Fate/Fox Chronicle    作:佐々木 空

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剣槍衝突

「(くっ………何故ここにライダーが……!)」

 

アサシンは疑問に思っていた。

 

自分たちにとって最も優位に立ち回ることの出来る路地裏の、この時間帯に別のサーヴァントが居合わせるという状況に。

確かに当初の予定から大きくかけ離れてしまったが、それでも今は朝の時間帯。聖杯戦争の時間帯ではないし、昨夜あれ程の激戦を繰り広げたサーヴァントが簡単に自分の拠点から動くはずがない………そう踏んでいた。

 

しかしその時点で既に間違っている。

 

この聖杯戦争に呼び出されたのは人類史において名を刻まれるほどの英雄豪傑たち―――――。

 

 

そんな者たちに通じる常識など…………無い―――。

 

 

「さて、色々思うところがあるがまずは一つ。―――――何故、初日に脱落したはずのアサシンが、此処に、それも数人がかりでおるのだ?」

 

ゆっくりゆっくり問いただすように尋ねるライダー。

 

しかし、その雰囲気は明らかに眼前に立ちふさがる敵対者を射ぬかんとばかりに荒々しく猛っている。

 

 

「くっ!!」

 

「何だ。逃げるのか? 根性の無い連中よなぁ……。仲間が一人やられたのだから仇討ちしようという気概位見せんかい」

 

一人のマスターに時間を取られすぎ、ライダーまで出てきたのでは勝ち目が無いと踏んだのか、早々に撤退していくアサシン。

 

ライダーががっかりしたように溜め息を吐くのに続いて零司も構えを解く。ライダーは自分とは敵対する立場だが相手は世に名を馳せる『征服王』その人だ。まさか相手のマスターを狙い打って勝ちを取ろうとするほど貪欲ではないと何となく分かっている。

 

「正直…助かった。あのままだったら死なないまでも無事じゃなかっただろうから………」

 

「な~に気にするな! ………で、あと何人(・・・・)ほどおるのだ、あ奴等は?」

 

「さぁな。さっき俺も一人倒した。アーチャーに一人やられて、俺に一人。お前にも一人やられてまだ二人いる位だ。まだまだ控えていると考えてもいいと思う。下手すればもっといると思う。それも人海戦術を効率的に使った方法で」

 

「………と言うと?」

 

「街中で情報収集をしているとかじゃないか? じゃなかったら脱落を装う意味が無いだろう」

 

はぁ、面倒だなぁ、と声に出すライダー。

 

先ほどの状況でアサシンが複数いる事は何となく分かっていたらしいが、どの位の規模でどの位の範囲で潜んでいるのか分からないと来れば、常に気を張っておかねばならない。

しかしライダーにその心配は杞憂だということは零司も、ライダー自身も理解していた。ライダーの神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)は周りの障害物を雷撃で破壊しながら空中を浮遊する。

 

そんな自由自在に動き回る機動兵器のような戦車に特攻を仕掛けるような無謀者は流石にいるまい。

 

「それにしてもアサシンも仕留められるほどの手腕とはなぁ……ますます気に入ったわい」

 

「言っとくが俺にそっちの趣味は無いからな」

 

「安心しろ。余も無い」

 

お互い冗談を言える位には気が楽になったのか、他愛無い会話をしながら路地裏から立ち去っていく二人だった。

 

 

 

 

 

 

「ありがとう。お陰で道中気を張らずに済んだ」

 

「別に構わんが、そんなに気を許して大丈夫か? 一応余とお前さんは敵同士なのだが?」

 

「まさかかの征服王が相手のマスターを討ち取って勝ち鬨を上げるほど器が小さい訳じゃないだろう?」

 

「はっはっは!! 言うではないか。ますます気に入ったぞッ!!」

 

そう言いながら、手を振って立ち去ろうとしていた零司の首元を掴んで逆方向へと歩こうとするライダー。

 

「………は?」

 

