。

 

今現在、その拠点たるアインツベルン城の中庭には四騎のサーヴァントが集っていた。

 

 

星によって生み出された聖剣の担い手にして、嘗てブリテンに君臨した騎士王―――セイバー。

無数の宝具を有した黄金の甲冑を身に纏いし英雄―――アーチャー。

常識はずれな言動で戦場を引っ搔き回したマケドニアの征服王―――ライダー。

人ならざる容姿を持った魔術師ならざる女帝―――キャスター。

 

 

サーヴァント同士がぶつかるだけでも辺りにはまるで嵐が通り過ぎたような戦闘の跡が残るものだが、四騎もの英霊が集っているというのに中庭は以前と変わらない景観を保っている。

 

纏っている雰囲気は戦闘の中で見せる闘気とは違うが、それらに引けを取らないほどの気を発しており、その手には各々の武器に変わって黄金に装飾された盃が例外なく握られている。

 

 

誰もが沈黙を保つ中―――ライダーの号令が響き渡る。

 

 

 

「――――では、問おう。貴様らが聖杯に託す大望とは如何なるものなのか、をな」

 

 

今ここに、もう一つの戦争が切って落とされた――――。

 

 

 

-------

 

 

数時間前―――

 

 

零司とキャスターが帰路についている途中、二人の上空から聞き覚えのある車輪の音が聞こえてきた。

 

「あれは……ライダーか?」

 

「のようですね……というかだんだんこっちに近づいてきてませんかアレ?」

 

二人は何となく見上げていたが、その音を発している物体が徐々に近づいてくることに気付き、ほんの少しだけ警戒をする。

奇襲か? と思わなくもないが、生憎とここは夜中で人気が少ないとはいえまだ街道のど真ん中だ。いくら聖杯戦争の時間になったとはいえライダーがこのままこちらに全力で突っ込んでくればその圧倒的質量の余波で周りの民家にまで被害が及びかねない。そんなリスクがある軽率な行動をとるとは到底思えないのだ。

 

二人の懸念通り、戦車はこちらとの距離を縮めるにつれて減速し、頭上近くに来る頃にはその速度はゆっくり移動する亀のようになっていた。

 

「おぉ!! ようやっと見つけたぞ坊主!! それにキャスターよッ!!」

 

戦車から顔を覗かせながらこちらに声を掛けてきたのは案の定戦車の保有者であるライダーだった。

その顔と雰囲気から戦闘しに来たのではないと半ば確信した零司が警戒を解き、質問を投げかける。

 

「あーあー、見つけられましたともライダー。で、何だよ一体? 戦おうぜ、なら全力で拒否するぞ。まだ市街地なんでな」

 

「安心するがいい。余もこんなところでおっぱじめようとは思っておらんからな。今回はお主らを誘いに来たのよ」

 

「誘い……?」

 

然り、とキャスターの疑問の声に肯定の意を示す。

 

「我らは聖杯に招かれし英霊だ。しかし、同時に歴史に名を遺す英雄でもある。そんな我等が武を以って他を制すのは道理だが、何もことの全てを力で推し進める必要はあるまい。相対する英雄の格、そしてその器が己より優れていると判断したのなら自ら手を引くのもまた一つの英雄としての姿だ」

 

故に、と溜めた後大きな声で己の胸の内を晒す。

 

「英雄の英雄としての問答……余はそれを以ってして事の成り行きを決める所存である……どうだ? お主らも興味は無いか?」

 

 

英雄による問答。ライダーの口から出てきた言葉で零司の頭の中でフラッシュバックの様にある光景が思い浮かんでくる。

 

聖杯問答―――。

 

第四次聖杯戦争に招かれたサーヴァントたちによる王としての在り方を問うための話だったはずだ。

 

よく見ると戦車に酒樽が積み込まれてあるのが見える。恐らくこの後にでも始めるつもりだったのだろう。本来だったらセイバーとアーチャー、そしてライダーという王を名乗るサーヴァントによる問答であったが、零司たちも誘いをかけてきたのを見たところ王同士の問答になってしまったのは結果論であって、集まったサーヴァントであれば誰でもよかったように思える。

 

