Fate/Fox Chronicle    作:佐々木 空

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二度目の人生-戦いの準備ー

某国

 

 

月の光が照らす中、その怪物は居た。

 

辺りには緑豊かに葉を生やしていたであろう木が無残にもその全てを枯らし、抜け落ちていた。それも一本だけでなく数え切れないほどに。恐らくここは元は木が生い茂り、緑豊かだったのだろう。

大陸の端に位置するこの場所だが、元は自然が豊かだったこともあり、人が集まり自然と村が出来ていった。住んでいた人々は森を助け、森に助けられ、まさしく森と共に生きていた。

 

 

だが、数年前それらは全て壊された。

 

 

平和だった村に突然現れた一匹の怪物。怪物に襲われた人々も彼らと同じ怪物になっていった。成す術の無い人々は逃げ惑い、恐怖し、そして…………この村は死んだ。

 

それは人の形を成しながらヒトではなかった。動きながらにして死んでいる存在。ゾンビ、アンデッド、普通の人々は彼らのことをそう呼ぶだろう。

 

だが、彼らのことを知っている普通では人々は彼らのことをこう呼ぶ―――――『死徒』と。

 

 

 

 

 

彼もまた死徒と呼ばれる存在だった。

 

数年前に消えた村を調べようとここに来る者。何も事情を知らずにここに迷い込んだ者。関係なくその全てを殺してきた。死んでいったものから見れば、彼は突然現れた怪物だが彼から見ればその普通の人々は食料に過ぎなかった。何も分からずに死んでいく者。恐怖の顔を浮かべ死んでいく物。

特に良かったのは一ヶ月前に殺した者の顔だ。恐らく自分の噂を聞きつけて、ここに来たのだろう。

 

自分は大丈夫。さあ、来い。殺してやる。

 

そういう相手の死ぬ時の顔が一番良かった。まさか殺そうとしている相手に殺されたときの表情。呆気に取られたような表情。死徒になってから長くなるが、人生の中でその顔を見た瞬間が一番心に来た。

 

 

もっとだ………もっと。

 

 

 

もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと!!!

 

 

 

もっとその顔が見たい。

 

 

そう思い、待つこと早一ヶ月。

 

また不幸な(えさ)がのこのこやって来た。

相手は男性だった。黒い髪に黒いコートを羽織っており、一歩もそこを動いていなかった。迷い込んだのか、それとも自分を殺しに来たのか、そんな事はどうでも良かった。

 

息を殺し、木の陰に潜む。ひたすらにチャンスを待つ。

 

 

待つ……待つ………待つ………………待つ―――――今だ。

 

 

そう思うと同時に、体を弾丸のように動かす。背後から出たせいか、相手はまだこちらに気付いていなかった。もう少しだ、もう少し……。

 

 

さあ、その顔を見せてくれ………。

 

 

 

「…………がっ」

 

何が起こったのか理解できなかった。

 

襲おうとした相手の姿が突然消え、気付けば背後から刺されたのか自分の口から一振りの刀が出ていた。すぐに分かった。

 

これは死徒(じぶん)たちという存在を殺すものだ。

 

「あ…ああ……ああアアアアアアアアァァァァァアアアアアアあアアアあアあアあアあアアアッッ!!!!!???」

 

 

断末魔の叫びを上げながら消えていく。死に恐怖しながら刀を見る。

 

その刀に映っていたのは…………一ヶ月前、自分が殺した者と同じ死に恐怖した自分自身の顔だった。

 

 

 

 

-------

 

 

 

「ふぅ、終了っと……」

 

そう言いながら男性は刀を鞘にしまう。見た目は二十代前半といった感じの若者だった。先程たくさんの人を殺した怪物を倒したというのにその感じはまるで夏休みの宿題を終えた学生のようだった。

 

「にしても、聞いてたほど強くなかったな…。警戒して損した」

 

まぁ、制空圏の確認と思えばいっか、と言いながら男はポケットから携帯電話を取り出し、知り合いへと掛ける。少しの着信音の後、目的の人物が電話に出る。

 

「もしもし、俺だけど。ラルか?」

 

『よぉ、レイジ。何だもう終わったのか?』

 

「ああ。手強いって聞いてたけど、あんまり強くなかったぞ」

 

