Fate/Fox Chronicle    作:佐々木 空

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遅くなってしまい本当に申し訳ありません!!

FGOやろうかな~Fate/EXTELLAやろうかな~録画したアニメ見ようかな~とか思っていたらこの体たらく!!

もうすぐ一年なのにテレビシリーズ一クールも進んでいないとか何やってんの俺……。
こんな作品ですがこれからもよろしくお願いします。



デート・ア・フォックス その二

バッティングセンターを後にし、二人が次に来たのは深山町のシンボルともいえる商店街だった。

 

 

「ここがマウント深山……昔ながらの商店街って感じだな」

 

「はい。何となく昔の風靡が残っているところが良い味を出していますね」

 

商店街の入り口に設置されてある看板にご丁寧にも書かれている看板を見る。恐らくは観光客など初めて来る人にも分かりやすいように置かれたものなのだろう。

 

新都とは違い娯楽施設などを完璧に取り払い、遊ぶところとしては劣っている深山町だが、食事施設などは新都以上に取り揃えている。学生や観光客からは新都とはまた違った楽しみの一つとして有名な所であり、事実入り口からも数多くの人だかりが見て取れる。

 

「はぁ~~、ようやく昔の雰囲気というか風をこの身に感じたように思えますよ」

 

「やっぱり機械やコンクリートよりこういう方が嬉しかったりするのか?」

 

「それはもちろん!」

 

元気いっぱいに返事をしながら深く深呼吸をし、なんとも気持ちよさそうに息を吐くキャスター。

色々なものが気になるようでそこかしこに視線が向かっている。

 

「マスター、マスター! 見て下さいよこの新鮮な魚!! 脂が乗っててすごく美味しそうですよ!」

 

本人の好みか野獣性かは知らないが、どうやら魚屋の店頭に並んでいる魚が気に入ったようで食い入るように見ている。

 

そういえば、キャスターの好みを知らなかったなと改めて考えてみる。

 

現界してからは魔力の節約やらなんやらで零司の作った料理やインスタントなどを文句ひとつ言わずに食べているのだが、本人は一体そこのところどう思っているのだろう。

 

「キャスターって………肉食、なのか?」

 

「何故そこで肉食を選ぶ(チョイス)するんです? 耳ですか? 私のこの今は見えぬ自慢の耳を見て言っているのです?」

 

ジト目で零司を見ながら、やれやれと言いつつも簡単に説明を始める。

 

「確かに伝承通り私は狐ですけど、世間一般で言う所の元庶民ですよ。朝廷に入ってからは貴族の食事を食していましたが、それ以前は普通の食事をしていましたとも」

 

それに、と付け加えたように語りだす。

 

「私は夫を尊重する良妻ですよ? そんなよく出来た良妻(ワタクシ)がガッツガツの肉食系な訳ないじゃないですか」

 

「肉食系じゃないのか?」

 

「当然ですッ!!!」

 

力説するキャスターに安堵したかのように、何だ、と言う零司。

なんだか安心したような勘違いしていたとでもいうような口調に気になり疑問に感じる。

 

「ごめんごめん。勘違いしてた」

 

「はっ? 勘違い?」

 

「キャスターって兎のフードをしてるだろ? だからてっきり――――」

 

 

 

 

「――――自分は肉食系ですってアピールしてんのかと思ってたよ。はっはっはっは」

 

 

 

 

「………HA?」

 

零司の言葉の意味に一瞬思考が完全に凍結(フリーズ)したキャスター。

 

しかし、徐々に徐々にその言葉の真意に辿り着くと同時に自身の顔に体中の血液が集まり体温が上がっていくのを感じている。

 

 

兎のフード、肉食、アピール――――。

 

それらから連想される答えに普段テンションの高いキャスターの脳がオーバーヒート寸前になり、同時に目の前の零司(マスター)に対して一つの疑問が思い浮かぶ。

 

 

「(まさか。もしかして。この人ってーーーーーッッ!!???)」

 

 

「あの………マスター?」

 

「ん、何?」

 

「マスターって、もしかして……天然、何ですか?」

 

辿り着いた答えの中で最もそうであってほしくはない答えを恐る恐る聞いてみる。

それに少し笑いながら答える零司。

 

「何言ってんだよキャスター?」

 