正直に言えば、参加するかしないかはどちらでもいいが、ここまでにたどり着くまでにも前倒しになってしまっていることや起こりえないことが起こってしまっているのでどうにも判断に困ってしまう。

 

「(アサシンの索敵から逃れて行動していることはもうバレてると考えた方が良いだろうな。ライダーも原作と違うとはいえもうアサシンが複数いることはすでに知っている……何かあるにしても複数のサーヴァントが……特にギルガメッシュがいるならそう簡単に手を出そうとは誰も思わないだろうな)」

 

 

そう考えてキャスターに視線を送る。

キャスターも零司の考えが分かったのか静かに頷く。

 

「分かった。そういうことなら俺たちも参加しようじゃないか。その問答に」

 

「おお、そうか!! 見ろ坊主。誘ってみるもんだと言った通りであろう?」

 

「何が誘ってみるもんだと言った通りであろう……だ! この馬鹿はッ!! お前本当に聖杯戦争分かってんの!?? せ・ん・そ・う! 戦いだって言ってんだろう!!」

 

「何を言う。英雄としての度量の深さを確かめ合うことも一つの戦いの形だ。お前さんは型に嵌り過ぎるのが難点だな~」

 

「お前は型に嵌らなさすぎだっつーの!! あいたッ!?」

 

ウェイバーがライダーに抗議するもいつものようにデコピンで吹き飛ばされ、中断される。

 

「で、何処でするんですか?」

 

「そうさな……まぁ誘いながら考えればよかろう。セイバーはともかくあの金ぴかが何処にいるのか分からんからなぁ……一体どこを探せばいいのやら……」

 

「あぁ~、あの金ぴか見るからに唯我独尊って感じでしたからねー。普通じゃ考え付かないような所に居そうですけどねー」

 

「街を見渡せるくらい高いところにいるんじゃないか?」

 

「「なるほど!!」」

 

何となく口に出した零司の言葉にひどく納得した様子でライダーとキャスターが声を揃える。そのままライダーの戦車に零司とキャスターも乗り、他のサーヴァントに声を掛けるべく進みだした。

 

 

 

結果としてアーチャーは冬木で一番高い鉄塔の上にいたのでそのまま声を掛けたところ了承した。

 

 

そのまま最後の一人としてセイバーの所に向かったところ、山奥の城を拠点にしているのを知ったライダーが場所をそこにしようと言い始め、張ってあった結界を戦車で強行突破しながら正面玄関から入っていった。

 

敵襲だと判断したのかセイバーが鎧を着込んで駆け付けたが現代衣装に身を包んで、酒樽を持ったライダーに戦意が見られないと判断し、共に城の玄関へと移動し腰を下ろす。

 

 

 

そこにアーチャーも登場したという所で今の状態に至る、という訳だ―――。

 

 

 

-------

 

 

 

「アーチャー…何故ここに……」

 

セイバーは困惑していた。

 

昨夜のランサー襲撃に加えて、アサシンのマスターだった男による奇襲を乗り越えることに成功したが、アサシンのマスターによって舞弥が負傷した。アイリスフィールも同様に致命傷となりうる怪我を負っていたのは確かなのだが、セイバーが駆け付けた頃にはすでに完治しており問題ないと言ってもいいほどに動き回っていた。

 

切嗣はいつものように街に出払っており、今城にいるのは己とアイリスフィールと舞弥の三人だけだ。

 

 

そこにやってきたのがライダーという訳だ。

 

 

現代風の衣装に身を包み、自らの戦車にキャスターとそのマスターを乗せて城の正面から現れた時にセイバーのスキルである『直感』が警報を鳴らしていた。

 

 

――――次は一体何をやらかすつもりなのだ?