「ではお主の健闘を称えるべく、ちょっくら付き合ってもらおうか!」

 

「ちょっと待てぇぇぇっっ!!? 俺見ての通り買い物の途中だったし、お前が言ったように敵同士なんだけど!??」

 

「戦士の健闘を称えるのに敵も味方も関係あるまい。それにお前さん以前余の誘いに対して、また今度、と申したではないか」

 

うぐ、と心の中で押し黙る。

確かに昨夜、雁夜の所在を確かめるためにライダーの誘いを適当に断っていたがまさか24時間も経たずにそのつけが回ってくるとは思わなかった。

しかも先程助けてもらったばかりにあまり強気に出ることも出来ない。

 

「ま、待て!! その前にまずは俺の用事を終わらせて――――」

 

「さぁいざ往かん!! 我が拠点へ!!!」

 

「人の話を聞け!!? 俺の都合を考慮しろぉぉーーーーーーーー!!!!」

 

 

それから、俺の都合を考慮しろ、よいではないか、を30回以上繰り返しながら、ライダーの拠点へと向かって行った。

 

出かけていたライダー(サーヴァント)が生き生きとした顔で帰ってきたと思ったら疲れ切った表情の零司を連れているのを見て、ウェイバーが絶句していたのは言うまでもない―――――。

 

 

 

-------

 

 

「アイリ。この森の結界の術式はもう理解できたかい?」

 

夜。時期的には冬の所為か、夕日がすっかり沈んだだけだというのに街は深夜と言われてもおかしくないほどに暗闇に覆われている。だが、文明の利器とは何と便利なのか。辺りは漆黒だというのに冬木の街は明かりに照らされ、行き交う人々を照らし出している。

 

しかし、そんな文明の利器も森の奥深くにあるアインツベルンの屋敷を照らし出しはしない。

 

魔術の名門であるアインツベルンだが、今回ばかりはその文明の利器を最大限に活用できる人材を招き入れている。その結果、魔術師の館ながらその内部は侵入者を排除するためのピアノ線を用いた対人クレイモア、感知式の爆発物等の精密機械を使った防衛線に特化している。

 

その屋敷の一室で切嗣、舞弥、アイリ、そしてセイバーの四人は話し合っていた。舞弥は座っている切嗣の背後で、セイバーは座っているアイリの背後に控える形で立っている。

 

「ええ、大丈夫。それよりも問題はセイバーの左手の”呪い”よ」

 

そう言いながら、背後のセイバーを見る。

 

「貴方がケイネスを仕留めてから18時間経つけれど、セイバーの腕は完治しないままよ………」

 

先の戦闘によってセイバーの左手は『全快』にして『万全』ではなくなっている。

 

ランサーの宝具『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』によって切りつけられた左腕は腱を切られ、親指が動かせなくなっている。それでは剣を全力で振れないだけでなく、セイバーをセイバーたらしめる切り札すらも使うことが出来ない。

 

―――――聖剣エクスカリバー。

 

万人の思いによって生み出された剣を振るうには、両手でしっかりを剣を握る必要がある。今のセイバーは剣を全力で振れず、自身の宝具すらも封じられた状態になってしまっている。

 

戦略的にも不味いと考えた切嗣は早急にランサーを撃破しなければいけなくなってしまった。

 

 

セイバーの腕の呪いを治す方法は二つ。

 

呪いを生み出している槍を破壊するかその槍を扱っているランサーを倒すか――――――。

 

 

だがそのどちらもランサーと戦わなければならないというリスクが生じる。破壊力は無いが、対人戦に特化した宝具を持つランサーに正面から挑むのは危険が大きすぎる………。

 

故に、切嗣が狙うのはそのマスターであるケイネスであった―――――。

 

幸いケイネスが拠点としているホテルは既に把握していた。そして昨夜のうちにホテルごと爆破している。いくら強固な魔術式で防衛していようが、構築しているホテルそのものを崩せばその全ては無意味と化す。

