いつもの3倍(違った、4倍だ)だけど、オリジナルの時はこれが普通だったし問題ないよね。あと出来立てホヤホヤだから誤字脱字も多いかもしれません。
ということで、最終回をどうぞ。
ヴェノム・スネークがアウターへブン陥落とともに死んでから3年。
1998年、アメリカはアリゾナ州に、2人の男女の姿があった。
それはかつてはワーム、ウォンバットのコードネームで呼ばれていた2人である。
彼らはこの日、この場所に住む古い友人の元へ訪れようとしていた。
そして長らく会うことのなかったかつての若者達が会いに来てくれたことに、コードトーカーと呼ばれた老人はとても喜んだ。
彼らは共通の友人であるアウターへブンで死んだヴェノム――ファントムの話を避けたが、そのかわりに彼女のことが語られる。
「クワイエットは、ここにいた」
ただでさえあの時も小さいと感じていた老人の体は、そこから一回りまた小さく丸まって見えた。
「だが今はもういない。亡くなったよ……去年の春のことだ。私は、結局あの娘の力にはなれなかった」
そうつぶやく声には、悲しみの色が深くにじんでいた。
クワイエットの死は、多臓器不全からの窒息死。
彼女の穏やかな日々の最後に待っていたのは、残念なことに地獄の苦しみが待っていたことになる。
体を覆う虫たちは、弱っていく彼女自身を回復させようとフル活動したことで、ついに彼女を構成するものが生きることに耐えられずに壊れてしまったのだ。
いつも付きまとっていた少年は、その週はたまたま忙しくしていて彼女と会っていなかった。
彼女は自宅として使っていた車の中で、苦しんだ証として残される苦悶の表情のままで死んでいた。
調べてみると数日を苦しんで、床の上を這い回った形跡はあったが。無線機はそのまま、ドアから外に出るそぶりもみせていないことから。どうやら外に助けを求めなかったことまでが、わかった。
「奴の死が、逆に彼女に覚悟を決めさせたのかもしれない。実際の話、苦しんでいた彼女の元に駆けつけたとして。私にできたことなどたかが知れていた」
「――そうでしたか」
ワームと呼ばれていた男は、そう答えながら自然に自分の失った右眼と右腕の義手を握り締めていた。
悲しいとか、怒りではなかった。何かはわからない、感情の塊がゴロゴロと落ち着かなく動き回る。そんな感覚をどうすればいいというのだろう?
思えば死んだあの人も、クワイエットのことをずっと気にしていた。
その彼女が、穏やかな生活の中で、自分よりも後に死んだということが慰めになるだろうか?この問いに答えはない。
「わかっていると思うが。ここにもCIAの目が、向けられている」
「ええ」
「彼等の活動の範囲外だからか、別に監視されているが。それだけだ」
ビッグボスの蜂起以降、確かに政府の居留地への目が光るようになったのは間違いない。
少し前までは先住民族との会話を求めた大統領であったが、それが突然にして無言のまま態度を翻したのも時期的にあっている。
先住民居留地の若者達の失業率はついに50%をこえ、まだまだあがり続けている。
あわせるように、自殺率も犯罪率と共に上昇傾向にあり。郵便物の配達も、月に一回から。半年に一回まで後退した。
電気と水は通っているというが、不安定でつながらないことが多く。「過去がよみがえるようだよ」などと老人同士、昔の苦痛の日々を思い出しながら笑いあって、日が沈むのと同時に寝床にもぐりこんでいる。
白人はこの国を奪ってから、一度として自分達につけた手綱を緩めることはなかった。奪われてから民族の中でずっと燻り続けている彼らの中の報復心と疑念。
彼らはそれが自分たちに向けられることを恐怖し、脅威として認識しているからだ。そしてきっと、この生活はこれからもさらに厳しいものになるのかもしれない。
「それなのですが――」
「ん?」
「相手が政府とはいえ、覗き見されるのは不快でしょう?何もかもできる魔法の飴は持っていませんが、それくらいなら何とかできます」
「おお」
「というより、何とかしたんです。だから、我々はここに来ることができた」
「こりゃ、嬉しい土産をもらったようだ。感謝する」
「いえ、それほどのことでは――」
そういって笑うワームの隣に座るウォンバットは、持ってきたアルミケースを膝に置くと。その中身をひらき、お互いの前に置かれている机の上に差し出した。
「われわれが来た理由は、こいつなんです」
「――スカルスーツだな」
「ええ、この2着が。最後のスーツです」
「……2着だけ?」
「――ビッグボスが、あの人がそう決めました。
あれはダイアモンド・ドッグズの解散劇を演出したときでした。私達のボスは、自分と他の部下たちの使うスカルスーツを全て破棄したんです」
「ではこれは?」
「これはずっと俺達にだけ管理を許されていたスーツです。
正直に言うと、このスーツを使う奴は自分たち以外にほとんどいなかったんです」
「お前達は違ったわけか」
「自分達は与えられた任務の内容で使用を決めてたので――。でも、こいつのせいで踏み絵にされました」
「ほう、なにがあった?」
「俺達のボスは、自分のスーツを破棄すると。俺達を呼び出して聞いてきたんですよ。『スーツを破棄するなら、アウターへブンへの参加を許可してやる』ってね」
苦笑いを浮かべる2人に、老人は好奇心を刺激されて問わずには要られなかった。
「それを、お前達は断ったか」
「ええ」
「はい」
2人の答えは同時だった。
「理由を聞かせてもらえるかな?」
「――勘、だったんだと思うんです。
あの人はもう、私達の力を必要としなくなっていた。独りで戦場に出るのが、普通のことになってしまった。
でも……でもまた、力が必要になった時。私達がそばにいられないなら、このスーツはそもそも私達にもいらないものだったから、ですカネ」
「ふむ、面白い意見だ」
「そうですか?」
「――役には立たなかったか?お前達の元に残した虫達は」
「いえ!そんなことはっ――そんなことはありませんでした。助けてもらった、本当に」
スカルスーツがなければ、そもそもあのビッグボスの死に目には間に合わなかっただろうし。脱出したこの2人が助かることもなかっただろう。
「そうか。それならよかった」
そういうとスーツケースの蓋に指を伸ばし、静かに閉じると膝の上に抱えこむ。
「全部だ。ようやく全て、戻ってきてくれた」
老人の顔に穏やかな笑みが広がっていた。
2人も今ならわかる。あの人は、この老人にこう思ってもらいたくて。自分の主義主張をねじ負けてまでも生きることを拒否したのだということを。
それは今でも悲しく、受け入れたくはないことだが。
だが、きっとこれが誰にとっても『この未来』ではよい結果なのだと思うしかない。
しばらく無言で、静かな時間が流れた。
だが、感傷は唐突に終わりを告げる。
「だが、どうしてだ?なぜ、今なのだ2人とも」
コードトーカーの新しい疑問には、2人はすぐに答えることはなかった。
一瞬だけ鋭い目を見せると、お互いがその目を閉じてしまう。
そうだ。
2人はそうする理由。それが今である理由は、確かにあったのである。
==========
オーストリアにあるグラーツは、ウィーンの西南150キロにあるこの国、第2の都市であり。町に並ぶ建築物の多くが中世のものとされる旧市街は、それじたいが世界遺産に登録されているという場所でもある。
ほかにもエッゲンベルク城や、近世の軍に対する守備隊のつかう武器庫(ツォイクハウス)が、今は博物館となって公開されていることでも知られている。
だが、そんな観光地にしかめっ面をするだけではなく、剣呑とした雰囲気を漂わせた。不穏な会議が開かれていたことを知る人は、いないに等しかった。
両者はともに海運業を営んでいる商工会の代表という話であったが。
明らかに町の小さな会議室でかわされる話題は、ビジネスのそれではないことがわかってしまう。
