「ノヴァ・ブラガ空港、これが俺達の次の目標となる!」
マザーベースに戻るとカズはすぐに諜報班の最新の報告書を受け取り。ビッグボスとオセロットを呼び出して宣言した。
「空港?――たしかそこはボスが一度……」
「ワスプ救出の時だ。ちょっとばかり交戦したな、かなりの人がいたと記憶している」
そこは現在は開発班で腕をふるっている伝説のガンスミスがいた場所であり、スクワッド再結成前にスネークが訪れた場所でもあった。
あの時、クワイエットとDウォーカーが大活躍したことは印象的だった。
「実は諜報班があそこを占拠するCFAに大きな動きがあることを知らせてきた。
数日中にあそこには重要な”荷物”と”人”が訪れることがわかった。ダイアモンド・ドッグズは次にこの両方を抑えることになる」
「2つ?両方をか?」
「正確にはこれらは別々の話だ。まず荷物だが、例の会社系列から送られてきたそれを隣国のザイールにもちこもうという計画らしい。
空輸され、トラックに乗せたら護衛と共に空港を出るところまではわかっている。そこから先はどのようなルートをたどるかは、情報を待つしかないだろう」
「それじゃ、”人”ってのは?」
「ボス、最初にいったが別々の話だ。しかし、重要な人物である。
CFAのトップがあそこに例のサイファーと繋がりがあるとされる会社の重役をむかえることになっている。なんでも、新しい商売のことであそこの空港を視察したいということらしい」
「ほう、それは面白いな」
オセロットが物騒な笑みを浮かべる。
「CFAとは俺達がここに来てからやり合っていた。その上、最近ではさかんに俺達を非難している奴らだ。色々と面白い話を聞かせてくれるだろうな」
「カズ、この別々ってのはなんだ?」
「それなんだが、ボス。どうも時間は、ずれるだろうがそれほどの誤差はないだろうという意味だ。24時間以内にどちらも予定されるだろうと見ている」
「”人”と”荷物”か」
「今回はどちらも大きな獲物だ、取り逃がしたくはない。ダイアモンド・ドッグズの総戦力で完璧に行いたいと考えている」
時間が足りるだろうか?スネークは考えていた。
自分とスクワッド、さらに戦闘班がそこに加わるとなれば大所帯だ。
そもそもダイアモンド・ドッグズ自体がいまも膨張を続けている。戦闘班もついに60人をこえて久しく、このままでいくと100人を超える日もそう遠くはないだろう。
「できるだけ優秀で小回りがきくのを前線に配置したいところだな」
そう漏らすと、カズもオセロットも頷いた。
だが、彼等の願いはかなえられることはなかった。
その翌日、急きょ彼等の予定が決定したとの報がダイアモンド・ドッグズにもたらされたからである。
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スネークは開発プラットフォームを訪れていた。
ヒューイにDウォーカーの追加装備と、新しい計画とやらについて相談があるのだと言われていた。
「ああ、スネーク。来てくれたんだね」
どうやら自分が一番最初に来てしまったらしい。オセロットもカズもいないが、それが嬉しいのだろう。ヒューイはヘラヘラとあの笑みを浮かべると、MSFの時には見られなかった媚びた口調で何かを訴え出した。
「ここだけの、僕と君だけの話だ――メタルギアを超える兵器」
ほう、それを俺に?
ビッグボスは苦笑いを浮かべる。あれからもこの男は証言を素直にしようとしない、と聞いている。
時々、オセロットとカズに突つかれるので最近は必死で何かをしていると聞いていたが。自分に直接話してくれるというなら、それでも構わない。
「録音はやめてくれ」
「――ああ、テープはなしでいい」
カズは怒るだろうが、自分と話したかったと全力で訴えるヒューイが何をいうのか聞いてみたかった。
ヒューイはこれでも頭がいい、だれよりも自分の信頼をさらに失うとどうなるか。わからないわけではないはず。
「クラークっていう研究者を知っているか?先進のバイオ企業専属で――専門は生体工学……最近では遺伝子研究も」
「いや」
嘘だった。
知らないはずはない。クラークはスネークイーター作戦に参加していた。
自分も”彼女”と話したことは覚えている。最近、その時のテープも入手していたので”よく思いだして”いる。
「クローン技術のことは知ってる?」
あまりにも興味なさそうにしているこちらに慌てているのか。いきなり話が飛んだ。
「大事な事なんだよ。クローニングっていうのは――」
そこから先はもう話を聞く気にもなれない。
と、いうよりもそれについてはすでに”彼女”本人から直接聞かされた昔の――20年前の話でしかない。それにその話には”ビッグボス”はまったく興味がない。
「その話、お前は専門外じゃないのか」
「まったくの素人だ。でも君は興味があるんじゃないかと思って。『恐るべき子供達計画』のこと、『パラメディック』のことクラーク博士のこと――」
どうやらスカルフェイスとの9年で色々と楽しい話の断片を聞かされていたらしい。
その話の本当の意味するところを理解しないまま、ヒューイは今。このビッグボスと駆け引きをしようと、出来ると考えているのだろう。
こちらの変わらぬつまらなさそうな表情は仮面だ、その下では焦っているはずだ。そう信じたがっている青白い男の視線が不快だった。