「そうですよね!! んな訳ねぇーですよねッ!! 不肖キャスター、心の底から安心して―――――」

 

 

「俺は人間だから天然じゃないぞ?」

 

 

「(ド天然だこの人ーーーーーーー!!!)」

 

 

 

 

―――――思えば。

最初に現代の食事が食べたいと言ってみてワクワクしながら目の前に出されたのは『赤いきつね』と書かれたインスタントのうどんだった。

あの時は名前にまず目が行ってしまい、ギャグなのでは、とも考えたが本人は何ということもないような顔をしていた。幸いにして、本当の狐が使われているということもなく一安心して食したわけだが。

 

―――――思えば。

今朝の会話で何て事もなしにデートの承諾を貰えたことも男女が二人で出かけることを『デート』と呼ぶのならあんなにあっさりしていたことも説明がつく。

自分がウキウキ気分で準備をして臨んでいたのだが、道中そんな雰囲気が出るといったことは全く持って無かった。

 

 

あれは……あれは………。

 

 

「天然、だったから、なんですか…………」

 

「どうしたんだキャスター?」

 

「いえ……お構いなく…………」

 

 

 

-------

 

 

 

キャスター……タマモの足取りが若干遅くなったように見えるのは多分俺の気のせいじゃないと思う。千鳥足というか、何か思い枷のようなものを背負っているようなそんな感じになっている。

 

本人がお構いなくと言っていたが、やはりあったのではないかと思う。

 

「(何かしたのかなぁ、俺)」

 

本人が気にしないように言っていたが、やはり気になるものは気になるのだ。

原因を辿ってみるところから始めるとするか。どの探偵ものの話でも、出来事の始まりはその直前ではなく、大体一日の朝から始まっていることが多いしな。

 

 

まずは朝。

 

タマモからデートの誘いを了承したところから始まった。その所では特に変わった様子はないな。普通に朝ご飯を食べているところにキャスターが提案してきたわけだから。雁夜の顔が固まっていたということしか変だったところはない。

 

……いや、確かに変だとは思うけどさ。

 

聖杯戦争中にサーヴァントとお買い物に行くくらいは別に個人の自由じゃないか。ライダーなんかは普通に敵マスターを自分の拠点に連れて行ったり、現代の服に着替えて現代を謳歌しているくらいなんだから。

 

 

次に昼。

 

あるはずがないとは思っていたがタマモの要望でスマホやルンバといった電子機器を探しに行ったが、案の定無かった。それらしき片鱗などはあったが、やはり十年先でないと完成形は見られないらしい。

そこから……まぁ昼ご飯を食べたりバッティングセンターに行ったりしたわけだな、うん。

 

 

そして今現在。

 

特になし。

 

 

「うん。全くもって理由が分からん」

 

多分、俺の与り知らない所でタマモなりの葛藤があったんじゃないだろうか。

 

まぁ、何百年経ったとはいえ、ここはタマモの故郷だからな。自分の時代を比較して何かしら思う所があったんだろう。ここはあんまり触れないでおくか。

 

 

「ん?」

 

辺りを見ていて、一つのお店が目に入ってきた。

というよりも、タマモの目線が一瞬そのお店に止まっていたので少し気になっただけなのだが。当の本人はすぐにほかの店に目移りしているようだけど……あの様子は他の店に目移りしたというより、どっちかと言えばあえてスルーしたという風にも見えなくもない。

 

少し疑問に思いながら、先ほどタマモが見ていたお店の看板に目を向ける。

 

「えいどり……あん…?」

 

一瞬、変な生ものらしき生物を連想したがすぐに違うだろうと判断に記憶の彼方に追いやる。おそらくは『えいちょうあん』と呼ぶのだろう。『詠鳥庵』をそのまま読めばそう読めなくもない。

 

 

店のジャンルとしても呉服店のようだ。

ガラス越しには骨董品などの伝統がありそうな品々が多く見受けられる。

 

 

「キャスター。ここに入ってみないか?」

 

「ゲッ………ここにですか?」

 

「……やっぱり何か気になることがあったんだな?」

 

「ははは……気になることと申しますか~。こう第6感(シックスセンス)に引っかかるというか~。第7感(フォックスセンス)がマイナス波動を感知したと言いますか~………」

 

「よし。行くか」

 

