真実とは神罰、毒の味がする   作:八堀 ユキ

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2回に分けようと思ったけれど、半端な分量になったので本日は多め。


Riptide

 油田までの道はまさに不快で一杯のドッキリ箱だったことがわかる。

 スネークはそこに焼かれた村と、同じくそこにいたせいで焼かれた人々を見る羽目になった。

 そう日がたっていないのか、人はまだその姿をわかるように残してはいた。皮肉にも汚染域のそばという場所のせいなのだろう。死肉に群がる獣の姿は見られない。

 ズキズキと頭の奥が痛み出すのを感じる。よくない兆候だ、まだ任務中なのに。どのみちここで彼ができることもない。

 無言でここに入り込み、無言でここをながめ、そして無言のままスネークはこの場から立ち去ることにした。

 そうやってスネークもまた、ンフィンダ油田へと到着する。

 

 

 

 オセロットは部下達と共に、油田前の丘にある森の中から偵察していた。

 河川に設置されたこの油田は南側と東側の2カ所に人と物資の出入り口がある。自分達は東側にあって、もう1つの南側にビッグボスがこの瞬間にも待機している手はずになっていた。

 

「こちらオセロット。ボス、いるのか?」

『おお、来たな』

「待たせた。あんたのダイアモンド・ドッグズを連れて東にいる」

『オセロット、それは俺の台詞――まぁ、いい。ところでちょっと見てほしいものがある』

「ん?」

『油田の北側の建物だ。その2階の窓、わかるか?』

 

 なにか発見したことがあるのか?

 急いでオセロットは望遠鏡をのぞき込み。建物の北側の窓を探してみる。

 確かにそこには重要なものを発見した。窓の中からこちらに向かってヒラヒラと手を振って挨拶してくる呑気な義手の姿を確認したからだ。

 

「ボス、あんた何をやっているんだ?」

『おおっと、怒るなよオセロット』

 

 山猫はため息をついた。

 あれでも自分より年上なのだ、伝説の男なのだ。なのに、いつまでもこの男は……。

 

「違う、呆れているんだ。あんたと俺は静かに様子を見ているという手はずだったじゃないか」

『チャンスだった。うっかりそう思ったら動いていた』

「それ以上やるなら。俺は――俺たちは帰るぞ」

『わかってる。ここで終わるのを大人しく待つよ。はじめてくれ』

 

 オセロットは後ろに控えている部下達を呼び寄せて簡潔にここからの段取りを告げる。

 

「1番から4番まで、これから油田に侵入。制圧に入ってもらう。

 たがいにフォローしろ。だが敵に騒がれるな。

 目的は2カ所、ポンプの制御室とタンクがそうだ。気がついているかもしれないが制御室にはビッグボスがお待ちかねだ。間違えても彼を攻撃するなよ?

 蛇は獰猛に反撃するものだからな。痛い目にあうのはお前達自身だ。

 

 途中、変更して対空レーダーを爆破。後続班を投入することも考えている。全てはお前たち次第だ。幸運を」

 

 オセロットがそう言い終えると同時に、蛇たちは列をなして。今度はムカデのように一列をなして門の中へと入ると、建物の影に入って分散していく。

 夜の油田ではこうしてオセロットとスネークが見守る中、ダイアモンド・ドッグズによる静かな制圧作戦が開始したのである。

 

 

==========

 

 

 カズの使う指令室にスネークがいた。

 彼等は昨日の部隊によるンフィンダ油田への攻撃と評価をおこなっているのだ。

 

「多少の変更はあったが、油田攻略については我々の想定内で全てが終わった。一度は廃棄した油田を、そのまま無理やり動かしていたんだ。予定通り、2カ所を破壊しただけであそこはもう設備からを弄らないと再稼働はできないだろう」

「スポンサーは満足だった、そうだな?」

 

 破壊された油田の施設の写真を壁に映し出しながら任務の成功を喜ぶカズヒラに、スネークは淡々としていた。

 

「それで?まさかサイファーではなかった、なんて言わないでくれ」

「大丈夫だ、目星はちゃんとつけてあると言っただろう?――諜報班が確認した。この油田の再稼働に動いたという会社は幽霊(ゴースト)だと判明した。実際には小さなビルに、無人の部屋があるだけの会社だ。

