真実とは神罰、毒の味がする   作:八堀 ユキ

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お待たせしました。
ようやく新章開始、であります。

地元に声帯虫をばらまき、2大武装組織を待ち構えていたイーライとの戦いもついに折り返し地点を越えました。
自称、ビッグボスの息子とビッグボスの対決。決着まであと少し。



Face (顔)
バトル・ギア


 西アフリカ南西部、大西洋に面するこの国は正式名称シエラレオネ共和国という。

 国内では2つの有力民族を中心にした複数で構成され、国土は面白いことに正方形に近い。

 

 だが、この国が世界に注目される日がくると誰が予想できただろうか?

 いやそれよりも、わずかにして数時間。その間に国土の一角において、政府の知らぬ間に武装組織が島を丸ごと占拠し。あろうことは別の武装組織が兵力と兵器をさらにそこに持ち込んで、勝手に戦場にしてしまうなんて。

 

 そしてそこにいる武装組織がサイファーとダイアモンド・ドッグズ。

 わずか数ヶ月前にアフガンで凄まじい衝突を繰り広げた両者が、そんな聞いたこともない……あえて付け加えるなら、その国はイギリス連邦。コモンウェルスに所属するかつてのイギリス植民地であったというくらいのものか。

 翌年に大統領選挙を控えている以外に目立つ理由のなかったというのに。彼等の騒ぎのせいで、世界のインテリジェンス達は困惑、驚き、恐れといったものを抱きながら震えを隠して見守ろうとしている。

 

 だが一秒、一分、一時間と過ぎ。

 それほど大きくもない島の中は、すぐに戦場となり。死人がそこかしこに転がり、悲劇は生まれ続けていく。

 

 

==========

 

 

 急激に熱を帯びていく戦場では、ついにイーライが少年兵を引きつれ。

 サヘラントロプスを先頭に村へと突入を果たし、彼らを挟んで南北でにらみ合う2大武装組織は荒れ狂う眼前の獲物をどちらが先に噛み付こうかと様子を見ている。

 両者は力をためている、牙をむけばまずは少年兵ごとサヘラントロプスを一口、つづく一噛みでその向こう側で同じ獲物を狙う相手を引き裂こうとしていた。

 

 

 ……そんなダイアモンド・ドッグズの前線司令部に、一本の連絡が入る。

 それは、ちょうどオセロットが腹を決めたスクワッドとの通信を交わしている最中のことだった。相手はマザーベースに残ったミラーである。要件を告げようとせず、ただ緊急だと、オセロットを出せとしかいわない相手に兵士は仕方なくその知らせを本人に告げに行く。

 

 

「カズヒラから?」

「はい……」

 

 状況は緊迫している。今、話したいと思う相手でもなく、オセロットは叩き切れと返事をしてもよかった。

 だが通信機を差し出す兵の表情が硬いことに気がついてそれを受け取ることにする。

 

「こちらオセロット」

『オセロットか。俺だ、ミラーだ』

「ああ」

『ただちにスクワッドを止めろ。攻撃を中止させるんだ!』

「なに……なぜだ?」

『そんなこと、当然だろう!スクワッドは村の中で、サヘラントロプスを、少年兵を攻撃しようとしている!』

「――ああ、そのとおりだ。それが問題か?」

『正気か、オセロット!?あいつらは人質を無視しているんだぞ』

「ではどうする?」

『ひとまずイーライ達と交渉の場を持って時間を稼ぐんだ。その間にボスを呼び寄せて、イーライだけを暗殺すればいい』

「島の北側にいるXOFはその間、どうする?奴等は戦力を集中させ、準備が出来ればすぐに本格的な攻撃を開始するぞ」

『お前はマザーベースから色々持ち出したじゃないか!そうだ、それにスクワッド、あいつらを当てればいい』

「そうか、考えておこう。今は忙しい」

 

 精神科医の役目を押し付けられるのはごめんだった。

 意味のない会話でこちらの貴重な時間と行動を制限しようとするだけの副指令の言葉に逆らわずにさっさと通信を切ろうとしたが。カズはそれを空気で察したのだろう。いきなり大声でオセロットを怒鳴りつけてきた。

 

『このサディストでKGBの糞変態野郎!!俺のダイアモンド・ドッグズで虐殺をやらせるつもりか!?』

 

 司令部の空気が一気に冷却され、兵士達の驚く顔がいっせいにオセロットに注目する。

 

(米国人かぶれの日本人が、知ったかを……)

 

