真実とは神罰、毒の味がする   作:八堀 ユキ

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今回は短めになります。


決戦!キジバ野営地 (2)

『スネーク!ボス、大丈夫か!?』

 

 無線の声にスネークは顔を上げた。

 奇跡なのは間違いない、席にもつかず、ベルトも閉めず、操縦桿から手を離し、墜落の瞬間まで翻弄されていた自分は体のてっぺんからつま先までしびれるような痛みを感じているが。骨折や激しい出血などの怪我らしいものはまったくしていない。

 

 操縦席のパイロットは駄目だったが。後部座席に座った連中はどうやらひとしく運が良かったようだ。

 脈があるのを確認すると、クワイエットとオセロットを起こし。コードト―カーの体を引きずってヘリの外へと這い出ていこうとした。

 

『――ボス!……だと……だ。よく……えい地だ。聞こえ……』

 

 無線は無情にもまだ動く機能で、かすかにではあるが、カズの声を伝えてくれる。

 4人でヘリの外へと這い出て見ると、新品のはずの墜落したダイアモンド・ドッグズのヘリの表面が赤寂だらけになっていることに気がつく。追跡してきたスカルズになにかをされた結果がこれらしいとわかった。

 

「ボス、こっちはまずいことになっているぞ」

 

 うんざりした声のオセロットの横に行くと、ビッグボスも同じものを見て、大きくため息を吐く。

 周囲は乳白色の霧にすでに囲まれていて、その中を飛び回るスカルズの姿とそれに振り回され、翻弄されているPF兵達を遠くに感じた。

 

「どこだ、ここは?」

「――キジバ、キジバ野営地だ。ボス、ここにいるPF兵の数はこの周辺では最大規模だと言われていた」

 

 ここでの任務で直接、スネークは訪れることはほとんどなかったが。

 霧の向こう側で発砲している銃声と悲鳴の数を聞くと、その話しも納得できるものがあった。

 

「ボス、考えはあるか?」

「ないな。お前はどうだ?」

「あいにく俺も似たようなものだ。カズが変わりのヘリを送ってくれていることに期待したい。だが、それまでは俺達は老人を守ってどうやって生き残ったらいい?」

 

 ヘリの中に戻っていたクワイエットが出て来て首を振る。

 中にあったはずのアンチマテリアルライフルを初めとした銃のたぐいは、落下の衝撃でどうやらなくしてしまったらしい。

 

「俺のリボルバー、あんたはハンドガンのみ。先行きは暗いな」

「なんとかするさ――」

 

 そういうとスネークは自分のハンドガンについたサプレッサーをはずすとクワイエットに差し出す。向こうはそれでいいのか?と表情を曇らせて問いかけてきたが、スネークも考えを変えるつもりはなかった。

 

「いいんだ、クワイエット。お前が使え、オセロットとコードト―カーを守るんだ」

「ボス?」

「経験上、ここの連中もゾンビのようにそのうちあっちこっち動くようになるだろう。そのまえに俺が何とかしてくる」

「なんとか?あんた正気か?」

「知らんさ。どのみちあの連中とは戦うことになる。あのしつこさだ、この老人を連れては逃げられはしない」

「――それなら戦って倒すしかない、と?」

「クワイエット、2人を頼むぞ」

 

 そう言い捨ててスネークは乳白色の霧の中へと消えていく。

 クワイエットはそれを見送ったが、ふと横を見ると消えていった彼を追いたそうにしているオセロットの姿をみて驚く。むこうはすぐにクワイエットの視線を感じると、いつもの冷静な彼へと戻ってしまう。

 「とりあえず隠れるか」そういうとオセロットはコードト―カーを背負い。クワイエットと共にその場から立ち去ろうとした。

 

「待ってくれ」

「――ご老人、なにか?」

「ここでいい。もうすぐ見れるかもしれない」

「見る?」

 

 オセロットはコードト―カーの両目をのぞきこんでしまう。

 この老体の目が、乳白色に染め上げる世界の中から何を見ようとしているのかわからなかったのだ。

 

「お前達の鬼だ。この霧だ。あれはすぐに、本性を見せる」

「鬼――ボスのことか?」

「そうだ。お前達のボスは、私の側に来る時も鬼だった。そして今も鬼になろうとしている。

 だが、不思議なのだ。

 私やお前達の前では、彼は逆に本性を隠そうとする。あの恐ろしい姿は人に戻っていく。不思議な男だ」

 

 オセロットの両目が大きく開いた。

 なにに驚いたのか。コードト―カーの言葉の、どこに驚くべき点があったのか?

