真実とは神罰、毒の味がする   作:八堀 ユキ

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OKBゼロ(2)

 OKBゼロ、ダイアモンド・ドッグズにとって未知の場所の一画にクワイエットはいた。

 その手には長らくボスの部屋で眠っていた、サイレンサーを内蔵した新型の狙撃ライフルが握られている。

 目の前に広がる巨大な敷地には、スカルフェイスの率いるXOFの部隊の兵士達がいる。その数は不明、しかしおそらく今のダイアモンド・ドッグズと対決してもそれほど優劣はないかもしれない。

 頭上には巡回するヘリが見回りを続けていて、地上の兵隊達とは違う視点で警備を続けている。尋常ではない、厳しい警備が敷かれていた。

 

 その最奥地にある扉の向こう側から。

 平気な顔をした狼ー―いや、犬が出てくると。兵達の間を抜けて出口にむかってかけていく。兵達は一瞬はその獣に気を取られるが、うっかり迷い込んだのがここから出て行こうとしているだけだろうと気にせずにほうっておいた。

 もはや説明は多く要らないだろう。その獣こそDDであった。

 ではクワイエットとDDをここに置いてスネークは、ビッグボスはどこへ?

 彼は相棒とはなれて、これからどうしようというのか?

 

 

 そのスネークは、驚くべきことにスカルフェイスがいると思われるヘリポートへと向かうタラップを1人で延々と駆け上っている最中だった。

 ここまでの道中は強引なやり方で進んでいる。クワイエットとDDが、スネークの進路をふさぐ存在がいるとわかると徹底してこれを排除し。続くスネークがその死体を人目につかないところまで運ぶ。

 それだって完全ではないから、そのうち誰かがその中の1つを見つけないなんてことはない。しかし今は、急ぐ必要があった。

 スネークの、あの不思議な感覚が。スカルフェイスが今にもここから飛び立とうとしていると訴え続けている。

 

『ボス、あんたって奴は――いったいなんだっていうんだ!?』

「ヘリの音が増えた気がする、カズ?」

『ああ。ああ、わかってる……その通りだ。迎えが来ている、スカルフェイスはヘリポートだ』

「……」

『ヘリポートはまだか、ボス。奴をここから飛び立たせてはいけない』

 

 ビッグボスは急に無口になった。

 

 

==========

 

 

「ずいぶんと急いでいるんだな!」

 

 ヘリポートにビッグボスの声が響く。

 

「だがサヘラントロプスはここにはない。ソ連軍への仕打ちも理解できない」

 

 ヘリに乗りかけていたスカルフェイスの背中が動きを止め、顔が後方へと向けられる。

 ヘリポートにいたXOFの部下達が銃口を一斉にその声の主に向けて構えた。

 本当にぎりぎりの到着だった。まさにこの場から離れる寸前、スネークはまたしても間に合うことが出来た。

 

『ボス?ボス!?』

 

 無線の向こうでカズが慌てているのがわかる。

 

『なにをしている。いや、なにを考えている!?スカルフェイスを殺せ、あんたが殺されるぞ』

 

 スネークはその言葉に返事をしない。

 XOFの兵達をかき分けて、あの男があらわれるのを待っている。

 

「なるほどな、お前は確かに絵になる男だ」

 

 スネークが思った通り、スカルフェイスもこちらに進みでてくる。

 

「だがわかるぞ、お前も失くしたな?失くしたモノの痛みにうなされる――その痛みを、憎しみで緩和しようとする。しかしその痛みは消えない」

 

 スネークも歩き出す。

 銃は下げているが構えてはいない。

 

「それなのに人は――フン、鬼に堕ちていく」

 

 スカルフェイスは黒の帽子を脱ぐと、あの不気味な土気色の顔を見せた。

 

「どうだ醜いか?」

「フン、こっちを見て言え。お前が奪った顔だ」

 

 髪の生えていない、死者のような髑髏頭と角が生えているように見える、顔を多くの”部品”で傷つけられた鬼が向かい合う。

 

「お前も鬼だな。もはや、人間には戻れまい……お前も私も、逃げも隠れも出来は、しない。そうだったな」

 

 顔を近づけると、顎でヘリを差す。

 

「いいだろう、共にヘリに乗れ。お前に私の、鬼を見せてやろう」

 

