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マザーベースにスカルフェイスの手から逃れてきた諜報員の吉報はすぐに届けられた。
「この新情報をもとに、作戦を発動する!」
宣言するカズの声にもあかるいものがある。
緊急事態宣言から12日目。今や奇病の魔の手はダイアモンド・ドッグズの4分の1を占めてはいるが。発症して倒れた奴よりも、自分も感染したかもと訴え出てくるものが多く。
経過を見てなにもなければ開放されるなんて例が増え始めている。困ったことに、患者を見分ける方法は未だに不明なので自覚症状を訴えられたらそれを無視することはできなかった。
だが、それも今日までである。
「1週間ほど前に連絡を立った諜報班の1人が救助されたことがわかった。彼の話によるとすでにスカルフェイスはこのアフリカを発ったらしい。
そしてここからが重要なんだが、スカルフェイスは立ち去る直前。現地のPFに1人の老人を任せると、殺害を依頼したという話だ」
スネークはピークォドの中で素早く銃の点検をする。
「どうやらその老人こそが、今回の奇病の出所だとつきとめた。老人の名はコードト―カー。北東部の川沿いを上流に向かうと、私邸があるらしい。そこを例のPFが厳重に包囲しているというから、彼はきっとそこに捕らわれていると思われる」
今回出動するのはスネーク1人だけ。つまり正しく単独での潜入任務となる。
カズも確実に抑えるために部隊も動かしたかったのだけれど、奇病がマザーベース全体の4分の1にまで広がっている可能性がある現状では。外に出せる兵士は少なければ少ないほどいい、ということになった。
「スネーク、あんたがこの老人と接触、回収してくれ。この老人ならば、この奇病を食い止める治療法も知っているかもしれない。時間もないことから川の下流にあんたを降ろす。そこからは徒歩で川沿いを上流にさかのぼって貰う。
敵の監視もこれまでになく厳しいと思われるが……頼んだぞ、ボス!」
「まかせておけ!」
短いが、力強くカズに応えると。スネークは着陸の時を待つ。
作戦室では、久しぶりに活気が戻ってきていた。ここ数日、お通夜のような有様だったが。この情報が本当ならば、この恐ろしい奇病に恐怖に眠れぬ夜を過ごす必要もなくなる。
「作戦の開始はAM01;31とする。深夜の潜入とはいえ、最厳重な包囲を突破せねばならないだろう。各員の努力に期待する!」
カズの声にも明るさが戻ってきている。
「ボスがその”私邸”にたどりつくまで、どれほどかかる?」
「そうだな――3時間と言ったところか。明け方前に合流地点まで来てくれれば助かるのだが」
「――カズヒラ、俺は念のため前線基地に移動する。そこでボスの迎えに出るつもりだ」
「オセロット、その必要があるのか?」
「あのスカルフェイスが老人を始末しようと”本当”に考えているならPFなどにまかせるとは思えない。つまりこれは――」
「囮?ボスは罠にはまったと?」
「わからない。だが、その可能性があるなら。いつでも助けられるように準備がいるだろう」
カズは躊躇していた。
オセロットが先日、何者かに奇妙なメッセージを送っていたことは知っている。まだやってはいないが、その相手が誰だったのかはすぐに追跡をしようとは思っていたが。そんな男を自分は信用して送り出すべきだろうか、そう思ったのだ。
「わかった。あっちにもここと同規模の作戦室がある。好きに使ってくれ」
「では」
足早に作戦室を出ていくオセロットの背中をカズはあえて見なかった。
そうしていたらきっと、やはりいくんじゃないと口に出してしまっていたかもしれない。その理由は、まだ思いつかないのだが……。
(どうやらうまくいきそうだな)
ヘリポートへと向かいながらオセロットは内心、安堵していた。
カズにいくなと呼びとめられたとしても、なんだかんだと理由をつけて出ていくことも考えてはいたが。例の通信でいきなり不信感をむき出しにされて拘束などと言われる可能性はゼロではなかった。
どうやら、理性的に振る舞うくらいの余裕がまだ向こうにはあったようだ。
(だが、カズヒラ。お前には悪いが、俺は嘘つきなんだ)
ヘリに乗ると「前線基地ですよね」というパイロットに新しい指示を出した。
「ああ。だがその前に向かってほしい場所がある」
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ヘリを降りてそろそろ2時間ほどたつだろうか。
川沿いを用心しながら進んでいるが、話しに聞くような厳重な警備というものは感じない。と、いうよりも誰一人としてここを警戒している人の姿はない。
『おかしい、人の姿がないとは』
「川沿いとはそれこそ道や目印みたいなものだ。警備を立てないはずはないんだが」
『ボス、気をつけて進んでくれ。なにかがおかしい』
とはいうものの、愚図愚図していては朝が来てしまう。
今日は勘が鈍いのか、鼻の頭に何も感じない。これはなにもない、ということを伝えているのかもしれないが。そんなはずはないのだが――。
森林の中をなにかが、誰かが歩き回っている。
姿はない。いや、その形がわからないだけなのだ。
土は踏みしめられ、草は踏みつけられ、枝は折れ、葉はちぎれて舞い落ちる。
そうだ、存在しないわけではない。そいつらは確かにこの森の中にいた。
その視線がいきなり遠くの川沿いに向けられる。
何かを見つけたのだろうか?それがビッグボスの姿か?