そこには7人の男女がむかいあっていた。
片方は5人、そして2人のほうは――ワームとウォンバットである。
「困ったことになりましたねぇ」
5人組の中の一人は、そう口にしてため息を吐いた。
だが、2人の顔に変化はない。ずっと同じ、涼しいものである。
「お伝えしておいたはずです。今日のこの会議は、とても重要なものであると」
「ええ」
ウォンバットは机の上のジュースをストローでずずっと吸い上げ。
ワームは平然と無言でうなずくことで相手に同意を示す。
「では、どういうことなのか説明を願いたいですね」
「なにについてです?」
「あなた方、おふたりの名前がここに載っていない。いや、それどころかこちらが把握している顔がリストに入っていない」
「それが?」
「――本気でそれを口にしているのですか?あなた達は……あのビッグボスの仲間だったじゃないですかっ」
ついに我慢し切れなかったのか。
5人の目は鋭くなり、責めるようなそれを2人に向けた。いや、それどころか不快感や侮蔑、憎悪までもが見え隠れしている。
だが、2人の様子に変化はない――。
アウターへブン陥落からしばらくすると、世界中の戦場に奇妙な噂が立ち始める。
アフリカで死んだはずのあの男が、みたび戦場へと還ってくるという予告である。それにあわせるように、特定のネットワークに『ビッグボスのもとへ帰還せよ』という、メッセージが伝えられた。
世界中の傭兵達は多くが目を輝かせ、そのメッセージに反応して動き始める。
だがそんな中にあって、不思議と緩慢に動く集団が複数存在した。それらにはどれも共通点があり、かつてはすべてがひとつの物。アフリカのセーシェル沖で輝かしい存在となって世界にその名をとどろかせた、あのダイアモンド・ドッグズの。あのビッグボスのかつての部下――仲間たちの今の姿がそうであったのだ。
「この戦いはあのアウターへブンの雪辱戦である」
本来であるならそう口にして一番に参加をしてくると思われた者達のこのていたらくに、ビッグボスのメッセンジャー達はついに直接こうして対面を果たすことになったのだ。
だがそこでも、彼らの態度は信じられないものであった。熱をまったく感じられない。これは一体どういうことなのだろうか?
誰かに説明してもらわねば納得などできなかった。
「結集のメッセージの後、我々の中でビッグボスとともに立つと答えた戦士はそちらに先ほど渡したリストにあります。あとは――」
「協力する気はない、と?」
「そこまで厳しい言葉にされると困惑します。ただ、こっちもあれからトシをとりすぎた。それだけですよ」
「それが、貴方たちだと?」
「自分達も戦場から離れて3年になります。もう、我々ではそちらのお役には立てないでしょう」
「そんなことはっ」
「しがみつかれてもこちらも困るので。そろそろ終わりません?」
「――っ!?」
絶句するしかなかった。
だが、後ろに控えた誰かが代わりに口を開く。
「ビッグボスですか」
「なんですって?」
「ここにビッグボスが同席していないことが、あなた達を参加させない理由なのか、と思いましてね」
「別に、そういうわけでは――」
苦笑いを浮かべ、そろそろ本当に失礼しようかとする2人の様子に止めることのできない5人は惑う。このままいかせていいのだろうか?それとも――。
だが、ここで第三者が隣の部屋からいきなり扉を開け、ごくごく自然に振舞うようにして入ってくる。入ってきた人物を見て、全員が同じ名を口にした。そう、ビッグボスと一言だけ。
淡い黄色のスーツ姿のビッグボスがそこにいた。
キプロスから世界の目を逃れ続けていた男が、そこに現れた。
ビッグボスはあわてた様子の5人の部下に、仕草だけで心配は要らないと伝えると、ワームとウォンバットの前に立つ。
「久しぶりだ――2人とも」
「……ビッグボス、お元気そうだ」
「ボス、お久しぶりです」
会ったこともない3人が、こうして出会ってしまった。
これから何を話すのか、何をしようというのか。一切がまったく予想ができない。
==========
会議室の中から5人が出され、ビッグボスとかつての部下2人だけが残された。
自分の部下がちゃんと外に出たのを確認するとビッグボスは向き直る。
一方で、2人はじっと登場から目の前の男を――ビッグボスと名乗る男の顔を凝視し、なにかを探るような目つきを見せていた。
確かに彼そっくりだ。
とてもよく似ている。だが――それ以上に、まったく違っていた。
彼の戦いの日々を象徴するような、あの傷だらけの顔はそこにはない。
アウターへブンを直前に、とれたといっていた鉄の角のあった部分には。中のものがのぞけるような穴は、傷跡としてすら存在していなかったようだ。
だがそれ以外は――。
身長も、その佇まいも、あの時置いてきてしまった人のそれであった。
そんなふうに感傷的になりかけている2人に対し、ビッグボスは冷静にまず宣言した。
「先ほどは感謝する――だが、もう隠すことはできない。そうだ、私は確かに君たちがよく知っているあの男。あのビッグボスとは別人だ。君たちとも出会ったのは、今日がはじめて」
さすがに3人になってしまっては、どう切り出そうか迷う2人にいきなりこれである。
そしてこれだけで、2人は容易に疑問を口にすることができなくなってしまった。
「とはいえ、いきなり私からすべてを話そうとしても。君たちがついてこられなくては意味がないだろうと思う。だからその前に、知りたいことはあるかな?」
「……いいですか?」
ワームはさっそく手を上げた。
「どうぞ」
「これは――ようするに、なんというか。俺たちのボスは、あなたのファントムだった。そういうことですか?」
「うむ、いきなりそれか」
「はい」
「いや、いいんだ――ということは、やはり君の仲間たちもやはり気がついていたんだな?彼が、あの男がもう一人のビッグボスではないか、と」
ビッグボスの問いかけに、2人は同時にうなずいてみせた。
戦場を駆け巡る、あの「ビッグボスへ帰還せよ」の話題が耳に入るようになってしばらく。
元ダイアモンド・ドッグズの仲間の一人が、とんでもない仮説を口にしたのである。
ビッグボスは一人ではない。
いや、それどころか複数が存在するのだ、と。
この結論に至るきっかけとなったのは、あの93年にビッグボスが突然米国へ帰還を果たした事件に注目したからである。
世界は、彼を傭兵ビジネスからはじき出された老人と見ていたが。
ダイアモンド・ドッグズ(正確にはこの時はすでに元、がつくのだが)の兵士達から見れば、偽装解散を利用しての、偽者のビッグボスを自分たちで立てたのだろうと考えられていた。
それでも何人かの兵士は、ヴェノムに直接。FOXHOUND司令となったビッグボスについて聞いたことはあったが、本人はまったくそれには興味もないようで、それまでと同じくまじめに取り合おうとはしなかった。
そして兵士たちもまた、どうでもよくなってしまったのだ。
なぜならすでにその問いは以前にもあったものだったし。ビッグボスのつくるアウターへブンはその時期はさらに加速をはじめていて、すぐに忙しさに追われて気になどしていられなくなったからだ。
だが、兵士はそこで考えたのだという。
アウターへブン。政治ではなく、武力というそれだけで存在する武装国家。
これほど荒唐無稽な存在を実現させられるのは、まさしくビッグボス本人でなければありえない。
だが、一方では。彼はダイアモンド・ドッグズの兵士の全員を参加させようとはしなかった。
偽装解散を利用し、世界にダイアモンド・ドッグズの流儀をよく知る兵士達を拡散させてみせた。それはヨーロッパに、北米に、南米にとすでにその芽を伸ばし始めている。まるで自分が失敗したときのために――ビッグボスの消えた世界に小さく、弱くとも何かを残そうとするように。
では、アウターへブンの兵力は足りなかったのか?