 

戦場だというのにライダーが血なまぐさいことを起こすことは無いと直感で分かっていただけに次の行動が読めなかった。しかし、ライダーが提案してきたことは至極単純であった。

 

 

――――曰く。

 

聖杯は相応しき者の手に渡る定めにあるという。

その為の儀式がこの冬木における闘争だというが、なにも見極めをつけるだけならば血を流すには及ばない。

英霊同士お互いの”格”に納得がいったならそれで自ずと答えは出る。

 

いわばこれは『聖杯戦争』ならぬ『聖杯問答』……。

 

聖杯に招かれし王として誰が”聖杯の王”に相応しい器なのかを酒杯に問う、ということらしい。

 

 

なるほど、ひどく納得した。

 

生前にも、『武』を以ってではなく『対話』によって勝利を収めた者もいるということは円卓にいた花の魔術師にも聞いたことがある。

目の前にいる男もかつては一国の大王だった男だ。ならば人を”視る”ことにおいても他の追随を許さなかったことだろう。

 

広場に移動し、ライダーとキャスターと円を作るように座る。

 

キャスターの真名は未だ知らないが、今この場にいるものは等しく英霊(サーヴァント)である。聖杯に臨む願いがあることには変わりない。そう思い、問答を始めようとした矢先に黄金のアーチャーが現れたのだ。

 

驚くセイバーをライダーが諫める。

 

「いやな。町の方でこいつの姿を見かけたんで誘うだけ誘っておいたのさ」

 

「はっ、我がいるところに真っ直ぐ来ておいてよく言う。しかし、よもやこんな場所を『王の宴』に選ぶとは底が知れるというものだ。我にわざわざ足を運ばせた非礼をそう詫びる?」

 

「まぁ固いこと言うでない。ほれ、駆けつけ一杯」

 

一触即発の雰囲気を出したが、ライダーから差し出された酒を見ると受け取りそのまま口に含む。

 

それぞれのサーヴァントの背後に待機しているマスターはあのアーチャーが素直に応じたことに驚く。そして同時に改めて認識する。いや、認識せざるを得ない。これはただの酒宴ではなく、王の器を賭けた真剣勝負なのだということを。

 

「……何だこの安酒は? こんなもので本当に英雄の格が量れるとでも思ったか?」

 

口にした酒が合わなかったのか苦い顔をするアーチャー。

 

「そうかぁ? この土地じゃなかなかの逸品だぞ」

 

「そう思うのはお前が本当の酒というものを知らぬからだ、雑種め」

 

そう言い放つと左手を前に差し出す。すると手の先の空間が淡く輝き出す。

その光景をこの場にいるものすべてがすでに知っていた。アーチャーが無数の武具を出すときに必ずと言っていいほどに現れている揺らぎだった。

 

「見るがいい。そして思い知れ。これが『王の酒』というものだ」

 

空間から出てきたのは酒が入っていると思しき瓶と人数分の酒杯だった。そのどれもがアーチャーと同じように黄金に彩られている。

 

三人は目の前に置かれた酒杯を手に取り、酒を注ぐと恐る恐る口にする。

 

「! むほォ! 美味いっ!! 凄げぇなオイ!」

 

「っ………これは……」

 

「むむ。この潤い………人の手による発酵技術では無し得ない喉越し……さては神代の代物ですね?」

 

キャスターからの質問に薄い笑みを浮かべながら自らの酒杯に口をつけるアーチャー。

 

「当然であろう。酒も剣も我が宝物庫には至高の財しか有り得ない」

 

アーチャーが出した酒の味に三人は驚く。ライダーが持ってきた物とは比べ物にならないほどの圧倒的な旨味。

 

まさに”神の酒”と揶揄しても相応しいほどの味を内包していた。

 

「これで王としての格付けは決まったようなものだろう」

 

「ふざけるな。酒蔵自慢で王道を語るなぞ道化の役儀だ」

 

「さもしいな。宴席に酒も供せぬような輩こそ王には程遠い」

 

手ぶらのセイバーに呆れたような言葉を漏らすが、セイバーとキャスターの二人はライダーに完全に巻き込まれた上にアーチャーのような持ち物を入れるようなものも持っていないのだから仕方ない。

 

しかし、アーチャーの言い分にも一理ある為セイバーも言い返せずにいた。

 

「こらこら。双方とも言い分がつまらんぞ」

 

険悪になりかける雰囲気を諫め、本題を切り出すライダー。

 

「アーチャーよ。貴様の極上の酒はまさしく至宝の盃に注ぐに相応しい。――――が、あいにくと聖杯は酒器とは違う。これは聖杯を掴む正当さを問うべき聖杯問答。まず貴様がどれほどの大望を聖杯に託すのか。それを聞かせてもらわなければ始まらん」