 条件発射で怒鳴り返そうとする衝動を飲み込みつつ、ジロリと鋭い目をオセロットが自分を見つめる目を見返すと。次々と皆は目をそらし、自分の仕事に戻ろうとするが。その様子はぎこちない。

 チッチッと舌打ちをしてからオセロットは顔を上げ、周囲に聞こえる声を上げた。

 

「すまない、皆。少しここから出てくれ」

 

 諜報と支援のスタッフ達がさっと砂浜に作られたテントの外へと出ていく。

 これから口にすることは、出来ればオセロットは彼等の耳に残したくはなかったのだ。

 

「気が済んだか、カズヒラ?こっちはお前の大好きなビジネス(仕事)で忙しいんだ。喚きたいなら、そっちで勝手にやってもらいたい」

『どういう意味だ!?』

「自分がいかに出来もしない、間の抜けた話をしているのかわからないのか?わからないふりをしているのか?」

『俺が間違っているというのか!』

「当然だ。お前の言う人質に価値はないし。イーライは対話を求めていない。そして俺達は他国の領土に、予告なしで交戦を開始している。この意味が本当にわからないと?」

『それで虐殺か!たいしたサディストだな、貴様!!』

「カズヒラ、その調子で罵るばかりで話も出来ないなら。お前が喚き散らす中、俺がお望みのとおりの虐殺とやらをやってみせてもいいんだぞ?」

 

 オセロットも元来、気の長い男ではない。

 秘めた怒りを匂わせてわざとらしく脅迫すると、さすがに向こうも静かになった。

 

『とにかくスクワッドを止めろ!あれは許容できない』

「ひとつ。はっきりさせておこう、副司令」

『!?』

「あんたは今回の作戦からは手を引いた人間だ。なぜか?――このような事態に、俺たちダイアモンド・ドッグズを引きずり込んだ。その責任を取るためにそうしたんだ。都合よく忘れたわけじゃないだろう」

『し、しかしっ』

「さっきはなんと言った?『許容できない』だったか、副司令官。なら許容しろ、この苦しい状況の中でそうしないと俺たちやボスが。必死にかじりついている現状すら維持できなくなる」

『……どうしても、やるというのか』

「しつこい。あの少年兵達は、もうあきらめろとすでに言った。

 そうなる前にも、やめろとこうなるぞと理由を伝えた。

 それでもお前は聞かずに自分の思うとおりにして、こうなった。自業自得だが、気が楽になるならそこで俺のせいにでもしておけ」

『ボスは。スクワッドのこと、ボスはなんといっている?』

「なにも。彼の考えは一貫している、あんたとは違う」

『俺とは、違う……』

「サヘラントロプスの回収、それだけだ。それにお前もわかっているはずだ、イーライ。少年兵達はどの道、助かる道はないと」

『イーライのことは!?』

「――あの遺伝子検査の結果のことか?俺は言ってない、ボスも聞かない。興味がないんだろう。もどったらあんたが伝えてやればいい」

『……』

 

 検査の結果は否定(ネガティブ)。

 マザーベースではあまりにも多くのことが集中しておきて、結果から重要度が急降下し、口にするチャンスが失われたのだ。

 

 ビッグボスの息子を自称する少年はビッグボス本人と、2人の間に血のつながりはなく、親子関係などなかった。

 だが、イーライはなぜかスネークを自分の父だと考えている。呪われた幼子とはいえ、人が子供に親とすがりつかれれば心を動かされるものではないのか?

 カズヒラの考えはそう間違ってはいない。だが、少なくともビッグボスと、その息子はそうは考えないというだけだ。

 

「サヘラントロプスは決して無敵ではない」

 

 オセロットは唐突に話の先をねじって変える。

 戦場をゲーム盤とすると。あの巨人は、巨獣はただの一つの大駒にしかならなくなる。

 そうなるとプレイヤーとして、いかにそれを打ち破るのか。配置する駒の数々で、自然と配置は決まってくる。

 

「イーライは自分の護衛を少年兵に頼るが、彼らではまったくその役目を果たせるわけがない。事実、すでに戦闘開始からその数を減らしているはずだ。このまま攻撃が続けば、彼等はどの道全滅する。

 そしてイーライは、サヘラントロプスは孤立する。あれも結局は2速歩行するだけの戦車だ。陸海空の支援がなければ、核がなければひとつの戦場をはみだすほどの脅威になどにはならない」

 

 同時に冷酷な目が輝くと、カズにむけた言葉には毒が滲み出す。

 