そうではない。
足りないものを補うように、なぜかもう一人のビッグボスの部下たち。FOXHOUNDの兵士たちがそこに入ってきて、作戦に参加して見せた。
つまり、その時いた2箇所に存在したビッグボスは。
互いに動きを察知しながら状況に対処していたという可能性が出てくる。
「あの要塞の建設には、多くの資産が投入されていました。
国連から漏れた情報から、列強がそこをかぎつけるのも時間の問題だった。自分たちはそのことをよく知っています。
だから不思議でしょうがなかったんです」
「なんのことだ?」
「メタルギア」
そう、あの鋼鉄で作られた2速歩行の獣。
蜂起の宣言と一緒に、その切り札をビッグボスは世界に公開した。
「あれは外から持ち込まれたものでした。決して、私たちのボスが生み出したものじゃない」
「――なにか大きな動きをみせれば、どうしてもその手がかりがこぼれおちてしまうものだ。そうだな、確かに。
君たちが真実にたどり着く情報はそろっていた訳だ」
「じゃあ――」
ビッグボスの顔が歪んだ。
それがあまりにも突然だったので、驚いた二人は言葉を失ってしまう。
「ビッグボスのファントム。それは君たちの口からは出さないでほしい言葉だ」
「え?」
「君たちにはぜひ、わかってもらいたかった。あの男が、どれほど任務に忠実だったか――ビッグボスの意思、それに全てをかけていたのかを」
「……」
「私は、ビッグボスとして。彼のために君たちにずっと伝えなければならないことを、ようやくここで果たすことができる。
だからこうして、わざわざ会える機会を待っていた」
相変わらず苦しげに歪んだ表情のまま、しかしその目は。すでにこの世から消えた友のことで悲しみに沈んでいた。嘘はそこにはない、本心だ。
「すべてはそう、あのキプロスで目覚めたときから始まったことだ」
ヴェノムの歩いた11年。
そこに隠されたもう一人のビッグボスの物語が、ようやく始まろうとしていた。
==========
私には何もなかった。
苦しい思いをして、ようやくMSFを成長させたが。攻撃を受けた私は、力も、仲間も、そして自分に残された時間までも奪われてしまった。
そして私はそのことに愕然とする時間すら、与えてはもらえなかった。
いや、これはあまりにも弱気な言葉だったな。
だが事実を的確に捉えた表現ではある。
私の目覚めを知って刺客が放たれていたし、それを前に逃げる準備はまったく整ってはいなかったし。私個人でどうにかする力も残されていなかった。
不本意ではあったが、友人達の力を借りるしか私が生き残る選択肢はなかった。
彼等が出してきたのが、そうだ。『ビッグボスのファントム』で時間を稼ぐ、という方法だった。
いかなる犠牲を出すにしても、とにかくその場から生き延びなくては次はない。この言葉のもつ魅力には逆らえなかった。
だが私は……。
このビッグボスにファントムは必要ない、存在だった。
当時はスカルフェイスについて何も知らなかったが、奴のような存在が遠からず自分の前に立ちふさがることは想像がついていた。
そいつらにまがい物のビッグボスをぶつけてどうにかできると本気で考えられるか?答えは簡単、ノー、だ。
だが、話を聞くとそれほど悪くない計画だと思えるようになってきた。
そうだ、君たちの知るビッグボス。彼は元は私のMSFで、トップの成績を誇っていた男だった。
私は知りたかったのだよ。
MSFで私が成し遂げようとしたものが、彼の中にもきちんと受け継がれているのだろうかと。その結果が出なければ、そもそも私のやろうとしたことは全て無意味なものでしかなかったということになる。
病院で彼と一緒だった時。
そのことを思い出してもらいたくて、私はとっさに彼に言ったんだ。
「お前がエイハブ。こっちはイシュメールだ」とね。同じ日々をすごし、同じ戦場を戦った仲間でもあった。その中で伝えた技術、そしてそれ以上の何かを彼に継いでいると証明してほしかった。
そう、証明だ。
彼に望むのと同じく、私自身にもそれが必要だった。
この世界に、ファントムとはいえビッグボスがいる以上。
私もまたそれに従い、この顔を変える必要があった。
だが、しなかった。
この顔にメスを入れるつもりはまったくなかった。
全てを失っても、まだ私が生きようとしたのは。己の悪名におびえ、世の中から消えて安穏とした生活に体を休めたかったからでは決して、ないっ。
このビッグボスの名は、勲章ではない。
私自身の罪の証でもある。だからこそ己の宿業を他人に投げつけ、逃げるような真似はしたくはなかった。するつもりもなかった。
もう、わかってもらえただろうか?