 

アーチャーの酒は正に至宝と言っても過言ではなかった。ならば、それを手にしているアーチャーもまた至高の英雄の一人なのだろう。

 

しかし、だからと言って聖杯の勝者たり得るという話ではない。

 

 

「さて、アーチャー。貴様は――――ひとかどの王として我らを魅せるほどの大言が吐けるか?」

 

聖杯問答。

 

英雄としての器を見るための最初の問い。

 

それに対するアーチャーの答えは――――

 

 

「仕切るな雑種。始める前にそこな雑種に確認しなければならぬことがある」

 

 

――――問答とは関係のないことだった。

 

 

そう言いながら、指をさすアーチャー。その先にいたのは……。

 

「…………私?」

 

「違う。貴様の後ろのやつだ」

 

「…………俺?」

 

零司だった。

 

 

何故に俺? このタイミングで何で俺?

 

突然の指名に零司の頭は混乱していた。先の戦闘でもアーチャーに目をつけられるようなことは何もしていないだけに名指しではないが、話しかけられるとは思いもしなかった。

 

 

「何だアーチャー? お前さんこいつに興味でも沸いたか?」

 

「有象無象に興味を持つほど我は暇ではない。しかし、気になるものを持っていたのでな。目利きをしてやろうと思ったまでのことだ」

 

「気になるもの………?」

 

「貴様の持つ刀だ」

 

そう言いながら左手を差し出してくる。恐らくは持って来いという意味なのだろう。

そして、恐らくアーチャーが言っているのは閻魔刀のことなのだろうと確信する。

 

自分のメイン武器を持ってこいと言われて素直に持ってくる馬鹿はいないが相手はあのアーチャーだ。下手に断ったらどんなことになるかは容易に想像できる。

 

「…………分かったよ。ほら」

 

仕方ないのでポスターの箱から閻魔刀を出しアーチャーに手渡す。

 

受け取ると少しばかり閻魔刀を抜き刃を見るアーチャー。

 

「何だ? その刀がどうかしたのか? ん?」

 

「なに、少しばかり懐かしい雰囲気を感じ取ったまでのことよ。………しかし、何かが違う……」

 

「そりゃお前の所のにいた神様や悪霊といった連中とは根本的に違う存在の武器(モノ)だから当たり前だ、バビロニアの英雄王(・・・・・・・・・)

 

零司が会話の中で自然に紛れ込ませた最後の言葉を聞き、その場にいた一部を除いた面々が目を見開き零司を、そしてアーチャーを見る。対するアーチャーは、ほう、と言いながら面白いものを見るかのように自身の名を明かした人間に目を移していた。

 

 

バビロニアの英雄王―――――

 

嘗て、人間と神々とが同じ世界に住んでいた頃に築かれていた古代都市ウルク。その都市に君臨した王の中で特に一際強力で王政を成していた者の異名である。

 

神によって世界に産み落とされながら、神々と決別した者。

 

この世の全てを手にし、他に並び立つ者無しと恐れられた王。

 

人類史において最初に語り継がれることになった原初の英雄。

 

 

―――――英雄王ギルガメッシュ。

 

それこそが今この場にいるアーチャーの真名に他ならなかった。

 

 

「気づいていたか。我のことを知らぬ有象無象かと思っていたが、多少は褒めて遣わすぞ魔術師?」

 

「誉め言葉として受け取っておくよ。それに気づいていたのは俺だけじゃないみたいだぞ。なぁ征服王?」

 

全員の視線がアーチャーからライダーに移り変わる。当のライダーは気まずそうに頭をかいていた。

 

「お、お前気づいてたのかよッ!?」

 

「あー………まぁ、なぁ……。このイスカンダルよりも有名な英雄となれば幾人か絞れたからなぁ」

 

「ギルガメッシュは生前この世の全てが詰まっているとされている宝物庫を持っていた。武器、酒、金、他にも数えきれないくらいの宝をな。本人が全く隠すつもりが無かったから気づけたわけだけどな」

 

零司にしてみれば気付いたも何もないのだが、本人が堂々と宝物庫という自身の宝具のキーワードを使っているのだから利用しない手はないと判断していた。

 