「だからなんの補給も受けられなければ、大部隊に包囲されるだけでなにもできないまま巨大な棺桶になる。俺も、ボスも。それがわかっていたから、XOFのことだけが問題だった」

『だった?』

「そうだ、カズヒラ。それがこんなにひどいことになっている理由、それはな。あのサヘラントロプスが何者かによってミサイル、弾薬などの補給を受けていたということにある」

『……』

「心当たりはないか?」

『なぜ、それを俺に聞いた?』

「つまりは”そういう聞かれ方”をされないようにしてくれと。わかってもらうためだ、カズヒラ」

 

 テントの外から顔を覗かせる部下に戻ってきていいと合図を出すと。

 オセロットは一転して無線機に小さな声で語り始める。

 

「ボスは結局、あんたの顔を立てるためにイーライと会談を望んだ。最後のチャンスだったが、それをイーライは拒否した。もう止まらない、あいつは自分からサヘラントロプスを降りない。

 そして奴が人質にしているこの島の大人達はもう駄目だった。生き残っているのも、すでに声帯虫の症状が発症していて助けられない」

『だから村の中にいるサヘラントロプスを攻撃してもいい。お前はそう言うのか?』

「正義の人にでもなったのか、カズヒラ?

 してもいいに決まっている。家の中で横になっている彼等に残されたのは死ぬことだけだ。子供等に殺されるか、戦闘に巻き込まれるか、それとも病か。

 これが哀れな話なのは彼等には自分の死に方を選択する権利すら与えられていないというだけだ」

『……』

 

 それは否定できない確かな真実のひとつ。

 

「すでに双方の最初の攻撃は失敗した。本体はどちらも一撃でしとめようと戦力を集中させている。遠からず、どちらかがあの村になだれ込んできて戦闘を開始するだろう。」

『ダイアモンド・ドッグズをそんな戦いに……』

「この戦いに俺達の栄光はない。勝敗に関わらず、明日が来れば俺達は世界からつばを吐きかけられる外道になり下がる。人の皮を被った獣、そう言われるようになる」

『……』

「当然だろう?ここは世界が認める国の1つ。

 そこの正規軍を前に、少年兵、サイファー、そしてダイアモンド・ドッグズ。これら不正規軍(イレギュラーズ)が集まって勝手にその領土内を戦場にしているんだ。

 その上、どちらかの声帯虫による疫病で他国の国民を意図的に事前に攻撃もしてもいる。勝利したとしてもこのままにして島を去ることはできない。カズヒラ、俺はボスにナパームでこの島を焼くことを進言するつもりだ」

『島を、焼く。全てを灰に……』

「サヘラントロプスを奪い返し、俺達は再び勝利するしかない。

 だが戦場に何も残してはいけない以上、なにもかもを奪うしかなく、そんなことをすれば世界は俺たちを……そういうことだ」

 

 そこで通信を切ると、机の上に無線機を放り出した。

 あとは自分で考え、部隊が無事に勝利して戻れることを祈ればいい。 

 

 こっちはそれどころではないのだ。

 オセロットは頭を切り替えると、再び部下たちを叱咤して部隊の集結を早めるように指示を出していく。決戦の時は迫っている、時間をこれ以上無駄には出来ない。

 

 

==========

 

 

 オセロットが用意したといったスネークの足だが、それは意外な存在の登場となった。

 突如、草木がめりめりと音を立てて倒される中。森の中でとほうにくれていたスネークが身構えると「ボス、お待たせしました」との声がかかる。

 森林の中から出てきたのはなんと一台のバトルギアであった。

 

 オレンジとホワイトの色合いが、なんとも浮いていてスネークも苦笑いしか出てこない。

 

「まさか、こいつがここに投入されているとは思わなかった」

 

 バトルギアの背後にしがみつくと表現するべきか。おぶさっているというべきか。

 そんなスタップと名乗る操縦者の横に立って、バトルギアに乗ったスネークは正直な感想を述べた。

 

「この一台だけですよ、03と書いてオー・スリー。配備されてからずっと俺の相棒です、可愛いやつですよ」

「そのようだ」

 

 バトルギアは4足歩行で重心を最大まで高くし、大地を踏みしめて歩いている。2速歩行だったウォーカーギアと比べるより、ロバやポニーのギャロップを思わせる速さで進むのでとても便利だ。

 そして非常に安定している、ウォーカーギアにあったピーキーで、どこか振り回されている感覚がこれにはない。

 