「ちょっとちょっと!? ご主人様人の話聞いてました!!? まぁ私人ではないんですけどね……って、私の渾身のギャグはスルーですか!?」

 

後ろの方で何か叫んでいるが、骨董品や伝統的なものには個人的に興味があるので、中に入って実物を拝ませてもらうとするか。

 

 

中は思ったよりも普通の店というような雰囲気そのもののようだ。

普通に一般の人がいるところを見ればタマモの直感に引っかかるような厄介ごとがあるようには見えない。

 

「ほらほら~~。特に何もないでございますでしょう? 感と言っても、当たったり外れたりの博打的なものですよ? 地雷があるなら避けて通れ。避けて通れぬなら他に踏ませよ、ですよ?」

 

物騒なことを言ってるが、本音が出ているぞ。

 

詰まるところ、何かあるから関わり合いになりたくない、ということらしい。

 

「へぇー、色々な物があるんだな」

 

何年も前から営業しているだけあって品ぞろえは素晴らしいの一言しかない。

 

「とてもキャスターの気になるような物は見当たらないな……。本当にマイナス波動的な何かがあったのか?」

 

「……はい。ありますよ」

 

「どれなんだ?」

 

「ご主人様が今しがた通り過ぎた棚の右から左までの全部(・・・・・・・・・)です」

 

 

………………はい?

 

 

「今何て?」

 

聞き間違いか何かだと思い、もう一度尋ねる。

 

「ですから―――ご主人様が今しがた通り過ぎました棚の右から左までの全部(・・・・・・・・・)の商品がマイナス波動を放っているんですよ」

 

 

どうやら聞き間違いではなかったみたいだ。

現に、タマモの表情が何とも言えないような微妙なものになっている。

 

今しがた通り過ぎた棚をもう一度見てみる。

そこには他と見比べても遜色ないと言っていいほどの品々が陳列している。壺、筆、絵画、仮面―――――特に目立ったような特徴のないこれらがタマモが引くくらいの波動を放っているとはパッと見では全く分からない。

 

「つまり……人を呪い殺すような呪具の類だっていうのか?」

 

「いえ、そこまで禍々しいものでは無いようですよ。特定の条件が揃わなければ何の問題もありません」

 

それを聞いて一安心する。

 

タマモが言うもんだからどれほどのヤバい代物かと警戒したが、するだけ損のようだ。

 

 

「ほぉ……それらに目を付けるとは、お客さんただ者じゃないな?」

 

 

声が聞こえたので振り返ってみると、そこにいたのは一人の男性だった。

 

来ている服に『詠鳥庵』とロゴが描かれているので、恐らくは店の人―――それも店長か誰かなのだろう。無駄に変な迫力を出しながら出てきた辺り多分こちらの不審な様子に気付いていたのかもしれない。

 

 

「いいえ。ただの一般市民ですが」

 

「いやいや。別に取って食おうとしてるんじゃないよ。ただそいつら(・・・・)に気付いたようだから気になって話しかけただけだからさ」

 

「そいつらって……貴方もしかしてこれらのこと知ってるんですか?」

 

タマモの疑問に、まあな、と答える男性。

 

「先代から注意されながらも置いてる品物(モン)だからな。どういったもんかは分かってるつもりだよ」

 

先代って……まさか相当前から置いてあるのか?

それもどういったものかも知ってる上で?

 

だとしたらこの店の人は相当すごい度胸の持ち主だぞ。

 

普通こういうものを持っていると何かしらの悪影響が出てくるものだ。タマモが言うには何の影響もないらしいがこの人はそのことに気付いているのだろうか。

 

「実はこういったものはこの棚にあるやつで全部じゃなくてな~。うちの蔵にまだまだたくさんあるんだよ。今じゃ呉服屋だけど、その前は海賊をやっててな。曰く付きの品が山ほどあってな………。そこに飾ってある仮面もその一つだよ」

 

そう言いながら一つの仮面を指さす店長。

 

その先にあったのは先ほども見た仮面だった。形状から見て鬼仮面と呼ばれる種類のようだ。

 

「もう何度か売れているんだけどな? 買われても買われても次の日には戻ってきてるんだよ」

 

「魔刻の騎士オルゲイトか、こいつは」

 

「もしくはネズミーマウスに放り投げられるも執拗にバケツに戻って来る水ですね。因みに原因は?」

 

