A.オネーちゃんと兵士がいちゃこらする所。たいていおっぱい丸出しでド派手にガンガンやってるから迫力があってよい、と思ってます(元気な声で!)
戦闘班とて、この程度にしぼんでしまうような連中ではなかった。
ゴートとその背後に並ぶスクワッドたちの前に、一回り小さな兵がでてくるとアドレナリンを噴出しているのだろう、真っ赤な顔で崩れ落ちた男の言葉を変わりにスクワッド達にむかって吐き出し始める。
「伝説のジジイは、どんなもんだよって言ってるんだよ」
「なんだと?」
後ろにあって押さえていたアダマも前にでてくる。
止めに現れたと思ったゴートが眼前で暴発したのを見て、現在のリーダーであるはずの彼も怒りの感情をうまく制御できなくなっていた。
「確かに戦場ではスゲーかもしれねぇ。だけどあいつは耄碌している。そう考えてなきゃ俺たちは、払いがよくてもやってられねーんだよ」
「ほう、坊主。小さくて顔が見えない。大人のフリをするのがつらいなら、小学校に帰れ」
「うるせぇ。確かに俺は小さい、だがタフな男だ!
戦場を知っている、そこで生きるやり方も知っている。伝説の男のいる、最高のPFがあると聴いたから俺はここにいる。俺はプロの兵士だ、俺達はプロの兵士だ。
だから我慢できないことは口に出すし。お前らみたいな”ファングループ”にだって言いたいことは言わせてもらう」
「クソ度胸のある坊主か。そのまま最後までしゃべれるか試してみろ」
もはや能面のように表情をなくして仲間であるはずの同僚の前に立つゴートは相手を見下ろしてそういった。
小さい兵士はひるんだか、少し黙るが。己を奮い立たせて、再び口を開く。引けなくなってしまい、ほとんど自棄を起こしているようだった。
「俺だって伝説のサイファーの尻を蹴り上げたんだ。スカルフェイスとかいう、ビッグボスの敵に”誰に飛び掛ったか、思い知ったか”ってやってやった!満足だったさ!
でもな、だからこそ納得できねぇ。お前達、ファングループは大丈夫だって言うのか!?」
「なんのことだ?」
「副司令だよ。あの盲目の士官殿さ。奴のあの糞ったれの餓鬼共のことだよっ!」
(……少年兵のこと?)
意外な言葉にゴートもつい怒りを忘れかけ、彼等の理性が急速に戻ってくる。
「不満はいろいろあるが。一番にムカつくのは、任務であのガキ共がいる戦場に送り込まれるときに副司令が口にする『殺すことは許さない』ってあの言葉だ!
俺達は任務を成功させるためにベストを尽くす。そして金を稼ぐ、そのためにここにいる。生活のため、家族のために稼がなくちゃならないんだよ。それはお前たちだって同じだろう!?」「……」
「だがな、副司令は違う。あいつは俺たちに、ガキは殺すなという。やつらが銃を俺たちに向けるのに、それでも撃つのは許さないという。
なんだよ、これは?どういうことだよ、これは?」
戦場のゆがみ、ではない。
ダイアモンド・ドッグズの中にあるズレが、歪みになりかけていた。
「――難民キャンプの件か」
「そうだ!奴は仲間だった。俺達はベストを尽くした。ふざけた話だとは思ったが、文句も言わずになんとかやりとげた。
やりとげたんだ!その褒美が、あの始末だよっ」
戦闘班にいるゴートだから話は聞いていた。
それはまだ声帯虫が暴れだす、直前まで話を戻さないといけない。
国連からの依頼を受け、ダイアモンド・ドッグズは短期の難民キャンプでの護衛の任務に就いた。仕事は滞りなく行われたが、任期の終盤にひとつだけ問題が発生した。
外国からキャンプに送られてくる物資を山賊が襲い始めたのである。
状況を考えると、ダイアモンド・ドッグズの後に引き継いだ連中に放り投げてもいい話ではあったが。当時、カズはこれを排除するように現地に派遣した部隊に指示を出してきた。
カズがなぜ、そんなサービスをする気になったのか。兵士たちが気がついたのは、任務直前に武器を取り上げられた時だった。
戦闘班の隊長は部下の武器をすべて取り上げると、ゴム弾を発射する武器の棚の前で「少年兵を傷つけてはならない」と注意を繰り返した。
もちろん計画したとおり、山賊をしていた少年兵はすべて捕らえられ、要求されたように殺さないように彼らは最大限に気を使ってやった。
だが戦場では何が起きても不思議ではない。
回収した少年兵の二人が死んだ。
回収の際に発射され、直撃したゴム弾の当たり所が悪かった。もう一人は回収後に同じような理由で死亡した。