ヒューイはそれでも帰納的推論とやらでパラメディックが、”彼女”がサイファーの関係者で。
このアフリカでサイファーが作っている『メタルギアを超える兵器』とは遺伝子工学を用いたものではないのか、などともっともらしく結論づけて見せてきた。
この哀れな男にチャンスは与えた。
それを無駄にしたいというのならば、仕方ないだろう。
「見当違いだな。だが話は面白かった、最近流行のSF映画に使えそうだ」
「ビッグボス、信じてくれ」
自分が勝負をすることもできないまま、負けたことが信じられないのか。両目が大きく開かれ、しかしまだ諦められないようで続けようという気配が見える。これ以上、このビッグボスが寝言につきあう理由は残っていない。
「誰に聞いたんだ?その話を」
「誰にって――」
途端に曇り始めるヒューイの口から、空虚な言葉が次々と飛び出してくる。
そんなものの相手を務めるつもりはないと、まだわからないらしい。
「なぁ、僕は君の役に立ちたい。協力したいんだ。だから――」
「そうか、それならお前の話し相手を呼んでやろう。お前がその調子なら、連中も根気強くつきあってくれるさ」
「ま、待ってよ。待ってくれよ」
慌てて泣きそうな声で懇願を始めるヒューイだったが、スネークが何かする前に部屋にオセロットとカズが現れるとピタッと顔が引きつって口も閉じられる。
「誰を呼ぶんだって、ボス?」
「お前達さ」
「ス、スネーク!?」
「遅いからな。危うく2度、ヒューイの説明を聞く羽目になるところだった」
別にかばったわけではない。彼にはやってもらうことがあるのだ。
「見てくれ、多脚駆動兵器の構想だよ」
冷静さを取り戻すと、ヒューイはそう言って設計図の青写真を渡してくる。
「メタルギアの技術をスピンオフしたものなんだ」
「スピンオフが大好きだな。コスタリカでもソ連の技術を流用したんだったな」
オセロットの嫌みにヒューイはたじろぐ。
MSFに参加する前。CIAの南米支局長、コールドマンとの黒い会話の一部始終はあそこにいた奴ならここにいる皆が知っている。だが、仲間だからあの時は誰もヒューイをとがめなかっただけだ。
「こいつには柔軟なフレシキブルな設計の自由度を持たせた。コアユニットを元にあらゆる戦闘局面に対応して、ハードウェアを適宜再構築することが出来るんだ」
「ボス、つまりこいつは簡単にカスタマイズが出来ると言っている」
カズがわかりやすく説明してくれる。
「よって、通常作戦では作戦成功の蓋然性を高められる。先制攻撃能力の向上により、さらにひいては敵性集団への抑止力の強化も期待できるんだ!」
徐々に気分が高まってきたらしい。
ヒューイにはあの時代にはなかった、熱に浮かされて翻弄される醜い姿をこちらにさらし。それに気がつかないまま自分の言葉に酔って、また浮かれた言葉を吐き出し続けていく。
「実戦投入の暁には、まるで紛争地帯へ噛みこむようにその戦闘力で敵を抑え込み、そしてやがては紛争という装置そのものに歯止めをかけていく。まさに”バトルギア”だ!」
ひどいスピーチだった。
ヒューイはあの頃よりも悪化していて、あの頃からなんにも進歩していなかった。
『核抑止』という幻想に踊らされて兵器を作り。結局、あの時にも世界の危機を招いたというのに。
今度はダイアモンド・ドッグズで紛争という戦闘への抑止とやらいう幻想を抱いて、この男は誰かに言われるままに兵器を作りつづけている。
「カズ、こいつは大丈夫なのか?」
ヒューイのことじゃない。彼が作ると言っている兵器のことだ。
「エメリッヒは気にいらんが、この兵器はいる」
そう言うとカズは最近のPFが戦車よりも小回りが利くような。つまりウォーカーギアのような兵器を使いたがっているのだという。ダイアモンド・ドッグズにも新しくDウォーカーよりも火力と機動力に優れたそれらに対抗できる兵器を開発するべきだ、そういうことらしい。
ふん、そうか。
スネークは鼻で返事をすると設計図を、まだ戦場をバトルギアで制している夢を見ているヒューイに返す。
「じゃ、指示を待ってるから。ビッグボス」
「開発は続けさせる。かまわないか?」
わかった、そう答えてさっさと自分はそこから出ていくことにした。
部屋を出る時、後ろからオセロットがヒューイに近づき「首がつながったな、先生」とプレッシャーを与えているのを聞いた。
オセロットは容赦しない。
ヒューイが決してつまびらかにしようとしない真実を明らかにするまでは、ああして彼を静かに苦しめ続けるのを止めないだろう。
そのまま伝説のガンスミス達のところへ行って次回出撃の装備の確認をする。
彼等が”快く了承”してダイアモンド・ドッグズに参加してくれたおかげで、スネークの銃器への不満は大きく解消されることになった。
スモークグレネードをつけたPSG-1と、新たにロングバレルを使用することで射程距離を伸ばしたハンドガンの試射をする。
少なくとも、スネークの準備は整い。いつでも任務につける状態にあった。
MGS4をプレイ中、このクラーク博士の正体を知って衝撃を受けたのが懐かしい。
あのパラメディック!?ってね。
ホント、この作品は毎回ストーリーをこねくり回してもなんとかしてくるのが楽しかったですね。