「な」
「え」
予想通りと言うべきか、まあそうなるだろうなと言うべきか。服を脱ぎ捨てたムール君の下着姿にカナメさん達は目を見張った。
「実は、こういう身体なんだ。だからヘイルさんはオイラをこっちの部屋にしてくれたんだ」
してくれたと言ってくれる辺りにムール君の気遣いを感じた。それはいい。 しかし、問題は別にあり。
「スー様……」
「マイ・ロード……」
何故揃ってこっちを見てくるんですかねと俺は思った。
(いや、解る。解るけどさ……)
一応俺もちょっと決まり悪くて視線を逸らしてるが、原因はムール君の身体だろう。
(……基本的な骨格は女性、か)
ムール君の体つきは良く言うとスレンダーであり、女性特有の丸みにやや乏しく感じるところはあるものの下着姿を見ればマジマジ見ずとも女性の身体だと解る。
(まぁ、一部分を除いては、なんだけど)
他とは違い、全力で男を象徴するナニカは多分だが、自前のモノよりも借り物である今の身体のモノよりもたぶん大きい。
(ひょっとしたら、スレンダー体型なのは、あっちに発育分を「持って行かれた」からなんだろうか……じゃなくて、コッドピース付きの女性下着かぁ……いったい だれ が こんなしたぎ を ちょいす させたんですかね?)
コッドピースって言うのはヨーロッパの方で一時存在した股間袋の事だった気がするが、つまりアニメとかで良くある乳袋よろしくピッチリと形を浮き彫りにしたナニカがムール君のあそこに鎮座なさってるのだ。
(そりゃ、目のやり場に困るわ、うん)
しかも あれ、おれ も あと で はかないといけないんだぜ。
(りょうほうついてるひと はつけいけん の うえ に せんようしたぎ まで はつたいけん、だ。いやぁ、まいったね)
しかもカナメさんとトロワの前でである。なに この しゅうちたいけん。
「……とりあえず、一つ勉強にはなったな」
両方ついてる人用の下着という無駄知識が増えたとかではない。打ち合わせは事前にきっちりやっておこうという意味での教訓を得たのだ。
「ご、ごめんなさい。本当はもっと色気のあるやつの方が良いかと思ったんだけど、同じ部屋だし、まだ着替えてなくて」
「は?」
ただ、ムール君はそう捉えなかったようだが。
「とりあえず、落ち着け。何か誤解しているようだが、着替える必要はない」
「えっ」
「着替えるのは……俺だ」
アレを履かないといけないと言うだけでも何とも言えない気持ちにさせられるが、ムール君からすれば仕様だし、ムール君が自分からやったこととは言え下着姿を晒させておいて俺だけ逃げると言うのも男としてどうかと思ったのだ。
「カナメ、説明を頼む……が、その前にムール、下着を一枚貸してくれ」
「えっ」
ムール君がカナメさんに説明して貰ってる間に着替えれば、すぐに伝授は始められる。
(最初に二回行動、次に奥義伝授の流れでいいかな)
ここまで来ちゃったんだ、覚悟は決めよう。
「ね、ねぇ、下着って……まさか」
「まさかもなにも俺が使う、それだけだ」
覚悟を決めると言っても、流石に全裸にまではなれない。モシャス後はムール君の姿というのもあるけれど。
(アレ丸出しは流石にやっちゃいけないと思うんだ)
シャルロットには見られちゃったけど、あれは事故だから忘れてくれると助かる。
(って、誰に言ってるんだ、俺は)
覚悟を決めたつもりでも動揺してるんだろうか。
「つ、使うって」
「はあ、どう考えても誤解してるわね。スー様、これを」
何故か真っ赤な顔をするムール君の顔を見て嘆息したカナメさんは遊び人モードを引っ込めて、何かをこちらへ投げ。
「っ」
「へっ? ちょっ、それオイラのパン――」
我に返って叫ぼうとしたムール君の反応にぱしっと受け取ったそれを見れば、握っていたのは、丸められた下着。
「ちょっ」
「貴女はこっち、よ? じゃあスー様、説明は任せておいて」
「すまんな」
掌の上のモノに向けて手を伸ばすムール君を連行して行くカナメさんに感謝した俺は、クローゼットの扉に布をかける。
「さて」
簡易衝立が完成したなら、まずすべきは、その裏で服を脱ぐこと。
「ま、マイ・ロード?」
「あ」
一枚目を半ば脱いだところであがった上擦った声にトロワの事を忘れていたことに気付き。
「こっちに構うな。理由が聞きたいならカナメに聞いてこい」
簡易衝立から顔の上半分を覗かせると視線でカナメさんを示す。
(カナメさんに押しつける形で悪いけど、丁度説明中だろうし)
俺にはこれから最大の難関が待っているのだ。
(まずはモシャス、かぁ)
下も脱いで下着一枚になりつつ、ちらりとムール君を見る。ただ、説明が上手くいっているか気になるからではない。
(想像だけじゃ完璧な変身は難しいから、相手をある程度観察しなきゃいけない訳だけど……)
何故だろうか、後ろめたく感じるのは。
(まぁ、いつぞやのイシスの夜みたいなのよりはマシ……かなぁ? うん)
ノリノリで下着を着せ替えてくるムール君よりは余程良いはずだ、そう思おう。
「よし」
最後の一枚を脱ぎ捨て、もう一度ムール君を見る。
「「あ」」
目があった。
(ちょっ)
カナメさんが説明してくれているとは思うが、全力で気まずい。
(よりによってこんなタイミングでっ……ええい)
何割かはやけだった。
「モシャスっ」
俺は呪文を唱えて変身し。
「へ、ヘイルさ」
「ふっ、説明を聞いてもやはり驚」
口元をつり上げつつ下を向いたままの俺は見た。やっぱり俺のより大きかった。
主人公、変身する。
くっ、変身までで尺をつかっちまった!
と言う訳で、伝授は次回になります、すみませぬ。
次回、第九十一話「続・ムール君と主人公が宿屋の部屋で何かをしちゃう話(閲覧注意)」