 しかし、そこにサイファーからの多額の資金が流れ込んできて、現地のPFに仕事を依頼していた。今後はこの金の流れも手掛かりになるだろう」

 

 椅子に寄りかかって電子葉巻を手放せないスネークは「成果があったならいい」と口にするだけで、それ以上は何も言わなかった。やはり納得できないものが最後まであったのかもしれない。

 カズヒラは話題を変えることにした。

 

「とりあえず、終わって今、”はっきりと”言えるのはこれだけだが。

 あんたとオセロットの方はどうだったんだ?失敗した、ということでいいのか?」

「失敗は言いすぎだ、カズ。

 だが、そうだな。なにもかも、上手くはいかなかった」

 

 そう言うと煙を吐き出す。

 勝利は約束されていたものだったが、彼らの思い通りに描いたとおりではなかった。

 

 

 

 オセロットの警告が全てだった。

 

「おい!気をつけろ、気付かれるぞっ」

 

 巡回兵の1人が、影で動く侵入者の存在に気がついたらしく。その手に懐中電灯を構えて、しきりになにかを探しているのが遠目からでもわかった。

 しかしそれも懐中電灯をとり落とすと、兵士が崩れていくことでとりあえずの危機は去った。

 

『申しわけありません、オセロット。ボスッ』

「いい、続けろ」

 

 オセロットは言ったが失望の色は隠せなかった。

 隠れて見ていたビッグボスもそうらしく。無線の向こうで大きくため息をついているのが聞こえてくる気がする。

 ミスをしたのは、なんとあのゴートであった。

 彼自身か、彼の班なのかは分からないが。とにかくその潜入の痕跡を見られたのはまずかった。

 

『オセロット、次に進めろ』

「――いいのか、ボス?まだいけるぞ」

『最初から決めていたことだ。彼らにもチャンスは必要だ』

 

 やはりボスもゴートの声だとわかったようだった。その声には寂しさが混ざっていたが、彼の考えは変わらなかったようだ。

 

「こちらオセロット。次のステージへ進む、全員はその場で準備しろ。合図は敵が教えてくれる」

 

 オセロットが言い終わらないうちに、油田内で爆発が起こった。

 そこに設置されていた対空レーダーが破壊されたのである。

 潜入班は指示を受けてからその場に止まると、それぞれのライフルについていた消音器をとりはずしにかかる。これで撃てば、それこそ凄い音でバンバン撃つことになるわけだが、代わりに飛び出していく弾丸の威力は元の力をとり戻すという利点がある。

 

 ここからダイアモンド・ドッグズに強制的に制圧させようというのである。

 

 2機のヘリが現れると、一機が降下準備を始め。もう一機はそれをサポートするように周りにむかってバルカンを容赦なく撃ちまくっていく。

 同時に隠れていた部隊は影から飛び出していくと、天を見上げてヘリに向けて撃っている兵隊達の横から襲いかかった。

 

 結果、死者1名。怪我人6人を出したものの無事に任務は終了した。

 

「知りたかったことはわかった。あとは書類での選考になる。オセロットと相談して最後は決めることになるだろうな。戦闘班の主力を削ることになるのだから」

「それはかまわんさ。だが、早くしてくれよ」

「わかってる。待たせないようにする」

 

 とりあえず、今すぐに話せることは全て伝えたし。他にもわかったことはすぐに知らせる、ということを確認し合うとカズはおもむろに次の任務について口を開く。

 

「現在、うちで翻訳家となれる兵士をリストアップしている。とはいえ、入ってくる情報は少ない上に狭い範囲ばかりだ。多分だが、この地にいるPFと事を構えることになるかもしれない」

「そりゃ――大丈夫なのか?恨みをかって争いになるのは困るぞ」

「とはいえ、俺たちに他の”つて”もなにもない。

 大丈夫、所詮はアフリカの田舎PF共だ。俺達のような技術も統制もない。上手くやれば彼等に、我々の仕業だとわからずに”説得”出来るはずだ」

「そうなのか?」

「ボスなら出来る。俺はそう信じてる」

 

 苦笑しながらも席を立つスネークに、カズは再び声をかける。

 

「ボス、後で構わないが。オセロットと共に開発班とヒューイの新しい武器について話したい」

「そうか、わかった」

「もうひとつだ。ボス、クワイエットのことなんだが……」

 