「で、だ。根本的に違うとはどういうことだ?」

 

ギルガメッシュは閻魔刀から感じていた違和感について尋ねる。

 

ギルガメッシュが生きていた頃には神々や魔獣、果てには悪霊といった類の存在が当たり前のように存在していたし、当たり前のように人間を滅ぼそうと何度も何度も災厄として押し寄せていた。

故に、この場の誰よりもアーチャーは神々に類するものに敏感であるのだが、閻魔刀から感じるものは似てはいても、紙一重で違うというなんともしっくりこない感覚だったのだ。

 

「その刀を作ったのは人間でも神々でもない全く別の存在だよ」

 

「別の存在……?」

 

「『悪魔』と呼ばれる存在だよ」

 

悪魔、その単語を聞き全員が静まり返る。

 

悪魔に関する伝説は諸説存在する。ドイツの文豪、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテが執筆した作品『ファウスト』に登場する契約の代わりに魂をもらい受けようとする誘惑の悪魔(メフィストフェレス)

もっと古く言えば、イスラエルに存在していた魔術の王が使役していたとされる七十二柱の悪魔たち。

他にもたくさんの悪魔伝説が存在しているがその全てにおいて共通する一言が存在している。

 

『悪魔に関わるとロクな目に合わない』、である。

 

世間一般の悪魔の認識としてはそんなところだ。しかし、その含みを入れたような言葉にアーチャーが反応する。

 

「と呼ばれる存在、ということは悪魔そのものではない、ということか?」

 

「さぁな? そのあたりは俺もよくは知らない。分かっているのはその刀を作ったのが悪魔と言われる存在で、その刀が悪魔が住んでいるとされる世界とこの人間の世界とを繋げる門を開く鍵の内の一つだっていう事だけだ。だからサーヴァントの宝具と殴り合っても壊れなかったんだけどな」

 

「鍵、とな? とてもそうには見えんが、もし本当だとすれば随分頑丈な鍵だなこりゃ」

 

零司の説明を聞き、まじまじとアーチャーが持つ閻魔刀を見つめるライダー。

 

その説明で満足したのかアーチャーは閻魔刀を鞘にしまうと零司に投げ渡していた。

 

「中々興味深かったぞ魔術師。我が宝物庫に相応しいかどうかは話が別だが、飾りくらいにはなるだろう。貴様が死んだらそいつは拾っておいてやる。光栄に思うがいいぞ?」

 

「はいはい。ありがたき幸せで」

 

閻魔刀の所持について話しが終わったと判断し、ライダーが咳払いをする。

恐らく話がひと段落したのだから本題に戻すぞ、という意味なのだろう。

 

改めて聖杯問答が始められる。

 

「で、だ。アーチャー……いや、英雄王ギルガメッシュよ。貴様は聖杯を以って何を成す?」

 

「この我の名を知っても尚気付かぬのかライダー? 世界の宝物は残らずその起源は我が蔵に遡る。いささか時が経ち過ぎて散逸したきらいがあるがそれら全ての所有権は今も尚我にあるのだ」

 

「じゃあ貴様、聖杯がどんなもんか正体も知っとると?」

 

「知らぬ」

 

はぁ? という言葉は誰の口からも出なかったがアーチャー以外の全員は心の中では思った。

 

それも当然だ。自分の物と主張しておきながらその所在に関しては全く分からないなど矛盾しているにも程がある。

 

「雑種の尺度で測るでない。我の財の総量はすでに我の認識を超えている。だが『宝』である時点で我が財であることは明白。それを勝手に持ち去ろうなど盗人猛々しいにも程がある」

 

要するにこうだ。

 

自分は知らないが自分の物であるのは間違いない。それを盗もうなど無礼千万である。

 

全く持って唯我独尊で他に対する配慮に欠けた発言だ。普通ならば一蹴するところだが、厄介なことにこの発言の主が英雄王ギルガメッシュだ。この世の全てが詰まっているとされる蔵の持ち主だけあって否定することは難しい。

 

まぁ、その蔵に聖杯が入っていたと証明することも難しいのではあるのだが。

 

所詮、『悪魔の証明』なので、その真意は闇の中にしかないわけであるのだが。

 

