強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第八十一話「本気を出した結果」

「終わった、な」

 

 全力を出し切れたと思う。積み上がる用途不明の部品、町か村に寄ったら買い換えは必須と思われる程ボロボロになった手袋。

 

(トロワの方も随分慣れてきたみたいだもんなぁ)

 

 つい先程まで設備の組み立て方について幽霊のじーさんに質問していた気もするが、そこが最大の難関だったりしたのだろう。今はじーさんに質問を投げるでもなくてきぱきと動いている。

 

「発掘は終わったが、まだ手伝えることはあるか?」

 

「あ、ああ。もう少し待ってくれんか?」

 

 大きな部品を幾つも発掘した手前、力仕事は残されてるとあたりを付けての質問にじーさんが返してきた答えはイエスに近しいもの。

 

(待ってくれってことは設備が完成した後の設置とかその辺かな)

 

 待てと言われたからには、門外漢は待つしか無い訳だが。

 

(気持ち的には「どれだけかかる」って聞きたいところだけど)

 

 気を散らしてトロワへの監督が疎かになるのは避けたい。俺はさっさと終わらせたいのであって邪魔をしたい訳ではないのだから。

 

(魔物の気配もあれっきりだっけ。まぁ、村を徘徊してた数が数だし、ここから地下の川に流れていった分も考えれば魔物が殆ど残って無くても不思議はないからなぁ)

 

 無論、だからと言って油断する気はない。

 

(もしもう魔物が残ってないなら、既に魔物と化した死体にも今作ってる設備が効果有るかって聞いた時、既に全滅してるって答えれば良かっただけだし)

 

 設備を作り直して欲しいから黙っていたという可能性もあるが、元聖職者がそんな嘘をつくとは思いづらい。

 

(ましてや、こっちは気配察知に長けた盗賊。嘘をついた後、俺が魔物の気配を察知してしまえば一発で嘘がバレちゃう訳で)

 

 百歩譲って嘘をつくとしても、その辺りの事も解らない馬鹿が聖職者になれるとは到底思えなかったのだ。

 

(プラスすることの、現状まだただの死体が魔物になる可能性ってのもあるんだよね)

 

 遺体があったと思わしき長方形をした壁の溝は殆ど空だったが、あくまで殆ど。魔物化して居ない骸も少量とはいえ存在した。

 

(カナメさん達にはムール君をつけてるし、こっちには俺が要る。死体が動き出したら気づくと思うけど)

 

 今のところ感じられる範囲に魔物の気配は皆無であり。

 

「っ」

 

 気配がないかと神経を研ぎ澄ましていたからこそ、起こる悲劇もある。

 

「ぷーっ」

 

 擬音にするとそんな感じだろうか。単語にすると、放屁。

 

(とりあえず、俺じゃない。流石に自分でしたなら、気づく。幽霊のじーさんは幽霊だし、生理現象も起こらないだろう。と、なると……)

 

 消去法は時として残酷だ。

 

(って、こんな考えしなくても解るじゃないか。そんなことより、何でさっき微かに反応しちゃったんだよ、俺)

 

 こういう時、何もなかった聞かなかったでさらりと流してやるのが紳士だというのに。

 

(今の反応、トロワに気取られてたらどうしよう)

 

 そして、もし。

 

「ま、マイ・ロード。い、今の……」

 

 とか涙目で質問されちゃった日には俺はどうすれば良いんだ。

 

(こう「常に側に侍るって言うなら、生理現象なんて気にするな。これからも俺の側に居るんだろう? その時に催したらどうするんだ?」とか励ます? それとも適当な事を言ってお茶を濁すか……)

 

 まぁ、どっちもトロワに気取られた想定の話なんだけどね。

 

(落ち着け、俺。まだトロワが自分の放屁を俺に察知されたことを気づいたかは不明なんだ。ここでこっちが下手な反応をすれば、そこから真実に辿り着かれるかもしれない)

 

 何でこんな心理戦っぽい事になってしまったかは不明だが、ただでさえ悪霊に取り憑かれたりして精神的な負担を抱えているトロワへ追い打ちをかけたくはない。

 

(どうする、どうやって乗り切る? 会話中なら話題に意識を逸らすことも出来るかも知れないけど、じーさんとの会話の後だまったまんまだから唐突に話しかけるとかえってわざとらしいし、どうすればいい? どうすれば良いんだ?)

 

 こんな時こそ登場して意識を持っていってくれればいいのに、魔物の気配はなく。

 

(ん? 待てよ、トロワの知覚力はおそらく盗賊の俺以下だよな)

 

 だったら、魔物の気配を感じたとかでっち上げて席を外せば良いんじゃ無いだろうか。

 

(そうだな、それで行こう。じーさんは壁抜け出来る、作業が終わったら呼んでくれるだろうし)

 

 トイレって誤魔化して魔物をニフラムしに行ったのが無意味になりそうだけど、そこはもう割り切ろう。

 

(あとは、切り出すタイミングか)

 

 そして、求められるのは演技力。

 

(今のトロワを騙すのは心苦しいけどこれも……ん? けど、魔物って言ってトロワがここに残ってくれるとは限らないか? あ)

 

 機を見計らってるタイミングで作戦の穴に気づけたのは、運が良かったのか悪かったのか。

 

(あっぶな、もし付いてきて魔物が嘘だってバレたら「じゃあなんでそんな嘘をついたの」って事になるじないか)

 

 焦って行動に移してたら全てが台無しになる可能性を秘めていた訳だ。

 

(けど、ギリギリとはいえ気づけた訳だし)

 

 別の誤魔化し方を考えるかと思った時だった。

 

「ま、マイ・ロード。い、今の……」

 

 トロワが涙目で俺を見てきたのは。

 




たった一つの真実(放屁バレ)見抜く、その名はアークマージ・トロワ。

エロッジ「ワシじゃよ」

うん、まぁ、何だ。生理現象は仕方ないよね?

お食事中の方ごめんなさい。

次回、第八十二話「もういい、いいんだ」

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