 

マスターであるケイネスが死ねば、ケイネスの魔力で現界しているサーヴァント(ランサー)は消える。ランサーが消えればランサーの宝具によって付けられた呪いも完治される………筈だった。

 

しかし、セイバーの呪いは今も続いている。つまり。ケイネスはまだ生きているという何よりの証拠であった。

 

「ランサーはまだ健在なんだわ。他のサーヴァントを迎え撃つためにもまずはランサーを仕留めるのが先決なんじゃないかしら?」

 

「それには及ばない。確かにランサーの宝具は脅威だが、その効果を真に発揮する相手は僕たちじゃない」

 

「バーサーカー、ね」

 

「その通り。バーサーカーが何者なのかはまだ分からないが、奴の宝具とランサーの宝具は極めて相性が良い。セイバーのステータスを考えてもしばらく泳がせておいても問題ないよ」

 

ランサーの宝具も厄介だが、遠坂のアーチャーの宝具の猛攻を相手に完璧と言っていいほどに立ち回っていたバーサーカーも厄介と言わざるを得ない。

何せ手にしたもの全てを自らの宝具にするとなれば、近代兵器はおろか下手すればサーヴァントの宝具すら奪われる危険性がある。

しかし、ランサーの宝具はあらゆる魔術的干渉を無効化することが出来る。どれだけ自らの宝具にして武装しても、ランサーの前では紙切れ同然と化す。セイバーの宝具が使えないというメリットが存在するが今は様子を見るしかない。

 

 

「―――――マスター、少しよろしいでしょうか?」

 

話が一段落着いたと判断し、セイバーが切嗣へと声を掛ける。しかし、切嗣の視線は相も変わらずアイリへと向いたままで一向にセイバーを見ようとしていない。聞こえていない……ということはないだろう。セイバーの声は前に座っているアイリはおろか切嗣の背後に控えている舞弥にも聞こえているはずだ。

 

その状況にほんの少しだけセイバーの顔が厳しくなる。

 

 

アインツベルンの城で切嗣の召喚に応じ、己のマスターか、と問いかけたときの切嗣の表情は今も鮮明に覚えている―――――。

 

無理もない。現代ではアーサー王は男ということになっている。王位を継ぐために男の振りをしていたのだから驚いて当然だ。

 

だが、自身を驚きの表情で見ていた切嗣はすぐに目を厳しくするとそのまま背を向けて立ち去っていった。

その行動に困惑していたセイバーだったが、すぐ傍に控えていたアイリスフィールから状況を説明してもらい、その場は何とか事なきを得た。

 

それからしばらく経つが、切嗣がセイバーの言葉に耳を傾けたことは――――一度も無い。

 

 

何か勘に障るようなことをしたのではないか?

 

そう考えたがアイリスフィール曰く、それはないらしい。切嗣が怒っているのだとすれば、それはセイバーに王という偶像を押し付けた時代に人々、そしてそれを受け入れたセイバー自身なのだと。そうアイリスフィールは悲しそうに言っていた。

彼の思っていることは分からなくも無いが、今と昔では文字通り時代が違う(・・・・・)。時代が違うとなればもちろんその”価値観”も異なる。戦乱の世を生きたセイバーと比較的平和と言える現代を生きる切嗣の意見が食い違うと言うことは望んだことではないが、仕方が無いと言うことは分かっていた。

 

 

しかし、それでもどうしても引っかかることがあった。

 

 

「この時代での戦いには貴方に一日の長がある。だから私も貴方の作戦に何ら言う事はない。しかし、だ。敵を仕留める為とはいえ、あんな街中であそこまでの攻撃を行う必要はあったのでしょうか………」

 

疑問に思うセイバーの顔を見てアイリスフィールも言葉に詰まる。

 

ケイネスがホテルに泊まっていたことは切嗣から聞いていた。恐らくそこがケイネスの拠点なのだということも。そして魔術師の拠点ということはそこに辿り着くまでに数々の魔術的トラップが仕掛けられているであろう事も。