私もまた、彼とは違う道を。このビッグボスのままで歩き出した。その後の歩みについて、特に説明は必要ないと思う。
君たちのボスが、アウターへブンを実現させようとしたように。
私もまたこの道の先に、同じ世界を思い描いている。もうひとりのビッグボスの、もうひとつのアウターへブンだ。
彼に遅れること3年か。だが、それはもう目前まで来ている――。
ワームも、ウォンバットも無言で聞き入っていた。
あの時に感じたなぞは氷解し、だが更なる謎が浮かび上がってくる。
「あの――では、俺たちのボスは。あなたの盾になった、ということですか?」
「違う、断じて違う。そうじゃない」
「はぁ」
「……確かに私の友人たち――つまりオセロットなどはそれを期待していたのだと思う。だが、私自身はそれとはまったく違うものを期待したんだ」
「あなた自身に、なること?」
「そうじゃない。自分のコピーが必要だったんじゃない。ビッグボスという男の意思を、正しく引き継いでいるということをだ」
まだ、理解が足りない感じがあった。
「私は多くを師から学んだ。彼女から体も、技も、心も。その全てを受け継ごうと望んでいた。MSFは、それを自分の部下にも与えたいと思って始めたことだ」
「はい」
「君たちのボス、つまりファントムは。信じてくれなくてもいいが、才能だけで言えば私を超えるものがあった。
これは仮の話だが、MSFがその後も残っていたなら。戦場で、私の伝説がこれほど大きな意味を持つことはなかったかもしれない」
「ビッグボスの、後継者?」
「そう、それだよ。
私が何もないといったのは、それだった。
コスタリカでの1年というわずかな時間が、当時の部下たちに継がれることがなかったのではないか。私が永い眠りを終え、変わりゆく世界を見て一番ショックだったことはそれだったんだ。
傭兵たちの中には今も私の伝説はしっかりと残されているのに。
私が彼らの中に与えようとした技術も、想いも。MSFと共に暗い海中へと飲み込まれてしまった」
「俺たちのボスは、違うと?」
「そうだ。彼だけは違った。
彼は私と同じように、共に長い時を眠り続けていた。同じものを失い、それ以上を奪われた。
彼もまた、私と同じくなにもない男として目覚めることになった」
ビッグボスの言葉にうそを感じることはできない。
だが、まだ全てを信じるわけにはいかなかった。
「話はわかってきました。ですがビッグボス――あなたはそうやって、私たちのボスと別れたということですか?」
「君が言いたいことはわかる」
「すいません。うまく質問できてないかも」
「いや、大丈夫だ。――白鯨では最後。怒りに取り付かれたエイハブによって、船員達もまた。限界をこえて突き進んでいく。
それはまるで無謀な死への挑戦するかのように。
そして彼等は死に、共にあったイシュメールだけが生還する。まさに、今の私の存在が。物語のようだと思っているんだろう」
「……」
「あの時、私が言いたかったことはそうじゃない。ビッグボスは神ではないんだ、こんな未来が待っているなんて思いもしなかった。
――ファントムが歩く先には、多くの敵がいて。困難が立ちふさがることはわかっていた。それは私の人生でも、常にそうあったからね。
私が自分をイシュメールに例えたのは、ただ彼を見守るというだけではない。
白鯨でもそうだったように、エイハブと共に危険の向こう側へと渡り。その最後までも全てをその目に焼き付けた。彼だけが助かったと考えるのが自然だが、逆に言えば「イシュメールとはエイハブの船に乗った誰か」であっただけなのだ。
白鯨との戦いを目にして、生き残った者が自分はイシュメールだと名乗っただけかもしれない。
そう考えられないかな?」
「大胆な発想ですね」
「ふっ、そうかもしれないな。だがこれが真実なのだよ」
ワームが熱を帯びた言葉で聞いた。
「なら、俺たちのボスが。もしかしたら今日のあなたの立場になったという未来があったと?」
「――もちろんそうだ。彼はアウターへブンと呼ぶ要塞を優先した。だが、私は逆にメタルギアという世界に突きつける兵器から優先した。
結果、彼が先に世界に注目され。私は彼に自分の力を譲り渡した」
「メタルギア……」
「そしてお嬢さん、君の言いたいことはわかっている。これはあの時だけの話ではない。私も彼も、時に立場を入れ替え。世界の戦場のどこかで、その時はエイハブであり、イシュメールを演じわけてきた。
スカルフェイスの声帯虫の騒ぎがあっただろう?セーシェルに封じ込められた君たちを救うため、動いたことがあった。もちろんそれだけじゃないがね。
だが、逆に君たちは知らない間に私を何度も救ってくれている。そのことを彼は――ファントムは君たちに伝えたことはなかっただろう?」
「えっ、本当ですか!?」
思いもよらないことを知らされ、驚くしかなかった。
「油田を占拠した反体制派の一掃、資源発掘の調査。
君たちと違い、私の資産の多くはエネルギーに関係していた。中でも大きかったのは、あのアジアでの作戦だった」
「っ!?」
「将軍一家への報復だ。あれは、あの一家と関係する政治派閥が。アジアでの活動の邪魔になっていた。彼らが消えたおかげで、こちらはあの国の政治に変化を生み出すことに成功した」
「ハン将軍の、あれが!?」
「もちろん。私は彼にそれを依頼したわけではない。彼には彼の理由もちゃんとあった。ただ、私だけの必要のためだけに彼はあの事件を起こしたわけではない」
「……あなた自身、あの事件に関与したんじゃないんですか?」
「ウォンバット?」
ワームは驚くが、ウォンバットの記憶は。あの時の部下の証言をはっきりと思い出していた。
「将軍の息子たち、彼らを抑えるのに手間取っていた我々を見かねたんですか?だから介入した?」
「……プライドを傷つけたくはない。理由は話した、あれにはあれで理由があった。君が怒る理由はないし、私にはああする理由があったというだけ」
「――わかりました。それで納得します」
ビッグボスの顔が、あの優しさを感じさせる柔和な笑みへと変わった。
「私は――君たちとは本当に会いたかった」
「?」
「彼は私が望んだ役目を果たしてくれた。それ以上のことも。君たちがそうだ」
「自分、達ですか?」
「そうだ。だからこうやって直接会い、わだかまりをといて。話したかった」
「――なぜですか?」
ビッグボスの目が、異様な輝きをその瞬間。発していた。
「アウターへブンは終わりではない。
私は、私のアウターへブンを。この世界に彼と同じく用意した」
「!?」
「ザンジバーランド。それが私のアウターへブンだ。
そこで11ヶ月以内に、私は世界に再び宣戦を布告する予定にある」
「ザンジバーランド。ビッグボスのアウターへブン」
「2人には。いや、君と仲間たちにはぜひ。この戦場に参加してもらいたい。このビッグボスにも、力を貸してもらいたい」
力強い言葉に続き、差し出された手は、妖気を放つ魅力的なそれを漂わせていた。
ワームとウォンテッドは大きく息を吸い込んだ。
ファントム――ヴェノム・スネークの弟子達は。この誘惑に耐えることが必要なのだろうか?