『そりゃ、お前が強すぎるだけだろ。たくっ…ツバキに紹介してもらった時はまさかここまでになるとは思わなかったぞ』

 

「俺もお前とここまでの付き合いになるとは思わなかったっつーの。ああ、報酬は俺の口座に振り込んでおいてくれ。それと……『聖杯戦争』について何か分かったか?」

 

『ああ。まずは御三家のアインツベルンと遠坂と間桐についてだが、アインツベルンは婿養子を迎え入れたらしい。名前は衛宮切嗣』

 

衛宮切嗣、その名前を聞きわずかに反応する。

 

「衛宮切嗣って……確か『魔術師殺し』の……」

 

『ああ、その衛宮切嗣だ。標的を仕留める為ならテロ紛いのことをしでかす奴だ』

 

「なるほど……アインツベルンも必死っていう訳か」

 

衛宮切嗣。

 

魔術師でありながら魔術師が使わない現代兵器を何の躊躇いも無く使い、魔術師が誇りとする魔術でさえも道具として使う魔術使い。請け負った仕事は全てこなし、ターゲットが飛んでいる飛行機の中に居るならその飛行機を無関係の乗客諸共撃墜し、街の中を歩いているなら周りの建物ごと消し炭にするなどおおよそ普通の人ならば取らないであろう方法を平気で仕出かすまさに危険人物そのもの。

 

そんな危険人物を魔術の名門、アインツベルンが聖杯戦争の為に婿養子に引き入れた。

それだけでもアインツベルンが今回の聖杯戦争に勝ちに来ていると言う本気度が伺える。

 

 

『んで遠坂の方はいつも通り現当主が参加らしいということしか分からなかったが間桐の方も一応参加みたいだぞ』

 

「間桐? ちょい待ち、間桐の方は後継者の問題があったんじゃなかったのか?」

 

『何でも家を出ていた弟の方をマスターにしたとかって話みたいだ。まぁ、その弟もあんまり魔術に関わっていなかったから十中八九何かしただろうな』

 

「分かった。で、聖遺物の方は何とかなったのか?」

 

『あぁ~、それに関してなんだが……すまん。探したんだが何処もかしこもそれらしい当てはなかった』

 

「そうか~………いや、いいよ。元々、依頼するのが遅かった俺の所為なんだし」

 

電話の相手の返事を聞きレイジと呼ばれる若者は予想通りといった風に答える。

聖遺物。過去の偉人や英雄達が使っていたとされる武器や纏っていたとされる遺品のことだ。何故そんなものが必要なのかと言われれば、これからある場所に向かう彼にとって必要だったからだ。

 

これからある戦争に身を投じる若者にとって文字通り命運をわけるかもしれない物だ。

 

それほどの物を見つけられなかったと言うのにレイジは電話の相手、ラルに対してまるで忘れ物をした学生のように答える。

 

『それにしても………いよいよか、聖杯戦争……』

 

「ああ………」

 

聖杯戦争。

 

魔術師と呼ばれる者たちが極東のある国に集まり聖杯と呼ばれる万能の願望機を求めて行われる殺し合い。

魔術師たちは己が長年磨き続けてきた魔術を以って、その戦争を戦い抜く。だが、戦うのは魔術師だけではない。魔術師たちはある者たちと共に戦う必要がある。

それこそが『サーヴァント』と呼ばれる者たちだ。カテゴリーでいえば魔術師がよく使う使い魔に分類されるがそのスペックは他の生物を遥かに凌駕し、並みの魔術師には絶対に負けないほどの力を有している。

 

何故ただの使い魔がそれほどの実力を有しているのか? それは彼らが聖杯の魔力によって作られた、過去の英雄たちだからだ。

歴史に名を残す程の者は死後、『座』と呼ばれるところへ行き英霊へと昇華される。そして聖杯戦争のために七つのクラスに分類される。

 

剣の英霊―――セイバー。

 

弓の英霊―――アーチャー。

 

槍の英霊―――ランサー。

 

騎乗の英霊―――ライダー。

 

暗殺者の英霊―――アサシン。

 

魔術師の英霊―――キャスター。

 

そして、狂戦士の英霊―――バーサーカー。

 

時折例外的にイレギュラークラスが割り当てられるときがあるがそういったものは本当に稀だ。

そんな人類史に名を残すほどの者たちと共に歴戦の魔術師たちと覇を競う。もちろん生きて帰れるという保障は……無い。

 