 ピタリ、とボスはその動きを止めると。その亜麻色の瞳がカズをとらえた。

 カズはそれに少しひるむが、だが言わないわけにはいかないと

 

「あの女はサイファーだ、ボスはどう考えているのか教えてくれ」

 

 そう聞いた。

 確かにいまさら「お前の言うとおりだ、殺そう」なんてこのスネークが言うとは思わない。それならあの日、こっちも鉄壁の布陣を敷いて完全に受け入れを拒否したことでも明らかな意思表示を見せた。

 だが、それでもボスはあの女を捕虜とした。

 オセロットはわざとやっているのだろうが、捕虜のくせに自由気ままにこのマザーベースを歩き回るあの女の存在に、おののく部下と違いカズにも不満をもっている。。

 

 だが……。

 

「カズ、お前はいった筈だ。俺が連れてきた兵士は仲間になるようにお前とオセロットが中心となって説得する、と」

「サイファーだぞ!?」

「だが兵士だ。そして俺が捕虜にした。これまでと何が違う?」

「あの女は話さないんだぞ、コミュニケーションが取れないんだ!」

「それならクワイエットは捕虜だ、それはかわらない。違うか?」

 

 そうだ、サイファーならこのマザーベースを知った以上は生かしては返せない。

 だが、捕虜と言うならばちゃんとそれなりに扱わなければ、俺達の志の矜持をしめすことにならない。

 

(だが、それでは皆は納得しないんだ。ボス、俺は。俺達はあの女が怖い。恐ろしくて目の前にいてほしくないんだよ)

 

 こう言えば確かに楽になっただろう。

 だがそれを理由に殺すことはできない。前にオセロットにも不満をぶつけた際に、そう指摘されれば何も言い返すことはできなかった。

 何より信じられないのはオセロットだ!

 

 あの男、冗談でもあの化物女をボスの相棒にするなんて……本気じゃないだろうな?

 

 

 

==========(Riptide Ⅱ)==========

 

 

 

 日が沈んだ後のマザーベースのプラットフォームを歩くオセロットは、首元に射抜くような強い視線を感じて思わず足を止める。

 周りには巡回中の兵が1人、こちらに気がついて敬礼をしてくるだけで他には居ない。

 だが、このさっきとは違う感覚は……?

 

「そうか。わかったぞ、いるんだな?」

 

 最初の言葉には、相手が反応しなかった。周囲にも変化は生まれなかった。気のせいだったのだろうか?

 

「とぼけるなら俺は行くぞ、クワイエット」

 

 名前が出るとその瞬間に、クワイエットがいきなりオセロットの前に姿を現すと。それを見たそばにいた兵士は驚いて思わず尻もちをついてしまい、彼女に銃を向けようとする。

 オセロットは兵士に大丈夫だ、と手で伝えるとこの場を去るように指示する。

 

「別に散歩は構わんが。あまり兵を脅かして遊ばないでもらおう、お前は一応。『我々の捕虜』、なのだからな」

 

 オセロットの言葉に刺激されたのか、ややも挑戦的な目を止めないまま沈黙を続けるクワイエットに対し。オセロットはすぐに不満を吐き捨てた。

 

「別に俺は構わないが、話があるならつまらない意地を張るのはやめろ。

 俺はお前に用はないし。俺と戦いたいというなら受けてもいいが。そんなことをしても意味はないぞ。

 さて、話があるんだろう?」

 

 そう聞くと、クワイエットは間髪いれずに思いっきりプラットフォームを踏みつける。足元に嫌な振動を感じて、さすがにオセロットも顔色を変えるが、クワイエットの目つきの変化を見て取った。

 ざわつく空気が、波を引くようにいっせいに静寂へと洗い流されて穏やかなものとなっていく。

 

「やはり話さない、か。

 わかった、お前はそれでいいだろう。お互いやりやすい形と言うものはある――お前、あのボスの部隊について聞いたんだな?興味がある、と。

 だが、はっきり言おう。

 お前は部隊には入れない。彼等はボスが認める兵士達だ。技術、判断力だけではなく、戦場で共に戦うまさに選ばれた戦友。

 だがクワイエット。サイファーとしてボスと勝負を挑み。その後も我々とのコミュニケーションを拒否するお前を受け入れる部隊はない。あのカズヒラ・ミラーが言ったことが全てだ」