==========
コードトーカーにも別れを告げ、2人は居留地を後にしていた。
何もないルートナンバーのついた一本道を、ビジネススーツ姿の男女はとぼとぼと歩いていた。
「これで、決着がついたな」
「そうダネー」
また無言になってしまう。
この3年。ずっと後悔が、心のそこにへばりついて離れてくれなかった。
ビッグボスのファントム――彼らのボスであったヴェノム・スネークとの最後の任務。
彼等は地獄を見た。
滝つぼに放り出され、そこでいきなり連れていた少年の一人の呼吸が停止した。
川沿いから森の中に入っていくと、背後で炎の柱が立ち昇り。大地はえぐられ、悲鳴を上げる子供たちの叫び声のようにどこまで走っても震え続けた。
ヴェノムの恐れていたとおり、包囲を破ることはほとんど不可能とも思える難しいことだった。
そして2人は、そこで最後の希望を――子供達を失い。任務は失敗した。
だが、それを理由にして死ぬわけにはいかなかった。
大怪我を負って戻った2人は。1年の入院、複数回の手術、つらいリハビリを乗り越えた。だが、戦場にはもう戻らなかった。
いや、戻れなかったのだ――。
彼らのビッグボスのいなくなった世界の戦場で、彼らの戦わなくてはならない理由はもう残されてはいなかったのだ。
「スッキリできた?」
「――いや、まだわからん」
「そうダヨネー」
それでもその後の2年を、時間を無駄に生きることを2人は選ばなかった。
「お前の病院、評判いいらしいな?」
「NGOの医師団にね、教えてるんだよ。無料で」
「へぇ」
「元はダイアモンド・ドッグズの医療班ですから。その手のプロはゴロゴロしているからね」
「無料とは太っ腹だな」
「――素人だもの。彼らの知りたいことなんて、そう多くないから」
「なるほど」
ドイツの田舎町に不釣合いな総合病院が建っている。
かつてのダイアモンド・ドッグズの資産で作られた病院だ。彼女はそこの院長としてかつての仲間達と共に働いている。
そこでNGO医師団に参加する者もいるし、血が滾るのか再び戦場へ傭兵となって戻る奴もいる。
皆がそれぞれ、ビッグボスのいない世界での身の振り方を考えて好き勝手をしている。
「あんたはどうなのよ?」
「仕事はやめた」
「はぁ!?」
「クビになったわけじゃないぞ。俺のやるべき仕事が、終わったというだけのことだ」
「じゃあ――」
「ああ、そうだ。結果が認められて、チームは政府と契約した」
ワームは所属は違ったが、開発班と行動を共にしていた。
彼等はアウターへブン、ダイアモンド・ドッグズで得たデータを元に兵士のためのプロテクターを開発。これがDARPA(アメリカ国防高等研究計画局)に認められ、近く正式に契約を交わすことになっている。
皮肉な話ではあった。
戦場と同じく。
あのアメリカにも、三度。ビッグボスが遺産となって政府の手に委ねられていく。
「俺はお役御免さ。次の仕事、探さないとな」
「へー、頑張れよな」
「……冷たいよな、相棒に。お前」
「こっちは幸せだからね。しょうがないね」
「は?」
「実はさー、結婚することになりそうなんだよね」
「――マジかよ」
「ベタ惚れされちゃったからさー、エヘヘ」
「お、おめでとう」
「おう、ありがとうな」
話題とあわせて、2人は徐々に明るい顔を浮かべるようになっていた。
――2人は結局、ビッグボスの誘いを断った。
湾岸戦争で、思ったほどの利益を得られなかったアメリカでは新たな問題が持ち上がっていた。
次世代のエネルギー問題である。
世界の人口が50億を超えると、それまでの石油に頼ったエネルギー問題は深刻だとして取り上げられるようになっていた。
国での生活に自動車が不可欠なこの米国において、増え続けるガソリン消費量を減らすには代価となる新しいエネルギーが必要だった。
一番に思いつくのは核エネルギーということになるが。79年3月におきたスリーマイル島での原子力発電所の事故の恐怖を人々が忘れるわけがなかった。
そこで政府が持ち出してきたのが合成エタノールである。
これなら再生可能な自然エネルギーだと持ち上げてみせ、多額の開発資金を投入することで実用化を早めると発表していた。
だが、これはあくまでもガス抜きにすぎない。根本的な解決、石油ほどの確実な効果は期待できないのはすでにあちこちから声が上がっている。
そしてそれはこの米国だけではない。石油資源の枯渇が叫ばれる中、新しい代価エネルギーの誕生を世界は必要としていた。
あのビッグボスはそれを利用するつもりなのだという。
デジタルの力によって解析されていく生物たちのDNAを手本に、ついに人類は独自の新しい生命を誕生させようとしている。
それは草木を食すと、体内で変化させ、廃棄すると大量の高純度の石油を生み出す微生物。
完成すれば凄い革新をもたらすものの、世界各国に存在する技術規制にも当然ながらこれは抵触していた。そして開発者はこれを技術の実現のために規制を緩めるよう、積極的に訴えている。
この研究者を抑え、ビッグボスはパフォーマンスで乗り切ろうとするホワイトハウスに対し。合成エタノールは無力だとわからせ、紛糾させてやろうという目論見なのだ。
ビッグボスはアウターへブンの最後を見て、列強のあいだに協力関係を築かせない方法を用意していた。
そしてザンジバーランドは正式な武装国家として宣言。
そこにビッグボスの持つ武力を注ぎ込んで満たしてしまう。世界は再び、ビッグボスによってアウターへブンの再来に震えるしかない。
そしてその解決を図ろうにも、エネルギー問題という政治が絡むために。列強は組むことができず、国連や外交を通じて粘り強く話し合わねばならなくなり。
そこから得られる空白の時間によって、ザンジバーランドの正当性を世界に認めさせようと迫るつもりなのだ。
だが、それは2人にとってはもう終わった戦争だった。
ビッグボスと共に歩く戦場はアウターへブンにあり、彼等はそこで確かに最後の任務を果たそうとした。その最後はハッピーエンドではなかったが、だからといってそれを今更やりなおそうという気持ちにはなれなかった。
「我々は、俺たちのボスから最初に教えられました。『自分が戦う戦場は、自分で選べ』と」
ワームの言葉に、ビッグボスは喜んでいるようだった。
「残念ですが、お話を聞いても私達がそこに立つ理由はやはりないようです。誘っていただきましたが、申し訳ありません」
「いや、いいんだ」
ビッグボスも、それ以上はなにも言わなかった。
別れ際に差し出された手は、あの人のように固く握り返してくれた。
ウォンバットは道路わきに立って、空を見上げると声を上げた。
「あ、来た。来ましたよ」
一機のヘリが、2人に向かって近づいてくる。
「とんでもない奴だよな。車が走る道路に、ヘリを着陸させるなんて」
