美しい神様と神様に魅せられた人の話 作:えーちゃんは疲れている
僕は塔矢アキラ。小学6年生。父は塔矢行洋...職業は囲碁のプロ棋士。
そんな父を幼い頃から見てきた。幼いながらにも父の背中を追いかけて、誰に言われた訳でもなかったが碁石を持つようになった。父は碁を打つことを強要する事はなかったが、僕が碁石を握った時に口許を緩めて僕を見て、『そうか』と一言告げた。その様子から父は父なりに嬉しかったのではないかと思う。
碁を初めて...いや、碁を始める前から僕の一日は碁に占められていた。碁を始めてからは一日は碁に始まり、碁で終わる...全てを碁に捧げている生活となった。しかしながら、それを苦痛に思うことは全くなかった。なぜなら、父が僕に対し柔らかな表情を浮かべるのはいい碁を打った時だけだったから。だから、僕はそれが見たいがために囲碁にのめり込んだ。父の『なかなかいい碁だった、腕を上げたな...アキラ』という言葉が嬉しかった。
父の背中を追いかけ、父からの言葉が欲しいがために僕は碁を打ち続けた。
だから、プロになることに対して特に思う所はなかった。ただ、碁を止めるという考えはなかったからこのまま続けていけばいつかはプロになるのだろうなとは思った。
...そうすれば、父が喜んでくれるだろうという確信もあったから。
いつもの様に学校が終わった後、真っ直ぐ父の経営する碁会所に向かった。今日は、手合いの日ではないから芦原さんがいる筈だ。
自動ドアをくぐり受付の市河さんに声をかけようとするが年輩が多い碁会所には珍しい僕と同じぐらいの年だろう子の姿があったのに気がついた。
「あらっ、アキラくん。調度良かったわ、アキラくんと打ちたいっていう子が来てるんだけど...」
少し明るい髪色の子と目が合う。
彼がそうなのだろう。こういう事は珍しくない。父の方針で僕はアマの大会には出場した事はなかった。その方針の理由(直接父に確認をとった事はないが、なんとなく理由は察する事ができる)のためか、表立っては言われないもののやっかみは少なからずあった。彼もそれで僕と打ちたいのだろうと思い、少し心が痛くなった。僕はただ碁を打っているだけだが、何故かそれが他人からいとわれる原因になる事があった。周りの人が全てそうではなかったが、やはりそれが苦痛になる事は確かにあった。
「俺、進藤ヒカル。小学6年...お前と打ちたくてここに来たんだけど...俺と打ってくれるか?」
目が合った後、彼は頬をかきながら少し僕を伺うようにそう言った。その視線からはいとうような意味合いはないようで、僕は内心ほっと肩を撫で下ろした。単に僕と碁を打ちたいというのであればそれは僕にも願ってもない申し出だ。僕は背負っていたランドセルを市河さんに預け、碁会所の雰囲気に慣れていないだろう彼の為に一番奥の席で打てるよう更に一言告げた。
「うん、打とう...僕は塔矢アキラ、僕も小学6年なんだ。君の棋力はどのくらいかな?」
彼を席に案内し、脚の付いていない卓上用の碁盤の上に置いてある碁器の蓋を開けた。碁器の中から顔を覗かせる石の色は黒。彼も同じように碁器の蓋を開け、白石を握り碁盤の上に置いた。それが意味するのは...手加減など必要ないという事だろう。
「たぶん、ジツリョクがたんねーかも知れねぇけど...互戦でしてぇんだよな...やっぱ駄目かな?」
自惚れてはいないが、僕の棋力は同じ年頃の子どもの中では突出しているだろう。だが、彼はそれを理解しながらも僕に挑んでくれている。今までもそんな子はいたが一局打った後にはその瞳に灯っていた光はなくなり、戦意喪失したように去って行った。彼はどうだろうか...考えた時に、何故か彼ならば光を失わず再び挑んでくる気がした。もし、僕の予想が当たったなら僕も何かが変わるような...ただ、父の背中を追いかけるだけの囲碁からもっと違う何かに変わるような予感がした。
「いや、大丈夫だよ。...お願いします」
僕は黒石を2つ碁盤の上に置いた。彼の手が開かれ、中から白石が顔を出す。彼が白石を2つずつ数えていき、碁盤の上には1つ白石が残った。
__先番は彼だ。
お互いに出した石を再び碁器に戻し、碁器ごと交換する。
僕と彼の視線が交差し...お互いに頭を下げた。
それは__心踊る戦いの始まりを告げる礼だった。
結局対局まで書ききる事が出来なかった...面目ないです。
原作よりも強化されたヒカルに対して原作よりも精神的に弱くなったアキラさん。でも、棋力は確か。
拙い文章に目を通して頂き、恐悦至極にございます。
また、お気に入りして下さった方には感謝しかありません。