もう、この先もこんなのばっかりかもよ?(なぜか疑問形)
この章の残りも、今回を入れて3回。
5月に再開、それを確認したが。巨大PFが半年近くも活動麻痺をおこしているというのは異常事態だ。
それでもなんとか乗り越えようと、内部ではゆっくりと物事は順調に動いていく。
そのひとつ、ついにダイアモンド・ドッグズは裏で、極秘にだがNGOを開設する段階に至った。
少年兵を戦場から切り離し、武装を解除させ、日常生活へと復帰させるプロジェクト。
非政府、非営利、非宗教、非政党であり、その運営をPFなどという戦争の犬達がおこなっていることすら秘密とした組織。
スネークはカズが掲げたこれをついに正式にゴーサインをだした。しかし、ただ彼の条件を丸呑みにしたわけではない。すでにそのやり方は、ホワイト・マンバことイーライによって一度、叩き潰されている。
あれの再現などこの先の未来に許すわけにはいかない。
この団体に再びあのような危険な少年が来た時。それに対抗できるあたらしいシステムがこの組織には備わってなければならなかった。
MSFが、ダイアモンド・ドッグズになったように。
それをスネークはビッグボスとしてたった一行、この団体の目的に苛烈なものを加えることで許した。
カズはそれを手に、再びあの人物との面談を決意する。
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数日後。
環境NGO”緑の声”代表をつとめるユン・ファレルが、ダイアモンド・ドッグズが裏で経営している幽霊会社のひとつから買い取った彼等の海上プラントに視察に来るのにあわせ。カズヒラ・ミラーもまた。そこにヘリから降り立った。
40代後半とは思えぬ若々しい東洋人の顔を持つ小人は、カズの顔を見ても以前と変わらぬ満面の笑みを浮かべてこれを迎えた。
「これはこれは、ミラーさん。ここは大変いいところですね、ようやくここに見にこれましたが、これほどしっかりしているとわかって、我々は大変満足しています」
「――それはよかった」
「ええ、本当に」
そう言って2人は向かい合い、横に並ぶ。
自然、その周囲に集まっていたスタッフたちの姿は散って消えていった。
最後にあったのは半年ほど前、それは決して友好とはいえないものだった。その時の硬さが、しこりとなってまだお互いの間に残っているが。意外にもカズではなくユンの方からさっそく言葉をぶつけていく。
「ロイド&レオダニス社との契約は打ち切られたようですね。彼等、怒ったんですって?」
「――別に怒らせる理由はなかった。彼らが勝手に現地の政府に近づいて、彼等が口にする我々の悪評を気に入らないと文句を言ってきただけの話だ」
「それで、すぐに?」
「こちらもビジネスだからな、当然だ。彼等の力は惜しいが、かといってこちらが配慮する必要もない。お互いが利益について別の意見が生まれたから解消した。そういうことだ」
「あなたは優秀だ。本当に優秀な――ビジネスマンですね」
ユンの顔が、このとき悲しげな目へと変わる。
「私に話があるのでしょう?ミラーさん」
「そうだ、ユンさん。あんたの力を借りたい」
「なんでしょう?」
「わかっているんじゃないか?今度は誰かから聞いてないのか?」
「私はあなたの口から聞きたいのです、ミラーさん」
ユンにそういわれると、カズは大きく息を吸った。
そうしてから、勢いをつけて言葉を吐き出す。
「俺達が、ダイアモンド・ドッグズが戦場で保護する少年兵達。彼等を戦場から離す、そのためのNGOを作りたい」
「……」
「だが、俺達は傭兵だ。どんな戦場でも戦う術も人も十分持っているが。戦場から回収した少年達をまっとうな大人にする方法はわからない」
「そうでしょうね」
「噂で、もう聞いているのだろう?ダイアモンド・ドッグズは――嫌、あんたの忠告を無視したこの俺はそれを認めなかったばかりに。すでに大きな失敗をしでかしてしまった。助けようとした子供達に裏切られ、再び戦場で今度は俺達の手で……殺した」