 

「なんじゃそら? じゃあ何か? アーチャー。聖杯が欲しければ貴様の承諾さえ得られれば良いと?」

 

「然り。だが我の恩情に与かるべきは我の臣下と民だけだ。お前が我の許に下るというのなら杯の一つや二つ下賜してやっても良い」

 

「……まぁそりゃ出来ん相談だわなぁ。でも貴様、聖杯が欲しいわけでもないんだろう? 望みがあって聖杯戦争に出てきたわけじゃない、と」

 

「無論だ。だが我の財を狙う賊には然るべき裁きを下さねばならぬ。要は筋道に問題だ」

 

「つまり何だアーチャー? そこにどんな義があり、どんな道理があると?」

 

 

望みはない。聖杯の行方なぞに微塵も興味を示さない。

 

しかし、その聖杯を自身の許可なく持っていくことは断じて許さない。

 

並みの英霊であれば考えないことだが、すべての宝物の所有者と豪語する英雄王だからこそ吐ける大言である。

 

ならばそこに存在しているのは一体なんだ?

 

願いか? ――――いいや、違う。願いを以って現界するのが英霊(サーヴァント)だが、そもそもこの英霊は願いを叶えるつもりはないのだろう。自分の所有物を狙う者を捨て置けぬと言っているのだから。

 

意地か? ――――いいや、それも違う。何せ自分で唯一の王と自負しているような男だ。そんな男が自分の意地とかいう矮小な理由などで自らの足を動かすことは無いだろう。

 

ならば一体なんだ?

 

一体何がこの男をこの戦場へと駆り立てたのか?

 

 

「――――法だ。我が王として敷いた我が法だ」

 

それは自身が王として、人の上に立つ者として定めた絶対の戒めであり、永久不変の規律のそのもである。

 

 

「……ふむ。完璧だな。自らの方を貫いてこそ王。だがな~、余は聖杯が欲しくて仕方がないんだよ。で、欲した以上は略奪するのが余の流儀だ」

 

「是非もあるまい。お前が犯し我が裁く。問答の余地などどこにもない」

 

「うむ、そうなると後は剣を交えるのみだな」

 

アーチャーの言葉に納得するライダー。結局のところは何も変わってなどいない。聖杯戦争の習わし通りに戦うのみだ。どちらかが敗れ、魔力(エーテル)の塵となるまで。

 

アーチャーの戦う理由は判明したところでセイバーが疑問に思ったことを問う。

 

アーチャーではなく、ライダーに向けて。

 

 

「………征服王よ。お前は聖杯の正しい所有権が他人にあるものと認めた上で力で奪うのか?」

 

「ん? 当然であろう? 余の王道は『征服』……即ち『奪い』『侵す』に終始するのだからな」

 

「そうまでして聖杯に何を求める?」

 

セイバーには理解できなかった。

 

他人の物を『奪い』……そして『侵す』という行為はセイバーにしてみれば”悪”そのものだ。とても一国の大王が胸に秘めている王道とは考えられないほどに醜悪極まりない行いだ。

 

だからこそ分からない。

 

何故そこまで他者を傷つける行為を良しとする?

何故そこまで他者の所有物を欲する?

 

そこまでして、その果てに――――一体何を願っている?

 

 

セイバーの問いに答えにくいのか、唸るライダー。

手元の酒を一気に飲んだことから相当言いづらいらしいということは何となく分かった。その顔は相当恥ずかしいのか、それとも一気に酒を口に含んだせいで酔いが回ってしまったのか、若干赤くなっている。

 

 

「―――――受肉だ」

 

「はぁ? おおおお前! 望みは世界征服だったんじゃぎゃぺッ!!」

 

日頃一緒にいたウェイバーが取り乱したように詰めようるが、例のごとくデコピンで吹き飛ばされる。

呆気に取られたとはウェイバーだけでなく、セイバーも、アーチャーも、そしてキャスターもどういうことだというような顔をしている。

 

無理もない話だ。

 

マケドニアの大王程の男が聖杯に臨むことがただ”体が欲しい”ということだけなのだ。現代に召喚されても未だに世界征服という前時代的な発言をさも当然のように豪語するライダーが戦う理由としては些か……いや、考えてもよく分からないのだから。