 

「――ああ、くるぞ。鬼が還ってきた。覆いつくす者達も集まっている、すぐにもはじまる」

 

 霧の奥で、いきなり狂人のあげる哄笑のようなものが聞こえてきた。それは次々とわき上がると、それが合図であるかのように銃声がそこかしこに鳴り響く。あれはスカルズが使う銃の音だ。

 コードト―カーの言うことが本当ならば、ビッグボスは1人で髑髏部隊と対決しているということになる。

 

 だが、オセロット達もそれを見学している暇はないらしい。

 霧の中をショットガンを手に近づいてくる女の姿があった。最後の女スカルズ。

 館でスネーク達を仕留めようと失敗した後も、追い続けてついに三度姿を現したのだ。

 だがコードト―カーとオセロットとの間に、クワイエットが立ちふさがる。お互いを無表情に見つめ合っているが、空気はどうしようもなく張り詰めていくのがわかる。

 

「やれやれ、女は怖い」

 

 自分の出番を取りあげられたように感じてオセロットは苦笑いを浮かべるが、その手はリボルバーをいつでも抜き放てるように準備は出来ていた。

 

 

 マザーベースの作戦室の中で、ただ映像を必死に見つめる3人がいた。

 ボスの部隊の生き残り、アダマ、フラミンゴ、そしてハリアーである。彼等はここに来てからずっと、ボスが送ってくる映像から目を離しはしなかった。

 彼等をここに呼ぶように言った時、ビッグボスは自分達に見せたいものがあるといったそうである。それがなにか、なんだったのか。彼らにだけはわかっていた。

 

 彼等のボスは髑髏部隊と単身戦い、勝利してみせた。

 それを武器を失った今も再現しようとしている。髑髏部隊は恐るべき敵ではあるが、決してかなわぬ相手ではない、と。

 

 彼は霧の中を、まるでそこにいたのを知っていたかのように。恐怖で動けない兵士を拘束すると、知りたい情報だけ言わせて気絶させる。

 そうやって早々にライフルを手に入れ、近くの机の上に置かれた予備の弾薬と手榴弾などを回収して準備を整える。確かに万全にはほど遠いが、銃、火薬、火があればあとは何とかする。だんだんと静かになっていく周りの中、ビッグボスは再び前進を始めると。霧の中に立つ4人の髑髏部隊の前に立っていた。

 

 もう見ている側も何がおこっているのかは、わからなかった。

 スネークは動き続け、時に目の前にあらわれるスカルズをかわし、いなし、なげつけ、殴り倒すなどして距離をとり。時折霧の中に向かって手榴弾を投げつける。

 最初こそ「本気なのか、ボス!?」と悲壮な顔をしていたミラー副司令も、今は黙って映像に目が釘付けになっていた。その口元には不気味に歪んだ笑みを浮かべているように見える。

 

 周りも声もなく映像に見入っていた。

 そして徐々にだが理解していく。スカルズが倒れていく、1人、2人、そして3人。

 

 最後の瞬間は、あっけないものだった。山刀で飛びかかってきた相手の刃を、ボスがついに取りあげ。逆に相手の背中から腹を突き刺し返しながら、近くの机の上に並んでいた火炎瓶に手を伸ばす。

 

 次々と叩きつけられる火炎瓶に対抗しようとしたのか。スカルズは皮膚を弾丸をはじくほどに硬化するが、燃え続ける火には意味がなかったようだ。すぐに岩のようなそれはポロポロと崩れ落ち、燃え続ける体の動きも鈍くなり、停止すると、大地に両手両足を広げつつ音を立てて倒れていく。

 

 ビッグボスは霧が晴れていく野営地の中を歩いて戻ると。墜落したヘリの側では得意顔のクワイエットとオセロットが倒れた女スカルズの前に立っていた。

 15分後、ようやく回収にあらわれたヘリに乗ると。スネークはようやくの事コードト―カー回収任務をおわらせることになる。




また明日。

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