「てっきりヘリを回してくれるかと思った」

「XOFの航空戦力、さきほどサヘラントロプスに撃墜されましたけど。ほかにもいると面倒なので」

「そうだな。それに着陸地点も見つけるのにむずかしかったか」

「しかし、この辺りは本当にトラップだらけなんですね。来る時はおっかなくて、前方をこいつの背後から覗けなくて難儀しました」

 

 ウォーカーギアに比べて重厚な装甲を生かし。

 罠を踏み潰して、ここまでやってきたのだと言う。それはそれは尋常ではなく危険な道程であったはずだが、バトルギアは外面装甲に僅かな傷がついたものの、それ以上の損傷はないという。それを聞いて、おかしな話だが。こんな状況ながらスネークは感心してしまった。

 

「一応、テストは参加した。悪くはないと思ったが、現場に送り出して、評判がよくないと聞いていた……でも実際にそこまで悪くない、おかしいな?」

「ああ、いや。それは間違いないですよ、ボス」

 

 部下の声が複雑なものとなった。

 

「なんていうんでしょうかねぇ。悪くないんですよ?こいつには凄くいい、ところもあるんです。でもね」

「そうか。理由は?」

「ざっくばらんに言いますと、数と大きさ。これに尽きるんじゃないですかね」

「ほう」

「こいつ、ウォーカーギアへのカウンターのために作られたんですよね?」

「ああ。オセロットが言ってたな、報復機甲兵器、だったかな」

「性能は確かにこっちが上回っているんですが、イメージが悪くて。それで嫌われているんですよ」

 

 相手がウォーカーギアを出すとき。大抵は3ないし4機をバトルギアは1機で相手にすることになる。

 

「ところが戦っているところを見ると、みんなこいつは要らないって言い出しちゃうんです。走り回るウォーカーギアをこっちは追っかけたりしません。機動力はありますから、追うこともできます。でもほとんどは装甲で攻撃をはじき、火力で追い詰めます。

 すると皆、思っちゃうんですよね。軽戦車でもべつにいいじゃないかって。もっと安く済むってね」

「なるほどな」

「独自商品ですから、部品の替えがきかない。下手をするとラボまで戻す羽目になって、仕事に穴を開ける」

「なるほど、おもちゃが壊れて仕事がないと怒られるわけか」

「おっしゃるとおりです」

 

 スタップは悔しそうに顔を歪めた。

 

「こいつとは3カ国、5ヶ所で仕事してきましたけれど。本当にどこでもおんなじ光景ができるんですよ。

 子供や戦争生活者(グリーンカラー)には大人気なんですが、兵士たちからは笑われ、こけおろされる。こいつのレールガンも見てやってください。いつもは封印されているせいで、調子に乗った連中が物干し竿かわりに塗れた洗濯物をペタペタ張るんです。

 まぁ、戦車の砲でもやってることなんでこっちもやれるだろう程度の考えなんでしょうが。こっちは電子装備なんだから、壊れやしないかってヒヤヒヤさせられるんですよ」

 

 めりめりと音を立てて木をなぎ倒すと、ポンと元気な破裂音がして、車体にビリビリと振動が伝わる。

 強引に道なき道を進んできたが、もう少しすると山道に出るので今後は楽に進めるようになるはずですといわれた。

 

 これまでせっかくヒューイに作らせたバトルギアであったが、あまりよい話が聞こえてこないこともあって。カズは当初の増産計画を早々に断念していた。

 それはこのスネークも同意するところで、最初に用意した6台のうち稼動しているのはもう4台だけであったはずである。はっきりとは決めてはいないが、この調子では遠からず解体される日も近いと思っていた。

 しかし、こうして実際に戦場で乗ってみると、どうしてその性能はなかなかなものだと思い直させるものがあった。

 

 ウォーカーギアと違い、レールガンの他にガトリングとミサイルポッドも同時に搭載できるのは魅力だ。

 大勢は無理だが、操縦者のとなりにはスネークのように2.3人であるなら乗れるスペースがちゃんとある。共通するヘッドパーツはウォーカーギアと同じタイプだというが、内臓でいちいち交換していた各種性能もきちんと搭載され、指示に従って分けて自己判断で使いこなせるという。

 

 だが――。

 

(……まるで紛争地帯に”噛み込む”ように、その戦闘力で敵を抑えこみ)

 

 あの部屋でうっとりとした表情で完成図を口にしていたヒューイの姿が思い出された。

 そしてわかった。

 このバトルギアも、ウォーカーギアも、結局は今のあいつにとってはすべてサヘラントロプスの代替品でしかないのだということを。

 