「買っていったお客が言うにはな? ヒガンジマンだか暇人マンだか知んないんだけど、家に持って帰っていざ晩御飯を作ろうとしたら喋り出して名乗った後カレーを作るように要求するらしいんだ」

 

「何故にカレー?」

 

「要求が意味不明な上にネーミングセンスの欠片も感じられませんね、そいつ」

 

「作らなきゃ呪い殺すぞとかあの手この手で脅してくるから仕方なく作ってやるらしい。んで、出来上がったカレーをそこら辺の人間を乗っ取って食べた後、俺が探してるのはこんなカレーじゃねぇぇぇんだよ!!! ―――って、言いながら暴れまわるらしい」

 

「どんな嫌がらせだよそれッ!?」

 

「無理やり作らせたくせに不満を持つあたり、性根が腐ってますねそいつ……」

 

さっきのピッチングマシーンと言い、この店の鬼仮面と言い、この街には碌な物が集まらないな……。

 

その後も店長から店の品物について一通り説明してもらって店を出ることにした。

出る時にヒガンジマンの仮面を土産に買っていかないか、と聞かれたが速攻でお断りした。

 

 

 

-------

 

 

その後も、二人で様々な店を巡った。

 

服屋に行った―――服よりもセットになっている装飾が気に入ったみたいでタマモがすごくはしゃいでいた。

小売店に行った―――タマモが俺に似合う物を、俺がタマモに似合う物を探したりした。

アイスクリーム屋に行った―――冬にアイスは厳しいと思ったが、思ったより外は寒くなかったのでちょうどいい味わいだった。

ゲームセンターに行った―――動物やキャラクター物のぬいぐるみを獲ろうとしたことが意外だったらしくタマモに驚かれた。

 

 

色々な所を巡り、色々なことを体験し、色々な物を見た。

 

 

…………そして――――。

 

 

「本当にここでよかったのか?」

 

「ええ、まぁ……ちょっと気になることがあったもので」

 

そう言いながら、古びた鳥居を潜り抜け、本殿に向かっていくタマモ。

時刻はもう夜の9時を過ぎており、太陽も地平線の果てに消え去り、その姿を消した。代わりに反対側からは月が現れ、地表を照らしている。

 

タマモと一日中冬木を歩き回り最後にどこに行きたいのかと聞いたところ、この神社に行きたいと言ってきたのだ。

 

「(まさか、またここに来るなんて………)」

 

また。そう、まただ。

 

忘れもしない。忘れられるわけがない。恐らく転生という超常現象を体感している我が身以上に強烈な印象が残っている。

転生が『現象』として区別されるのなら、数日前にこの場所で行われた儀式はまさに『奇蹟』と呼んでもいい代物に相違ないだろう。

 

時が過ぎて剝がれている鳥居。雑草が生い茂る石段。苔が出始めている参道。そして、時がたっても尚言葉に出来ない威圧感と神秘的な雰囲気を晒す小さな本殿。

 

 

その中心こそ、キャスター・玉藻の前が召喚された場所に他ならない。

 

 

感慨に耽っていると、用事を終えたのか本殿からタマモが神妙な顔つきで戻って来る。

 

「地脈に問題はない……召喚に不手際は無かった……」

 

「キャスター、用事はすんだのか?」

 

「―――となると、原因はやはり………」

 

「………キャスター?」

 

「はっ!? すみません考え事をしていました」

 

「深く考え込んでいたようだけど、何かあったのか?」

 

「いえいえ、ご主人様がご心配になるようなことは何もありませんでしたとも」

 

そう笑顔で言ってのけるキャスターだが、俺の頭の中には先ほどまでのキャスターの普段とは違う表情が頭から離れないでいた。

 

普段からテンション高めでふざけている印象が強いが、こちらの話を一言一句聞き逃さなかったり、ランサーとの戦いや間桐の屋敷に忍び込むときの段取りなどに助言をくれたりなど冷静で的確な判断が出来るということはすでに知っている。

その時には普段とは違う真面目な表情をしているが、先ほどの表情は今までとは違った感情が見て取れた。

 

 

まるで何かに確信がいったような、納得したような――――そんな表情だったような気がした。

 

 

ご主人様(マスター)

 