そいつらは歩き出す。歩き出すと同時に、いきなりその姿がぱっとあらわれる。
それは死者のように土気色の肌。並ぶその数は4人。
そう髑髏部隊――それもはじめて見る、女性のスカルズであった。
いきなり首筋に刺すような痛みを感じてスネークは――ちょろちょろと流れる水の中へと飛んだ。
頭を抑え、可能な限り気配を殺す。
森の中からだった。これまでなにもなかったのに、今は信じられない殺気がそこから放たれ、この近くを探りまわっている視線を感じる。
『スネーク?ボス、どうした!?』
「まずいぞ、カズ」
歯を食いしばりたくなるほどに首筋の痛みが激しい。
「狙撃手だ。それも普通の奴じゃない、動けない」
『動けない?』
「そうだ」
わかっていないのだろう、この感覚は。複数の針が周囲を走りまわっている感じだ。
動けばそれのどれかに引っ掛かる。
『ボス、あんたを疑うわけじゃないが。本当に狙撃手が?』
「そうだ、カズ。耳を澄ませてみろ」
『?』
「森だ。森が静かすぎるだろ。生き物の気配がまったくない。連中を恐れて引っ込んでいるんだ」
ビッグボスは目標の約2キロ手前で、まさに文字通り足を止めなくてはならなかった。
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川の中にビッグボスが身をすくませてから早くも1時間が過ぎようとしていた。
作戦室は緊張感に包まれている。最初にあった浮かれた感じはもはや残っていなかった。
ボスの言葉をやはり信じられなかった連中もいたが、熱源探知ゴーグルをつけた状態にするとその恐ろしさは瞬時に理解出来た。
森から照射されているらしい4本のレーザーは確かにビッグボスの周囲を動き回っていた。しかもこれが非常にしつこい。
まるでここにビッグボスがいるとわかっているかのように視線をよそにうつそうとは決してしないのだ。
(まずいな。本当に動けない。最悪、退却するにしてもこれではどうやって助ける?)
まさか潜入任務の第一人者が動けないような狙撃手が待ち構えているとは。オセロットの言葉を思い出すと、なんの危機感もなくスネークを単独で送り出してしまった自分に腹が立ってきた。
そんなカズのそばにある受話器がベルを鳴らし。受話器を拾い上げてしばらく報告を聞いていた彼はいきなり表情を一変させると「オセロットに連絡しろ、急げ」と怒鳴り始めた。
『こちらオセロット、前線基地に到着。状況はどうなっている?』
「オセロット!ボスがピンチだ」
『ほう、ボスが』
なぜかむこうはそれを聞いて楽しそうにいう。
「なにがおかしい!このままだと任務の続行どころか、退却もできないんだぞ」
『カズヒラ、怒らなくてもいい。おれは驚いただけだ』
「ならお前は説明をしろ!どういうつもりだ!?」
『なんのことだ』
「とぼけるな!!貴様、クワイエットを連れだしたそうだな」
先ほどの連絡は医療プラットフォームのクワイエットの見張りから異常を訴えたものだった。
『そうだ、必要なことだった』
「ふざけるなっ、あの女は危険だ!」
『だがあいつはボスの相棒だ。彼の力になれる』
「いや、あの女は疫病神だ。だから最初にいったんだ。あいつは俺達を破滅させる、と……」
『馬鹿を言うな、カズヒラ』
「それならそれでいい――いや、よくないな。
知っていたかオセロット?例の奇病に倒れた奴等の中に、あの日。クワイエットに襲われた男もいた」
『……』
「知っていたんだな?ならわかっていたはずだ、あいつがこの奇病の原因だ。なにかをしたんだ」
『冷静なお前とも思えない言葉だな。そんなわけがないだろう。
それならボスも倒れていなければおかしい。だがボスには症状は出ていない。彼女は関係ない』
「フン、どうだかな」
ビッグボスの窮地を救うのに、たしかにオセロットの言うようにクワイエットは最適なのはわかる。そもそもカズの中では彼女は戦力には加えていない。死んでくれて構わない存在だ。
だが、そんなやつをビッグボスもオセロットも信頼しきっていることが理解できない。
『カズヒラ。俺もボスも、クワイエットのあの事件からずっと考えていた。何故彼女は、あんな騒ぎをおこしたのか、と』
「化物だからだ!」
『そうじゃない。俺は今回の諜報班の報告を読んで確信したことがあった。クワイエットは、彼女は寄生虫につかれた人間を見分けることが出来るのではないか』
「ほらみろ、化物だ」
『彼女はこれまで自分への挑発を気にしていなかった。だが、あいつには違った。なにが違う?
彼女に殺意はなかったと止めたボスは言った。ではなんで相手の口の中にナイフをつっこんだんだ?』
「あの化物は、患者を見分けられる?正気か?」
『彼女は話さない、文字も使わない。だが、行動は?
奇病の症状を見て、それを何とかしようとすれば彼女の立場ならどうする?』
煽って話を有耶無耶にしようとしていたカズも、オセロットの問いについ興味が出てきてしまい。考えてしまう。
「……奇病の原因は口の中にある」
『クワイエットの行動の理由はもうすぐわかる。コードト―カー、その老人がその謎を解いてくれるだろう』
「勝手な事を!ボスは動けないというのに」
『――それも心配ない。特別な奴をクワイエットに持たせた。ボスも気に入るはずだ』
あの涼しい顔にニヤリと笑みを浮かべているのだろうと思うと、あまりにも腹立たしくてカズは通信機に背を向けると何度も舌打ちした。
『ボス、オセロットだ。相手は狙撃手、距離は?』
「不明だ。とにかく遠く森の中、異様にしつこい」
『なるほどな。ボス、水の中から出てほしいんだ』
「なに!?」
『そこでは駄目だ。いられると困る』
「少しくらいなら動けるが、前進も後退も出来ないぞ」
『わかってる。ボス、あんたに援護を送った。プレゼント付きで』
「っ!?」
『彼女とよろしくな』
河岸までゆっくり、蛇のように腹を波立たせて少しずつ、ゆっくりと移動する。
ビッグボスの口元に笑みが浮かんでいた。彼の相棒が帰ってくるのだ。
また明日。