当初、カズはそれについては何も言わなかったが。デブリーフィングではしつこく当時の状況の確認が行われた。そこで死んだ少年兵にゴム弾を発射した2名の兵士が確定される。
その2名が、ついにXOFとスカルフェイスを倒したと浮かれる中。ダイアモンド・ドッグズから追放された。
カズは理由を公開しなかったが、処分を受けた2人は不満を仲間の前で洗いざらいにぶちまけてから、くやしそうにここから出ていった。
「お前達は子供を殺したからだ」、副司令官は彼らにそう告げたらしい。
今日、この時を彼らがバーで飲んでいたのはその不満を癒すためだったのだ。
そこにささやかなビッグボスの部隊の連中が揃っているのを見て、副司令官への不満を正そうとしないビッグボスに彼等の矛先は向かってしまったのだ。
「なぁ、ファングループさんたちよ。俺に教えてくれよ。
このPFは、ダイアモンド・ドッグズはいつからあの頭の中がお花畑の連中のような、NGOを始めていたんだ?俺は聞いてなかったぜ、ここにいる仲間も聞いていなかったさ。
だが、あの副司令官殿はそれが当然だと口にしやがる!!」
「……それがボスと、何の関係がある?」
「は?頭沸いてるのか?ここは誰の部隊だよ?
カンパニー(CIA)に敵とされ、サイファーと戦っているビッグボスのPFじゃなかったか!?俺はそう聞いていたぜ?」
わずかにだが相手の興奮が収まっているのを察したか、小兵は勢いよく声を上げる。
「ビッグボスは間抜けじゃねぇ。間抜けじゃ、あんな戦場を生き残れない。動くビルみたいな機械を相手に戦ったりしない。プラットフォームに立つあんなの、どうやって勝ったのか俺にはまったく想像がつかねーよ。
だが、それとこれとは別よ。
なんで餓鬼だけ特別なんだ?あんなに集めて、なにがしたいんだ?
俺たちは戦場で稼ぐためにここに来た。戦場で武器を持ってる糞ガキを学校に通わせるためにいるんじゃねー。なのに何で俺たちはあいつらの銃口の前にわざわざゴム弾なんぞで立ち向かわなくちゃならないんだ?
上の連中が何を考えてるのかしらねーが。あいつらは鼻をたらしたガキの姿をしている獣だ!
誰かに言われたとおりに殺すし、犯すし、奪いもする。おかまいなしにな、そんなことはここにいる全員が知っている。そんな奴に、俺たちがリスクを払わなくちゃならない明確な理由って何だよ!?」
理由はあるはずだ。
ビッグボスも、副司令官も理由もなくあんな命令を下したり。あんな子供達をあつめたりはしない。
でも、その理由を説明された記憶は確かにない。
ここにいる誰にも、その意思を説明ができない。
「だから話してたんだよ、ゴートさんよ。
俺たちのボスは、副司令の都合のいい”操りやすいお人形”さんだってよ。戦場で倒せる敵がいりゃ、ビッグボスは満足。あとは副司令が宣伝か信仰か知らないが、満足すりゃここは平和ってわけさ。
戦場ではビッグボスでも、ここ(マザーベース)ではただの耄碌したジジイ――」
キレッぱなしで話なんぞ耳に入らないフラミンゴとハリアーの限界が突破されようとしていた。
片足がないばかりかに、さっきまで自分は老け込んだなどと哀愁を漂わせていたはずのシーパーが飛び掛らんばかりの顔をしている。
せっかく理性が戻りかけていたアダマとゴートであったが、かたや顔をゆがめ、かたや表情を失い。再び理性が激情の濁流にのまれて地平線のかなたに向けて押し流そうとしていた。
仲間が、互いを攻撃している。
==========
扉が開き、杖をついたシーパーはため息をひとつ、ついてから中に入る。
最後の宴は、なんともしまらない――ひどいものになってしまった。
あの時、喧嘩になるかと思われたが。
バーの入り口に立って「元気そうだな」と冷たく告げるオセロットのおかげで、なにも起こりはしなかった。それでよかったと今では思ってる、あの時はちょっと自分もどうかしていた。
だが喧嘩しなかったことで、ちびちびと仲間内で飲む予定は変更され。いつものように憂さ晴らしの馬鹿騒ぎをして、厳粛な空気はどこかに吹っ飛んでいってしまった。
こんなはずではなかったのだが。
だが、まぁ、そういうお別れ会というのもあるのだろう。
シーパーにとって、マザーベースから退去するまですでに10時間を切っていた。
自分の思ったとおりの別れを仲間に告げられなかったのは残念だが――。
その時、彼の部屋を訪れる存在を告げるブザーが鳴る。
(おいおい、もう夜中だろうが。なんのつもりだ?)