 

 

「馬鹿者。杯なんぞに世界を獲らせてどうする? 征服は己自身に託す夢。聖杯に託すのはあくまでそのための第一歩だ」

 

「雑種……よもやそのような瑣事のためにこの我に挑むのか?」

 

アーチャー……ギルガメッシュは己自身が取り決めた絶対の(ルール)に則って、その刃を振り下ろそうとしている。

 

そのアーチャーと覇を競おうとしている相手が戦う理由がそんな小さいことという事実に不機嫌になるのも無理はない。

 

「あのな。いくら魔力で現界しているとはいえ所詮我らはサーヴァント。この世界においては奇跡に等しい、言ってみりゃ何かの冗談みたいな賓の扱いだ。貴様らはそれで満足か? 余は不足だ。余は転生したこの世界に一個とした生命いのちとして根を下ろしたい」

 

「(だから霊体になるのを嫌がってたのか……)何で……そこまで肉体に拘るんだよ?」

 

額をさすりながら問うウェイバー。

 

召喚したその日から自分が言う以外は基本的に霊体化せずに過ごしてきたサーヴァントの行動にようやく納得がいったのだ。

わざわざ食べる必要のない食事を食べたり、わざわざ着る必要のない衣服を着用したり、まるで召喚された使い魔ではなく『今を生きている人間』のように行動していた。

 

その胸の内に秘めていた思いを今ようやく聞くことが出来たのだ。

 

 

「それこそが『征服』の基点だからだ。身体一つで我を張って、天と地に向かい合う。それが征服という”行い”の総て……そのように開始し、推し進め、成し遂げてこその我が覇道なのだ。だが今の余はその”体ひとつ”にすら事欠いておる。これではいかん。始めるべきモノも始められん。誰に憚ることもないこのイスカンダルただ独りだけの肉体が無ければならん」

 

 

聖杯に託すのは己の野望を達成するための”手段”であり、その先で成し遂げんとする夢は己の手で掴むもの。

 

 

他を振り回してきた征服王の願いは他の誰でもない征服王自身が成し遂げるべきモノ。それを万能の願望器という便利な道具に自分の夢を叶えてもらうことは他でもないライダー自身が許さないのである。

 

 

「…………………」

 

ライダーの胸の内を聞き、しばし無言になるアーチャー。

そのまま酒を一口飲みと地面に置き、ライダーを見据える。その眼はまるで自らの獲物を見つけたかのように鋭くなっている。

 

「決めたぞライダー。貴様はこの我が手ずから殺す」

 

「フフン、今更念を押すまでもなかろうて。余も聖杯のみならず貴様の宝物庫とやらを奪い尽くす気でおるから覚悟しておけ」

 

不敵な笑みで返すライダー。

 

英雄王と征服王。

 

両者のやることは決定した………いや、そもそも初めから変わってなどいない。変わったのはその行いをするための心の内のみ。

 

英雄王は自らの法に則って、自身の財を狙う賊を処断する。

いや、ただの賊などではない。有象無象の相手なら腐るほど見てきた。いちいち有象無象に固有名詞をつけるほどアーチャーは暇ではない。

 

ギルガメッシュは目の前の相手に対してこう言った………ライダー(・・・・)、と。

 

有象無象ではなく、一個人を示す名で相手を認識した。

それはつまり、アーチャーは目の前の男を有象無象ではなく征服王イスカンダルとして相手取るということの証明に他ならない。

 

 

「(唯我意あるのみ――――そんなものは王の在り方ではない。ただの暴君のそれでしかない)」

 

 

―――真の王の在り方とは………

 

 

「――――さて。次はセイバーか……キャスターだが。どちらから聞かせてもらおうか……」

 

「でしたらセイバーさんからでよろしいですよ。私、別に王様とかじゃありませんでしたし」

 

「そうか。では、セイバーよ。聞かせてもらおうか。貴様が聖杯に託す願いとは何なのか……その腹の内を、な」

 

ライダーの問いに対してセイバーが身構える。

 

そして、自らの唯一つの願いを口にするのだった――――。

 

 