 

 だが、そこからニヤリと笑みを浮かべてオセロットは言葉を続ける。

 どう見ても悪いことを考え付いた、そんな顔だった。

 

「それでも、お前にも一つだけチャンスがある。部隊はお前を受け入れないだろうが、ビッグボス本人なら違う。

 言いたくはないが、お前と戦うボスは。彼が復活してから初めて心の底から戦いを楽しんでいた。

 お前、なかなかセンスがある、俺もそれは認めてもいい。

 クワイエット、お前が望めるのはひとつ。まだこのダイアモンド・ドッグズでは誰も成し遂げられていないことだ。それに挑戦する気はあるか?」

 

 答えはなかったが、もう聞く必要はなかった。

 クワイエットは無言のままだったが、その目は「早く教えろ」と言っている。

 

「いいだろう。一度だけ、口を利かないお前に機会を与えてやる。実力はそこで示すんだ。

 俺はこの後、カズヒラとボスと話をすることになっている。そこである任務の話をするつもりだ。このアンゴラの大地を数日間、旅をすることになるだろう――そういう奴だ。

 お前はそこでボスの相棒としていくんだ。

 そこではそうふるまっていい、俺が許してやる。だが忘れるな、そこでボスに認められなければお前はこれからもただの『捕虜』だ。

 わかったら、数日は騒ぎをおこさないで大人しくしていろ。ボスを連れて、お前のところへいけば。それがお前の任務のスタートとなる、わかったな」

 

 オセロットから約束を手に入れたことでとりあえず満足したのか。

 クワイエットは踵を返すと、再びその姿が透明色となってプラットフォーム上からかき消えていく。

 

 クワイエットがこの場を立ち去ったことを雰囲気で確認すると、オセロットも再び歩き出した。どうやら面白いことになりそうだ。彼自身も、あの女をボスがどう飼いならすのか見てみたいと本気で思い始めていた。

 

 

==========

 

 

 カズとヒューイが待つ部屋に、ビッグボスとオセロットが訪れた。

 それに合わせてそこにいた警備兵は退出する。今日のスネークはビッグボスらしさを醸し出したいのか、あのシュールなアロハ柄の短パンではなく迷彩柄のBDUパンツにブーツを履いていた。

 これでも一応は、考えているということなのだろうが。豪快な彼のそんな気の使い方が可笑しくて、オセロットに続いてカズも口元に笑みを浮かべる。

 

 ヒューイが早速報告をしてきた。

 

「やぁ、ボス。あんたに使ってほしくてさっそく作ったんだよ。まずは見てほしい」

 

 そこにはあのサイファーのベースキャンプで見たウォーカーギアが一台あった。しかしよく見ると、細部があれとは違うものがあることがわかる。

 

「ウォーカーギアだ。ソ連で使ってたやつだよ。それの最新の機動データをもとに再設計しなおしたやつさ。名づけるなら――D-Walkerとなるかな。

 機動をさらに上げるため、新たに走行システムを加えたんだ。それだけじゃない、武装も用途に応じて幅広く用意できるし。なによりもDウォーカーには使い方にも広がりを持たせられるようになった。

 これなら十分以上に君の役に立てると思っているよ」

 

 その言葉こそ、MSF時代の彼を思わせるものではあったが。あの頃よりも遥かに媚びの色が強く、それだけ世俗にまみれて狡猾さを彼も学べたという証なのだろう。

 カズは「どう思う、このオモチャ?」という表情だったが、スネークは素直に思ったことを口にすることにした。

 

「ヒューイ、こいつは本当に使い物になるのか?」

「ちょ、ちょっと、スネーク。それはひどいよ。なんでそんな事を言うんだい?」

「俺も回収したウォーカーギアには短時間のせてもらった。アレは今、ここにある(兵士のオモチャにされてる)が、これが使えるとは思っていない」

「ど、どうして!?」

 

 口元が寂しく思うが、今は手元に葉巻がない。

 いつもの偽者の葉巻じゃない、本物が欲しかった。顔をゆがめたが、それがヒューイにはより一層不快に思っているという印象を与えたかもしれない。

 