体内によどんだ不快な熱を吐き出すように告げるカズに、ユンは冷たく言葉を返す。
「噂で確かに聞きました。私はあなた達が、”戦場で使おうとして”裏切られた少年兵を追い。他国の島ひとつ丸ごと島民ごと見せしめに処刑したと」
「それが正しい真実ではないが、その情報については話せない。また聞いたからといって、俺たちの汚名が消えることもない。こんな俺だが、ユンさん。助けてもらえないか?あんたの助けが得られないなら、俺は死なせてしまった少年兵達に申し訳が立たない」
少年兵達に起こった悲劇、イーライという呪われた血を受け継いだ少年の引き起こした悪夢。
それらがすべて、白日の下にさらされることはない。
ソ連はサヘラントロプスの一切の情報を闇の中へと放棄し、ダイアモンド・ドッグズはその実物を手中にしていながらビッグボスはその物語を明らかにするつもりは微塵もない。そしてダイアモンド・ドッグズは、関係のない国の民ごと少年兵を虐殺した武装組織としてそのことを気にもしていない。
汚名をそらせるような新たな偽の物語を吹聴もしない。ただ、事実をそれぞれの視点から見たままがこれからの真実となって伝えられていく。
こんな未来になるとは、カズは自分の願いをなんとしても実行しようと決断したときには思ってもみなかった。
「ユンさん、俺は同じ失敗をするわけにはいかないんだ」
続く言葉には切実な思いがあった。
子供が、子供のもつ無邪気な残虐心で敗北者のように他人の命を弄ぶようにして武器を手に殺しまわる戦場。
そんなものを認めることはできない。いや、カズヒラの知っている戦場にはなかったものだ。そんな戦場を再び取り戻したかった、偽善と叫ばれようとも。
「ミラーさん。あなた、本気で言っているようだ」
「ああ、そうだ。俺には後がない。俺は……」
「私は言いました『少年兵とかかわるな』。だが、あなたは忠告を聞かなかった」
「ならどうしろというんだ!?あれは。奴等は戦場の異物だ!あってはならない存在だ、俺は認めるわけにはいかなかった」
「……ミラーさん、あなたは知らないでしょう。私もね、自然保護なんて口走ってこのような立場になったのは、別に大昔からというわけではないんですよ」
ユンの顔が、その瞬間。
東洋人の特徴である年齢にそぐわぬ若々しさがいきなり削がれ落ちると、その下にある苦悶の表情が浮かび上がってきた。
「少し、私自身の話を聞いてください」
「……」
「私はね、イギリス人の父と中国人の母の間に生まれました。といっても、私は父のことを知りません。母は父を愛していた、とは言っていましたが。同時にどうしようもなく怠け者で、才能を無駄にしていたとも言っていた。
ええ、わかりますか?私の母、彼女は華僑の人間。女性でありながら、客家のひとりとして大きな商いに携わっていた女性でした」
華僑とはいわゆる中国の外、そこで中国の国籍を持っている漢民族を指す呼び方だ。
彼らの一番の特徴、それは貧困とは無縁の生活を送っていることにあるといわれている。ビジネスで繋がり、異国の地で金が彼らの強さになっているのだ。
「私には兄弟が5人いました。その全員が、父親が違いました。母は、そういう女性でした。
私がそのことにようやく気がついたのは、笑ってください。ほんの10数年ほど前のことです。ある時期から母は私を猛然と非難し始めました。兄達にもしたようにね。
商売に役に立たない女だといって、いきなり私の妻と子を捨てるように要求し。私に任せてくれていた7つの会社をすべて取り上げて、かわりに買い取ったばかりの小さな会社を押し付けようとしてきた。
私は苦しみましたよ。
深く敬愛する母の期待を裏切ってしまったのではないか、とね。
しかし、そんな私を私よりも前に母に苦しめられた兄達が救ってくれた。母が逃げたといっていた私の父を、兄達は探して連れてきてくれたのです。父の言葉で、私は過去を捨てて”本当の自分”のすべてを受け入れようと決めました」
ユンの体が一回り縮んだようだ、本当に老人に見える。
「中国人民解放軍、総参謀部第二部。この言葉に覚えはありますか?」