 

だが、切嗣が仕掛けたのは泊まっているホテルを爆破し、建物そのものを倒壊させるという、凡そ周りの安全など最初っから考慮していないかのような攻撃だった。

幸い死人は出ていなかったが、下手すれば多くの人が命を落としていたかもしれない。

 

そんなセイバーの問いかけに対しても依然、切嗣は黙ったままだ………。

 

「っ………確かに魔術師の工房は厄介なのかもしれない。だが、私の抗魔力ならほとんどのトラップを無効に出来たかもしれない! それに私自身の実力を見ても現代の魔術師相手に遅れを取らないということは他でもない貴方なら理解しているはずだっ!」

 

自分を呼んだマスターなのだからその実力は知っていて然るべきだ。セイバーのそんな激しい口調を聞いても依然黙ったままの切嗣にふつふつと怒りが込み上げて来る。

 

「分かっているのか切嗣!! 貴方は無関係な人間を巻き込みかけたのだッ!! 確かにこれは戦争だ。だがどんな戦争にも越えてはならない限度と払わなければならない礼儀が存在する! 我々は戦士だ。どんな理由があろうと無関係な人々を巻き込んではならないッ!!」

 

確かに聖杯戦争は文字通り戦争だ。しかしどんな戦争にも懸けなけらばならない生命もあれば、守らなければならない矜持がある。

自分たちにはその覚悟があっても冬木に住んでいる人々はその覚悟が無い。彼等は平和に過ごしたいだけだ。今も―――そして、これからも。

何者であろうと、例え世界に平和を齎したいという願いを持つ切嗣であろうと、その平和を壊す権利など何処にも存在しない。

 

「貴方は英霊を侮辱している……! 何故戦いを私に委ねてくれない! 貴方は自身のサーヴァントである私を信用できないと言うのか?!」

 

サーヴァントとしてではなく一人の騎士としての問い。

しかし、相も変わらず切嗣は目を閉じ、拒絶の意を示したままだ。

 

「っ…………」

 

「………今はまだ動かないつもりなの?」

 

「ああ。だが昨夜の戦闘で何処も警戒しているはずだ。今は様子を見て、他の連中が動き出したのに便乗して僕らも動き出す。舞弥は街に戻って引き続き情報を集めてくれ」

 

「分かりました」

 

アイリスフィールの質問に応え、舞弥に指示を伝えると席を立つ切嗣。

 

それはつまり……話し合いは終わりだ、という意思表示に他ならなかった―――――。

 

 

 

-------

 

 

 

「(切嗣がセイバーに対して良く思っていないことは分かる………でも、あそこまでセイバーの意思を無視するのはいくらなんでもやりすぎよ……!)」

 

話し合いが終わり、立ち去った切嗣を追う為に長い廊下を歩くアイリ。

 

切嗣がセイバーを許せない気持ちも分かる。しかしそれがセイバーの意思を無視していい理由にはならない。聖杯戦争を勝ち抜くためにはマスターとサーヴァントの信頼関係が必要不可欠だ。

セイバーにその気があっても、肝心の切嗣がずっとあの調子では信頼関係を築くなど出来るはずもない。

 

 

長く薄暗い廊下を抜けると、空を眺めることが出来るスペースに出る。そこには空を眺めている切嗣がいた。

 

 

「切嗣。話が―――――」

 

向こう側を向いている切嗣に背後から近付き、セイバーに対する姿勢を問いただそうとし――――

 

 

 

「―――――――切嗣………?」

 

 

――――切嗣に抱きしめられ、言葉が止まる。

 

そして、同時に気付く。普段とは違う(切嗣)の異変に………。

 

「(…………震えてる……?)」

 

「―――――もし……。もし僕が……今此処で何もかも放り投げて逃げ出すと決めたら………アイリ、君は一緒に来てくれるか……?」

 