「いいか、ヒューイ。

 俺達はソ連軍じゃない、傭兵だ。地上をいくアフガンの、ムジャヒディンを集団の軍を持って圧倒する。そんな目的のために作られた機械が必要なことなど多くはない。

 それに話しぶりを聞くと、こいつはあのウォーカーギアにあった左右、前後運動を挟む際のわずかな姿勢制御に時間をとられることも解消しているんだろう?」

「流石だよ、ボス!それを見破るなんて、驚きだ。その通りさ」

「つまりより高価で、メンテナンスにも時間がとられるということでもある。そして元が無人機を想定しているせいか、シルエットが頼りない。運用効果には疑問を残す」

「待ってくれ!もともとアフガニスタンの岩と山の大地を走るように設計されているんだよ。強度については信じてほしい。全く問題はないよ、見た目で決めないでくれ」

 

 ならば、と。スネークは置かれていた搭載できる武装と”開発すれば”使えるようになるシステム一覧の載った紙をとりあげた。

 

「追加できる武器も機能も安くはないぞ。荷電式非殺傷兵器にフルトン強制射出装置?ステルス装置は最新を謳ってはいるが、こいつは人体に影響があるから俺がいると使えないんだろう?」

「ああ、まぁ。そうだね」

「弾薬の増加もできるというが、それも金を出せばと言う前提ばかり。言うほどに誉めるべき点の少ない兵器だぞ、本当に大丈夫なのか。ヒューイ?」

 

 どうするんだよこれで、と問いかける表情を見せるスネークの影から。オセロットがゆらりとあらわれるとヒューイの背後に移動する。すでに彼への恐怖に骨の髄まで震えあがっているヒューイはさっそくオドオドとし始める。

 

「今のところ、この男には開発するリストに載るものより。聞いておきたいことのリストの方が溢れかえっている、そうだよな先生?」

「あっ、ううっ」

「研究室の空きはうめられるが、彼用の独房はいつでも使えるし、話をまた聞いてもいいかもしれない。先生だって、自分の身の潔白は証明したいそうだし。そっちにしばらく移るかね?」

 

 この氷を思わせる冷たい言葉で、震え上がらない男はいない。

 あの恐怖の空間に連れて行かれたいと思うことはない。

 

「まっ、待ってくれ!わかった、わかったから。ちょっと、時間をくれ」

「時間だと、先生?」

「今!――今、このウォーカーギアとは違う。別のコンセプトを持った計画を考えている。もちろん、まだ絵図面前のものだ。ビッグボスにこれをつかってもらって、仕様感とか。

 その上でちゃんとしたものを出す。D-ウォーカーは悪くないよ!

 でも、わかった。皆がこれでは足りないとか、欲しいとか要望を出してくれれば必ず、その不満を解消したものを提出する。だから時間をくれよ」

 

 まぁ、これでいいだろう。

 オセロットの目で送る合図を受けて、ビッグボスはしょうがないという風にヒューイの申し出を受けることにした。

 

 

==========

 

 

 研究開発班の活動する開発棟の一室に通されたスネークはここでも不満そうな顔をしていた。

 追加される新しい武器を見せてもらっていたのだが、これが随分と彼の機嫌を損ねているのである。唇をなめ上げると、さっそく指をさして声を上げた。

 

 

「カズ、これはなんだ?」

「ああ――どうした、スネーク?」

「どうしたもこうしたも……これだ。麻酔ライフル?麻酔銃?こんなものでどうしろと言うんだ」

「なんだ、まずかったか?」

「最近の流れにある非殺傷武器だろう?だがな、本来戦場で武器とは相手を制圧するためにあるんだぞ。それを威力を減じて非殺傷性を売りにするなんて――」

 

 予想していなかった怒りの声にカズはあわてる。

 

「だが、昔も使っていただろう?」

「MSFの時のことだ。今の話じゃない。それにこういうのは結局は欺瞞だ。薬の効果は一定しない、当たり所が悪けりゃ結局は死ぬ。あっちの連中はノリがいいのか分からんが、パタパタ倒れてくれたから。俺も面白がって使っただけだ」

 

 コスタリカでの意外な事実が判明した。ノリの違い?だからアフガンでは冷徹なソ連兵には絞め落として回ったというわけか。

 