「――ああ、知っている。中国の情報局。つまりスパイの親玉がそこにいる」
「私のいた『幇(パン)』は、本国への忠誠の証として有能な母を生贄としてそこに差し出していた。母は奔放な恋する華僑の変わった娘を演じながら、本国の指示にしたがって男達と次々に関係を持った」
「中国の情報部は他の諸外国とは何もかもが違うことで知られている。スパイには必要最低限の任務、最小限の人材、資産で最大の情報や効果を効率よく集めようとする。
そのためにしばしば大胆に、時に繊細にすぎて他の諜報組織は彼らに出し抜かれる。
最悪なのは、自覚症状がないままそれがされることもあるのだとか」
意外な男の、意外な出生に驚きつつカズは思わず説明口調でしっている知識を口にする。
ユンはそれを聞くと満足げにうなづきつつも話を進めた。
「母は自分の価値をないものにされたと、国や『幇』の老人達。すべてから開放されたときにそう考えてしまった。
母も、彼女も苦しんだのです。苦しんだ末に……自分の手元に残った富を分配した父達の血を引く私達。自分の血を半分持つ息子達を憎んだのです。
一番上の兄が言いました。思えば母はお金の話をするときは常に兄弟をけしかけていた。本当は僕らの間で争うことを望んでいたのに、我々はそれぞれが自分の得意な分野に別れ、自分たちの家を、家族達を守っていたことがゆるせなくなったのだ、と。
兄達は私よりも母を知っていた。
ですが私は一度は母のために家族を捨てました。私は愚か者でした。そして恥知らずにも父の元へ、妻と子を取り戻すためにイギリスへと向かったのです」
「それで?」
「2人は私を許さなかった。『金を生まない女と、その息子は邪魔なのだろう』と叫ばれた。でも、それは確かに母が言ったことであり。私自身も母に喜んでもらいたくて彼女達に言った言葉だった。私は、私自身の言葉に復讐されました」
「……」
「私は壊れそうになった。救ってくれたのは父です。
この場所に私を導いてくれた。
ミラーさん、私はね。自然環境なんてどうだっていいんですよ。でもね、ここは私にとって都合がいい場所なんです。こういった活動はいろいろな国の事情を知っておく必要がある。人脈が、金が必要になる。
私にはすべてがあります。かつてスパイだった母の血が、客家の血が。ここでの私には役に立っている」
「自分を、偽っているというのか?」
「いえ、そんなことはしていません。
妻も息子も、私のこの10年の活動は認めてくれている。あの金の亡者が、立派なことをしていると誇りに思ってくれる。とりもどせなくとも、今の私を彼らがそう思ってくれるだけで私はやっと救われている。
ミラーさん、私は何も変われていません。変われないがゆえに、この顔でも平然となにも思わない自然保護を続けることができた。そしてだからこそ私と違い、『それができない人』というのが一目でわかるようになった」
「それが俺、というわけか。フン、なめられたものだな」
「私は私の話をしただけです。あなたに理解してもらうのも、私の過去のことだけでよいのです。今ではない」
ユンの顔に生気が戻ってくるのと同時に、若々しさまで戻ってくる。もう、弱弱しい老人の姿はない。
「ミラーさん、軍事組織であるあなた達が。少年兵の保護を口にすれば、誰でも必ず偽善だと非難しますよ」
「わかってる」
「なにより、今の世界は少年兵に心を痛めている者は本当に少ない。あなた達の考えに同意する人も、その数は少ないですよ?」
「かまわない。彼等の問題を本当にわかってくれる人材が、今は必要なんだ」
「……では、数日以内に何人かと話せるようにセッティングしましょう」
ユンは言葉を切ると、あの哀れむような悲しげな瞳をカズにむけてから口を開く。
「私も、あなたも。その”仕事をたくせる人”を必ず見つけましょう。それが、必要なのでしょう?」
「……なんのことかな?ユンさん」
「ああ、ミラーさん。あなたは優秀な人ではあるけれど、人を評価するのに才能は見抜けても。人の価値までは計れないのですね」