アイリは驚く。普段の切嗣からは絶対に聞かないであろう問いに対して――――。

 

「っ………イリヤは? 城にいるあの子はどうするの!」

 

「戻って連れ戻す……。邪魔する奴は全て殺す………それから先は――――僕は僕の全てを、君とイリヤの為だけに費やす!!」

 

それは、今までアイリが聞いたことの無い声だった。

 

アイリの知る衛宮切嗣という人間は切嗣自身が掲げる願いのために数多の犠牲を払う覚悟を持ちあわせていたはずの人間だった。事実、この聖杯戦争で切嗣が勝ち残り願いを叶えるという事は、アイリスフィールという人格の『死』を意味している。

 

それでも……自分自身も切嗣も既に覚悟を決めている。

 

自分は切嗣にアイリスフィール(聖杯)を捧げ、切嗣は聖杯(奇跡)を以って全人類を救済する―――――。

 

そう決めたはずなのに……切嗣の言葉はアイリの決心を鈍らせ、切嗣のいう未来を連想させるのに十分だった。

 

とても感情的で。

とても力強くて。

とても魅力的で。

 

そして―――――とても不安で………。

 

「―――逃げられるの……私たち?」

 

「逃げられるッ!!! 今ならばまだ―――――」

 

「―――――嘘」

 

尚も声を荒げる切嗣の背に手を伸ばし抱きしめる。突然の温もりと否定の言葉に言葉を詰まらせながら、抱きしめてくれているアイリスフィール(最愛の人)を感じる―――――。

 

「それは嘘よ。貴方は決して逃げられない。聖杯を捨てた自分を、世界を救えなかった自分を、貴方は決して許せない。きっと貴方自身が最初で最後の断罪者として、『衛宮切嗣』を殺してしまう……」

 

抱きしめながら……悲しみながら……そして――――悔やみながら、涙を流し続ける。

そして、ようやく気付く。自分にとって一番強かった切嗣が何故、今になってこんな事を言い出すのか。

 

 

―――――私たちのせいだ。

 

初めて会った時から、衛宮切嗣は強かった。部外者を淘汰してきたアインツベルンが切り札として特別に招き入れた時から。

自分や他のホムンクルスたちが一切異を唱えないアインツベルンの当主に向かって言葉を投げかけ、自分が知らないことをたくさん知っていて、普通の魔術師が使えないような魔術が使えて、自分たちじゃ考え付かないようなことも考え付いて、そして―――――今までたくさんの人たちを救ってきて………。

 

アインツベルンの”聖杯の器”としての最終試験の時、死に掛けていた自分を助けてくれたときはよく分からなかったが、後にその行動の真意を知ったときは心の底から嬉しかった。

さらに、自分を助けに来てくれる前に自分の為に当主に向かって怒ったと聞いた時はもう顔が赤くなる位に喜んだ。喜びすぎて銀色の髪も真っ赤になるのではと心配したほどだ。

 

切嗣に『世界』を貰って、イリヤを貰って、幸せを貰って―――――。

 

数え切れないくらいの奇跡を貰った。

 

そして、今の自分だからこそ分かった。

 

 

―――――自分とイリヤ(わたしたち)切嗣(かれ)を弱くしてしまったんだ――――。

 

 

今までは守るものが無かったから強くいられた。でも、今は違う。自分とイリヤという守らなくてはならない家族がいる。失ってはならない大切なものがある。

 

死ぬわけにはいかない。

 

死んだら世界を救えない――――。

死んだら助けを求める人を救えない――――。

死んだら流れなくてよかった血を止められない――――。

 

死んだら――――アイリとイリヤを守ることが出来ない………。

 

家族という護るべきものの所為で、衛宮切嗣から孤独(強さ)を奪ってしまった…………。

 

 

「――――怖いんだ……奴が……言峰綺礼が僕を狙っている。舞弥に聞いた。奴は僕を釣る餌としてケイネスを張っていた」

 