すでに自分が行っていた業務の引継ぎは昨日で終わっている。
書類上、もはや自分はダイアモンド・ドッグズとは関係のない人間になっている。これは副司令官に会ったときに確認していた。
一瞬、もめた連中が押しかけていたのかな?とも思ったが、違う気がした。
「……ハーイ」
「ハリアー?お前――こんな夜に何だよ?」
「入れてくれない?」
廊下に顔を出して見回すが、人の姿はない。どうやら一人できたらしい。
自分の足を吹き飛ばす羽目になった女が、最後の夜に一人で会いに来たというのはどう考えても良いものとは思えない。実際、表面上ではなんとか噛み付かないではいられるものの、こうして一対一で話すとなると精神的に激しい葛藤を感じてしまう。
こんな男の表情を、したくはなかったし、覚えて別れたくはなかったのだが。
「夜も遅い、何だ?」
「な、か、で」
心持ちこちらよりもわずかに上から見続ける、でかい女の強情に根負けしてシーパーは体をずらすと顎で中に入れと示した。
酔いはまだ残っているが、理性をかき集めてこの馬鹿女を怒鳴りつけないようにしないといけない。マザーベース最後の一日は、ひどいものになるのがこれで決定だ。
「へー、仕官部屋なんだ」
「ああ――スクワッドをはずされる時、副指令に外部スタッフ扱いにするといわれた。ここでリハビリがてらやっていた仕事は、なんとかいうイギリスだかオーストリアに作ったうち(ダイアモンド・ドッグズ)の会社の社員として、ということらしい」
「ふーん、だから仕官扱い?」
「客扱い、だな。マザーベースには基本、外部のスタッフは入れないことになっていた。だが……それも変わるだろう」
言葉の最後が苦いものになる。
ダイアモンド・ドッグズは変化する。それは間違いない、すでにその予兆はどこにでもある。
あの環境保護の連中、そして副司令官が進めようとしている少年兵の社会復帰プロジェクト。だが、MSF時代を知るシーパーはふと思う。
あの時、XOFがあらわれなければ、ビッグボスが向かう未来は果たしてこれだったのだろうか?と。その答えはない。
個室部屋を珍しくもないくせに見て回るハリアーを横目にシーパーはなにかないかと、台所をひっくりかえす。だが、なにもない。
当然だ、立つ鳥のごとくここにはなにも残さないつもりだった。もはやわずかな着替えと手荷物しか残っていない。
「――ここには何もないぞ。水は?」
「いらない」
「そうか、それじゃ――用を聞こうか?」
「……うん」
「ああ、一つ言っておくぞ。謝罪はやめろ、それだけは聞きたくない」
「そうなの?」
「理由も話さない。この話題は一切したくない。いいか?俺は――俺はあと数時間もすればマザーベースから出て行くんだよ。
そして引退生活を始める。そうなったら、お前のことなんて思い出すつもりはないし。仲間でも、連絡を取り合うつもりもない。少なくとも、お前もそうだけどスクワッドの連中はな」
感情の制御はやはり思った以上に難しくなっている。
なにがあったにせよ、自分はついに負け犬となり。戦場から背中を丸めて出て行く人間だ。そんなのは昔から見てきた、あんなザマにはなりたくはないと思っていたさ。
だが、しょうがない。
それでも。
それでも最後に戦った仲間たちには、笑ってお別れ。そうなってほしいと、努力していたはずなのに。
この馬鹿は、ここで怒った俺にレイプでもされないとわからないものなのか!?