「……?」
「あの時もそうでした。自分のミスを疑い、そして助言を与えた私を不快に思った。
そして間違いを犯す。今回もそうです、あなたはやっぱり私という人間の価値を計れない。だから、私が逆にあなたを計り。あなたの考えを見抜き、あなたが私の友人になれないことを知っている」
「ユンさん。おっしゃっている意味がわからない」
「ミラーさん、あなたは少年兵の力になれる人物を、それも一切を任せられる人物を探している。私はそれを正確にわかっている、そういうことですよ」
「……」
ユンはそれ以上、何も言わなくなった。
ただカズには人を見つけたら連絡するとだけ口にすると、そこで2人は別れた。それが2人の永遠の別れにもなった。
数日を待たずしてユンは組織に参加してくれそうな”個人で細々と活動している”少年兵問題の活動家達のリストを作り上げた。彼等の反応は驚くほど似たものだったが、それは予想していたことでもあった。
少年兵に対処する、そんな組織が立ち上がる。
定期的にある程度のまとまった人数の少年兵達がそこに送り込まれるし、彼等の肉体的な傷などのケアもちゃんと行われる潤沢な資金も資産も用意されている。
問題はその組織を実際に運営してくれる実績を持った人物達。オーナーは、そうした人材をできるだけ早くほしがっている。
そう聞くと最初こそ彼らは喜ぶが、オーナーがあの悪名高き武装組織であるダイアモンド・ドッグズであり。ビッグボスと聞くあたりで一応に顔を嫌悪にゆがめていた。
業界では破戒神父で知られるドノヴァン・ピーターソンもそんな人物の一人であった。
「殺した餓鬼を”ミートローフ”にして食っちまう奴等が、なに寝ぼけているのか?ユンさん」
「本気だと、彼らは言ってます」
「どうだがね……」
この男は、この世界では狂人とも言われている。
若いころは、どこにだしても立派なジャンキーとして毎日薬でハイになっていた。若い叔母と関係を持ち、娘が生まれた日も薬をやっていた。極上のクズだった男だ。
その彼はある日、薬で神と対面したらしい。本人はそれを信じた。
その日から彼はただのジャンキー(中毒者)から、狂った破戒神父と呼ばれる男になった。
この救いのない世界で、少年兵の社会復帰などというものにも手を出し。こちらはこれまで、思うような実績が出ないと悩んでいた。
「変わり者、人にそういわれるあなたならば、と。そう思っていたのですが」
「いくら正気を失っているといわれてもな。傭兵なんて俺の問題を増やす側のボスじゃねーか。悪魔と手を組むつもりはないさ。俺には神がついている」
「彼らは――悪魔ですか」
「おいおい、ユンさん!どういうつもりだ?こんな話、まじめに聞くやつがいるわけがないだろう。あんたのことは知っているが、それにしたってこれはないぜ」
「……私はだまされていると?」
「それとも宗旨替えでもしたのかい?赤ら顔の髭の商売の神様はどうした?今度はどんな紙幣を拝んでいる!?」
この男に断られるわけにはいかなかった。
リストの名前はすでに半分にバツ印がされている。もっとも可能性の高い相手を狙い撃ちにしても、このありさまだ。
「そろそろ視点を変えて、この話を見直してほしいのです」
「視点、かよ。フォースでも使えって言うのか?ん~、嫌だね。俺のマスタージェダイ――」
「まじめな話ですよ」
「へぇへぇ」
「――わかりました。それでは、なぜ私が彼らを信じるか。お話しましょう」
隠したわけではない。
だが、これ以上。後に引けないとあっては、この男を納得させなくては。
「書類の活動目的の欄、読まれましたか?」
「いいや、ユンさん。触れてもいないぜ、読む暇がなくてね。馬鹿やってる餓鬼に正気になれと毎朝から始まって、寝る前までこっちは言い続けなきゃならないんだ」
「そこがあなたのいいところです。他の人は、そこを読んで大抵は激怒してすぐに部屋を出て行ってしまった」
「へぇ……そりゃ、興味が出てきたぜ」
「そう思ってました」