ケイネスがいるホテルを爆破した際、近くに待機してもらっていた舞弥が言峰綺礼に襲撃されたことを聞いている。教会の周りを調査していた使い魔を潰し、舞弥の前に投げ捨てて。そして、自分が何処にいるのか聞いてきた、と。

 

「行動を読まれていた……。君を犠牲にして戦うのに、イリヤを残したままなのに、一番危険な奴がもう僕に狙いを定めている。決して会いたくなかったあいつが!!」

 

今の切嗣を見てアイリは今までどれだけ自分が愚かだったのかと自己嫌悪する。

 

衛宮切嗣は決して強くなどなかった。

 

ただ、人よりちょっとだけ優しくて。人よりちょっと不器用で。人よりちょっと頑張り屋さんで。そして………人よりちょっと脆かっただけの、ただの人だったのだ―――――。

 

 

「貴方一人を戦わせはしない。私が守る。セイバーが守る。それに――――舞弥さんもいる……」

 

自分は戦場を駆け巡っていた切嗣を知らない。だからこそ今の彼に必要なのは自分ではなく、彼とともに戦場を奔っていた舞弥だと確信していた―――――。

 

 

 

 

―――――直後。

 

 

「―――――っ!?切嗣……?」

 

森に張ってある結界を素早く駆け巡る反応があったのを感じる。

 

「……敵襲か。舞弥が発つ前で幸いだった………今なら総出で迎撃できる」

 

アイリの反応から森の結界に反応があったことを察し、アイリを真正面から見つめる。

 

「アイリ……遠見の水晶球を用意してくれ」

 

既にその目に先ほどまでの迷いは無く、いつも見ている衛宮切嗣の強さが宿っていた。

 

 

-------

 

 

先程話し合っていた室内に再び全員が集まっていた。

 

舞弥には切嗣が連絡したが、セイバーはいち早く集まっていた。恐らくサーヴァントが持つ察知能力で気付いたのだろうと判断する。

アイリが用意した遠見の水晶球で千里眼を発動させる。その中に城の外の様子が徐々に映し出される。

最初は夜の暗闇で見えなかったが、そこに一人の人影が映し出される。

 

「あれは………ランサー?」

 

「どうやらそのようですね………。恐らく、昨夜同様一人のようです」

 

だが、同時に疑問に思う。

 

先程結界を突破されたときは高速で動いていたはずなのに、今のランサーは微動だにせずにその場に留まったままだ。

 

『我が名はディルムッド・オディナ! セイバーよ……昨夜の盟約において参上した!!』

 

こちらが様子を窺っていることに気付いたのか、ランサーが大声で森の奥にいるであろうセイバーに向かって吼える。

 

『こちらの目的はただ一つ。彼の騎士王との決着のみ。もし応じぬのなら、このままそちらの本丸に向かい、昨夜の続きを行うのも辞さないつもりだが………どうする?』

 

その言葉でその場の全員が確信する。

 

ランサーはこちらの拠点に攻め入らず、誰の邪魔も入らない森の中で決着をつけようというのだ。

 

「……どうするの切嗣?」

 

「(………恐らくランサーは本気であの森の中で戦いを行うつもりなんだろう。こちらとしても用意したトラップが英霊相手に通じるとは思わないから助かる……が……)」

 

そう言いながらセイバーへと視線を移す。

 

セイバーもこちらの指示を待っているが、その様子は今すぐにでも向かおうとしている。恐らく真正面から来たランサーの姿勢に感服しているのだろう。

ランサーの言葉を完全に信じきっている。

 

 

故に思う―――――セイバー(こいつ)は馬鹿なのか、と。

 

 

何故ランサーの言葉をこうも簡単に信用することが出来るのか。もしかしたらランサーが嘘を言っているのかもしれないのに………。

もしランサーの言っていることが本当なのだとしても、マスターであるケイネスが別に動いている可能性だってあるかもしれない。昨夜の様子を見る限り、ランサーの方針とケイネスの方針が完全に合致しているとは考えにくい。もしかしたらランサーにはセイバーを足止めしてもらいつつ、その間にこの城に攻め入ってくるのかもしれない。