「怒ってるんだ、やっぱり」
図体のわりには驚くほど少女のように媚びた上目でこちらを見るハリアーを見て、イラつく自分を感じて逆に冷静になろうと思えた。
大きく息を吸い、そして吐く。
「だから、話は、ない……んだよ。分かったか?もう、帰ってくれ」
途方にくれた気持ちになって、シーパーはついに懇願を始めた。
だがハリアーはそれを無視すると、羽織っていたダイアモンド・ドッグズのジャケットを脱いでベットの縁に腰掛ける。
「わかった。話すのはなし、ね」
「そうだ。そこに座るなよ、さっさと――」
「なら、それは飛ばして。次、ヤルかな」
「!?」
「いいでしょう?別に」
絶句、しかけて。相手が本気なのだと理解した。
訳が分からなかったが、だからといって、今更顔を突き合わせて告白セラピーなど死んでもやりたくはなかった。
苛立ちと驚きですっかり酔いがさめてしまったシーパーは、ベットに進むと杖を脇においてハリアーの隣に座った。
(なにひとつ、なにひとつままならねぇな。ひどいもんだ、本当に最悪の日だ)
自分の唇で女の唇をふさぐと、そのままベットに倒れこみ。
短くなった片足もつかって、彼女の上に跨る。
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誰かを呼び出す館内放送でハリアーは目を覚ました。
激しい数時間を耐え抜いたベットの上は、その惨状を思わせるくらいには乱れていたが。彼女と一緒になってそうした男の姿は部屋にはいなかった。
見ると脇にメモが一枚残されていてシーパーのものらしいとわかった。
『とっとと帰れ。俺はもう行く。お別れだ、さようなら』
なんの愛想もない、どうやら話すことはないといったあの男の言葉は本当だったようだ。
体を動かすと、それだけであちこちが戦場から戻ってきた翌日かというくらいに痛みが走る。見ると激しい行為を示すかのように、殴りあったわけでもないのに内出血していたり、あざではないが真っ赤にはれ上がっている箇所がちらほらあった。
思い返すと、だいぶいい勝負だったと思う――かなりいじめられた気もするが。
とにかくまぁ、悪いものではなかった。
自分たちよりも5歳以上年上で、爺様に片足を突っ込んでいる男とは思えない体力だったな。
(部屋に戻らないと……コレ、フラミンゴの奴にバレるよねぇ)
今日、友人と出会ってどうするべきか考えつつ、くしゃくしゃのシーツを探り当てると、手と足の指を器用に使ってそれを引き伸ばし。カラメル色の裸で転がりながら体に巻いて隠していく。
設立当初から一緒だったフラミンゴ、亡くなったワスプとは長年の友人のように仲良くなった。
PFなどという男の職場の中で、女性のセックスは状況も事情も色々ある。
3人の性癖をたとえるならば、雑食のフラミンゴ、菜食のワスプ、そしてハリアーは肉食という気がする。
気に入れば即OK、欲望丸出しのフラミンゴ。出てくるものを自分の好みのリストと合わせていってから決めるワスプ。
肉食を自称するハリアーのそれは「寝る」と決めた相手は絶対に逃がさない、そういうスタイルだった。
再び放送があり、ハリアーはそれで自分がうとうととまたベットでまどろんでいたことに気がついた。
すぐではないだろうが、この部屋の住人が立ち去ったと知って今日の掃除担当が入出してくるかもしれない。危ないところだった。
片腕を伸ばし、ベットに蹴り出した記憶のある下着の探索から開始する。
ハリアーが部屋を出て行って2時間半、ようやく掃除道具を持った兵士が2人が部屋を訪れると。
15分ほどで見事に綺麗に片付けてしまうと、次の部屋へと向かった。
この日、スネークはゴートの元へ訪れると「再び部隊に戻る気があるのか?」と尋ねている。
暗い夜明けを越えて、ダイアモンド・ドッグズはその歩みを止めるつもりはない。
また明日。