「あー、こっち(アフリカ)でなら付き合ってくれるのでは?」

「そうか?そんなノリは感じないぞ」

「いや、試してみないとそれは――」

「MSFのことをいうならカズ、この技術は進歩しているのか?」

「も、もちろんだ。麻酔なら、当たれば約5割の確率で……」

「約?本当の数字は?」

「――41%だ。しかし、40以下ではないから、間違いではないっ」

「屁理屈をいうなっ」

「ううむ、そんなに怒るとは意外だぞ、ボス」

 

 ヒューイに続き、まさか自分も駄目だしされるとは思わず。

 カズは困惑していた。

 

「し、しかしだな。こういうのは、一応用意しておいても困るという話では――」

「見ろ!オセロット、ゴム弾仕様のまで増やしている。まったく、これじゃヒューイを笑えないぞ。カズ、おもちゃじゃないか」

 

 不機嫌になって武器を触りもしなくなってしまったビッグボスだったが、オセロットがカズに助け船を出す。

 

「しかしボス、実戦形式の模擬戦などでも役に立つし。捕虜が逃亡した時などにも生きて捕らえようとはすることが出来る。それほど怒る話しではないさ」

「そ、そうだぞ。ボス、怒らなくていい」

「――それならカズヒラ。お前もちゃんと理由を言うべきだ」

「な、なに?何を言い出す、オセロット」

「ボスが怒っているのはこんな時にわざとらしく出されたんで怒っているんだ。何かを隠しているんだろう?さっさとそれを話してしまえ」

 

 ミラーは顔をしかめると、しばし無言だったが。ついに口を開く。

 

「実はこのアンゴラへのルートを作るのに環境NGOなどの力を借りたのだが――」

「NGO?……それについては聞いている。なにか密約でもあったのか?」

「そこまでいうほどのことではない。いや、ある!」

「どっちだ、カズ」

「それが微妙な話なんだ。

 実はアフリカの生態系が崩れるのを彼等は気にしていてな。自然の動植物の保護の協力を求められている。別に必死にやる必要はないのだが、だからといってなにもしないわけにはいかない。彼らにはそれなりの成果が必要だ」

「俺達に、アフリカで狩りの趣味を持てと言ってるのか?」

「そうは言っていない。だが、任務中に見かけたらちょっと撃ってフルトンで回収してほしい」

「フルトンで?動物に?そんなことができるのか!?」

「今回のために一新された装備を見てくれればわかる。これもサイファーを追うために必要なことだ。よろしく頼む」

「やれやれ……」

 

 賑やかな会合も話はおわろうとしていた。

 今夜の最後にビッグボスは告げる。「とりあえず決まったやつがいる」と。

 

「ではボス、募集は前回と同じで8人?」

「ああ、あくまでも再編成だからな。今回は数を減らすのはやめた」

「それで、誰になった?」

「女性兵士達から決めた。っというより、圧倒的でこれはやる意味はなかったな」

「もともと女性兵士は技術職が多い。戦闘を得意とするあいつ等がおかし……珍しいんだ、ボス」

「そうかもな」

 

 あのフラミンゴ、ハリアー、ワスプがこうして部隊に残留を決めた。

 

「残りは男共か?ボス」

「そうなるな。だが、そっちはやはり混戦になりそうだ。いい奴が揃っている。よく考えたい」

「出来るだけ早く決めてくれ。あんたの次の任務も近い」

「それだが、2人に提案がある。ボスの任務、少し先に延ばせないか?」

 

 オセロットがいきなりそう言いだしてきた。

 

「実はボス、あんたがマサ村で捕えた男が面白いことを言っている。どうもここに伝説のガンスミスとその弟子達がいるらしい。彼らを集めて、このダイアモンド・ドッグズに加えたいと思ってる」

「ほう、面白そうだ」

「だめだ!ボスにはPFへの偵察を頼みたいと思っている。それにはボスが必要だ」

「しかし――」

 

 話し合いの結果、ビッグボスは次回の任務の終了後に合流となり。先にスクワッドだけで伝説のガンスミスの手掛かりを見つけに行くということになった。

 

 オセロットはわざとこの席では何も言わなかった。

 彼が約束した、クワイエットへのチャンス。それこがそこの任務を差していて、彼はビッグボスとスクワッドに彼女が扱えるのかをみてやろうと企んでいたのである。

 この男、時にそのやり方は敵か味方か、惑わせるクセを持っている。


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