 

持ち前の『直感』スキルを抜きにしても、仮にも一国の王なのだから相手の戦術を分析せず、ランサーの言をこうも簡単に信用できるとは―――――。

 

 

「(これだから英雄って連中は…………)」

 

しかし、このままではこの城で必要以上の被害が出ることは確実―――――ならば。

 

「――――アイリ、君は舞弥とともに裏口から避難してくれ。戦闘をする限りこの城も安全とは言いがたいからね。その間の時間稼ぎはセイバーにしてもらおう」

 

「分かったわ。貴方はどうするの……?」

 

「僕は二人が十分に離れたのを判断して遅れていくよ。二人に被害が及ばないように、ね」

 

切嗣の言葉に頷いた後、セイバー、というアイリスフィールの言葉を聞くとセイバーはすぐさま部屋を飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っていたぞ―――――セイバー……」

 

「待たせたな――――ランサー……」

 

漆黒の森の中、月明かりが照らし出す森の中で二人の騎士が相対する。

 

片や魔力を纏わせ見えぬ聖剣を携え、眼前の槍兵を見据える………。

もう片方も赤き長槍と黄色の短槍を携え、眼前の剣士を見据えている………。

 

「安心しろ。今宵は俺ただ一人だ。何人たりとも今宵の決闘を邪魔するものはいない……我が主も、な」

 

「ああ、だろうな。貴様ほどの槍の使い手が、よもや騙し打ち等という三流の真似事などするはずが無い」

 

セイバーが剣を、ランサーが二槍の槍を構える―――――その時だった。

 

「…………っ!?」

 

お互いが構えだすと、セイバーの剣の周りに風が吹き荒れ、その余波で思わず目を瞑る。風が収まると同時にランサーの目に映ったのは光り輝く黄金の剣だった。

 

 

それはまさに『光』そのもののように思えた。

 

暗闇の果ての果て。世界が闇に覆われていようともその光は決して失われず、人々を、世界を照らし続ける星の輝き―――――。

 

 

「見えるかランサー……これが約束された勝利の剣(エクスカリバー)だ。ブリテンの王である私が持つ星の聖剣だ」

 

「………何故、今になってその姿を現した…?」

 

「知れたこと。騎士の戦いに見えぬ武器は必要ない。昨夜はサーヴァントとして貴様と戦ったが、今宵は一人の騎士として――――ブリテンの騎士として貴様を倒す」

 

それは騎士としての宣言。

 

誇り高い騎士としての最後を迎えられなかった一人の男に最上の騎士がただの一人の騎士として相手をするという言葉だった。

 

「は、はは、ははははははははははは!!」

 

ああ、これだ。

 

自分が生前成し遂げたかったものがこれだ。

 

これこそが、自分が聖杯戦争で成し遂げたかったものの他ならない――――。

 

「ハッ。騎士道の剣に誉あれ。最初に出会ったのが、お前でよかった」

 

 

 

 

「フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナ、推して参る!」

 

「応とも、ブリテン王、アルトリア・ペンドラゴンが受けて立つ! 」

 

 

 

漆黒の森の中、二人の騎士が激突する。

 

己が信念の為、己が騎士道の為に―――――。

 

 




話のコンセプトというか決めてることは主人公は一人だけじゃない……ということですかね。

キャプテン・アメリカウィンターソルジャーを借りた所為か、ピックアップの十連がエジソンとかエレナだけでびっくりしたんだが。

フェイク見たけどアベンジャーのヘラクレスってやっぱりギルガメッシュとほぼ互角なんですね。
まぁ、バーサーカーのまま理性あるヘラクレスを召喚する方法は考え付いてますけど……可能なのかどうか。


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