「いいのよ。この国で車に乗るなんてお断り」
「――いつからそんな車嫌いなった?」
「いいじゃん、そんなこと」
しゃべっている間に、ヘリはゆっくりと着陸し。ウォンバットは扉に手をかけ、中に乗り込んでいく。
「なに?乗らないつもり?」
「ああ。俺はいい」
「本気?ここから歩くの!?」
「いいだろ、そんなこと。それより結婚式の招待状、ちゃんとよこせよ」
「無職の癖に、国際便でエコノミークラスで来てくれるわけ?」
「まさか!ファーストクラスでいくさ、当然切符も同封するだろ」
「あっそ。気をつけなさいよね。それじゃ、また」
ワームは義手である右腕を上げ、手を振る中。
ウォンバットを乗せたヘリは、空中へゆっくり上昇し。そしてすぐに遠くに飛び去っていく。
==========
((年表))
※注意:これは当作品の都合で構成されています。正しい”メタルギア史ではありません”
1996
・国連で包括的核実験禁止条約が国連総会で採択される。
・ルワンダ難民60万が、ザイールから退去。帰還を果たす。
・アフリカで真実和解委員会が設置される。これにより過去のアパルトヘイト時代に起きた人権侵害について調査。結果を広く発表した。
1997
・対人地雷禁止条約の起草会議がオスロで開かれた。ここから地雷禁止国際キャンベーン(ICBL)がはじまり。60カ国以上から1000を超えるNGOの結集する大きな組織に発展していく。
・アジア、日本において京都議定書が採択された。
・アンゴラがザイールに出兵、キンシャサを制圧。国名をコンゴ民主共和国に変更
・ダイアナ元皇太子妃、交通事故死
・ボイジャー、太陽系から離脱
・香港が中国に返還
1998
・環境シンクタンク、世界資源研究所が研究結果を発表。温暖化によって地球上のサンゴ礁は80%が危機にあると警鐘を鳴らした。
・米英、イラクに対し空爆
・スーダン共和国は新憲法により政党活動が解禁。一方、テロリストの滞在を認めたとして米軍は巡航ミサイルによる攻撃を行った
・第2次コンゴ戦争が勃発
・ビッグボス。中東・ザンジバーランドを軍事政権に移行させることに成功。ここからさらに資産を投入し、武装要塞国家へと急ピッチに改造をすすめた。
・メタルギアTX-55の欠点を補い、改良を加えたメタルギア改Dが完成。
・ビッグボスの声に、元FOXHOUNDのグレイ・フォックス。アウターへブンの元レジスタンス、シュナイダーなどが集まってくる。
1999
・パキスタンでは参謀総長の解任が決定した直後。軍部がクーデターをおこした。
・ロシア大統領が辞任。後継者は次回選挙まで、大統領代行がつくこととなった。
・日本の東海村で、核燃料工場が国内初の臨界事故をおこす。
・NATO軍によるユーゴスラビアへの空爆によって、中国大使館と難民約70人が死亡。どちらも誤爆であった。またこれによって深刻な環境汚染が広がったとも指摘された。
・ビッグボス。ザンジバーランド騒乱と共に姿をあらわし、再び世界を恐怖に落とす。
・FOXHOUNDはこれに対し、『OPERATION INTRUDE F014』を発令。司令官となっていたロイ・キャンベルは引退していたソリッド・スネークを強引に召還した。
・FOXHOUNDから離れていたマスター(カズヒラ)・ミラー。この作戦への参加を志願する
・ザンジバーランド陥落。ソリッド・スネーク、今度こそビッグボスを殺害。帰還後は再びアラスカに消える。
・『愛国者達』、ザンジバーランドからビッグボスとグレイ・フォックスの遺体の回収に今度こそ成功。
・パラメディックことクラーク博士、グレイ・フォックスの遺体で強化外骨格の研究を開始。これによって蘇生(?)する。
2000
・Y2Kの問題が間に合わないと騒がれるが、不思議と混乱はおきなかった。
・アメリカとロシアの間で兵器級プルトニウム34トンを処分することで合意。
・ヒトゲノムがついに90%まで解読
・引退していたネルソン・マンデラは国際連合安全保障理事会で初めての演説を行う。
・FOXHOUNDにリキッド・スネークが加入。実戦部隊リーダーにそのまま就任する
・リキッド、少数精鋭を掲げると自分を中心とした新生FOXHOUNDを編成。オセロット、マンティス、レイブン、ウルフが集結する。
・国際ヒトゲノム計画チームにより、解読完了が発表される
・米大統領選挙にて大きな混乱があり、疑惑が次々と持ち上がる中。ジョージ・シアーズが勝利を手にする。
・ダイアモンド・ドッグズの生み出したNGO団体を管理していたエヴァ。複数の団体と粘り強い交渉により統合に成功。以降は国連との連携を主体にするようにと言葉を残し、自身の役目を終えたとして運営から離れると姿を消した。管理者は複数人が就任し、そこにはあのユン・ファレルの名があった。
2001
・アメリカ合衆国第43代大統領にジョージ・シアーズが正式に就任。
・就任時の選挙疑惑を追及しようとするメディアに対し、新大統領はとりあわなかったことと。笑顔でバカンスを繰り返したことでバッシングが開始。国民からの支持率は一気に急降下する。
・この時期、大統領は直属の対テロ特殊部隊『デッドセル』を結成。初代リーダーはジャクソン大佐
・国連経済欧州委員会はカザフスタンでの「平和目的の核爆発」についての調査を発表した。それにより、核爆発は30回以上おこなわれ、放射能汚染地域はカザフスタンの国土の大部分を占めていたことがわかった。
・9.11同時多発テロ事件が発生
・大統領は議会で演説。国際テロ組織を総力でもって壊滅させる決意を宣言
・突然あらわれると何者も検閲を受けずに「愛国者法」が大統領の署名を得たとして発効された。これは個人情報収集、令状なしの盗聴などの基本的人権を制約することを許した危険なものであった。
・この年の終わり。メタルギアREXの開発が始まる。責任者はヒューイの息子、ハル・エメリッヒ。
2002
・ナオミ・ハンター。ATGC社に入社と同時に提唱していた自身の第一世代ナノマシンを完成させる
・クラーク博士、ビッグボスの遺体を使い。DNAを解読、ソルジャー遺伝子を手に入れた
・ブラックサイトが始動。CIAは敵性戦闘員の収容を開始。
・アフリカ統一機構はアフリカ連合と改められた。
・チェチェン共和国の武装勢力がモスクワの劇場を占拠。軍の撤退を求めたが、特殊部隊による強行救出作戦によって犯人40人と人質129人が死亡した。
2003
・イラク戦争勃発。英国とオーストラリアもこの流れに追従した。
・5月、大統領がイラクでの戦争終結を宣言する。
・イラク戦争はあいまいな理由での先制攻撃だったはずが、政権打倒と市民の解放へとすりかえられ。ホワイトハウスは9.11に関する議会の報告書の公表を拒否した。