 メタルギア、全地形踏破可能な2足歩行戦車。

 

 スネークにまとわりつくように、亡霊のように、時も場所も関係なく。

 立つべき戦場にくると、そこにはアレが形も、生まれもかえてこの世にあらわれてくる。そしてそれにつねに、核がついてまわる。

 

 

 スネークは頭を振った。

 今のこの瞬間に集中しなくてはならない。

 この戦場にはあまりにも雑音が多すぎる。だが、それでもここにいる以上、耳をつかわねばどうにもならない。

 マザーベースにいるヒューイのことなどここで思い出してどうするというんだ。まだイーライとの決着もついていないというのに。

 

 情報端末を取り出す。

 スタップはボスが唐突に無言になると、頭を振って考え出したのを見て自分も黙って運転に集中していた。

 先ほどの言のとおり、山道にバトルギアは出ると。4足歩行からホバーでのステルスモードに移行し、速くはないが一定の速度で走り続ける。

 

「スタップ、こいつはどこで俺を降ろすことになっている?」

「えっと――村の近く、とだけ。自分は今、ビッグボスの部隊の指示を受けるようにいわれているので」

 

 オセロットが言っていた、スクワッドに預けた戦力か。

 なら、このまま俺が使い続けてもオセロットは困らないということでいいのだろう。

 

「村まではどれくらいかかる?」

「今のままだと15分ほどかかります。急ぐこともできますが、ウォーカーギアと違ってこいつはスピードを出しすぎると重量のせいでひっくりかえっちまうかもしれないので――すいません。緊急でないなら、このままいきます」

「わかった。しばらくはこのまま進んでくれ」

「了解」

 

 村に入る前に、上空にいる支援班から武器を地上に投下してもらわないといけない。

 それにイーライがあそこで今、なにをしているのかも気になる。XOFの準備はどうなっているのだろうか?それにうちの方もどうなってるのか、オセロットに聞かなくてはいけないか。

 どっちにしろ攻撃のタイミングが難しいことに変わりはない。

 

「ボス、あと10分で……なんだ、あれ?」

 

 スタップの声が不穏なものになり、スネークは思わず顔を上げる。

 木々の間に見え始めるはずの村が見えなかった。

 バトルギアは慌てて林から顔をのぞかせようと道をはずれ、草むらの中へと分け入っていく。徐々に異変が目の前に広がっていった。

 

「こいつは……」

「白い霧、村がそれで覆われて隠れている。スクワッドが、ゴート達が仕掛けたな」

 

 よく見ると、煙の中で閃光が走り。吹き上げる炎のような赤いものが、かろうじて見えるが。

 その中で何が起きているのか、それがさっぱりわからない。

 

「ボス、どうしますか?」

 

 不安そうなスタップに返事をする前に、スネークは地図の表示する端末にさっさと補給物資の投下の要請を出すと「道に戻って予定通り村に近づいてもらう」と告げる。

 続いて本部との連絡だが、その前にもう一度だけ地図の表示を確認する。

 

 やっぱり気のせいではなかった。

 そこではリアルタイムで情報が更新されるはずなのに、スクワッドの攻撃が表示されていない。システム的な更新の問題?それとも電波を受信できなかったか?

 とにかく、なにがおきているのか知らなくてはならない。

 

 スネークの指が通信機に伸びていく。

 バトルギアは器用に、そしてほとんどゆれることなく道まで戻るとまた軽快に走り出す。

 唐突に本部から逆にスネークへ連絡が入った。

 

「オセロット、スクワッドは攻撃したんだな!?報告がなかったぞ」

『……ボス』

「報告しろ。どうなっている?」

『イーライが村に入った。人質のつもりなのだろうが、そんな扱いじゃなかった」

「それで!?」

『ゴートはこれ以上はあんたを待てない、と。部隊に攻撃命令を下した』

「結果は!?あいつらは無事か?イーライ、サヘラントロプスは捕獲できたのか?」

『……ボス』

 

 じらされているようで、スネークはついカッとなった。

 

「しっかりしろ、オセロット!状況は!?」

『XOFが進軍を開始した。今、あそこではサヘラントロプスと戦っている』

「なんだと!?どういうことだ、スクワッドはどうした?いや、どうなったんだ!?」

『ボス、スクワッドは……』

 

 オセロットは別にのろのろと告げているわけではないが、それはやけに時間が遅く感じた。




明日は2話投稿予定。
朝と、午後におこないます。

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