そう思っていると、タマモから自分を呼ぶ声が聞こえたので意識をそちらに向ける。

 

 

ご主人様(マスター)は……神様を信じますか? 信じているとして、その神を信仰していますか?」

 

神を信じているか、そして信仰しているか。

 

タマモから投げかけられた質問(ことば)は普段の彼女だけを見ているならばまず聞かれるとは思えない言葉だ。

しかし、あの夜、自らの異常性を語った夜に彼女が話してくれた出生のことを考えれば、その質問の真意は分からないが重要であろうことは何となく分かった。

 

そして、俺自身の答えはすでに決まっていた。

 

「信じるよ」

 

「それは何故ですか。私という存在を知ったからですか? それとも貴方様をこの世界に転生させた神という存在を知ったからですか?」

 

「違うよ。どっちも違う。俺はこの世界でも……前の世界で生きていた時も、『神』っていう存在のことは信じていたさ」

 

そう、それは紛れもない事実だ。

 

そして同時に―――――

 

 

「でも、信仰は全く持ってしていない。しようとも思えない」

 

 

――――偽らざる本意でもあった。

 

 

「……それは何故かお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「いいよ。まず俺が『神』っていう存在を信じている理由は単純なものだよ。”そうとしか考えられないことが起こってきたから”、だよ」

 

かつて楽園で暮らしていたという原初の人間(アダムとイヴ)を楽園から追放したという神。日本創生から関わってきた八百万の神々。救国の聖女に啓示を与えたとされる神。

 

世界には実に様々な神々が存在している。実に多様で、その数は知らないものまで含めると数え切れないほどに、人間がどう手を施しても覆すことのできないようなことを何でもないことの様にしてしまう、人間からしてみれば万能とも思えるほどの力を持った存在。

 

 

「神様が起こした奇蹟を信じた人々が彼らを信仰し、国というものが出来て行った。そういったものを否定すること自体は簡単だよ。でも、俺はしない。神の奇蹟というやつは存在するんだとは思っているよ」

 

まぁ、何の根拠もない妄想のようなものだとは思っているけどね、と付け足しておく。

 

「では何故信仰しようとは思わないのですか? 神の奇蹟を信じているというのに」

 

タマモの疑問は正しいものだと思う。神の存在を信じている、しかし、神の信仰をしないなど可笑しいにもほどがある。

 

理由はもちろんあるのだが、先ほどとは違ってとてもぶっ飛んでいる理由だとは理解している。

 

それは――――

 

 

「――――神は人間を救わない(・・・・・・・・・)から、だよ」

 

 

「人を……救わない……?」

 

「神は存在しているし、神の奇蹟も存在しているとは思っている。でも、神は施しを与えたことはあっても、人というものを救ってきたことは一度もないと思うからだよ」

 

 

かつて神々によって人と神の間に生まれた原初の英雄(ギルガメッシュ)

神が参戦したことによって人類史上最大の戦争の地となったトロイア。

神の声を聞き、戦場に立った一人の少女(ジャンヌ・ダルク)

 

そして、『転生』という超常現象を自身に齎した名も知れない神―――。

 

 

万人から見れば、多くのことは救いに見えるのかもしれない。

 

だが、当人からしてみれば周りとは違った見方も出てくるものだ。

 

 

「――――事実、俺は神という存在の所為で命を落としてこの世界に生まれ落ちたんだから」

 

 

神によって失われ、救い上げられた命。

 

その先の人生で経験したものは生みの親との死別。そして、育ての親との別れ――――。

 

「今の俺の人生はあの神によって生まれた物なのは否定しようのない事実だ。でも、神の奇蹟を受けた人間が幸福だとは限らないっていうだけの話だよ」

 

自分でもおかしい話なのではないかとは思っているが、紛れもない本心だった。

 

タマモの質問には答えたが、根底にはもっと別の考えがある。

 

人間が様々な事象に直面した時、これは神のお導きだ、とか、自分たちの行いを見てくれた神が起こした奇蹟だ、とか色々な考えが思い浮かんだりするとする。

 

 

俺はそういったものが酷く嫌いだ。

 

 

そういった感想を持った人間が嫌いでもなければ、そんな気まぐれに似た奇跡を起こした神が嫌いでもない。

 

自分の信じて突き進んだ道が神などの存在によって選定された物語だということが嫌いなのだ。

 