「私は、我が故郷の救済を願う。万能の願望器をもってしてブリテンの滅びの運命を変える」

 

 

 

-------

 

 

「よりにもよって酒盛りとはな…」

 

「アーチャーは放置しておいて構わぬものでしょうか」

 

「仕方あるまい。王の中の王にあらせられては突きつけられた問答は拒めんだろう」

 

遠坂邸では時臣が綺礼からの連絡を聞き、頭を押さえていた。

 

ライダーの破天荒な言動は凡そ常識の範囲を優に超えていて、次の行動を予測することは難しい。そのことは重々承知していたが、まさかそれがあのギルガメッシュを『王』として動かすほどのものだとは予測していなかったのだ。

 

それだけならばまだよかった。

一番の問題なのはアーチャーの真名があの場にいる全ての存在に露呈してしまったことだ。

 

如何に最強の英霊を召喚したとしても、真名が露呈してしまえばその牙城を崩すことは容易に出来てしまう。伝承に最強と名高い英雄であればあるほどその弱点は多く、その効果を顕著に受けやすいのだ。

 

だからこそ、宝具の連続射出という規格外の基本戦術を行っているアーチャーが戦場に出ることはなるべく避けねばならなかった―――。

 

「(いや、過ぎてしまったことはしょうがない。幸い、ギルガメッシュには乖離剣がある。如何にセイバーやライダーが王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を凌ごうと世界ごと攻撃されれば(・・・・・・・・・・)防ぎようがあるまい)」

 

 

――――余裕をもって優雅たれ。

 

アーチャーの、そして遠坂時臣の優位性は何も変わってなどいない。

 

勝利は常に、こちら側にこそ存在している。

 

 

「(ライダーが森の結界を破壊したことでアサシンも場内まで進入することが可能になった。状況は完全に把握できている。問題はない)ところで綺礼。ライダーとアーチャーの戦力差……君はどう考える?」

 

「ライダーに『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』を上回る切り札があるか否かに尽きると思われます」

 

「うむ……(未だに必勝法の糸口が掴めないのがライダーだ。マスターの消耗が激しいバーサーカーとマスターが前線に出るという無謀な戦法を取るキャスター。そしてセイバーも手負いの状態であれば勝利は揺るがない。ランサーはロード・エルメロイが脱落し、より下位の魔術師がマスターに成り代わってかつてほどの脅威はない。)……この辺りでひとつ仕掛けてみる手もあるかもな」

 

「(アサシンを犠牲にしてライダーの切り札を引き出させる…か。確かに他のマスターの状況は大方調べ尽くしアサシンの斥候としての役目はほぼ終えている。ギルガメッシュからの要求(・・・・・・・・・・・・)にも応えたといってもいいだろう……)成る程、異存はありません。すべてのアサシン(・・・・・・・・)を現地に集結させるのにおそらく十分ばかりかかると思われますが」

 

 

 

「良し。号令を発したまえ。大博打ではあるが、幸いにして我々が失うモノはない」

 

 

 

「了解しました。我が師よ」

 

「そうだ、綺礼。アサシンには令呪を以って告げて欲しい。――――犠牲を問わず、ライダーのマスターを始末せよ、と」

 

 

 

王と呼ばれた者たちの在り方を問う聖杯問答。

 

その行われている城に町中から不躾な複数の影が迫ってきていた――――。

 

 




主人公組が若干空気でしたがこれギルガメッシュとイスカンダルの為のような問答だから仕方ないよねッ!!

次はちゃんとキャスターも問答に参加する………はず。

年始ガチャでは見事狙い通りに三蔵が来てくれました。弟子の武器を召喚する三蔵と弟子を召喚するネクロムが組んだら新生西遊記が始まるのではなかろうか………。

バレンタインでは無事すべてのチョコを貰うことが出来ました。
えっちゃんは倉庫から出した呼符七枚を使って、三回目で来てくれました。ついでにゴルゴーンも。

新宿ピックアップでは姉に単発ガチャしてもらったら一発で『新宿のアーチャー』が来てくれたもんでつい叫んでしまいましたよ。まぁ、自分の本命は『新宿のアヴェンジャー』なのでまたしますけど。


次回もお楽しみください!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。