「読み上げてくれ、ユンさん。俺はあんたの口から、それを聞きたい。奴等のケツ拭きようのチラシには触れたくないんでね」
いいでしょう、そういうとユンは活動目的に記された文章を最後まで読み上げる。
あのビッグボスが活動再開に際して追加した一文も読み上げた。
効果は覿面だった。するとそれまでヘラヘラと笑っていた相手は真顔になり、手を伸ばして実際の文章を自分で確認したいと言った。
「――こいつは、このビッグボスとかいう奴。狂っているのか?」
「……」
「こんな、これは。『なお、更正の芽のない兵士は早期に入れ替え、戦場に再配分して根切りする』だと?」
「衝撃的でしょう?」
「戦場に戻りたい奴は戻してやる。だがその後で自分たちの手で処分すると言っているのか!?」
「そのようですね」
「あんた、本当にこんな奴の世話をするのかい?」
ユンは指を絡ませ、体を前のめりにして真剣な目を向けた。
「とても彼等らしい表沙汰にできない。そして今という現実にあった考えとは思いませんか?」
「思わないね。そんな奴はいない」
「では、考え方を変えましょうよ。彼等は、なぜこんな組織を必要として。そこにこのような一文を用意したのでしょうか?」
「なに?知らんよ、女の性病で頭までイカレタからじゃないのか」
「まじめな話ですよ。そしてそこが重要なのです。
彼等は傭兵だ。金で、戦場を渡り歩きます。敵は選べない、つまり少年兵でも本当は殺してもかまわないのです」
「奴らはそうだろううな」
「しかし、彼等も人間なんですよ。武器を持った子供だからと、割り切って殺すのには忍びない」
「ヘッ、甘い話だな」
「そうですか?私が兵士ならこう考えます。そして、できることならこうなってほしいと考える。”救われる子供”がいるなら、戦場から出て行ってほしい、とね」
「……」
「私が彼らが本気だとかんじたのはここですよ。彼等は殺人鬼ではない。戦場で金を稼ぐ救いようのない人間というだけだ」
「だから戦場に戻りたがる子供は、ぶち殺していいと?」
「そこまで面倒見る、ということですよ。ダイアモンド・ドッグズは少年兵を殺します。しかし、救われない魂以外はできれば手にかけたくない」
「……綺麗ごとだ」
「このままならそうなります。実はあなたに断られると、このままではこの話はなかったことになります。立ち消えです」
「そうなるだろうな」
「しかし、だからこそ考えてもらいたい。その先はどうなりますか?
彼等は島をひとつ丸ごと灰にするような外道の集団です。これからも彼らの凶行は続くかもしれない。そうなれば少年兵はもっと多くが殺されてしまいます」
「それがなくなる、とでも?」
「彼等は少なくとも、自分たちの前に立つ少年兵は捕獲する方針を常にいれるつもりだそうですよ。もちろん、状況によりますがね。それでも考慮されない未来に比べれば、死体になる彼らの何人かは太陽の下に戻っていける」
男はしばらく考え、それから口を開く。
「ユンさん。あんた、俺が参加することが免罪符となって、奴らのパフォーマンスにつきあうだけ、とはならないと本当に思うのかい?」
「逆です。彼らのほうこそ、免罪符をほしがっているのです。彼らが向ける銃口の先には、常に”その時の敵”がいるようにとね」
「――おかしなシンボルを使うんだな、組織の名前は?」
「楽園、というのだそうです。このシンボルはスペイン金貨をモチーフにしているとか」
「罪人達が一枚の金貨で手に入れる一枚の免罪状というわけか――シュールな皮肉が利きすぎるな」
数分後、握手をして男は帰っていった。
ユンの言葉でなんとか同意を得たのは最終的にわずかに12人の男女だけであったが、ユンがカズにそう電話で伝えると短くだが「あんたのしてくれたことに感謝する」とだけ言うと電話は切れた。
そうしてユン・ファレル代表をはじめとした欧州の自然環境保護団体は、これを契機にダイアモンド・ドッグズとの繋がりを断ち切ることになる。貸し借りはなくなり、話す言葉もついには異なった。つまりは利益に違う意見が生まれたから別れる。
そうだ、そうしてまた時は流れていく。
続きは明日。