 スネークは今回も間に合った。だが、スカルフェイスはOKBゼロからヘリで飛び去っていった。

 彼と一緒に、スネークもそこから離れていく――。

 こんなこと、作戦にはなかったのではないか?無線の向こうで舌打ちするカズの姿が見えるようだった――。

 

 

============

 

 

 クワイエットは走るのを止める。

 すでに彼女はOKBゼロから離脱していた。そして無人となったソ連監視所に入ると、そこにあったジープに乗りこむ。珍しく、車両を使うつもりらしい。

 上空にあるヘリはスネークを乗せてはなれていく。走ったほうが楽についていけるのだろうが、それだとこちらの体力にも限界が来る。

 エンジンをかけると、追いついてきたDDが助手席に飛び乗って丸くなる。よし、これで――。

 

『クワイエット。クワイエット、聞こえるか?こちら――こちらはスクワッド。力を貸してほしい』

 

 ゴートの声だとはすぐに分かった。

 彼が部隊選考から落ちた後もちょくちょくマザーベース内ですれ違ったことがある。なれなれしさはないが、最低限の礼儀をつねにみせていた。律義な男だった。

 

『あんたの情報が欲しい。ビッグボスはどこだ?俺達はあの人のいる戦場にいきたい』

 

 どうやら彼。いや、彼等はミラーやオセロットの意志を無視しているのだとわかった。

 作戦に参加するには自分達の存在を公開しなくてはならない。それが許されないとわかっているから、こうやって秘匿でクワイエットから情報を手に入れようとしているのだろう。

 彼女の持つ情報端末は、もともとはビッグボスが使うべきもの。他とは違って、色々と好きにできる機能が搭載されている。

 

 クワイエットは隣で丸くなるDDを見た。

 DDはクワイエットを上目で見ている。「どうするんだよ?」と言っているようだ。

 悩む必要はない。クワイエットは情報端末に接触してきたゴートの端末に、クワイエットから一方的に情報を送り続けるように操作すると、アクセルを踏む。

 時間を取られた、急がなければ。

 

 

 OKBゼロから離れていくヘリもあるが、逆に近づいているヘリもあった。

 低空で接近するそれら一群の腹の中には、ダイアモンド・ドッグズの誇る戦闘班の精兵達がぎっしりとつまっている。

 そして彼等を率いるべく同乗していたオセロットもいた。

 

「ほう、ボスが……」

『そうだ!なにを考えているんだ、あの人は!?』

 

 スカルフェイスを前にすれば、自分と同じで奴を八つ裂きにするはずと思いこんでいるカズヒラは半狂乱になっているが。ビッグボスは彼よりもずっと理性的でいてくれたらしい。

 

「カズヒラ、少し落ちつけ。ボスは殺されなかったのだろう?」

『ああ、それはそうだが――』

「ボスはそこにサヘラントロプスがないと判断したんだろう。スカルフェイスは、ボスを前にすれば2足歩行兵器をみせようとするはず。彼の判断はなにも間違ってない」

『ん、んん』

「今から3分後、こちらはOKBゼロを予定通りに襲撃する。大きな場所だ、制圧には時間がかかる。ボスの面倒は誰が見る」

『――クワイエットが動いているようだが』

 

 まだこじらせるのか、この男は。

 

「わかった。そっちはあんたが向かってくれ。それと――イーライがいたと聞いた」

『ああ、そうだ。貨物室に隠れていた。脱走を図ったのかわからんが、対処は後で――ああ、まずいな』

「かまわんだろう。元は少年兵、それもとびっきりのクソガキだ。自分で戦場に出た以上は、”役立たず”の兵士として扱ってやれ」

『しかし――』

「ではボスを放ってマザーベースに戻るか?ボスにはお前が必要だ、カズヒラ。イーライは問題ない。自分の面倒くらいは自分で見れる奴だ。可愛げがないからな」

 

 そういうと「もう切るぞ」と告げて自分もサブマシンガンの点検を簡単におこなう。

 リボルバー使いを自認するからといって、ほかの銃を使わないわけではない。特に今日のような、部隊を率いて前線に立つというときはなおさらだ。

 

『オセロット、降下まであと1分です』

 

 今夜は彼も楽しませてもらうつもりだ。

 スカルフェイスが去った後も、あの巡回する攻撃ヘリは残っていたが。

 いきなり低空から出現したダイアモンド・ドッグズのヘリ達があらわれると一斉にバリバリと機銃が火をふいて、攻撃ヘリは制御を失い地上へと墜落していく。

 

 OKBゼロは戦場となる。




また明日。

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