・オセロットとエヴァ、ナオミへの接触を開始。
・リキッド、ゲノム兵による次世代特殊部隊を新たに掌握する。
・オセロット、ソ連時代の元上官。ゴルルコビッチと密かに連絡を取る。
2004
・日本、59年ぶりに戦地に部隊を派遣する。
・イラク暫定政府に主権がうつった。
・連邦地裁により反テロリズムとして使われていた「愛国者法」の一部は憲法違反との判断が下された。
・グレイ・フォックスによりクラーク博士が死亡。ナオミはFOXHOUNDのメディカルスタッフにつく。
・同時にペンダゴンはナオミに彼女のナノマシン技術で殺人ウイルスFOXDIEを開発させた
・デッドセルのリーダー、ジャクソンに機密漏えい疑惑が持ちあがる。。
・爆弾処理技術者ピーター・スティルマン。事故が原因で引退。
・メイ・リンはMITでソリトンレーダーを開発。政府からスカウトを受ける。
2005
・ミラー、自宅で何者かに殺害される。
・リキッド・スネーク、新生FOXHOUNDと次世代特殊部隊を率い。アラスカ・フォックス諸島沖にあるシャドーモセス島基地を占拠した。
・リキッド・スネークはビッグボスの遺体を、政府に要求する。
・政府は引退していたロイ・キャンベルをFOXHOUND総司令に戻し、またもやソリッド・スネークを強引に回収させた。
・リキッドとの対決を勝利し、ソリッド・スネークはそのままアラスカへと消える。新生FOXHOUNDも壊滅した。
・愛国者達、『リキッド・スネークの遺体』を手に入れるように命令を出す。
・オセロット、ソリッド・スネークとの戦闘で片手を失い。『リキッド・スネークの遺体』のせいでEVAと離れる。
・オセロット、メタルギアの技術データを突如インターネット上で一般公開する
・ジョージ・シアーズ大統領がホワイトハウスから消える。犯罪などに巻き込まれた形跡がなかったため、公式発表では辞任とされた。
2006
・シアーズに変わり、ジェームズ・ジョンソンが第44代大統領に就任する。
・この際、イラク戦争においていわれていた「大量破壊兵器の秘匿」情報は間違っており、責任は消えた前任者にあると発言。メディアは一斉にバッシングを開始。
・公開された技術データを元に核保有国が次々とメタルギア製造を開始。
・NGO反メタルギア財団、フィランソロピーをソリッド・スネークとハル・エメリッヒが設立する。
・ウガンダでエボラ出血熱の発生、51人が感染し。16人死亡。
・米軍、ソマリア南部を空爆
・『シャドーモセスの真実』がベストセラーとなり、ソリッド・スネークの名前は表の世界でも知られるようになる。作者のナスターシャ・ロマネンコはフィランソロピーの援助者でもあった。
・米海兵隊も独自にメタルギアRAYの開発に着手する
・イスラエル軍がレバノン侵攻を開始
2007
・マンハッタン沖タンカー沈没事件が発生。海兵隊司令官スコット・ドルフとゴルルコビッチは死亡。
・オセロット、リキッドとしてその場に居合わせたソリッド・スネークに自分の存在を知らせる。
・メタルギアRAYを奪取したオセロットによってタンカーは沈没。フィランソロフィーは環境破壊テロリストとして指名手配される。
・ホーリー・ホワイト。自著の発売禁止が決定し、肩を落とす。
・サニー、誕生
・原油の価格暴騰
・タンカー沈没地点に除染プラント『ビッグシェル』が建造される
2008
・米大統領、グアンタナモ収容施設の閉鎖を公約
・北京オリンピック開催
・チベット騒乱、中国政府はこの暴動を外に漏らさないようにするために厳しい報道規制を敷いた
・北欧にあらわれたEVA。自らをビッグママと名乗り。反愛国者達を標榜するレジスタンス組織『失楽園の戦士』を立ち上げる。
2009
・ビッグシェル占拠事件が発生。
・FOXHOUNDは新たな工作員、雷電を単独潜入させるが。ここでソリッド・スネークとハル・エメリッヒと出会う。
・愛国者達、S3を完成させる。
・アーセナルギア、ニューヨークのウォール街に特攻する。
・事件の首謀者はソリッドの名を語っていたソリダスであった。雷電はソリダスと再会し、これを倒した。
・リキッド・オセロットが目覚める。
・メタルギアRAYとG.W.は奪われたが、雷電達はアーセナルギアを停止させた。
・国際通貨基金は世界全体の経済成長率がWWⅡ後最悪となると発表した。
・愛国者達、ソリダス・スネークの遺体を回収する。
2010
・チリ、サンホセ鉱山落盤事故2ヶ月余ぶりに救出
・米国はPMCの積極的活用を決断する。同時に自国の兵士達へのSOP注入を開始。
・列強もこの流れに加わろうとする。
・ハンガリー、国籍法を改定
・中国がGDPでついに日本を抜く
・雷電、ローズの元から去っていく。
2011
・PMCへの依存が増え、戦争経済が世界に浸透する
・戦場管理システムとしてSOPの採用がPMCでも進んでいく。
・米国、9.11の首謀者とされるビンラディンを暗殺する。
・リビアのカダフィ政権が倒される
・NASAはケプラー宇宙望遠鏡で地球に似た太陽系外惑星を確認したと発表
2012
・愛国者達に捕らわれていたサニーを、ソリッド・スネークらと行動を共にしていた雷電が救出した。
・サニーはハル・エメリッヒ達と共に生活する。
・雷電、愛国者達に捕まり。サイボーグへと改造された。
・ビッグママは愛国者達の施設から、雷電を救出する。
・ローズ、キャンベルと再婚
2013
・リキッド・オセロット。PMC5社をついに手中に収め、それを束ねるマザーカンパニーを設立する。
・ロイ・キャンベル国連にて各国のPMCの査察を開始する。
・雷電、ビッグママと手を組み。BIGBOSSの遺体を愛国者達の施設から奪う。
2014
・国防省は突如、BIGBOSSとCQCの情報を一般に公開することを決定した。
・ガンズ・オブ・ザ・パトリオット事件が発生。
・愛国者達のAIを破壊
・リキッド・オセロット、自身とBIGBOSSのアウターへブンをついに完成させ。ソリッド・スネークと最後の対決にのぞみ、敗れた。
・BIGBOSS、ビッグママ。そしてゼロが死去。
・ハル・エメリッヒは正式にサニーを養子にする
・メリル・シルバーバーグとジョニーが結婚した。
・SOPシステムは国連決議により廃止される。
・PMC「マヴェリック・セキュリティ・コンサルティングInc.」は解散する「楽園の戦士」から多くの兵士を雇用した。
・ソリッド・スネークは自身のコードネームを捨て、戦場から去った。ここに蛇の系譜は閉じられた。
==========
燃えるような日差しの中、ワームは上着を脱ぎ。一人で荒野に続く一本道の上を歩き続けている。
この数日で、多くの決断を下し。何か大きなものがついに終わりを告げたことはなんとなく理解していた。実感はまだなくても、次に進むにはそれで十分だった。