ラルのそんな不安な雰囲気を察したのか、レイジはさも平気なように言葉を返す。

 

「な~に、心配ないさ。いつも通りやっていつも通り終わらしてくる。その間仕事は休業だけどな」

 

『ああ、そうだな……レイジ』

 

「ん?」

 

『――――幸運を』

 

「――――ああ」

 

自分が仕事を始める前からの知り合いからの言葉に心が少し軽くなるのを感じた。色々やってきたけど……やっぱり気付かないうちに溜め込んじゃうほうなんだと改めて自覚する。

今度の荒事は今までの仕事の比ではない。おまけに仕事ではなく完全な私用なのだから頑張ったからといって報酬が出るわけでもない。本来ならしなくてもいいことなのだ。

おまえは現実主義者の癖に妙に理想を求めるときがある、とは自分の師匠に言われたことだ。まぁ、師匠もラルもそんな自分のことが気に入っているらしいが。

 

電話が切れたことを確認するとすぐに携帯をポケットに入れ、その場を後にする。

すでに飛行機の手配は済んでいる。後は空港に行って乗るだけだ。多少距離があるが……まぁ急げば何とか間に合うだろう。

 

 

ふと立ち止まり、自身の右腕の甲に現れている痣を見る。

 

――――『令呪』

 

聖杯戦争に参加するにふさわしいマスターにのみ発現する聖痕だ。マスターとサーヴァントを繋ぐ唯一の繋がりといってもいい。

 

令呪には二つの役割がある。

一つはマスターとサーヴァントとの契約に必要不可欠だということ。強力なサーヴァントに自身がマスターなのだと認識させる唯一のものだからだ。

二つ目は三度限りの魔法に近い奇跡を起こせるということ。令呪は発現した魔術師の性質を模した三画の文様で刻まれている。それらを一画消費することで自身に対する魔術的強化やサーヴァントの強化。サーヴァントに対する絶対的な命令を課すことも出来るし、空間転移などの魔法すれすれのことも出来る。

 

だが、令呪を全て使い切るということはサーヴァントとの繋がりを完全に絶つことを意味する。マスターによってはサーヴァントと相性が合わずに敵対し、令呪で従わせる場合もある。もしも令呪が無くなればそれまで信頼していた自身のサーヴァントに殺される、そんなケースもありうるのだ。だから令呪はここぞというときでしか使えない。使い時を見極めなければ命に関わることになる。

 

 

「第四次聖杯戦争……だよな」

 

不安材料を頭の中で整理する。

 

確か聖杯戦争に使われている聖杯は前回の聖杯戦争ですでに使い物にならなくなっているはずだ。ならばそれも知らずに聖杯を求めて戦おうとしている自分たちは愚かを通り越して滑稽にすら見えるだろう。役者がする喜劇でもここまでの話はあるまい。

 

――――汚染された冬木の聖杯。

――――魔術師殺し……衛宮切嗣。

――――まだ覚醒していない破綻者……言峰綺礼。

 

正直に言って面倒にも程がありすぎる。第五次聖杯戦争でも生身でセイバーを圧倒した教師や未来から召喚されたアーチャー等のイレギュラーが発生しているが、さすがそれの土台というか始まりとも言うべき戦い。見事に不安しかない。

 

 

だが、一番のイレギュラーは恐らく自分自身だろう。

 

規格外と言うかもはや次元違いのイレギュラーだ。なんせ本来いる筈のないマスター(・・・・・・・・・・・・)なのだから。

例えるなら魔法だけのファンタジーの世界に機械生命体のようなSFをぶち込むようなものだ。正しい流れどころの話ではない。

 

 

だが、それでも参加すると決めた。

例えそれが一体どんな結末を迎えるのだとしても……戦い抜くと決めたのだ。

 

 

「やってやろうじゃねえか」

 

 

第四次聖杯戦争。

 

七人の魔術師と七体のサーヴァントによる戦い。

 

 

そこから彼――――南雲零司(なぐもれいじ)の二度目の人生における人生の分岐点ともいえる戦いの幕が上がる。

 

 

 




昔見たキャス狐の小説が忘れられない。ならば自分で考えよう。といったことから始まったものです。

一応長く続く予定だけど……いつ終わるかなぁ。


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