自分の選んだ選択というものはその時様々な思いや葛藤の末に選び抜いた自分自身だけの選択だ。その選択を誰とも知らない存在によって選ばされたなんてあってたまるか。

 

 

「―――そうですか。私は貴方を死なせてしまった神に若干の怒りを感じていますが同時にほんの少し感謝をしなけらばなりませんね」

 

「……?」

 

少しの沈黙の後にタマモは両手を胸の前に持っていき、言葉を漏らす。

 

 

「だって―――そのおかげで私は、貴方に呼ばれてこの世界に舞い降りることが出来たのですから」

 

 

一瞬。

ほんの一瞬。

瞬きほどの一瞬。

 

ちゃんと見ていなければ思わず見落としていたであろう一瞬だったが、その顔がとても輝いて見えた。

 

まるで、今この瞬間が何事にも代えがたい奇跡のような出来事(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)なのだと言っているようにも思えるほどに――――。

 

 

太陽のような笑顔に見とれていると胸の前に置いていた手を伸ばし、そっとこちらの手を取ってくる。

 

「神は人を救わないとおっしゃいましたね? ご主人様の言う通りです。神は人を……人間を救ったことは一度たりともありません。それはこの神の分け御霊である私が断言します」

 

でも、と言いながら両手でこちらの手を握りしめてくる。

 

「その逆はどうでしょうか? 人は神を救うのか? 答えはイエスです。」

 

「何故なら、何故なら――――」

 

 

「―――私が、貴方様に救われたからなのです」

 

 

「俺が……君を救った?」

 

よく分からない。自分がすでに彼女を救っているだって?

自分は彼女を召喚しただけだ。むしろそこからは俺の方が助けられっぱなしだ。

最初のランサーとの戦いのときでは、俺の魔力強化だけでは精々数発撃ちあうのでやっとだっただろう。あんなに戦えたのは彼女の強化(エンチャント)があったおかげだ。それに彼女の助け無しではランサーに一矢報いることすら不可能だったと言ってもいい。

臓硯のときだってそうだ。彼女の呪術の支援が無かったら防衛機構を総動員されていただろうし、雁夜や桜体の治療だって出来ていなかった。

 

それになにより、あの夜の言葉で俺は自分が醜い怪物ではないのだと初めて実感できたんだ。

 

一度死んだことで死ぬのが怖くなり、こんな体を望んだ俺のことを優しいと言ってくれた。その言葉で俺が一体どれほど救われたか。

 

俺が救われたことはあっても、俺が彼女を救ったことは無いはずだ。

 

 

「無理に分かる必要はございません。それはつまりそのことを当然と思っているということの何よりの証です。私はそのことが何よりも嬉しいのです。だからこそ、今一度ここで貴方様にお誓いします」

 

 

「貴方様の道に立ち塞がる有象無象はこの私が尽く打ち滅ぼしてみせます。貴方様の道はこの私が照らし続けて見せます。例え、この身を犠牲にしようとも――――」

 

 

 

「キャス、ター………?」

 

「さ~~って!! 湿っぽい話はこれで終わりです!! 家に帰るまでが遠足。男女のお付き合いは夜が本番。つまり、デートはまだ終わっていないのです!!! という訳で、我が家に向かってGoーGoーですよマスター♡」

 

「いやっ、ちょっ!?」

 

いきなりのテンションの違いに驚いている俺を引っ張りながら駆け出していくキャスター。さっきまで見ていた儚い印象とは180度変わり、テンションの高い普段のタマモに戻っていた。

 

一体さっきまでの質問にどんな意図があったのかは今の俺では分からない。あんまり深く話さないということは恐らく彼女なりの気遣いなのだとは思う。

 

何を思い、何を決意したのかは分からない。

 

様々な疑問の中俺が思っていたことは、今この手に感じる彼女のぬくもりが出来るだけ長く続けばいいな、ということだけだった。

 

 

 




冠位時間神殿ソロモン開催しました。

ギリギリで七章をクリアして最終決戦に挑んでいます。
ジャンヌが出てきたときは脳内で坂本真綾声で再生されて涙が出てきそうでしたよ。


未来を取り戻す物語……最終決戦


2017年を迎えるためにも死力を尽くして全身全霊押して参りましょう。


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