強くて挑戦者   作:闇谷 紅

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第七十三話「予期せぬ出会い?」

「せいっ」

 

 俺が投げた石の直撃した多腕の骨剣士達の一体は背骨を砕かれ、ただの人骨へと戻りながら崩れ落ちた。

 

「これであと二体、か」

 

 ニフラム家具のお陰で半数を失った魔物の群れは更に数を減らし。

 

「マイ・ロード、ここは私が」

 

 生き残りが反撃に転じる前にトロワがニフラム家具に手を添え、言う。

 

「頼む」

 

 トロワにあまり負担は強いたくないが、この家具ならトロワが使っても俺が使っても効果自体は変わらない。

 

(トロワが投石しても一撃であいつらは仕留められないからな)

 俺が担いでいたニフラム家具を片方トロワに回し、空いた腕で石を投げる。効率的だし、理にはかなっていると思う。

 

「「お゛ぉあぉぉ」」

 

 事実、残っていた動く腐乱死体達は光の中に消え去ったのだから。

 

「これで気配の主は全て片づいた、か。ならば、簡易バリケードで封鎖して戻るぞ。ムールの向かった方がどうなっているかも気になる」

 

 魔物の気配は無かったはずだが、トロワに憑依していた悪霊のような例だってあるのだ。

 

(まぁ、そうそう幽霊がホイホイ出てくるとは思えないけどね)

 ムール君、よろず屋の主人、自称次期村長、よろず屋の奥さんと悪霊を含めれば洞窟から数えて既に四人分の幽霊に遭遇しているのだ。

 

(流石に品切れで……あるぇ? ひょっとして、これフラグ?)

 

 よくよく考えてみると一つの村にこの幽霊の数は異常である。

 

(加えて、さっきの声に出さない独り言)

 

 どう考えてもフラグです、ありがとうございました。

 

「マイ・ロード、どうされました?」

 

「あ、いや……何でもない」

 

 訝しまれて、トロワへ素直に話そうかと思った俺は、すんでの所で何とか踏みとどまることに成功する。

 

(危ない危ない。悪霊にトラウマを負わされたトロワに「幽霊が出るかも知れない」なんて台詞言えるはずがないよな)

 

 よろず屋の奥さんには割と平気な顔で対応していた気もするが、あれが例外って可能性もある。

 

「ちょっとムールの向かった方が気になっただけだ」

 

 他の出入り口が存在するかはオッサンの身の安全に関係してくるからと言う主旨の補足も着ければ、トロワもすんなり納得し。

 

「では封鎖作業を始めるか。トロワ、お前は何ならそこで休んでいても良い」

 

「マイ・ロード? ですが」

 

「この作業が終わったら駆け足で戻ることになるからな。バテられては困る」

 

「……わかりました」

 

 休んで良いと言われたトロワは不満げだったが、俺が理由まで告げればあっさり引き下がり。

 

(だから……べ、別にトロワの事を気にしたとかデレた訳じゃないんだからね。その、最近の貢献には本当に感謝してるけど、って何だこのキモいいい訳は……)

 

 胸中で謎のツンデレモードを発動させてしまうという事態にちょっとだけ表に出さず頭を抱えてみたが、それはそれ。遊んでいる場合じゃないのは解っていた。

 

(開けた場所じゃなくてこの狭い通路での戦闘になったのがこんな所で作用するなんてなぁ)

 

 家具持ちが俺一人だったため、バリケードに使える素材はごく僅か。おそらく、この狭所でなければ封鎖するための家具が足りず封鎖もままならなかったに違いない。

 

(ロープを張り巡らせて、それに家具を連動っと……バリケードって言うより殆どトラップだけど)

 

 彷徨っている魔物は動き出した死体が主。

 

(あれ相手ならこれで充分、だよな)

 

 と言うか、これ以上を望むならそれこそ家具や崩落で生じた大きな壁片などを集めてこないといけなくなる。

 

「さて、こんなところか。では戻るぞ?」

 

「はい、マイ・ロード」

 

 念のため一度稼働させて動作確認を終えた俺が立ち上がって呼びかければトロワはすぐさま応じ。

 

(うん、そこまでは良かったんだよ)

 

 分岐で待っていたクシナタ隊のお姉さん達との合流に至るまでも順調だった。

 

(以前のトロワだったら、躓いたとか理由をつけて抱きついてきたりしただろうけど……ほんっとうにきれいななトロワになって良かったなぁ)

 

 思わずタメを入れてしまう程の感慨を覚えるが、事態は俺をそれに浸らせてくれなかった。

 

「ムールが戻ってきていない?」

 

「はい」

 

 知らされたのは、想定外の事態。

 

(何故? 魔物の気配は無かった筈だよなぁ)

 

 となると、それ以外の要因だが次に考えられるのは、通路などの崩落。

 

「そんな音は聞かなかった気がするが……急がねばならんな」

 

 もし崩落だとすれば既に一刻を争う事態になっている可能性もある。俺個人としては今すぐにでも走っていきたいところだが、一人で突っ走る訳にもいかない。

 

「トロワ、走れるか?」

 

 クシナタ隊の魔法使いなお姉さんから報告される時間があったとは言え、お姉さん達との合流まで駆け足だったのだ。まず、トロワに尋ね。

 

「無理なら背中に乗れ」

 

 背中に凶悪兵器が押しつけられる事態になることを理解しつつも、俺は答えを待たず言う。

 

「マイ・ロード……」

 

「側に侍るんだろう?」

 

 俺としてはありがたくないが、トラウマを抱えている異性を地下墓地の途中に放置なんて出来るはずもない。

 

「ご迷惑を……おかけします」

 

「詫びは良い、それと礼もな。そんなことより、早く乗れ」

 

 素っ気なく応じつつ、俺はトロワの前に背中を向けてしゃがみ込む。

 

「いいなぁ」

 

 なんて声が聞こえた気がするが、気のせいだと思いたい。

 

(背中に乗って楽するのが羨ましいとか思う怠け者はクシナタ隊に居ないはず)

 

 いや、スミレさんあたりなら言うか。

 

「乗ったな? 行くぞ、しっかりつかまっていろ」

 

 脳裏浮かんだに「乗せてスー様」とか言うスミレさんの姿を振り払うと、俺はトロワを背に乗せたままムール君の後を追い走り出し。

 

(……なにこれ?)

 

 最奥に辿り着き、見た。

 

「ワシもあのころは若かった。じゃが、あやつはこともあろうに……」

 

「あー、うん」

 

 ひたすらしゃべってる半透明のじーさんと、その前で何処か虚ろな目をしつつ座り込んで相づち打ってるムール君の姿を。

 




話の長い老人(幽霊)に捕まってしまったムール。

ようやく合流した主人公はムール君を救えるのか?

次回、第七十四話「誰なんだアンタはぁぁぁっ!」

うぎぎ、顔見せの所までしか書けなかった。

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