ヴェノム・スネークは、やはりビッグボスだった。
彼は実行不可能とも思える任務を続けることで、ついに誰にも文句を言わせない本物となったのだ。
それは屁理屈だと、文句を言うやつもいるだろうが。その最後までを目にしていた自分には、それで十分だった。
そして自分はまだ歩いている。生きている。
ビッグボスと道をたがえ、コードトーカーと再会し、クワイエットの最期を知った。今は一人、ついに最期の相棒だったウォンバットとも別れている。
ワームは足を止めた。
そろそろ、次の目的地を決めないといけないだろう。
懐から、あの情報端末機を出すと。ポケットからメモを取り出し、番号を入力していく。
コール音はすぐに終わった。
「久しぶりですね。俺です、わかりますか?」
『……』
「ええ、そうです」
『……』
「今、少し話せますか?ちょっと色々と――えっ!?」
そう言うと、ワームはあわてて周囲を見回す。一本道の道路の先、地平線にこちらにむかって走ってくる一台の車が見えていた。
ワームの口は呆れてぱっくりと開いていた。
「どうだ?いいだろう?」
「ひどいセンスですよ。オセロット」
オープンカーに一人乗ったその男は得意げにそう口にしたが、その感想は遠慮のないものとなった。
「59年製、キャデラック・エルドラド。悪くないだろう?」
「趣味が変わったんですか?パープルピンクでギラギラさせて。信じられない」
「いいさ。乗れよ、話があるんだろう?」
ワームは首を振りながら、悪趣味なそれの助手席へと乗り込んでいく。
車をスタートさせるとサングラスをしたままのオセロットは早速話を始める。
「あの人に、ビッグボスと会ったと思うのだが?」
「ええ、まぁ」
「そうか。なら、知ってしまったというわけだな」
「……」
「俺の首にかかった賞金だが――」
「やめてください。いつの話をしているんです?」
依頼人不明のまま出されていたオセロットの賞金は、アウターへブンが崩壊するのと前後して取り下げられていた。理由は、不透明な経済不況のため支払い不可となったため。あの人がそう決めたに違いなかった。
それに納得しない奴はいなかったし。オセロットの顔もすでに忘れられていた。
「なら、なぜ俺に連絡を入れた?話があるということだったが?」
「――本当に一人できたんですね」
「それが条件だっただろう?」
「はぁ……あんた、本当によくわからない人だ」
「フフフ」
オセロットは笑うだけで、それ以上は何も言うつもりはないようだった。
(どうやら俺は、まだ銃は捨てられないのかもしれないな)
漠然と相棒の顔を思い出しながら、そんなことを思った。だが、もうすでにワームは決断している。
「自分と、何人かの友人たちは。あなたに力を貸してもいいと考えています」
「――ほう」
「そうは言っても、貸すだけです。協力はしませんよ」
「そうか。だめか」
「ええ、駄目です。あなたに理由があったにせよ、俺たちのボスにあなたは銃を向けた人だ。信頼はできません」
「ククク、そりゃあそうだ」
オセロットは楽しそうに笑う。
ワームは心の中で(この人は変わったな)と思った。あの頃のような人に近寄らない野良猫のような雰囲気が消え。どこかわざとらしいほど、あけすけに応対してくる。まるで別人といってもよかった。
「こっちもひとついいかな?」
「なんです?」
「あの男は――お前たちのビッグボスはアウターへブンでどんな最期を?」
ワームは横を向いた。
記憶と共に、崩れ落ちる音が、焼ける肌が、凍りつくような恐怖が思い出される。だが、それでも―ーこの記憶は愛おしい彼の一部に間違いなかった。
「別に。いつものあの人でしたよ。死を前にしても、ビッグボスのままでした。凄い人でしたよ」
「そうか――なぜだ?」
「えっ」
「アウターへブンが再び作られるかもしれない。それにお前達は、なぜ参加しなかった?」
「――それがあの人が俺たちに残した意思だからです」
「ビッグボスの、意思か」
「ええ、そうですね。俺たちにはそうです。
自分に向けた憎しみを捨て、報復心を捨て、武器を捨てる。あの少年兵達と一緒ですよ。それが俺たちの、やるべき次の戦いです」
「……」
「それでもこの戦場はキツイです。きっとほとんどは、戦場から完全に離れられることはできないでしょう。でも、だからこそ俺たちはそれを実践しなくちゃならない」
「それなのに、俺に力を貸すというのか?」
そう問いかけるオセロットの顔は、見たことがないほど感傷めいたものがあった。
「言ったでしょ?武装解除をするって。まだ初めて2年、先は長いですよ」
「そうか。その間のちょっとした延長戦で――と。そういう話か」
「だからあなたに背中を預けては戦場に立てない。それでも、力がほしいなら貸してもいい」
「なるほど、理屈はわかった」
オセロットの顔が、ワームがよく知るあの表情へと戻っていく。
「要求は?見返りに何がほしい?」
「2つあります」
「言ってみろ」
「まずFOXHOUND教官、マクドネル・ベネディクト・ミラーの命」
「――なるほどわかった」
「副司令の役職を放り出して、古巣の力を借りて引退生活をされては。こっちもケジメというやつがつかないのですよ」
「それに、どうせ俺は奴といつか対決する。そんなところか?」
「ええ、そういうところです。だから恩に着せないでください」
「わかった。そうしよう」
オセロットは苦笑するが、ワームはそこに畳み掛けるように最期の要求を告げる。
「もうひとつですが――」
「ああ」
「そっちで自分たちは役に立ちましょう。そうするつもりです」
「なんのことだ?」
「あなただって正直な話、この世界に戦争を仕掛けるつもりなのでしょう?」
「さて――」
「別にまだ話してもらわなくてもかまいません。ただ、すぐには出来ませんからそのつもりがあるなら早めに言ってもらわないと」
「……なんのことだ」
「続けます」
腹芸はいつまでもやるものではない。
「世界に散らばる戦場。そこに影響を与えるためのひとつの存在。その命名権をください」
「言ってみろ、ワーム」
オセロットの言葉は、この会談の成功を意味していた。
ワームの顔に知らずに無邪気な笑顔が浮かぶと、ひとつ大きく息を吸った。
これだ、これこそが言いたかった。
「その名は、アウターへブン」
運転席のオセロットは、驚くと続いて大声を上げて笑い始めた。
昨年末よりお付き合いいただき、ありがとうございました。
感想、評価などしていただけますと。書いた奴は大変喜びます。ついでに次回作もやろうとか血迷ってしまうかもしれません。
なにかしら読んで感じていただけましたら、ちょいちょい足跡をつけていただきたいと思います。よろしくお願いします。